経済学の原則では、ものが売れる理由は「品質が良ければ売れる!」「安くすれば売れる!」のどちらかです。一見すると間違ってなさそうに感じます。
ですが、よくよく思い返してみてください。
- 「クラスのみんなが持っていたゲームを自分も欲しくなった」
- 「売り切れた途端に欲しくなった」
- 「プレミア価格がついたら欲しくなってしまった」
こんな経験ありませんか?
現実世界では、「品質」や「安さ」以外の理由でものが売れているのです。
そんな経済学の原則では説明できない消費行動を説いたのが、「バンドワゴン効果・スノッブ効果・ヴェブレン効果」です。
この記事では、次のことがわかります。
- バンドワゴン効果・スノッブ効果・ヴェブレン効果の概要
- 「品質」と「価格」以外の強力なマーケティング手法
- 各効果をかけ合わせたマーケティング事例
マーケティング担当の人は、絶対に知っておいたほうがいいです。
そのほか、個人でビジネスをしている人や営業をしている人、新規事業を検討している人も知っておいて損はないです。
バンドワゴン効果・スノッブ効果・ヴェブレン効果とは?
「バンドワゴン効果・スノッブ効果・ヴェブレン効果」は、いずれも、安さと品質以外の理由で消費者が買いたくなってしまう心理現象です。
これらの心理効果を提唱したのは、アメリカの経済学者ハーヴェイ・ライベンシュタイン氏。3つが同じ論文で同時に発表されたため、3兄弟で知られています。
ライベンシュタインが提唱した3つの心理効果
- バンドワゴン効果
:「流行っているもの」が欲しくなる現象 - スノッブ効果
:「他の人が持っていないもの」が欲しくなる現象 - ヴェブレン効果
:「高価であること」に価値を感じる現象
経済学の一般的な考え方では、ものが売れる理由は、
- 品質が高いか(経済学では「効用」が大きいと表現する)
- 価格が安いか
のどちらかです。
正確には、「効用に見合った価格ならば買う。見合わない価格なら買わない。」という判断をします。
しかしながら、実際の世界には「他人と同じものが欲しい!」や「他人に見せびらかせるものが欲しい!」といった別の動機が確かに存在しています。
このように消費行動が他者の影響を受けてしまう現象を「消費の外部性」と呼びます。バンドワゴン効果・スノッブ効果・ヴェブレン効果は、代表的な「消費の外部性」です。
バンドワゴン効果
「バンドワゴン効果」とは、ある製品やサービスなどが、多数の人に支持されていることで、さらに選ばれやすくなる現象のこと。
流行れば流行るほど、その製品の需要が増していきます。あらゆる業界で幅広く起こる現象です。
バンドワゴン効果の例
- 人気飲食店は、行列がさらなる行列を呼んでさらに繁盛する
- 楽天のECモールで、同じ商品を扱ってるのにレビューが多い店だけがますます売れる
スノッブ効果
スノッブ効果とは、ある製品やサービスに対し、他の人が消費すればするほど、自分は欲しくなくなってしまう現象のこと。
裏を返せば、他の人が持ってないものが欲しくなるということです。「限定」とついたものが欲しくなってしまう現象は、スノッブ効果の典型例です。
他の人とは違うものが欲しくなる現象なので、日用消耗品などでは起こりにくい。他人に自慢したくなるコレクターアイテムや、ファッションなどの身につけるもの、個人のステータスになるものなどで起こる現象です。
スノッブ効果の例
- 初回限定版のゲームやCD、本
- 航空会社マイレージプログラムの上級会員
- そのほか、数量限定・期間限定・地域限定の商品一般
≫ 【限定に惹かれる理由】スノッブ効果とは?ビジネス活用事例を解説
ヴェブレン効果
ヴェブレン効果とは、製品やサービスの価格が高ければ高いほど、購買意欲も高まっていく現象のこと。
経済学では、価格は安いほど需要が上がって物が売れるはずですが、その真逆を行く現象です。高級ブランドや、プレミアで高価なリセール価格がつく商品で起こります。
ヴェブレン効果の例
- エルメスやルイヴィトンなどのハイブランド
- フェラーリやランボルギーニなどの高級外車
これら3つの効果は、単独で使用されるほか、「合わせ技」によって更に消費者を惹きつけることができます。
以降の章で、「バンドワゴン効果・スノッブ効果・ヴェブレン効果」を複合したマーケティングの事例をご紹介します。
バンドワゴン効果 × スノッブ効果の事例
バンドワゴン効果は、「周りの人が持っているものと同じものが欲しくなる現象」です。スノッブ効果は、「周りの人が持っていないものを欲しくなる現象」です。
真逆の意味を持っている両者ですが、併用も可能です。早速事例を見ていきましょう。
事例①:Nintendo Switch
Nintendo Switchは、任天堂の大人気のゲームハード機です。
ゲーム業界とバンドワゴン効果
他の人がゲームをプレイしているのを見ると自分も欲しくなりますよね。そんな風に思って、スーパーファミコンやPlayStation、3DSを両親にねだった人も多いのでは?
テレビゲームは「バンドワゴン効果」が強く出る業界です。流行っているゲームほどプレイしたくなるものです。
品薄商法によるスノッブ効果
Nintendo Switchは、販売数を絞って意図的に品薄状態を作っています。需要に対し、供給が追いつかないため、「なかなか手に入らないNintendo Switch」というイメージが消費者に植えつけられました。
そうすると、もともとNintendo Switchに興味を持っていた層はより強く興味を持ち、興味がなかった層も多少の興味を惹かれるようになります。
たまたま通りかかった電気屋さんでNintendo Switchを運良く見つけて、大して欲しかったわけじゃないのに、ついついと購入した人が多くいました。
これはまさに「スノッブ効果」が効いている状態です。
Nintendo Switch事例のポイント
- ゲームは友達がプレイしているのを見て、自分も欲しくなる「バンドワゴン効果」が強い業界
- あえて品薄にして、希少性により商品がさらに魅力的に見える「スノッブ効果」を狙っている
事例②:ZOZOTOWNの商品ページ
ファッションには、他人と同じようなファッションをしたいという気持ちと、他人とは被りたくないという気持ちの両方があります。
人によってどちらか一方にキレイに分かれるわけではなく、1人の消費者の中にどちらの気持ちも共存しています。
ファッション系は、「バンドワゴン効果」と「スノッブ効果」がどちらも効く業界です。ZOZOTOWNの商品ページには、両効果を刺激する巧妙な仕掛けが施されています。
お気に入り数可視化によるバンドワゴン効果
アマゾンでも楽天でも、ECには「お気に入り登録」の機能が必ずついています。本来は気になる商品をブックマークしておいて、いつでも見られるようにする機能です。
ZOZOTOWNは、このお気に入り登録をしている人の数をそのまま表示しています。お気に入り登録数が多い商品は、人気であることが一目瞭然です。
実際に売れた数よりも、お気に入り登録数の方が大きな数字になるところもポイント。数が大きい方が人気感を煽れます。「バンドワゴン効果」が期待できる上手い仕掛けです。
在庫「残り1点」でスノッブ効果
ZOZOTOWNの商品ページでは、商品在庫の表示にも工夫があります。残り在庫数が少ないときだけ、在庫数を表示しています。
「残り1点」と書かれた商品は、入手困難な商品を連想させます。在庫が豊富にあるときよりも、残りわずかになったときや売り切れた後に、さらに欲しくなった経験はみんなあるはずです。
まさに「スノッブ効果」ですね。
ZOZOTOWN事例のポイント
- お気に入り登録数でその商品の人気を可視化し、「バンドワゴン効果」を狙っている
- 在庫が残り僅かなときは、在庫数で希少性を可視化して「スノッブ効果」も狙っている
スノッブ効果 × ヴェブレン効果の事例
スノッブ効果は、「他の人が持っていないものが欲しくなる現象」です。ヴェブレン効果は、「高価なものほど欲しくなる現象」です。
他人が手に入りづらいものが欲しくなるという意味で、両者は共通しています。
スノッブ効果とヴェブレン効果を組み合わせて、商品の魅力をさらに尖らせて、熱狂的なファンを作ることができます。
事例③:ROLEXのスポーツモデル
ROLEXは、機械式腕時計の有名ブランドです。説明不要ですね。
ROLEXの中でも、デイトナやサブマリーナ、エクスプローラーなどのスポーツモデルは特に人気があります。その中でも特に人気がある「デイトナ」を例にあげましょう。
定価100万円超でヴェブレン効果
デイトナで最も人気があるモデルは、定価120万円です。定価の時点で結構なお値段です。誰にでも買える値段ではないので、購入のハードルはグッとあがります。
120万円の腕時計を身につけていれば、他人に対して優越感も出るでしょう。デイトナが定価15万円だったらそこまでの魅力にはなりません。
これは「ヴェブレン効果」による現象です。
「ほぼ買えない」レベルの強いスノッブ効果
デイトナは高価で手が届かないだけではありません。デイトナの人気モデルは正規店に行ってもまず買えません。常に品切れ状態。お金があっても買えないのです。
それほどまでに貴重なので、プレミア価格は定価の倍ほどまで上がっています。そこまで買えないと俄然欲しくなってしまうのが人間の性です。
デイトナが欲しすぎて、毎日のようにROLEXの正規店を回っている人まで登場しました。彼らはその修行のような行動を「デイトナマラソン」と呼んでいます。
希少性を目一杯まであげて、消費者を熱狂的にさせてしまう「スノッブ効果」の典型例と言えます。
リセール価格でヴェブレン効果とスノッブ効果を維持
ROLEXは高級腕時計のなかで最高級のポジションではありませんが、定価に対するリセール価格*の高さは群を抜いています。
*リセール価格とは二次流通価格のことで、転売品や中古品が売られている価格のこと。
もし、定価以下のリセールバリューで簡単に手に入ってしまうと、「ヴェブレン効果」も「スノッブ効果」も効かなくなってしまいます。
ROLEX社は、自社の人気モデルのリセールバリューが下がらないように、販売数を調整する戦略をとっているように見えます。
ROLEX事例のポイント
- 定価が高く、ある程度お金がないと買えないので「ヴェブレン効果」がある
- 販売数を極端に絞り、希少性で魅力をプラスする「スノッブ効果」を狙っている
- リセールバリューを下げないようにして、「ヴェブレン効果」と「スノッブ効果」が形骸化しないようにしている
バンドワゴン効果 × スノッブ効果 × ヴェブレン効果の事例
そしてついに3効果を併用した、全部盛りの事例です。
単一商品ではなく、ブランド全体の販売戦略として、3効果をMIXした事例をご紹介します。
事例④:NIKE
昨今は世界中でスニーカーが過去にないムーブメントになっています。最近はレアスニーカーを狙う人を「スニーカーヘッズ」と呼びます。
そんなヘッズたちが一番熱狂しているのはNIKEのレアスニーカーです。
激アツコラボによるスノッブ効果
人気ストリートブランドの「off-white」やアメリカ人気ラッパー「トラヴィス・スコット」とのコラボスニーカーは、もっとも熾烈な争奪戦になります。
倍率はゆうに100倍を超えているので、相当運が良くなければ定価で購入できません。レア物は狙ってもさっぱり手に入らないので希少性がグッとあがります。
そうすると「スノッブ効果」でますます欲しくなってしまいます。
リセール価格でヴェブレン効果を作る
倍率100倍超の争奪戦の結果、定価1~2万円のスニーカーに10万円以上のリセール価格がつくことは決して珍しくありません。
定価は誰でも買える価格ですが、実際には定価で買えないので、高額なリセール価格がそのスニーカーの価格として認知されます。
プレミアがついてリセール価格が高くなるほど、ますます欲しくなる「ヴェブレン効果」も発現します。
同じモデルで「レア」と「レアじゃない」を分けてバンドワゴン効果まで狙う
当然NIKEにはレアじゃないスニーカーも存在します。
レアなスニーカーも、レアじゃないスニーカーも、元のモデルは同じ。「Air Jordan 1」や「Air Froce 1」といったモデルの中に、レア物とレアじゃない物があるのです。
感度の高い人がレアスニーカーを履くようになれば、バンドワゴン効果で周りの人もそのスニーカーが欲しくなります。レアなスニーカーはなかなか買えませんが、レアじゃないけど同じモデルのスニーカーはカンタンに定価で手に入ります。
レアスニーカーは売上よりも、NIKEへの熱狂的なファンを作ることや人気ブランドのイメージ作りを重視。
そうして、同じモデルの中の「レアじゃないスニーカー」を大量に売って儲けを出す。これがNIKEの販売戦略です。
NIKE事例のポイント
- レアスニーカーは、販売数を極端に絞り「スノッブ効果」で希少性による魅力を作っている
- プレミアのついたリセール価格で流通し、「ヴェブレン効果」でさらに欲しくなる
- 同じモデルで「レア」と「レアじゃない」を作る。「バンドワゴン効果」でレアじゃない方を拡販する
類似事例:Adidas YEEZYシリーズ
Adidasの「YEEZY(イージー)シリーズ」もNIKEと似たような戦略をとっています。YEEZYは、Adidasとアメリカの人気ラッパーであるカニエ・ウェストとのコラボブランドです。
その中でも1番人気の「YEEZY BOOST 350」は、同じスニーカーで「ノーマルタイプ」と「リフレクティブタイプ」の2種類を同時に販売しています。
リフレクティブタイプは、光が反射する特殊素材を使っています。リフレクティブタイプの販売数は1/10ほどに絞られているので、リセール価格も当然高くなります。
リフレクティブモデルで、「スノッブ効果」と「ヴェブレン効果」でコアなファンを作りつつ、「バンドワゴン効果」でノーマルタイプを拡販する戦略でしょう。
カニエ・ウェストはこの「YEEZY BOOST 350」を、NIKEの「Air Froce 1」のような王道の定番モデルにしたいようです。だから、NIKEと似た戦略をとっているのでしょう。
まとめ
今回は心理学より、「バンドワゴン効果・スノッブ効果・ヴェブレン効果」の3つをセットでご紹介させていただきました。
それぞれを振り返りましょう。
3つの効果のおさらい
バンドワゴン効果とは
- ある製品やサービスが、多数の人に支持されていることで、さらに選ばれやすくなる現象のこと
- 流行れば流行るほど、その製品の需要が増していくということ
- 幅広い業界で見られる現象
スノッブ効果とは
- ある製品やサービスに対し、他の人が消費すればするほど、自分は欲しくなくなってしまう現象のこと
- 裏を返せば、他の人が持ってないものが欲しくなるということ
- 限定グッズや品薄商法は、スノッブ効果を活用した典型的な例
ヴェブレン効果とは
- 製品やサービスの価格が高ければ高いほど、購買意欲も高まっていく現象のこと
- 価格が高いほど、他人に見せびらかすことができるために起こる
- 主に高級ブランドで活用されている
3つの効果の複合事例のポイント
そして、各効果の複合事例をいくつかご覧いただきました。多少事例に偏りがありましたが、それぞれの事例からポイント抽出してみましょう。
バンドワゴン効果 × スノッブ効果
「みんな持っているから欲しくなる」×「手に入りづらいものほど欲しくなる」
- 感度の高い人(クラスの人気者やインフルエンサー)が持っているものを欲しくなる
- 需要があることがわかっていながら、あえて販売数を絞ることで魅力をカサ増しする
- 人気度や希少度を数字で可視化することで、さらに効果的になる
スノッブ効果 × ヴェブレン効果
「手に入りづらいものほど欲しくなる」×「高価なものほど欲しくなる」
- 高価な上に、販売数を極端に制限することで、熱狂的なファンを作る
- リセール価格を釣り上げて、さらに魅力をカサ増しする(リセール市場が存在する場合)
- リセール価格が落ちないよう、販売数を調整する(リセール市場が存在する場合)
バンドワゴン効果 × スノッブ効果 × ヴェブレン効果
「みんな持っているから欲しくなる ×「手に入りづらいものほど欲しくなる」×「高価なものほど欲しくなる」
- 同じブランド内に、「レア & 高額な商品」と「普通の商品」をラインナップとして揃える
- 「レア物 & 高額な商品」は、売上よりもブランドイメージ優先で販売数を絞る
- 「レア物 & 高額な商品」を感度のいい人に使ってもらい、その周りの人に「普通の商品」を拡販する
販売戦略で悩んだときには、思い出して使ってみてください。
それぞれ個別の解説記事も参考にしてみてくださいね。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!