希少性の原理とは?
「希少性の原理」または「希少性の法則」とは、手に入りづらいものほど欲しくなってしまう傾向のことです。心理学の用語です。
我々は「必要だから」買い物をしていると思っています。しかしそれは正確ではありません。
人は往々にして、「いまを逃すと手に入らないから」という理由で買い物をしています。しばらくして、「なんでこんな買い物したんだろう?」と首を傾げることもしばしば。
希少性を目の前にした顧客は、一種のパニック状態に陥ります。「必要か、必要でないか」という冷静な思考は、どこへやら吹っ飛んでしまいます。
結果として、我々は必要ないものに対し、払う必要がなかったお金を払ってしまうのです。客の立場なら恐ろしい話ですが、売り手の立場なら希少性は強い武器になります。
類似①:スノッブ効果
「希少性の原理」とよく似た心理学用語に「スノッブ効果」があります。
他人が持っているものほど、欲しくなくなってしまう現象です。裏を返せば、他人が持っていないものほど、欲しくなってしまいます。
「希少性の原理」とほぼ同じ概念と捉えて差し支えないでしょう。
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類似②:ロミオとジュリエット効果
『ロミオとジュリエット』は、シェイクスピア作の戯曲。2人は対立している貴族同士の家柄。困難を乗り越えながら愛を成就させますが、悲運の最期を遂げるストーリーです。
転じて、障害があった方が、逆にその障害を乗り越えようとする気持ちが高まる心理現象を、「ロミオとジュリエット効果」と呼びます。
両家の仲が平穏なら、ロミオとジュリエットの恋はそこまで盛り上がらなかったでしょう。手に入りにくいものほど欲しくなる心理は、希少性の原理によって説明できる現象です。
直接的には、反対されている男女の仲ほど燃え上がるという恋愛文脈を指していますが、それだけに止まりません。親に反対されているバンド活動に熱が込もるのもまた、同効果で説明できる現象です。
なぜ希少性に惹かれるのか?
よくよく考えると不思議ですよね。
なぜ手に入らないと思うと、急に欲しくなってしまうのか。何の役にも立たず、使う予定もないのに、「希少だから」という理由だけで買ってしまうことすらあります。
この思考パターンには、何か裏がありそうです。その理由を探ってみましょう。
理由①:手に入れづらいもの=優れているから
手に入りづらいということは、他の人も欲していることの状況的証拠になります。手に入りづらいものほど、多くの人が高い評価を下しているというシグナルになるわけです。
人間は1日に35,000回の意思決定を下していると言われています。脳はその都度、「これは必要か?否か?」とじっくり考える時間はありません。膨大なタスクを、なるべく省エネで捌く必要に迫られています。
そのため脳は、判断の手がかりになる材料を喜んで活用します。「他人が評価しているなら、自分にも有益なはず。よってこれ以上考える必要なし」と判断しているのです。
理由②:損失を避けたいから
「プロスペクト理論」によれば、人間は「利得」よりも「損失」に2倍ほど敏感です。得られる喜びよりも、失う悲しみに強く反応し、行動が誘発されます。
希少な製品はここで逃したら最後、一生手に入らないかもしれません。そうなると、その製品を買っていたら得られたであろう便益や満足感が、永久に手に入らなくなります。
つまりは機会損失です。手に入らないことでの機会損失を避けるためには、いますぐ買うしかありません。
≫【サルでもわかる】プロスペクト理論とは?具体例と図でわかりやすく超丁寧に解説
理由③:選択の自由を確保したいから
ここまでの理由でも十分すぎるほどですが、もう一つ重要な洞察があります。
自由を脅かされたと感じた際に、自由を回復させるために反発しようとする心理作用に「心理的リアクタンス」があります。
- 禁止されるとかえってやりたくなってしまう「カリギュラ効果」
- 障害が大きいほどモチベーションが湧く「ロミオとジュリエット効果」
は、心理的リアクタンスで説明できる現象です。
その人が本来持っていると感じている自由とは、用意された選択肢から、いつでも自由に選択できる状況です。希少で次の瞬間には手に入らなくなるかもしれない状況は、不自由な状況と言えます。
選択の自由を回復させるためには、手に入らなくなる前に手に入れるしかないのです。
希少性の原理の実験事例
社会心理学者のステファン・ウォーチェルらが行った「クッキーの実験」は、希少性の原理がよくわかる事例です。
被験者2つのグループに分かれ、ビンに入ったクッキーを1枚食べて、その魅力を評価した(もちろん同じクッキーを使用している)。
- グループA
:ビンに10枚のクッキーが入っていた - グループB
:ビンに2枚のクッキーが入っていた
その結果、2枚のうちの1枚を食べたグループBの方が、クッキーを「また食べたい」「高級感がある」とより高い評価を下した。
というわけで、同じクッキーであっても、枚数が少ない(つまり希少な)方が高い評価を受けることがわかりました。
これだけでも十分に示唆に富んでいますが、この実験にはさらに続きがあります。
初めに10枚のクッキーが入ったビンを見せた後で、2枚のクッキーが入ったビンに交換してから食べてもらったところ、より好意的な意見が寄せられた。
またある被験者には、「思いの外クッキーが好評だったため」と理由を添えて、ビンを交換した。別の被験者には、「単なるミスで10枚のビンを渡してしまった」と交換の理由を添えた。
その結果、「クッキーが好評で減った」と聞かされた人は、より好意的な意見を示した。
つまり、初めから希少なものよりも、後から希少になったものの方が、より価値が高いと認識するということです。
しかも、他者の需要によって希少になったケースは、さらに価値が高まると示しています。
身の回りにある希少性の原理の例
あなたの身の回りにも、希少性の原理はあふれています。
ただ「限定されると欲しくなる」のような当たり前の話をしても理解が深まらないので、ここでは「あ、これも希少性の原理なんだ。意外〜」と思ってもらえる例を選びました。
例①:電話が来ると話を中断する
目の前の人と話をしているのに、かかってきた電話を優先して話を中断することがあります。意識して電話を取らないようにする人もいますが、内心では電話の方が気になります。
冷静に考えると、目の前の人も電話の先の人も対等なはず。普通に考えれば、先客を優先するべきでしょう。もし電話でなく直接話しかけてきたなら、目の前の人を優先していたはずです。
つまり「電話」に秘密があるわけです。
誰からかわからない電話は、逃したら2度と得られない会話がなされるかもしれません。相手がわかっていても、相手の状況が見えないので、この機会を逃したら次に会話できるのがいつになるかわかりません。
一方で目の前にいる人は、現に目の前にいます。とっても失礼な話ですが、「目の前にいるから、放っておいても後で話せるっしょ」と感じてしまうのです。
例②:大人になってからのめり込むゲーム
大学生や社会人になって行動の自由が効くようになると、子供の頃にゲームを禁止された人ほど、以異常なほどにゲームにのめり込むようになります。
禁止されるほど手に入りづらくなり、手に入れる自由を確保したいという心理になります。そしていざ枷が外れた瞬間に、怒涛のように欲望が押し寄せてしまうわけです。
甘いお菓子やジャンクフードでも同じ構図が見られます。幼少期にあまり厳しく制限するのも考えものですね。
例③:近所の評判の店になかなか行かない
旅行先では、名所や美味しいお店をなるべく取りこぼさずに回ろうとします。
しかし近所の評判のお店にはなかなか足が伸びません。引っ越すまで1度も行かなかったという経験がある人もいるでしょう(わたしもその1人です)。
旅行先は年に1度、場合によっては数年に1度しか行くチャンスがありません。その1度のチャンスをものにしたいという心理になります。
一方で近所の評判のお店は、行こうと思えばいつでも行けてしまいまいます。いつでも行けるがゆえに、いますぐに行かなければならない理由がなくなってしまうのです。
例④:男子校(または女子校)の異性への情熱
わたしは小学校から大学までずっと共学だったのですが、男子校出身者の女性への憧れの強さにビックリすることが多々ありました。
- モテるための本を買って研究する
- 下ネタの度が過ぎている
- 合コンに異常なほどの興味を示す
など、「この人たち、本気すぎてちょっと怖い…」と思ったこともしばしば。
言うまでもなく、女性が希少な環境に置かれていたせいでしょう。男性のわたしにはわかりませんが、女子校の出身者にも独特の行動パターンがあるのではないでしょうか?
また宗教的な理由で、女性が全身を布で覆う国もあります。外部がとやかく言う話ではないですが、おそらく男性は猛烈なまでに劣情を催していることでしょう。
例⑤:うなぎが食べたくなる
わたしが子供の頃と比べ、手が届きづらくなった食べ物に「うなぎ」があります。供給が先細り、値段が上がっていく「うなぎ」に、ますます魅力を感じているのはわたしだけではないはず。
これだけだと、「うなぎは希少だから食べたくなるんだね」で終わってしまいますが、ここには重要な示唆が含まれています。
希少な食べ物には、フカヒレ、ツバメの巣、アワビなど、他にいくらでもあります。それらを差し置いて、こんなにも「うなぎ」を食べたくなるのはどういうわけでしょうか?
それはクッキーの実験事例からもわかるように、元から希少だったものよりも、後天的に希少になってしまったものに、より強い希少性を感じるからです。
実家のご飯が恋しくなるのも、田舎のキレイな星空がふと見たくなるのも、元から持っていたものが、いつからか希少になってしまったからです。
希少性の原理の狙いどころ
希少性の原理の中には、「選択の自由を確保するため」という理由があるので、基本的にはオールジャンルで購買意欲を高めることができます。
それでも「向いているジャンル」と「向いていないジャンル」があります。
向いているジャンル
精神を満たすような製品は、希少性の原理がよく効きます。
アパレルや、ライフスタイル系の製品は、他人と違うものが欲しいという傾向が強く、またブランド自体に価値を感じています。他の製品では代替しづらいので、在庫があるうちに買いたい気持ちになります。
また同じ食事でも、外食の場合は腹を満たすための消費ではなく、どちらかといえば精神を満たす消費です。予約が取れないお店ほど、行きたくなってしまうことから、希少性はしっかり発揮されています。
嗜好品、ブランド品、ライフスタイル系などは、希少性の原理が有効です。
向いていないジャンル
一般に「コモディティ」と呼ばれるような製品は、精神的な欲求を満たすのではなく、物理的かつ現実的な課題を解決するために用いられます。
洗剤や日々の食料品は、必要な用途さえ満たしてくれれば、あえて数が少ない製品を苦労して手に入れる必要はありません。在庫が豊富にあって安い代替品を選べばいいだけです。
携帯キャリアや保険といった生活必需品に近いサービスも、コモディティ色が強い業界です。希少性を訴えても、購買意欲はかき立てられません。
むしろ数が少ないことよりも、数が多くて市民権を得ている方が安心して購入できるという側面が強いでしょう。棚に少量しかない商品よりも、ドーンと積まれている商品の方に手が伸びます。
コモディティ系は、「希少性」よりも、「社会的証明」をアピールした方が効果的です。要するに、「みんなが使っているよ!人気だよ!」と喧伝するのです。
≫【他人の意見が全て】社会的証明の原理とは?大衆を動かす力をビジネスに生かす方法を解説
【絞れ】ビジネスで希少性を作る4つの方法
ビジネスで希少性を作る方法は1つではありません。
大きく「数量」「時間」「場所」「機会」の4つのトリガーで、希少性を演出することができます。もちろん掛け合わせてもOKです。
方法①:「数量」の希少性
まずもっともポピュラーな方法は、販売する「数量」を絞ることです。
キラキラ光る以外に何の役にも立たないダイアモンドは、純粋に数量の希少性だけで価値を帯びています。
- ニンテンドーSwitch
- NIKEのスニーカー
- 1日限定10食の限定メニュー
など、さまざまなシーンで数量による希少性が用いられています。
これは非常にシンプルな話です。いつでも在庫があるスニーカーなら、いつでも予約が取れるレストランなら、いますぐに飛びつく理由はないからです。
物理的な製品であれば、そのまんま生産数や入荷数を絞ります。インターネットサービスの場合は、あえて入会できる顧客数に上限を設けます。
ただ数量を絞れば販売数も減るので、売上にキャップがかかってしまいますね。基本的には品薄状態をキープしつつ、断続的に売り続ける形になるでしょう。
方法②:「時間」の希少性
数量を絞らずに一気に売り切りたい場合は、「時間」に制限を設けるのがオススメです。
期間を絞って、その間に一気に売上を上げる「映画」は、典型的な例でしょう。もし映画がいつでも見れるなら、今すぐに劇場に足を運ぶ道理はありません。
- 入会のタイミングが限られているサロン
- 72時間限定タイムセール
- 初回限定版の特典アイテム
- ハッピーアワー(早めの時間の居酒屋はビールが安い)
- 肉の日(毎月29日は焼肉がお得に食べられる)
など、オファーに時間制限をつけることで、顧客の重い腰を上げさせます。
場合によっては、「期限を過ぎた後の申し込みは、何があってもお受け付け致しかねます。ご了承くださいませ。」と断っておいても良いでしょう。
方法③:「場所」の希少性
販売する「場所」を限定する手法には、地域的な商圏で区切る場合と、販路で区切る場合があります。
ある意味で、地方(あるいは地方から見て都会)にしかないお店は、何もせずとも地域限定です。だからこそ足を伸ばして訪れた人は、いま行かなければならない理由になるのです。
売上を上げることを念頭に置くと、ただ場所を限定するだけでは弱いでしょう。何かの別の用事でたくさんの顧客が集まる場所で、限定販売するのがオススメです。
- イベント限定販売
- レジャー施設での限定販売
- スポーツ観戦での限定販売
- 人気の旅行先での限定販売
といった方法が考えられます。
またネット販売しているものの、実店舗にも来て欲しい場合には、来店者限定アイテムを販売したり、特典として贈呈したりするのが良いでしょう。
方法④:「機会」の希少性
厳密には他の方法と重複しますが、「この機会はこの1回しかない」と演出するのも効果的な絞り方です。
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希少性を煽る8つのコツ
単に「数量」「時間」「場所」「機会」を絞るだけでも希少性は作れますが、より希少性を煽るためには、ちょっとした工夫が必要です。
ここではビジネスでより実践的に使える、希少性を煽る7つのコツを紹介します。
コツ①:わざと品切れにする
残りの数量が少なかったとしても、いつでも買えるなら、いますぐ買う理由にはなりません。供給を絞ったところで、需要の方がさらに少なければ希少性は発揮されないのです。
そこで意図的に、「需要があると見せかける」テクニックが使えます。在庫に余力があっても、あえて「品切れ」にしてしまうのです。
普通は棚にあった商品が減ってきたら、売場のスペースがもったいないので、次の商品を載せようとするでしょう。しかしここはあえて、「品切れ」のスペースを作ります。
そうすることで、次に再入荷した(と見せかけてただ在庫を追加した)際には、顧客は「また売り切れちゃうから、今回は買っておこう!」という心理になります。
「品切れしている商品がある」という事実が、次の顧客を呼び寄せます。
- 物理的な棚がないECでも、いくらか品切れがある方が良い
- 飲食店の予約は、日によっては埋まっている方が良い
ただし、本当は1個も売れていないのに「品切れ」とするのは、効果的ではありますが、倫理的には少々考えもの。使うか使わないかは、あなたの判断にお任せします。
コツ②:禁止する
あえて禁止した方が、顧客の購買意欲をかき立てます。
わたしの知っている喫煙者の99%は、未成年のときからタバコを吸っています。少なくとも、成人してからタバコを吸い始めた人を見たことがありません。
これは想像ですが、タバコは年齢で禁止されているからこそ、需要を保てているのではないでしょうか。禁止が解かれれば、需要は一気に減るかもしれません。
ただしビジネスで本当に禁止してしまうと、間に受けて買わない人が出てきてしまいます。それでは本末転倒なので、購入にゆるい禁止条件を設けましょう。
例えば次のような具合です。
- 本気で〇〇したい人以外は、申し込みしないでください
- 初心者の入会はお断りしています
このくらいのさじ加減なら、ターゲットになる顧客はクリアできます。また質の低い顧客を弾く効果もあるので、優良顧客だけを選びたいビジネスには特に有効です。
また次のように、目を引くコピーとしても使えます。
- 閲覧禁止!
- 悪用厳禁!
コツ③:制限する
逆説的ですが、あえて売らない態度を取ることで、顧客の買いたい欲求をより一層かき立てることできます。
- 当店は紹介制です
- 完全予約制
- 審査に合格した人のみご入会いただけます
- 年間〇〇回以上のご利用がある方のみ、お申し込みいただけます
ただし「禁止」と同じく、さじ加減には注意する必要があります。「こんなん無理ゲーじゃん」と思わせてしまう制限を設けると、購買意欲を削いでしまいます。
ある会員コミュニティの入会条件が「TOEIC700点」なら、頑張れば到達できるレベルです。しかし条件が「ネイティブレベル」となってしまうと、もうあきらめるレベルです。
コツ④:カウントダウン
元から供給量が少ない場合よりも、人気があって在庫が少なくなってしまった方が、より強い希少性を発揮します。
どんどん残り在庫が減っていく様を可視化させることで、購買意欲をかき立てることができるでしょう。
リアルなお店なら、実際に商品が棚に並んでいるので、減っていく様子が見て取れます。しかしインターネットの場合は、必ずしも在庫の増減が可視化されていません。
- 残りの在庫は◯点です
- 本日の入荷数は〇〇点です
- 本日は〇〇個売れました
といった形で、在庫数が減っていく「カウントダウン」の印象を、顧客に植え付けましょう。
また「数量」ではなく、購入可能な「時間」に制限を設けた場合は、購入不可になるまでの「時間」をカウントダウンしていく方法も有効でしょう。
コツ⑤:ライバルの存在を可視化させる
自分1人しかいない候補がいない場合は、ゆっくりと品定めできます。場合によっては、値切ったり、取り置きを依頼したりと、顧客が優位の立場を取ることも許されるでしょう。
しかし他にライバル候補がいるとわかれば、そんな悠長は許されなくなります。売り手が提示した価格でいますぐ購入するか、ライバルに譲るかを決断しなければなりません。
このように、購入に際してライバルの存在をチラつかせると、高単価&即時購入を促せます。一点ものビジネスでは、特に有効なコツです。
このコツを頻繁に活用しているのが不動産屋です。「この後は別のお客様が内見予定です」「他に検討中の方がいらっしゃいます」と言われれば、すぐに決断しなければなりません。
- 商談中の札をかける
- 〇〇人がお気に入りに登録しています
- 本日は〇〇人がチェックしました
- あえて行列を作る
といった見せ方で、ライバルの存在を伝えましょう。
バーゲンセールで我先に醜く争うのも、ライバルが目の前にいるからです。どうやら、どこの誰とも知れないライバルよりも、姿形が見えるライバルの方が強い効果があるようです。
究極的には、「オークション」が最有力な手法でしょう。ライバルの行動がつぶさに見えるだけに、ライバルを意識した行動(つまり高値での入札)を取ってしまいがちです。
コツ⑥:目玉商品は少量だけ
現地が戦場と化すのは、目玉商品の数がキュッと絞られているからです。もしセールの目玉商品が希望者全員に行き渡るなら、誰もお店に殺到することはないでしょう。
ライバルとの熾烈なレースにさらされた顧客は、我を忘れた興奮状態に突入します。その結果、目玉商品がダメだったときに、普段なら買いもしないような品まで買ってしまうのです。
この現象はバーゲンセールのほか、イベント販売や人気アパレルブランドでも見られます。目玉のレア商品は売り切れてしまったので、本命ではない商品を代わりに買って帰るのです。
コツ⑦:1度与えて取り上げる
希少性は、元から希少であったものより、元々は持っていたのに取り上げられてしまった方が、強く希求されます。
この現象は、一度手に入れたものに対し、手に入れなかった前よりも強い愛着を抱いてしまう「保有効果」としても知られています。
革命前夜の市民は、最初から無い自由や権利を求めて蜂起するのではありません。一度手にした自由や権利が奪われそうになったことに奮起するのです。
つまり、製品を1度与えて取り上げれば、顧客のその製品への情熱をより一層かき立てることができるということです。
普通に考えると、「実際のビジネスシーンでそんなことできないでしょ?」と思うでしょうが、ここは柔軟に考えましょう。相手に製品を持った気持ちにさせれば良いのです。
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- オークション(最高入札者のときは持った気分になる)
- 抽選販売(結果が出るまでは持ったつもりになる)
意外とやりようはあるもんです。そしてどれもが実践的で効果的です。
抽選販売で小出しに売るなんてのは、なかなか優れた手口です。一気に全在庫を放出するよりも、確実に売上を作ることができるでしょう。
≫【持たせたら勝ち】保有効果(授かり効果)とは?具体例で徹底解説【ヒントは損失回避性】
コツ⑧:忙しいフリをする
いつでも会える、いつでも話が聞けるということは、いま話さなくても良い理由になってしまいます。予約がスカスカのレストランと同じですね。
あえて忙しいフリをすることで、よりスピーディーにアポイントを取り付けられます。
顧客とアポ日程を調整するなら、「ご都合の良いタイミングでどうぞ」ではなく、「今月はこの2枠しか空いていません」です。相手はそこを選ばざるを得なくなります。
問い合わせ数を増やしたいなら、「スタッフ一同、待機してご連絡お待ちしております」ではなく、「つながりづらい場合は、再度おかけ直しください」と伝えましょう。
また忙しいということは、商談や問い合わせが殺到しているというシグナルにもなります。ライバルの存在を意識させ、品切れを想起させる効果も狙えます。
まとめ
今回は、心理学より「希少性の原理」を解説しました。
希少なものに心奪われるなんて話は、子供でもおばあちゃんでも知っています。しかしそのメカニズムまで理解すれば、より深い洞察と、より効果的な活用に結びつけられます。
心理的リアクタンスを理解しよう
「希少性の原理」の裏には、行動の自由を制限されることへの反発があります。「心理的リアクタンス」と呼ばれる心理作用です。
希少であるということは、いつでも自由に手に取ることができないということ。「選択の自由を阻害されないためには、消えないうちにゲットせねばならぬ」と考えてしまうのです。
希少性とは、「いつでも手に入るからいま買う必要はない」を、「この機会を逃したら手に入らなくなるから、いま買わなければならない」に変えるトリガーです。
希少性は、単に「数量」が少ないことだけを指しているのではありません。手に入れるための「時間」や「場所」が制限されて、手に入りづらい状況もまた希少性なのです。
より魅力的な希少性を作ろう
ただ手に入りづらければ希少性が発揮されるかといえば、必ずしもそうではありません。ビジネスの世界を見ればわかるように、「レア物=売れる」という公式は成り立ちません。
やはりコツがあるのです。
- 元々手に入りやすかったが、現在は手に入りづらくなった
- 手に入りづらくなった理由は、需要増(人気)による
の2点を盛り込むことで、希少性の魅力は最大限に引き出されます。意図的に「品薄or品切れ」の状態を作っておくのが近道です。
また一点ものを扱う(またはそれに近い)ビジネスなら、ライバルの存在を意識させることが、希少性を煽る上での重要ポイントになります。
他の顧客が検討状況を可視化させることが、ビジネス成功に鍵になります。オークション形式は、最適解の1つと言えるでしょう。
参考書籍
参考書籍は、社会心理学者ロバート・チャルディーニ氏の『影響力の武器』です。
人に要求を飲ませるために、最上の6つの方法を教えてくれる良書です。正気の沙汰なら絶対に飲まない要求でも、首を縦に振らせてしまう力を持っています。
マーケティングや営業界隈では、必読の一冊にノミネートされています。モノを売る仕事をするなら、確実に押さえておいてくださいね。
要約記事もありますので、時間がない人はこちらをどうぞ。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!