ゲーミフィケーションは、ゲームの面白さのメカニズムを、退屈な他の分野に応用する手法です。ビジネスや教育分野で期待されています。
ゲーミフィケーションは新しい分野であり、かつゲームの面白さは複雑であるがゆえに、まだまだこれといった理論が確立していません。
しかし、日本ではあまり知られていませんが、海外には10年以上の研究によって編み出されたゲーミフィケーションのフレームワークが存在します。
それが本記事で紹介する「Octalysis(オクタリシス)」です。
こちらのサイトで公開されています。→ yukaichou.com
まだ日本語での紹介がほとんどないので、本記事の解説が意図を読み違えてしまっている可能性もあります。その点はご容赦いただければと思います。
有用性も未知数ではありますが、かなり練られた内容になっていたので取り上げてみました。ぜひ参考にしてみてください。
ちなみにゲーミフィケーションの一般的な解説は、↓の記事をご参照ください。
≫【遊びの技術】ゲーミフィケーションの意味とは?顧客ロイヤルティを高める極意を解説
- Octalysis(オクタリシス)の概要
- コアドライブ①:意味(Epic Meaning & Calling)
- コアドライブ②:達成感(Development & Accomplishment)
- コアドライブ③:エンパワーメント(Empowerment of Creativity & Feedback)
- コアドライブ④:所有(Ownership & Possession)
- コアドライブ⑤:社会的影響力(Social Influence & Relatedness)
- コアドライブ⑥:希少性(Scarcity & Impatience)
- コアドライブ⑦:予測不可能性(Unpredictability & Curiosity)
- コアドライブ⑧:回避(Loss & Avoidance)
- まとめ
Octalysis(オクタリシス)の概要
「Octalysis(オクタリシス)」は、ゲーミフィケーションを研究しているYu-kai Chou氏が提唱しているフレームワークです。
“Octalysis”はおそらく、“octagon(8角形)”と”analysis(分析)”を掛け合わせた造語と思われます。
次の8つのコアドライブが、プレイヤーをゲームにのめり込んでしまうよう駆り立てているというのがフレームワークの主旨です。
- 意味(Epic Meaning & Calling)
:プレイヤーが「大いなる意義のために行動している」という行動の意味づけ。「自分は選ばれた存在」と感じる気持ち - 達成感(Development & Accomplishment)
:目標にチャレンジし、着実に進歩している感覚。前述のPBLは主に達成感に含まれる - エンパワーメント(Empowerment of Creativity & Feedback)
:創造性の発揮。ユーザーが自分の意思で、数多くの方法を駆使しながら戦う選択肢を与える - 所有(Ownership & Possession)
:何かを所有したい気持ち。一度所有すると、より良いモノを、より多くのモノを所有したいと考えるようになる - 社会的影響力(Social Influence & Relatedness)
:周囲の人との関係性。仲間であったり競争相手であったりする。他人の存在が、自身を更なる行動を駆り立てる - 希少性(Scarcity & Impatience)
:希少なモノを手に入れたくなる衝動。手に入れたくて、1日中ゲームについて考えさせる動機を与える - 予測不可能性(Unpredictability & Curiosity)
:読めない展開の中で、次に何が起こるか知りたいという知的好奇心。映画で続きが見たくなる、あるいはギャンブルにのめり込む要因でもある - 損失回避(Loss & Avoidance)
:ネガティブな結果を避けたい気持ち。機会を失わないために、今すぐ行動させるインセンティブになる
YouTubeより、Yu-kai Chou氏のTEDでのプレゼンを視聴できます。こちらもご興味あれば。
残念ながら日本語字幕はありませんが…。
右脳と左脳のコアドライブ
8つのコアドライブは、左が左脳的、右が右脳的な要素を持っています(科学的に厳密に別れているわけではなく、そういうイメージで見るとわかりやすいという話)。
- 左脳的なコアドライブ
:「ロジック、計算、所有」など、打算的な感情を持っている - 右脳的なコアドライブ
:「創造性、自己表現、社会的つながり」など、情緒的な感情を持っている
左側にある左脳のコアドライブは、外部からの動機付けで人を動かします。
一般的なビジネスでも設計されていますが、報酬などの動機付けがなくなると、やる気がなくなってしまう傾向があります。
右側の右脳のコアドライブは、人間の内から湧き出る動機付けです。
「創造性を発揮したい」あるいは「友人と一緒にいたい」と思うのは、外部の報酬によるものではありません。行動自体に価値があるため、より本質的な動機と言えそうです。
ホワイトハットとブラックハットのコアドライブ
8つのコアドライブのうち、上の方はホワイトハットゲーミフィケーション、下の方はブラックハットゲーミフィケーションとされています。
こちらもあくまでイメージ的な話で、厳密に別れているわけではありません。
上部は「挑戦したい、達成したい、創造性を働かせたい」といった、人間のポジティブな面を引き出して行動させるコアドライブになっています。
一方で下部は、「損失を避けたい、機会を逃したくない」といった、ネガティブな方向から人間を行動に駆り立てるコアドライブになっています。
ブラックハットだから悪いということは決してありません。
ただブラックハット施策ばかりが目に付くと、「射幸心を煽っている」や「ビジネスのために顧客を依存させている」といった批判を浴びることになります(実際その通りですが)。
コアドライブ①:意味(Epic Meaning & Calling)
人々を困難に向かわせるためには、大義が必要です。その大いなる目的に共感することで、その一翼を担う存在になりたいと思うからです。
ゲームの主人公は、世界中を冒険し、困難を乗り越えて目的を達成します。その目的は、往々にして「世界を救う」という大きな意味を持っています。
もし冒険の目的が「近所のスーパーに醤油を買いに行く」であったら、それほど頑張ってプレイしたい気持ちにはなりません。
Linuxのようなオープンソース開発や、Wikipediaの編集は基本的に無報酬です。それでも多くの人が自発的に協力するのは、そこに大きな意味を見出しているからです。
さらに付け加えるなら、「自分は『選ばれた人間』だ」と感じさせれば、なお効果が強くなります。勇者の末裔であったり、神託によって選ばれたりしたいのです。
「しょうがねぇ、俺がやるしかねぇか…!」と思わせるということですね。
通常ゲームの意味は、プレーヤーがゲームシステムと対話を始めたとき、つまりプレイの1番最初に語られます。
ゲームに意味を持たせるためには、次の5つのテクニックが使えます。
テクニック1-1:ナラティブ(Narrative)
「なぜその行動や操作が必要なのか?」の理由を、物語の文脈で伝えるのがナラティブです。(”narrative”は、直訳すると「物語」「話術」「語り」という意味)
実のところ、ゲームにおける「ピーチ姫を救う」や「魔王を倒して世界を救う」といった物語は、プレイヤーにコントローラーを握らせるための方便に過ぎません。
ポイントはプレイヤーは物語を消費するだけではなく、物語の担い手の一人になって、物語の一部になれること。
例えば、子供向けのウェアラブルテクノロジー企業であるZamzee。
子供に運動をさせる理由として、ファンタジーの世界を模して、子供たちは「魔術師見習いになる」といった、ミッションを提供します。
その結果子供たちは、階段を15回上り下りしたりします。
もちろん運動自体は、ファンタジーの世界と何ら関係ありません。悪く言えば茶番。そんなことは子供だってわかっています。
しかし行動を物語の文脈に紐づけ、ユーザーの行動が物語に直接影響を与えていると理解すれば、ユーザーは「自分は物語を動かせる存在だ」と認識します。
結果、やる気が引き出されます。
テクニック1-2:人道的なヒーロー(Humanity Hero)
人の心の内には、「世の中をより正しく、みんなに優しい世界にしたい」という人道的な感情があります。
「ゲーミフィケーションに参加すること」と「世界をより良く変えられる」を紐づけることで、ユーザーのやる気を引き出すことができます。
TOM’s Shoesは、靴が1足買われるごとに、貧しくて国の子供達に靴をプレゼントします。
顧客は、やりたいと思っても独力では難しい第三国への支援を、靴を買うだけで実行可能になります。
グリーンキャンペーンでよく見られる、「あなたが1つ商品を購入するごとに、アフリカに1本の木を植林します」も同様です。
テクニック1-3:エリート主義(Elitism)
ここでのエリート主義とは、自分がのし上がるということではなく、自分の所属しているグループが、他のグループよりも優れていると証明することです。
あえて派閥的な括りを設けることで、外の集団への敵対心を煽り、モチベーションを高めることができます。
心理学では「内集団バイアス」とも呼ばれています。
巨人ファンと阪神ファンは、お互いが相手よりも素晴らしい球団であると考えています。というよりはそうありたい、自分の手でそうさせたいと考えています。
だから誰に言われるわけでもなく、報酬があるわけでもないのに、応援団を率いて相手よりも大きな声援を送ろうとします。
カーネギー鉄鋼会社とUSスチールの社長だったチャールズ・シュワッブは、ある日業績がなかなか上がらない工場を訪れました。
シュワッブの機転で、昼勤組と夜勤組のそれぞれのが作った鋳物を数を互いに報告させたところ、みるみる生産性が上がりました。
双方が、「夜勤組に負けてたまるか!」「昼勤組より俺らの方が有能だ!」と、対抗意識を燃やした結果です。
「二項対立」に持って行ったり、共通の仮想敵を作ることで、ユーザーのモチベーションを焚き付けます。扇動者が大衆を煽るテクニックでもあります。
テクニック1-4:ビギナーズラック(Beginner’s Luck)
ビギナーズラックを掴んだ初心者は、「自分は選ばれた!」と錯覚します。
ある初心者が、上級者でもなかなか手に入れられない激レアアイテムを、偶然に手に入れたとしましょう。おそらくその初心者は、他の初心者よりも離脱する可能性が下がります。
初めて釣りに行った人が、地元の人も滅多に釣れない大物を一発で釣ってしまい、これをきっかけに釣りにハマってしまった、というシーンによく似ています。
さらに他のプレイヤーとの交流の場があれば、自慢や披露の場が与えられます。コレは「コアドライブ⑤:社会的影響力(Social Influence & Relatedness)」とのコンボです。
また確率をコントロールすることで、希少性によりプレイヤーを駆り立てることもできます。コレは「コアドライブ⑥:希少性(Scarcity & Impatience)」とのコンボです。
テクニック1-5:無料のランチ(Free Lunch)
本当はお金がかかるコンテンツや商品を、ある特定のユーザーに限り、特定の意味に紐付けて無料で提供します。(ランチとありますが、どんな商品でもOKです)
コレによりその特定のグループの人たちは、自分たちは特別である、つまり「選ばれた者」であると感じ、更なる行動につなげることができます。
とあるレストランが、「浦和レッズのユニフォームを着たお客さんは、一品無料でプレゼント!」としたら、訪れたレッズファンは再びその店に食べに来てくれるでしょう。
対象を狭くするほど、高いエンゲージメントが期待できるでしょう。言うまでもなく、狭い方がより「選ばれし者感」が強くなるからです。
コアドライブ②:達成感(Development & Accomplishment)
プレイヤーに挑戦を促し、それをクリアさせ、達成感を原動力に行動を促すコアドライブです。一般的なゲーミフィケーションの中心的な役割に相当します。
しかし難易度が低い挑戦であれば、プレイヤーは達成感を感じません。制約や障害などを設けつつ、頑張ればクリアできる程よい難易度に調整する必要があります。
加えて大事なのが、達成感を可視化することです。成長したことをレベルやステータス、ステージクリア、強力な武器などで、明示的に伝えます。
ゲームで達成感を伝えるには、次の5つのテクニックが使えます。
テクニック2-1:プログレスバー(Progress Bar)
「プログレスバー」は、進捗度合いを表示するバー(棒)のこと。ゲームに限らず、WEBサービスのUIとしてはすでに一般的です。
例えば転職サイトは、他のサービスと異なり、登録時点でかなりの量の情報を打ち込まなければなりません。
そこに進捗を示すプログレスバーを設け、「あなたは65%まで入力しました」と逐一示してあげるのです。ユーザーはそこに自分の努力の甲斐を見出します。
また着実に進んでいるという進歩を示すと同時に、クリアまであとどれくらいの距離があるかを示しているとも言えます。
心理学の「目標勾配仮説」によれば、ゴールが近づくほど、人間はモチベーションが上がる傾向があるとされています。ダブルの意味でやる気を引き出します。
なるべく細かく、一挙手一投足ごとに進捗を明示すると良いでしょう。
テクニック2-2:バッジ(Achievement Symbols)
ゲームやWebサービスでは、しばしばバッジシステムが搭載されています。達成の証として、バッジを贈るシステムです。トロフィーや称号であることもあります。
起源は軍将校のバッジ。意味合いとしては、空手や柔道の帯の色、小学校の水泳で級が上がると貰えるキャップにつける紐(私の地元だけかも)と同じです。
共通するのは、バッジ自体に実用的な意味はなく、ただ名誉を示すだけということです。
バッジに価値を持たせるためには、それが他人の目から見て畏敬を感じる、あるいは自分自身が誇りを感じる必要があります。
ゆえにそれなりの難易度のミッションを達成したときにバッジを贈ります。
ときに世間のバッジシステムは、しょうもないバッジを与え過ぎている感があります。「新兵1日目おめでとう」のバッジなんて、恥ずかしくて誰もつけたくありません。
テクニック2-3:ステータスポイント(Status Points)
「ステータスポイント」は、RPGで言うところの経験値です。役割としてはバッジと同じですが、バッジよりも細かく加算されるポイントのイメージです。
ステータスポイントもやはりバッジと同様、正しい方向性への進歩の証として送られます。
強い敵を倒せば、それだけ多くのポイントが手に入ります。ポイントを通じて、ユーザーを正しい方向に導いている側面もあります。
また次のバッジに到達するまでに、どれくらいのポイントが必要かも示しています。前述の「目標勾配仮説」により、目標までの距離が近づくほどやる気を引き出せます。
ポイントをお金にする弊害
ビジネスで応用する場合は、しばしば換金可能なポイントが導入されます。ゲームの世界に「経済」が持ち込まれます。
しかしこれは注意が必要。難易度が高く、避けた方が良いかもしれません。
お金が絡んだ瞬間に、人は手に入るポイントを自分の労働に換算します。もし労働に見合わなければ、プレイを放棄することになってしまいます。
この現象は、心理学の「アンダーマイニング効果」としても知られています。お金の報酬があることで、かえってやる気を失わせてしまいます。
テクニック2-4:ランキング(Leaderboards)
「リーダーボード」は、プレイヤーの地位を示す概念。ほぼイコール「ランキング」のことと思って差し支えありません。
ランキングが上がることで、プレイヤーは自分の成長を確認できます。また他人との競争の中で、優越感に浸ることもできます。
ゲーミフィケーション界隈において、ランキングはポピュラーで便利なツールですが、使い方を間違えると毒にもなります。
例えば始めたばかりのプレイヤーが下位10%にいると告げられたら、ザコと言われてやる気を失うかもしれません。
また初めて獲得したポイントが10ptだったとして、トップランカーが8,000,000ptもあったら、先の遠さに幻滅するかもしれません。
全体ランキングの場合、初心者にトップ10を見せる意味はありません。そうではなく、プレイヤーの順位がちょうど真ん中に来るランキングを見せるのが良いでしょう。
または友人同士の間の、少人数のグループランキングもオススメ。競争意識が働いて、より頑張ろうという気持ちになります。
コアドライブ③:エンパワーメント(Empowerment of Creativity & Feedback)
3つ目のコアドライブは、さまざまな遊び方の組み合わせを提供して、プレイヤーの創造性を発揮させます。
現実世界では、自分で考え、自由意思で何かを創造する機会は少なくありません。ゆえに人は、創造性を発揮できる場所として、ゲームを求めています。
そしてゲームの寿命が数ヶ月で尽きるか、一生涯楽しめるかどうかも、創造性を発揮し続けられる奥行きがあるかで決まります。
例えばレゴは遊ぶ人に、長期に渡って創造性を発揮させてくれます。将棋やチェスや麻雀も、一生遊べる遊びです。どこまでも終わりはありません。
どうすればそんな息の長いゲームが作れるのでしょうか?
テクニック3-1:ブースター(Boosters)
「ブースター」とは、制限付きでゲームの勝利をよりカンタンにする要素。スーパーマリオで言うところの「ファイヤーフラワー」や「スター」のことです。
ブースターを手にしたプレイヤーは興奮状態にあり、ブースター状態でプレイを中断しようとは思いません。
課金ゲームでは、ブースターを買うために多くのプレイヤーがお金を払います。
しかし勝利そのものをお金で買うわけではありません。もしお金を払った瞬間に「YOU WIN」と表示されるだけなら、誰も興奮しません。
一足飛びに勝利が欲しいのではなく、勝利への強力な手段が欲しいのです。あくまで強い武器を手に入れて、それで敵を薙ぎ倒す爽快感を求めているのです。
ここはブースターの本質を理解するために重要です。
なお、「なぜ強化アイテムが創造性につながるのか?」という疑問も湧きますが、プレイヤーに選択肢を与えて、プレイをの幅を広げていると考えれば良いでしょう。
テクニック3-2:マイルストーンアンロック(Milestone Unlock)
「マイルストーン」は、ゲームの中での一区切りになる時点を指しています。ボスを倒したときや、一定のレベルに到達したときなどが、マイルルトーンに当たります
「アンロック」は、マイルストーンに到達したら解禁される新要素。新しい呪文や強力な武器などです。ゲームをより有利に進められる何かが解禁されます。
プレイヤーは、残りどれくらいプレイすれば次のマイルストーンに辿り着くか、概ね理解しています。だから「あと少しでボスだから!ボスを倒したら止めるから!」と、キリの良いところまでプレイしたくなります。
そしてボスを倒すと、新しい武器がアンロックされます。やめる前に武器の威力を試したくなるのが人情。そしてアンロックされた武器が、思いのほか強力だと知ります。
そうすると、実は次のマイルストーンが思ったより近いことに気がつきます。「じゃ、もう少しだけ…」とプレイをやめられなくなってしまうのです。
テクニック3-3:強制させる選択(Poison Picker)
ゲームはある意味で、他人から押し付けられてプレイするもの。しかしプレイを継続するかどうかは、本人の裁量に任されています。
「なぜこんな面倒なことをしなければならないの?」と思われてしまうと、そこが本当の意味でのゲームオーバーになってしまいます。
しかし人間は、自分で選択した結果なら、例え困難な道でも進むことがわかっています。心理学では「宣言効果」と呼ばれる現象です。
中学校で部活が強制だった人は、運動系だろうが文化系だろうが、何かしらの部活を選ばなければなりません。これは本人の意思による選択です。
バスケ部を選び、1年後に伸び悩んでも、バスケを続けようとします。もし辞めてしまえば、それは「過去の自分の選択が誤っていた」と認めることになるからです。
サインアップのシーンでは、メールアドレスを打ち込むか、ソーシャルログイン(Googleなどのアカウントと紐付ける)するかの選択肢が与えられます。
ソーシャルログインの方がラクですが、中には嫌う人もいます。しかし自分でメールアドレスを打ち込むと決めた以上、最後までやり通すモチベーションが生まれます。
「一貫性の法則」によれば、人間は過去に取っていた行動に沿って、その後も一貫した行動を取り続ける傾向があります。自分が間違っていると認めたくないからです。
ゲームでもビジネスでも、実際には1択しかなかったとしても、あえてユーザーに選択肢を与えることが重要です。明らかな誘導選択肢であってもです。
テクニック3-4:意味のある選択(Plant Picker)
前述の「強制させる選択(Poison Picker)」は、進みたがらないプレイヤーのお尻を叩いて進ませるためのテクニックです。しょうがないから選択させています。
「意味のある選択肢(Plant Picker)」は、もっと前向きに、プレイヤー自身の創意工夫を発揮できる楽しい選択です。
例えばポケットモンスターは、6匹のポケモンでパーティーを組めます。数百種類からどの6匹を選ぶかは、プレイヤーの戦略次第です。
トレーディングカードゲームも、レゴも、マインクラフトも、将棋も囲碁も、取れる選択肢が非常に多く、プレイヤーにはかなり大きな裁量が与えられています。
プレイヤーが選択できる幅の広さは、そのままゲームの奥深さになっています。ひいては、ゲームの寿命を伸ばすことにつながります。
ただし最初から選択肢が多すぎると、初心者プレイヤーには難易度が高すぎます。将棋や囲碁の敷居が高い理由もそこにあると言えるでしょう。
そのため、「マイルストーンアンロック」のテクニックと併用し、徐々に選択肢を増やしていく方法がオススメです。
コアドライブ④:所有(Ownership & Possession)
4つ目のコアドライブは、所有欲に関するものです。人間は本能的に、財や価値ある何かを所有したいと思っています。そしてその欲には終わりがありません。
あればあるだけ欲しくなる。そして一度手に入れら、確実に自分のモノとして、他人に奪われることを酷く嫌います。
生活に困らないだけのお金があっても、まだまだお金が欲しくなります。一家4人が不自由なく過ごせる住居では足らず、もっと広くて豪勢な住居を求めます。
ゲーム内では、仮想通貨や仮想の土地、兵士、モンスター、オーナメントなどの形で、プレイヤーが所有できる何かしらの要素が設定されています。
加えて、所有物にカスタマイズ要素があるほど、所有欲が促進する傾向があります。持ち家のように、「カスタマイズできる=自分のモノ」という感覚になるのかもしれません。
性別によるの所有欲の違い
なおこの所有欲は、女性よりも男性に顕著に現れます。
進化心理学によれば、子孫を残すための競争が激しい男性は、女性を惹きつけるために、他の男より優位に立ちたい本能があります。比較優位の話なので、生活に必要な量かどうかは関係ありません。
女性は自分自身が戦うのは好まないものの、ペットや他の人が戦うのを楽しむ傾向があります。対戦格闘ゲームはプレイしませんが、ポケモンのような戦わせるゲームは好んでプレイします。
女性向けを考えるなら、「プレイヤーの分身であるアバターはカスタマイズ可能」とし、「戦うのはアバターではなく、その配下(モンスターなど)」という設定が良いでしょう。
テクニック4-1:スクラッチ(Build From Scratch)
出来合いのサービスを使わず、0からシステム構築することを「スクラッチ」と呼びます。
ゲームでプレイヤーにスクラッチを使わせるとは、例えばアバターやフィールドといった要素を、0から自分好みにカスタマイズさせるシステムを指します。
心理学の「イケア効果」によれば、IKEAの家具のように、自分で組み立てたモノにより愛着が湧くことがわかっています(高価な出来合いの家具よりも)。
ただしゲーミフィケーションの目的は、ユーザーを勉強させたり運動させたりすることです。マインクラフトやどうぶつの森のように、スクラッチ自体に夢中になってもらうことではありません。
スクラッチはテンプレートを使って、簡易に行える仕組みが良いでしょう。またはスクラッチを最初のチャレンジとしてクリアさせ、すぐに次のチャレンジに進ませましょう。
テクニック4-2:コレクション(Collection Sets)
「コレクション」は、その名の通り収集欲を刺激するテクニックです。
アイテムやキャラクター、カード、バッジなど、さまざまなコレクション要素がゲームには付加されています。ポケモン図鑑がまさに好例でしょう。
もし全部で10人の「ONE PIECE 麦わらの一味」のフィギュアのうち、5体を持っていたとしたら、残りの5体を集めずにいられるでしょうか?(いられないはず!)
リアル世界のゲーミフィケーションとしては、スタンプラリーが好例です。古くからあるお遍路さんの四国88ヶ所や御朱印帳も、コレクションに該当します。
テクニック4-3:アフレッド効果(The Alfred Effect)
語源がわかりませんでしたが、「アルフレッド効果」とは、個人にパーソナライズされたモノを一度使うと、それ以外の既製品に戻る気がなくなる現象です。
しゃぶしゃぶや火鍋で、タレを自分好みにカスタマイズできるお店は、日本でも中国でも人気があります。ラーメンチェーンの一蘭も、自分好みのカスタマイズで有名です。
AmazonやNetflixのレコメンド機能も、高度にパーソナライズされています。
楽しい、あるいは心地よい組み合わせを手放したくないがゆえに、他のサービスに流れようとは思わなくなります。
テクニック4-4:プロテクタークエスト(Protector Quest)
「プロテクタークエスト」は、一般的なゲーミフィケーションのテクニックではないようです。
例えるなら、羊の群れをオオカミから守るゲームをプレイしたら、もともと好きでも何でもなかった羊を何故か好きになってしまう現象です。
理科か何かの授業で、小学生に動物の卵を与えたら、外敵に晒されないように大事に守るでしょう。結果的にその卵や、生まれてくる動物のヒナに愛着が湧きます。
これは心理学の「認知的不協和」によれば、人間は心と行動の間に矛盾があるとき、その矛盾を放って置けなくなります。そしてその矛盾を解消するように脳が判断します。
ゲームの中で、全く興味がないアフリカの貧しい村を水不足から救っているとしたら、「なぜこの村を救っているんだろう?」と矛盾が生じます。
矛盾を正当化するためには、その村に愛着を持つしかありません。
コアドライブ⑤:社会的影響力(Social Influence & Relatedness)
人間は社会的な生き物。他人とのつながりを求める欲求が備わっています。そして無条件に、誰かとつながりを持てる機会を探しています。
同時に他人の目を気にして、他人より優れた人物でありたいという競争の感情も引き起こします。こちらは承認欲求として知られています。
ゲームに他人とのつながりを持たせることで、ゲームの面白さは加速します。
テクニック5-1:メンターシップ(Mentorship)
「メンターシップ」とは、カンタンに言えば先生と生徒の関係です。
会社や病院でも、比較的若いの先輩が新入職員とセットになり、マンツーマンで1年間指導する制度が設けられています。
新入社員はメンターがいることで、離職率が下がる傾向があると知られています。またメンター自身は人に教えることの難しさを知り、自分の実力がまだまだだと気づきます。
加えてゲーミフィケーションにありがちなのが、初心者を意識するあまり、一度クリアした上級者のやり込む要素がないこと。上級者は飽きたら去ってしまいます。
メンターシップがあることで、上級者を引き止めさせる効果も期待できます。
現実世界では、初心者の方がよほど積極的にアクションしない限り、メンターシップは成立しません。ゲームの設計で、両者をマッチングする仕組みがあると良いですね。
カスタマーサポートにもメンターシップを取り入れる
メンターシップの一つの活用先に、カスタマーサポートがあります。
近年のカスタマーサポートの多くは、コミュニティの形をとっています。ユーザーの質問に対し、他のユーザーが回答できる形になっています。
初心者ユーザーは、無機質なコールセンターではなく、おせっかいなベテランのお世話になります。必然、コミュニケーションに熱を感じます。それにユーザーは、同じユーザーの立場の意見を聞きたいとも思っています。
ベテランは初心者に教えられることで優越感を感じますが、それだけではインセンティブが弱い。質問に回答したらポイントを付与するなどのメリットを提示すると良いでしょう。
初心者にもベテランにもメリットがあり、運営側は対応コストを減らせます。一石三鳥のソリューションです。
テクニック5-2:グループクエスト(Group Quests)
「グループクエスト」は、プレイヤーが勝利条件に達するためには、グループを組まなければ事実上不可能となる仕組みです。強力なバイラルの手段となります。
人数が少なくてもクリアは可能ですが、多い方がずっとクリアが簡単になる調整がされています。オンラインゲームのレイドが典型で、ポケモンGOでも実装されています。
効率よくレイドをこなすには、予めどこかのグループ(ギルド)に所属するのが有利。グループに参加すると、「ピアプレッシャー(周囲の無言の圧力)」により、いつもの時間にログインするよう促されます。
ゲーム以外では、グルーポンのような共同購入サービスや、クラウドファンディングは、グループクエストの様相となっています。
テクニック5-3:自慢ボタン(Brag Buttons)と宣伝ボタン(Tout Flags)
プレイヤーは自分の素晴らしい成果を、他の人に知らせたいと思っています。
- 能動的に大声で自慢するのが「自慢ボタン」
- 言葉にせず暗黙のうちに周りに示すのが「宣伝ボタン」
です。それぞれ別の役割があります。
自慢ボタンは、何かを達成した瞬間の達成感を他人に伝えるための装置です。
「ハイスコアを更新した!、レアキャラを引き当てた!、最上位ランクになった!」といった具合です。その達成した瞬間のスクリーンショットを、SNSで投稿するイメージです。
投稿しやすいようなキャッチーな画面を用意したり、その画面にSNS投稿ボタンを設置したりしましょう。
宣伝ボタンは、達成の瞬間ではなく、優れている状態を伝える装置です。
「レベル99、TOEIC990、博士号、ノーベル賞受賞」といった内容を伝える装置です。壁に貼って、通りかかった人がそれを見て成果を認めてくれるイメージです。
他のユーザーからも閲覧可能なバッジシステムやランキングは、宣伝ボタンとしても機能します。
自慢ボタン、宣伝ボタンのどちらにしても、難易度は保っておかなければなりません。自慢になるのは、「達成が難しい」という相互理解が得られている場合に限られるからです。
テクニック5-4:ソーシャルトレジャー(Social Treasures)とありがとう経済(Thank-You Economy)
「ソーシャルトレジャー」とは、他人を招待すると得られるアイテムです。ソロプレイや課金では手に入らず、招待によってしか得られない場合もあります。
そして招待した方とされた方の双方に、ソーシャルトレジャーが贈られます。招待する方もされる方もwin-winなので、バイラルとして機能します。
ただしSNSに招待コードをスパムのように送りつけてくる輩も出てくるので、興味がない人には良い迷惑。といっても、運営にとっては宣伝してくれてありがたい話ですが。
現実世界では、「選挙の投票」はソーシャルトレジャーに当たります。
あなたが選挙に立候補して、非常に魅力ある政策を打ち出したとしましょう。
あなたをどうしても当選さたせたい人が出てきますが、投票権は1人1つだけ。もし票を集めたければ、友人を誘うなり、Webサイトを作って宣伝するなりして、自主的な広報活動を行うことになります。
もちろん得をするのは、立候補しているあなたです。
もう少し緩いバイラルのテクニックに、「ありがとう経済」があります。シンプルに良いことをすると、誰かが「ありがとう!」といってもらえるだけです。
ゲーム化されたナビゲーションアプリWazeでは、運転中に遭遇した道路状況を共有すると、他の運転者から「ありがとう!」と言ってもらえます。
ただお礼を言われるだけなのですが、現実世界ではなかなか感謝される機会がありません。多くの人が「ありがとう」欲しさに情報共有してくれます。
テクニック5-5:協調アンカー(Conformity Anchor)
「協調アンカー」は、心理学における「同調効果(行動経済学では「ハーディング現象)」と呼ばれる人間の性質を使ったテクニックです。
簡単にいえば、「人の振り見て我が振り直せ」です。人間が、周囲の人と同じ行動を取ってしまいがちな性質を逆手に取ります。
我々は、自分の家でどれくらいの電力を使っているかは分かりますが、隣の家がどうかは分かりません。そしてご存知の通り、電力はなるべく節約されるべきものです。
このときプライバシーがあるので誰とは言わないが、近所で優良な電気消費量のお宅のデータを開示すると、他の家庭の電気消費量が減ることがわかっています。
ただこの手法を使うと、優良だった人は自分の電気消費量が他の家庭より少ないことに気づきます。その結果、少し電力消費量を上げる傾向があるという実験結果が出ています。
テクニック5-6:冷水機(Water Coolers)
米国では、雑多な会話や不満をおしゃべりして、従業員同士のつながりを強化する場を「冷水機(Water Cooler)」と表現します。
日本で言うところの「井戸端会議」ですね。喫煙ルームも同じような類です。
要はゲームやサイトに、プレイヤーやユーザーが集まる「フォーラム」を作ろうという話です。ユーザー同士がコミュニケーションを取り、アイデアが生まれる場を提供します。
フォーラムを覗くと、意外と多くの人が課金している事実(課金している人ほど書き込む熱心なプレイヤーである可能性が高い)に気がつくかもしれません。そうすると、自分も課金することに抵抗がなくなります。
ただ一点ありがちな注意があります。フォーラムを作っても、人が来なかったり、誰も発言しないケースです。
フォーラムを作る順番
- そのゲームのコミュニティがいくつか立ち上がるのを見届ける
- 後からフォーラムを作る
が良いでしょう。コミュニティの熱量を発散させる場を提供するイメージです。
フォーラム自体にコミュニティを作らせる効果は期待できませんが、既にできたコミュニティ同士をつなぎ合わせたり交流させたりするのは得意です。
テクニック5-7:ソーシャル製品(Social Prods)
字面でイメージしづらい「ソーシャル製品」とは、SNSに大抵何かしら実装されている、1番カンタンなインタラクション(交流)の方法です。
「いいね」や「Like」のことです(ややこしいので、以降は「いいね」と呼びます)。
「いいね」の良いところは、ユーザーが発言するために考える必要がないことです。
文章を考えたり、誤字脱字をチェックしたり、コメントしたら馬鹿だと思われないかな?と悩んだりする必要はありません。億劫な会話のキャッチボールもありません。
ただ「いいね」を押すだけで、他のユーザーとの交流が成立します。軽いからこそ、気軽に交流に参加できる。そんな手段も持っておこうねという話です。
コアドライブ⑥:希少性(Scarcity & Impatience)
人間は希少なものに引き寄せられます。
たくさんあるときは見向きもしなかったのに、いざ手に入らないと知ると途端に欲しくなる。そんな経験ありませんか?
Nikeの1985年(初代)のAir Jordan 1は、発売してしばらくした後にワゴンセールで売られていました。しかし入手できなくなった現在では、現在ではスニーカーファンが羨む超プレミアスニーカーとなっています。
電話で注文を受けるサービスは、「オペレーターが待機しております。今すぐお電ください」よりも、「お電話がつながりにくい場合は、再度おかけ直しくだい」とした伝えた方が効果的です。
後者の方が、注文が殺到している感があり、より手に入りづらい印象を受けるからです。
進化心理学によれば、「希少なモノ=手に入りにくい=手に入れられた俺は経済力がある」という解釈になります。人は力を誇示するために希少なモノを求めます。
そのもの自体が欲しいのではなく、レアだから欲しくなってしまうのです。これも人間の性(さが)の一つです。
≫【今しか買えない】希少性の原理とは?ビジネスで希少性を作る方法を解説【あえて絞れ】
テクニック6-1:マグネティックキャップ(Magnetic Caps)
「マグネティックキャップ」は、直訳すると「磁石のように吸い寄せられる上限」。意図的に上限値を設けることで、ユーザーのモチベーションを引き上げる手法です
米国アイオワ州のとあるスーパーで、スープ商品の10%OFFセールを行いました。
セール期間の前半は「お一人様12個まで」、後半は「お一人様何個でもどうぞ」と書かれた張り紙を出しました。
その結果、「お一人様12個まで」と購入数を制限した日は、平均で7缶の購入で、制限しなかった日の約2倍となりました。
たくさん買ってもらいたい、あるいはたくさんの個人情報(趣味や興味のあるジャンルなど)を入力して欲しい場合、あえて上限値を設けるのが得策です。
この現象は、行動経済学の「アンカリング効果」としても知られています。上限値がアンカー(錨)となり、その数字に吸い寄せられてしまうのです。
テクニック6-2:アポイントメントダイナミクス(Appointment Dynamics)
希少性と聞くと、物理的に数量が少ない印象を受けますが、「アポイントメントダイナミクス」は、希少性を時間に当てはめた考え方です。
日本人の感覚で最も当てはまるのは「桜」です。桜は咲いている期間が1週間ほど。満開になるベストタイミングは2,3日しかありません。
期間が短いからこそ、ありがたがってお花見に出かけるわけです。もし桜の見頃が2ヶ月間もあったなら、誰もレジャーシートを敷いてお花見はしないでしょう。
居酒屋は平日18時前にハッピーアワーを設けています。サラリーマンが行きづらい早い時間に行くと、ビールやおつまみを格安価格で楽しめます。
焼肉屋は毎月29日(ニクの日)にお得なメニューを提供しています。楽天市場は、毎月0か5がつく日はポイント還元率が上がります。
不燃ゴミはしばしば、週に1日しか回収のチャンスがありません。前日には「明日はゴミ出すぞ」と自分に言い聞かせます。しかしこれがいつでも出せるようなら、ゴミがいっぱいになるまで溜め込むでしょう。
またユニークな事例に、韓国のeMartというショッピングモールのセールキャンペーンがあります。
このショッピングセンターは、ランチ時間に客足が鈍ることに気がつきました。そこで軒先に現代アートのようなオブジェを置くことにしました。
このオブジェは、正午になるとオブジェの影がQRコードになり、ごく限られた時間だけセールページにたどり着ける仕組みです。その名も「サニーセール」。ウィットに富んでいます。
eMartの事例は、時間の希少性はもちろんのこと、「コアドライブ⑦:予測不可能性(Unpredictability & Curiosity)」もうまく取り込んでいます。
いつでも手に入るなら、ユーザーは永遠に行動を先延ばしにします。あえて時間を制限することで、ユーザーにその時間に特定の行動を促すトリガーを与えることができます。
- もう17時!ハッピーアワーだから急いでお店に行かなきゃ!
- 29日は焼肉!
- 月曜日はゴミ出しの日だ!
と意識させることで、「いつでもいい」から「今やらなきゃ!」に意識が変わるのです。
テクニック6-3:お預け時間(Torture Breaks)
こちらも時間に関する希少性を煽るテクニック。あえてゲームをプレイできない時間を作る手法です。
“Torture Breaks” は、直訳すると「拷問の休憩」となりますが、ちょっと変な日本語になってしまうので「お預け時間」としました。
かつてのゲームは、プレイヤーは何時間でも好きなだけプレイできました。満足するまでプレイできるので、その後は数日間ゲームのことを忘れて生活するかもしれません。
しかし今日のソーシャルゲームは、プレイ時間にあえて制約を設けています。スタミナやライフという概念があり、プレイした後は回復するまでお預けを喰らいます。
ホントはもっとプレイしたいのに、途中でお預けを食らってしまうと、その後もゲームのことが頭から離れなくなってしまいます。8時間後にならないとプレイできないとしても、5時間後、6時間後にチラチラ画面を覗いてしまいます。
プレイヤーがプレイしたい時間を把握し、あえて短い時間しか遊ばせないことで、ゲームへの依存性を高める効果が期待できます。
なおプレイヤーには、友達を招待(ソーシャルトレジャーのテクニックと併用)する、あるいは課金することで、いますぐプレイ可能にする選択肢が与えられることもあります。
テクニック6-4:進化するUI(Evolved UI)
“Evolved UI”は、直訳すると「進化したUI」ですが、「進化するUI(ユーザーインターフェース)」と表現した方が適切です。
ちなみに「インタフェース=ゲーム画面」と捉えて差し支えありません。
進化するUIとは、初めはカンタンな操作のみの画面から始まり、プレイヤーが習熟するにつれて難しい操作が画面上に追加されていく、という意味です。
前述の「マイルストーンアンロック」のテクニックとも一部重複します。
一般的にゲーミフィケーションが取り入れられる場合、初心者には難しすぎるが、上級者が楽しむには簡素すぎて奥行きに欠けるケースが散見されます。
ビジネスオーナー側は、魅力ある機能をたくさん打ち出したいと思っていますが、初心者は最初に10も20も操作があると、複雑すぎて1つも使わずに離脱されてしまいます。
心理学の「マジカルナンバー」によれば、人間が瞬時に理解できる情報の数は3〜5つしかありません。初心者にはその程度の操作しか見せてはいけないのです。
まずは基本的な機能だけを解放し、ユーザーが習熟したと判断されるに至ったときに、複雑な操作を徐々に徐々に解放していきましょう。
コアドライブ⑦:予測不可能性(Unpredictability & Curiosity)
人間の脳は、同じような展開が続くと脳が慣れてしまいます。慣れてしまうと注意を払うことをしなくなり、結果としてゲームは退屈になります。
行動経済学には、「脳のシステム1とシステム2」という理論があります。システム1は考えずに直感で判断を下します。システム2は熟考して判断します。
慣れない展開には、しばらくはシステム2を使って慎重に事を進めます。しかし慣れてしまったが最後、あとはシステム1に任せて無心で操作するでしょう。そうなってはもう楽しめません。
初めて訪れる海外で駅から降りたら、「次はどこにいけば良い?」「スリに合わないかな?」と緊張感があります。システム2が仕事をしています。
この緊張感は、チャレンジしていることの裏返し。クリアすれば達成感が味わえます。この達成感こそが、面白さの正体です。
しかし毎日通勤している会社の往復では、緊張さはかけらもありません。酔って記憶がなくても帰宅できるほど無意識です。当然システム1で処理しています。
ゲームを楽しいと思ってもらうためには、意図的にサプライズを用意する必要があります。
ニュアンスとしてはただ驚かせるだけではなく、プレイヤーに未知のチャレンジを促し、それをクリアさせて達成感を味あわせることも含みます。
テクニック7-1:輝く選択(Glowing Choice)
「輝く選択」は、オンボーディング(最初にプレイし始めたとき)でプレイヤーが操作に迷ったときに、正しい選択肢を浮かび上がらせることです。
初めてRPGを触った人は、何をすれば良いのイマイチかわかりません。しかしあからさまに何か知ってそうなキャラクターが近くいて、話しかけると次に何をすれば良いかを教えてくれます。
カンタンに言えば、迷ったプレイヤーに出すヒントのことです。目的はオンボーディング段階でプレイヤーを立ち往生させないことです。
テクニック7-2:ミステリーボックス(Mystery Boxes)
「ミステリーボックス」は、その名の通り何が出てくるかわからない玉手箱です。
ゲームにおいては、敵を倒したときにランダムで排出されるアイテムなどがそれにあたります。何が出るかわから好奇心が、プレイヤーを「よしもう一回!」と行動させます。
ミステリーボックスは、サブスクリプションサービスでもしばしば用いられます。
- お菓子のサブスク
:定期的にお菓子の詰め合わせが届く。中身はランダム - 日本酒のサブスク
:定期的にオススメ日本酒が届く。中身はランダム - お花のサブスク
:定期的に数輪の生花が届く。中身はランダム
次は何が出てくるんだろう?というワクワクを味わいたくて、次もまたその次も楽しみになりますね。
テクニック7-3:イースターエッグ(Easter Eggs)
本来の「イースターエッグ」は、キリスト教の復活祭で使われるカラフルに装飾された卵のこと。イースターエッグはその辺に隠されていて、子供たちが探して遊びます。
転じて、ソフトウェアエンジニアがこっそりゲームなどに、密かに本編と関係ないメッセージを忍ばせておくユーモアを指す用語にもなっています。
ミステリーボックスとは違い、プレイヤーが予期せぬタイミングで訪れるサプライズを、ここではイースターエッグと呼んでいます。
わたしが知っているとあるラーメン屋は、お客さんに内緒でランダムに特大チャーシュー(ほぼ肉塊)を乗せています。
お客さんは何も知らずに、頼んでないしメニューにもない巨大な肉を見て驚きます。
ポケモン金銀シリーズに出てくる伝説のポケモン「エンテイ・ライコウ・スイクン」は、特定のダンジョンに居座っているわけではなく、完全にランダムで出現します。
マップのどこかで偶然出現するので、突然エンカウントするとビックリ。プレイヤーは鼓動が早くなるのを感じます。
予期していない突然のサプライズ(もちろんいい意味での)は、強い幸運を感じさせ、興奮を与えてくれます。その体験はとても楽しい思い出になるでしょう。
感情が紐づいた記憶は「エピソード記憶」と呼ばれ、何度も反復して覚える暗記テストとは異なり、一発で記憶に残りやすい性質があります。
予期せぬ驚きの体験は、ユーザーの記憶に深く刻み込まれます。それゆえ思い出してもらいやすく、リピートされやすい性質があります。
またこういったサプライズ体験ほど他人に共有したくなるもの。SNS上の拡散を起こすためにも使えるテクニックになります。
テクニック7-4:宝くじ(Rolling Rewards)
「宝くじ」は、参加者の中の誰かが、必ず報酬を受け取る仕掛けのこと。ただし誰が報酬を勝ち取るかはランダムで、確率は概して低く設定されています。
宝くじの他に、懇親会のビンゴゲームやじゃんけん大会もそうです。会社の中の昇進も、ある意味で宝くじの様相を帯びています。
各回で必ず誰かが当たりを引きます。つまり複数回、あるいは長期間に渡ってゲームに参加し続けた方が、当たりを引く可能性が高いわけです。
「アプリを提示してくれたお客さん10人に1人は、コーヒーが無料になります」という企画をすれば、お客さんは喜んでアプリを提示してくれるでしょう。
これが単にポイントやスタンプが貯まるだけだと、ほとんどのお客さんはアプリを提示してくれません。
人気商品を先着販売にせず、あえて抽選販売にするのも一つの手法です。単なるお金と品物の交換ではなく、当たるかもしれないワクワク体験をユーザーに提供しましょう。
コアドライブ⑧:回避(Loss & Avoidance)
行動経済学の「プロスペクト理論」によれば、人間は利得よりも損失に敏感です。何かを失う悲しみの絶対値は、何か得る喜びのそれの約2倍に相当すると言われています。
- ポイントに有効期限を設けることで、切れる前に消費させるインセンティブになります
- 「半額セール」よりも「明日から2倍に値上げ」の方が、お客さんの心は揺さぶられます
ゲームの中に損失を組み込み、セットで損失を回避させる行動も明示することで、プレイヤーにプレイを促すことが可能です。
テクニック8-1:正当な財産(Rightful Heritage)
「正当な財産」とは、プレイヤーが「これは自分のモノ(あるいは権利)」であると信じ込ませることで、それを失いたくない衝動に駆り立てる手法です。
例えば「初回3,000ポイント受け取るためにサインアップしよう!」というメッセージは、そこまで惹かれません。
このときの3,000ポイントはユーザーにとって「利得」です。
しかし次のように表現を変えると、中身は同じなのに印象が全く変わります。
ゲームやサイトで何らかの行動をしていると、「あなたは2,000ポイント獲得しました!」とポップアップが出てきて、さらに進めていくと「1,000ポイント獲得しました!」と出てきます。
そして最後に「3,000ポイントを保存して、後で使用できるようするために、今すぐサインアップしましょう!」と、メッセージを伝えます。
このときの3,000ポイントは「損失」にカウントされます。失いたくない気持ちが、サインアップを強く惹きつけます。
つまりユーザーの意志に関わらず、先にモノや権利を渡したかのように演出します。それを失わないために、ネクストアクションを提示して行動を促します。
テクニック8-2:束の間のチャンス(Evanescent Opportunities)とカウントダウン(Countdown Timers)
「束の間のチャンス」はその名の通り、すぐにアクションしなければ消えてしまう時限性の機会のことです。
ドラゴンクエストシリーズの「はぐれメタル」はなかなか出現せず、遭遇してもすぐに逃げてしまいます。しかし倒せば桁違いの経験値が手に入ります。
そのためはぐれメタルに遭遇したプレイヤーは、チャンスをモノにするためにゲームに全神経を集中させます。
現実世界でもしばしば用いられるテクニックです。
不動産屋の営業に、「この物件は、他に3名のお客様が検討中です。明日には決まっちゃうかもしれないですね〜。いま意思表示していただければ物件確保しますよ!」と言われた人は多いのでは?
回転寿司屋でマグロの解体ショーが始まれば、貴重な機会なのでマグロのお皿を手に取りたくなるでしょう。
旅行先だと「せっかくだから」と、名物料理を奮発して注文してしまいます。既に満腹でも、太ると分かっていても、貴重な機会を逃したくないと感じるからです。
そして「束の間のチャンス」とコンボで使うと効果的なテクニックが「カウントダウン」です。
カウントダウンで刻一刻と猶予が無くなるのを見ると、ユーザーは切迫感を感じます。単に有効期限や締め切りを設けるだけよりも、強い効果が期待できます。
機会がスタートするまでをカウントダウンで表示することもあれば、機会の終了までをカウントダウンすることもあります。もちろん両方を併用しても良いでしょう。
なおカウントダウンする期間はあまりに長いと切迫感が薄れ、短すぎるとエントリーできません。長くて数日、短くて3分程度でしょう。
テクニック8-3:現状維持化(Status Quo Sloth)
行動経済学の「現状維持バイアス」によれば、仮に新しい環境の方が魅力的であっても、現在の環境にしがみついてしまう傾向があります。
前述の通り、失う悲しみは、得られる喜びの2倍に相当します。つまり新しい環境が2倍以上の魅力がない限り、今の環境に踏みとどまる可能性が高いということです。
現実世界でもしばしば見られる現象です。
競合からウチのサービスに切り替えれば、品質は同じで明らかに安くなる。お客さんもそのことは理解している。なのにお客さんは首を縦に振らない。
最近アプローチしてくる男は見た目も気前もよく、今の彼氏よりも魅力的。でも今の彼氏を捨てる気になれない。
転職した方がキャリアには良いと分かっている。何の将来性の薄い今の会社から転職する気になれない。
逆に言えば、一度獲得したユーザーはカンタンには離脱しないということです。新規営業には不利ですが、既存顧客の維持には有利に働きます。
競合より秀でていなくても、同じような品質を提供できていればそうそう離脱はされません。最低でも、魅力に2倍以上の差は空けられないようにしましょう。
テクニック8-4:FOMOパンチ(FOMO Punch)
「FOMO(フォーモ)」は、”Fear of Missing Out”の略語。「見逃したり取り残されたりすることへの不安」を意味します。
「今のままじゃ将来損することになるよ?」と不安を煽ることで、「現状維持バイアス」で他サービスに定着しているユーザーを取り込みます。これがFOMOパンチです。
なかなか転職に踏み切れない人には、「その会社でしか通用しないスキルで大丈夫?終身雇用は崩壊してるから、倒産やクビになったら終わるよ?」と言ってあげると良いでしょう。
スティーブ・ジョブズは、Appleの新SEOに当時ペプシの幹部だったジョン・スカリーを誘いました。誘い文句は、「残りの人生を砂糖水を売って過ごすか、それとも世界を変えるチャンスを手に入れるか」でした。
FOMOの感覚は、「周りの人はエスカレーターでどんどん登っていくのに、あなただけが階段の踊り場で止まっている」といったイメージでしょうか。
そして「そんなの嫌でしょ?さぁ、僕の手を取って!」と、伝えるのがFOMOパンチです。
文脈的に察した人もいると思いますが、FOMOパンチは、ユーザーが購入する前の「認知」や「関心」といったフェーズで有効なテクニックです。
テクニック8-5:サンクコスト効果(The Sunk Cost Prison)
「サンクコスト」とは、費やした時間や労力、投じたお金など、戻ってこない費用を意味しています。日本語では「埋没費用」と呼ばれます。
有名な「サンクコスト効果」は、既に時間やお金を投じてしまった行動に対し、この先のリターンが見込めなくても、もったいなくてズルズルと続けてしまう傾向を指します。
ゲームの世界では、しばしばこのサンクコスト効果を悪用利用して、プレイヤーを長くゲームに留めようとします。
もしゲームを辞めてしまうと、それまで何百時間と費やした時間、投じた課金が全てムダであったと認めることになります。これは非常にツラい選択です。
代わりに費やした時間をムダにしないために、もっとプレイして敵を倒したり、スコアを上げたり、ランキングを上げたりします。そうやって深みにはまって抜け出せなくなります。
いかにゲームに長い時間、あるいは大きなお金を投じさせるかが、ゲームへの執着させるキーになります。かなりアコギな考え方ではありますが。
まとめ
今回はゲーミフィケーションのフレームワークである「Octalysis(オクタリシス)」を紹介しました。
- 意味(Epic Meaning & Calling)
:プレイヤーが「大いなる意義のために行動している」という行動の意味づけ。「自分は選ばれた存在」と感じる気持ち - 達成感(Development & Accomplishment)
:目標にチャレンジし、着実に進歩している感覚。前述のPBLは主に達成感に含まれる - エンパワーメント(Empowerment of Creativity & Feedback)
:創造性の発揮。ユーザーが自分の意思で、数多くの方法を駆使しながら戦う選択肢を与える - 所有(Ownership & Possession)
:何かを所有したい気持ち。一度所有すると、より良いモノを、より多くのモノを所有したいと考えるようになる - 社会的影響力(Social Influence & Relatedness)
:周囲の人との関係性。仲間であったり競争相手であったりする。他人の存在が、自身を更なる行動を駆り立てる - 希少性(Scarcity & Impatience)
:希少なモノを手に入れたくなる衝動。手に入れたくて、1日中ゲームについて考えさせる動機を与える - 予測不可能性(Unpredictability & Curiosity)
:読めない展開の中で、次に何が起こるか知りたいという知的好奇心。映画で続きが見たくなる、あるいはギャンブルにのめり込む要因でもある - 損失回避(Loss & Avoidance)
:ネガティブな結果を避けたい気持ち。機会を失わないために、今すぐ行動させるインセンティブになる
本当はもっと細かい内容があるようですが、Octalysisのサイトから拾えた内容を解説しました。なお心理学系の考察はわたしが挿入した解釈なので、原文には書いてありません。
気になった人は、英文ですが提唱者のサイトをチェックしてみてください。 yukaichou.com
また英語オンリーですが書籍もあります。
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ゲーミフィケーションの一般的な解説は、↓の記事をご参照ください。
≫【遊びの技術】ゲーミフィケーションの意味とは?顧客ロイヤルティを高める極意を解説
*もちろん「Octalysis(オクタリシス)」の内容と関係、重複する箇所は多々あります。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!