心理学・行動経済学

【持たせたら勝ち】保有効果(授かり効果)とは?具体例で徹底解説【ヒントは損失回避性】

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リサイクルショップに持っていた物の買取価格を聞いて、「え?安すぎじゃない?」と思ったことはありませんか?

「〇〇日間返品保証!」という商品を本当に返品したことはありますか?ほとんどないですよね?

その理由は「保有効果」にあります。保有効果とは、1度手に入れたものに愛着が湧いて、手に入れる前よりも価値が高いと感じる現象です。

ビジネスにも応用ができるテクニックで、Amazonやネットオークションでも活用されています。

この記事では次のことがわかります。

  • 保有効果とは何か?
  • 保有効果が起きるメカニズムとは?
  • 保有効果をビジネスに活用している事例

サービス企画や新規事業を担当する人は、知らなきゃ損です。ぜひチェックしてみてください!

保有効果(授かり効果)とは?

保有効果(Endowment effect)とは…

現在所有している物の価値について、それを所有していなかったときよりも高く感じる現象。別名で「授かり効果」とも呼ばれる行動経済学の用語。

手に入れた後は、手に入れる前の2倍ほどの価値に感じます。その結果、一度手に入れたものを手放し難くなります。

身近な4つの例から保有効果を感じてもらいたいと思います。

例①:わたしの買取価格、低すぎ!?

リサイクルショップや中古書店で、買取依頼をした経験がある人ならわかると思います。決まって想像していた買取価格よりも、かなり安い金額を提示されます。

ブックオフに本を売りに行ったら、1冊10円とかですよね。あまりの安さにショックを受けた人も多いのではないでしょうか?

例②:荷物の紛失補償

そう多くはありませんが、出発時に空港で預けた荷物が紛失してしまうことがあります。そのとき、紛失した荷物と同額の補償を受けられたとして、納得できるでしょうか?

旅が台無しになった迷惑料はさておいたとしても、同額の補償ではモヤモヤした気持ちになりますよね。

例③:プレミアがついたら売るか?

あなたが持っているもの(時計やフィギュアや古銭など)が、買った後に何かしらプレミアがついたとします。そしたらプレミア価格で売っぱらってしまうでしょうか?

もちろんどれほどプレミア価格がついたかによりますが、きっと売らないのではないでしょうか?

例④:給料が増える代わりに、休日を減らせるか?

「20%給料が増えるが、週の出勤日が1日増える」もしこんな話があるとしたら受けるでしょうか?おそらく受けない人が多いでしょう。多くの人は週2日休みで、その環境を失いたくないと考えます。

逆に、「休みが1日増える代わりに、給料が20%減る」という話があっても受けないでしょう。いまの給料が減るのも嫌だからです。

4つのシーンを想像してみていかがでしたでしょうか?

自分が一度所有した物(もしくは環境)に感じている価値が、市場の価値より高いことに気がついたと思います。これが保有効果です。

保有効果は身近に存在しているので、それだけ活用のチャンスも多いのです。

保有効果の原因は「損失回避性」にあり

保有効果が起きる原因は、「損失回避性」にあります。

人間には、何かを得る喜びより、何かを失う悲しみの方が2倍ほど大きく感じる性質があります。1万円を拾った喜びの大きさと、2万円落とした悲しみの大きさが、同じくらいに感じます。

損失回避性を別の角度から見ると、1度手に入れてしまったものは、自分の中では2倍程度の価値になることになります。結果として、手放したくなくなります。

これが保有効果のカラクリです。

損失回避性によって起こる行動は、行動経済学で有名なプロスペクト理論で体系化されています。金融トレーダーが心理に惑わされて運用を失敗しないためのバイブルにもなっています。

≫ プロスペクト理論とは?具体例と図でわかりやすく超丁寧に解説

保有効果の実験事例

もっとも有名な保有効果の実験例は、行動経済学でノーベル経済学賞を受賞しているダニエル・カーネマン氏が行ったマグカップの実験です。

実験の内容

  • 被験者を3つのグループに分ける
  • 各グループの条件で、マグカップに値段をつけてもらう

被験者グループの条件

  1. 「売り手」グループ
    :マグカップをプレゼントする。1度プレゼントされたマグカップを売るとしたらいくらか?
  2. 「買い手」グループ
    :「売り手」からこのマグカップを買うとしたらいくらか?
  3. 「選び手」グループ
    :「このマグカップをもらう」or「マグカップをもらう代わりに同じ満足度を得られるだけのお金をもらえる」を選ぶ。後者を選ぶならいくらが妥当か

実験の結果

結果は次の通りでした。

  1. 売り手 … 7.12ドル
  2. 買い手 … 2.87ドル
  3. 選び手 … 3.12ドル

まず、「①売り手:7.12ドル」と「②買い手:2.87ドル」のあいだに大きな開きがあることがわかります。1度マグカップを所有した売り手は、約2.5倍の価格をつけています

そして面白いのは、「①売り手:7.12ドル」と「③選び手:3.12ドル」の関係です。

「①売り手」と「③選び手」は、前提条件が違うだけで、どちらも

  • 「マグカップをそのまま持って帰る」
  • 「マグカップを諦める代わりに同等金額を得る」

のどちらかを選択できるのです。

条件は実質同じですが、一瞬でもマグカップを所有した「①売り手」は、マグカップに2倍以上の価値を感じていたのです。

保有効果のビジネス活用事例 5選

これまでの章で「保有効果」のなんぞやは、もうバッチリわかったと思います。

最後に保有効果をビジネスに活かせるシーンを5つご紹介します。

活用事例①:無料でお試し提供する

多くのサブスクリプションサービスは、1ヶ月間の無料期間を用意しています。インターネット系サービスではもはや古典的な手法ですね。

無料期間の提供は、単なる「お試し」を超えた効果があります。1ヶ月間そのサービスを使って、翌月からそのサービスが使えなくなるとしたらどうなるでしょうか?

すでに愛着が湧いたサービスに、2倍の価値を感じてしまっているので、手放したくなくなります。無料で入り口のハードルを下げつつ、実際には結構な割合でそのまま契約してもらえる優れた手法です。

活用事例②:安く売って、あとから値上げする

多少の批判はあるかもしれませんが、いったん安くサービスを提供して、後から値上げするのもアリです。売上げアップに効果があります。

経済学の原則により、「値段が上がった分だけ需要が下がって、顧客が離れる」と一般的には考えられています。ですが、現実社会はそうでもなかったりします。

一度手にとって使った商品は、愛着が湧いて手放したくなくなっています。ちょっとやそっとの値上げだけでは顧客は離れないものです。

具体例:Amazonプライム

これを露骨にやっているのがAmazonプライムです。

日本では、当初の年額3,900円から4,900円に値上げしましたが、顧客は減るどころか増えています。米国本国ではさらに過激で、39ドル→99ドル→119ドルまで上がっています。それでもやっぱり顧客は増えています。

日本で値上げしないのは、競合の楽天がいるからと言われていますが、もし今後Amazonが楽天を引き離すようなことになれば、値上げは必死でしょう。

活用事例③:返金保証をつける

返金保証とは、その商品を気に入らなかった場合は、商品を使ったあとでも返品可能にするアフターサービスです。長いと半年間程度は返品が可能となっています。

消費者目線では、「そんな過激なことをしたら、6ヶ月タダで使われて返品されちゃうんじゃないの?」と思いますよね。

実際にはよほど落ち度がない限り、返品はされません。ましてや6ヶ月も使ってしまった後となれば、愛着が湧いてしまっているので尚更です。

顧客に安心感を与えるために返金保証をつけても、意外と事業収支へのマイナス影響はないことになります。

活用事例④:抽選販売する

販売数を絞り、需要過多ですごく人気があるように見せるブランディング戦略があります。この方法に「抽選販売」を併用すると、さらに人気に拍車をかけることができます。

抽選販売は、結果が出るまでは擬似的に所有している感覚を消費者に与えます。結果が出るまでは、その商品を手に入れた自分を想像しながら過ごすことになり、その商品への愛着が湧いてしまうのです。

抽選に参加して落ちてしまった人は、擬似的に所有していた商品を失うことになります。その結果、その商品をもっと切望するようになり、プレミア価格で買ってしまうこともしばしばです。

一度に大量に在庫を吐き出すよりも、抽選販売で小出しに売って行った方が、確実に売上を上げられるでしょう。

具体例:スニーカーの抽選販売

わたしの趣味であるスニーカー業界は、これをかなり活用しています。レアなスニーカーは、めちゃくちゃ販売数を絞っているので、大半の人が抽選に外れます。

抽選に外れた人は、「悔しかったので、アフターマーケットでプレミア価格で買っちゃった」とよく言います。この「悔しさ」の正体は、抽選期間中に擬似的に保有していたのに喪失してしまった感情に他なりません。

活用事例⑤:オークション形式にする

オークションも、抽選販売と似た効果があります。トップで入札している人は、擬似的にその商品を所有していることになります。

買ったつもりになって、買ったあとの自分を想像します。このときに、他の人がもっと高値で入札したらどうなるでしょう?

擬似的に持っていたその商品を失った気持ちになります。普通にお店で買うなら出さないような高値で入札してしまうのは、「保有効果」による現象です。

購入後のイメージを湧かせよう

「保有効果」は、持った気分になるだけでも効果を発揮します。ということは、持ったイメージを湧かせる施策は、何であれ保有効果を発動させるトリガーになります。

例えば次のような施策です。

買った後をイメージさせる施策例

  • 着用イメージ
  • 部屋に飾ったイメージ
  • 導入事例(なるべく顧客と似ている人の)

気の利いた家具屋さんは、自宅の部屋をスマホで撮影すると、家具を部屋に置いたときのレイアウトをチェックできます。メインの狙いは購入後のリスクを排除する「リスクリバーサル」施策ですが、保有効果も期待できます。

もちろん直接モノを持たせる方法よりは、効果は劣ると思います。持った気分という意味では、オークションや抽選販売には勝てないでしょう。

それでも顧客が買った後の自分を想像しやすくすれば、多少なりとも購買意欲はかき立てられると考えられます。

まとめ

今回は行動経済学から、「保有効果」を紹介しました。保有効果を使うと、意外な観点からビジネスアイデアを思いつけるかもしれませんね。

次の通りまとめます。

保有効果とは…

  • 現在所有している物の価値について、それを所有していなかったときよりも高く感じる現象のこと
  • 手に入れた後は、手に入れる前の2倍ほどの価値に感じ、手放し難くなる

保有効果によって起こること

  • 買取額が、自分が思っていたよりかなり低く感じる
  • 無料体験したサービスをそのまま購入する(手放したくなくなる)
  • 一度使い始めたサービスが値上がりしても退会しない
  • オークションで、通常では出さない高値で入札してしまう

ビジネスで活かすなら、何とかして、お客さんにとりあえず商品を持ってもらう方法を考えてみましょう。または持った後の自分をより鮮明にイメージさせましょう。

理論上はそれだけで、お客さんが感じる価値は2倍になります。より強く購買意欲をかき立て、より高い単価で買ってもらえるでしょう。

参考書籍

記事内で紹介している実験事例などは、行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の著書『ファスト&スロー』を参考にしています。

同書は、行動経済学のバイブル的な1冊(上下巻なので2冊ですが)となっています。人生にもビジネスにも、応用できるヒントが目白押しです。

「保有効果」は下巻に収録されていますが、上巻の流れから読んでいった方が理解が深まると思います。

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