あなたは「褒めて伸ばす派」ですか?それとも「叱って伸ばす派」ですか?人によって意見が真っ二つに別れるテーマです。
心理学の「エンハンシング効果」によれば、褒めて伸ばすが正解です。しかも結果を褒めてはいけません。過程を褒めるのです。
そうすれば、パフォーマンスが上がるのはもちろんのこと、より難しい課題に自らチャレンジするようになります。
この記事では次のことがわかります。
- エンハンシング効果とは何か?
- エンハンシング効果を使った正しい褒め方
- エンハンシング効果を応用して、部下や社員のやる気をさらに高める方法
部下を持つマネジメントや、人事部門の人は要チェックです。
エンハンシング効果とは?
エンハンシング効果(enhancing effect)とは…
外発的モチベーションによって内発的モチベーションを高めることできる心理現象のことです。
もっとカンタンに言えば、相手を褒めることで、その人のやる気を引き出すことができる現象です。
「褒めて伸ばすか」「叱って伸ばすか」は、人によって意見が真っ二つに別れるテーマですが、心理学では褒めて伸ばす方に軍配が上がります。
なお、“enhancing” は、「強める」「高める」という意味を持つ動詞“enhance”を動名詞にしたものです。相手のモチベーションを高める、強めることから「エンハンシング効果」と名付けられました。
内発的モチベーションと外発的モチベーションとは何か?
エンハンシング効果が起こるメカニズムをもう少し踏み込んで解説します。メカニズムなんてどうでもいいので、使い方だけ知りたいという人は、読み飛ばしてOKです。
実は我々が「モチベーション」、すなわち「やる気」と呼ぶものは、2種類に大別されます。それが内発的モチベーションと外発的モチベーションです。
それぞれ次の違いがあります。
- その人に最初から備わっている行動の動機
- 誰に強制されるでもなく、誰に促されるわけでもなく、その人がやりたいから行動する。または、その人がすべきだと感じるから行動する
- 趣味、娯楽、家族サービス、他者への善意がこれに当たる
- もともとその人に備わっていない、外部からもたらされた動機
- インセンティブによって作られた動機
- 報酬、罰則、他者からの尊敬などがこれに当たる
エンハンシング効果は、「外発的モチベーションによって、内発的モチベーションを高めること」でしたね。
褒めることは、外部からのテコ入れなので、「外発的モチベーション」です。
初めは褒められるのが嬉しくてやる気を出しますが、だんだんその行為自体に「楽しさ」や「やりがい」を見出します。「楽しさ」や「やりがい」は「内発的モチベーション」です。
本来のエンハンシング効果は「褒める」だけではないが…
ちなみに、学術的な意味でのエンハンシング効果は、褒めることに限定していません。
報酬が欲しくて始めた仕事でも、途中から楽しくなって「内発的モチベーション」が高まれば、同様にエンハンシング効果が効いていると言えます。
ただし、報酬がかえってやる気を奪ってしまう、エンハンシング効果とは真逆の現象に「アンダーマイニング効果」があります(後ほど解説します)。
アンダーマイニング効果を起こさずに、やる気を高める方法の最右翼が「褒めること」なのです。
外発的モチベーションより内発的モチベーションを!
「外発的モチベーション」によって引き出されたやる気は、「外発的モチベーション」が途絶えれば、消え失せてしまいます。
報酬や罰則がなくなれば、真面目に働くなってしまう会社員を想像してみてください。
一方の「内発的モチベーション」は、その人の内から湧き上がるやる気です。報酬や罰則のためではなく、自らの意思で行動する人が、高いパフォーマンスを維持できるのは想像に難くありません。
「外発的モチベーション」なしで社会は回らないので、否定することはできません。しかしながら、パフォーマンスが高い人ほど「内発的モチベーション」に溢れていることも事実です。
強い人材を作るためには、エンハンシング効果で「褒めること」が有効なのです。
エンハンシング効果の対義語は「アンダーマイニング効果」
アンダーマイニング効果(undermining effect)とは、やる気のある人に報酬を出すことで、かえってやる気がなくなってしまう現象のことです。
エンハンシング効果とは逆に、「外発的モチベーション」によって、もともとあった「内発的モチベーション」が消え失せてしまう現象です。
なお報酬以外に、
- 締め切り
- 周囲からの監視
- 罰則
でも、アンダーマイニング効果が現れることがわかっています。
好きなことを仕事にしたら、もともと好きでやっていたことが、お金を得ることが目的になり、やる気がなくなってしまうことがあります。
これもアンダーマイニング効果による現象です。
≫ お金で人は動かないアンダーマイニング効果とは?具体例で解説
エンハンシング効果による正しい褒め方
エンハンシング効果による正しい褒め方は、ずばり「過程の努力を褒める」です。
過程を褒めると、パフォーマンスが上がり、難しい課題にすすんで取り組むことが実験で明らかになっています。
逆にやってはいけないのは、「結果だけを褒める」ことです。ちょっと想像してみてください。
- 陸上競技で表彰されて、「足早くてすごいね」と言われる
- プロジェクトを成功させた社員が「仕事できるんだね」と言われる
- スキンケアしている人が、周りから「肌きれいだよね」と言われる
もちろん悪い気はしませんが、何かモヤモヤしませんか?
結果だけ褒められると、実際よりもカンタンに聞こえますし、才能や運で結果が出たような印象を受けます。
- みんなが朝寝ているときもトレーニングしてたからこの結果が出せたんだ!
- 大変なプロジェクトだったから、寝る間も惜しんでなんとか成功させたんだ!
- こちとら、金も時間もかけてスキンケアやってるんだよ!
と思わず口に出してしまいそうになります。でも、自分から努力したことを自慢げに話すのは無粋なのでやりたくありませんね。
頑張って結果を出した人は、「裏で周りには見えない努力があったからこそ成功した」と思っています。その過程を褒めてあげるのが重要です。
「毎朝休まず走ってたもんね。あれだけ頑張ったから表彰されたんだね。」と言われた方が報われた気がしませんか?
エンハンシング効果の実験事例
①エリザベス・B・ハーロックの賞罰実験
エンハンシング効果の有名な実験に、発達心理学者のエリザベス・B・ハーロックが1925年に報告した賞罰実験があります。
実験の内容
小学生を3つのグループにわけて、それぞれ算数のテストを5回行います。
答案を返すときの態度を、それぞれのグループで変化させました。
各グループの条件
- A:結果にかかわらず、できていた部分を褒める
- B:結果にかかわらず、できていない部分を叱る
- C:結果にかかわらず、何も言わない
実験の結果
結果は次の通りでした。
A:71%の生徒の成績が向上した
B:2日目は20%の生徒の成績が向上したが、次第に成績が低下した
C:2日目は5%の生徒の成績が向上したが、その後は変化がなかった
この実験の結果から、叱って伸ばすよりも、褒めて伸ばす方が効果があると実証されました。
②コロンビア大学の褒め方の実験
1990年代、コロンビア大学でクラウディア・ミューラー氏とキャロル・デュエック氏が次の実験を行いました。
実験の内容
10歳から12歳の子ども約400人を対象に、IQテストを実施しました。そして、結果によらず、全ての子どもに「80点以上」だったと告げます。
その後に、別途で用意していた「難しい課題」と「やさしい課題」のどちらを受けるか選択さました。
各グループの条件
被験者を3つのグループに分け、IQテストの結果を次のように褒めました。
A:たくさん問題を解けて、本当に頭がいいね(結果を褒めた)
B:頑張ったから、いい点だったね(努力を褒めた)
C:何も言わなかった
ポイントは、言わずもがな。「結果を褒めたグループA」と「努力(過程)を褒めたグループB」で、結果がどう変わるかです。
実験の結果
結果は次の通りでした。
A:35%が難しい課題を選んだ
B:90%が難しい課題を選んだ
C:55%が難しい課題を選んだ
この実験の結果から、努力(過程)を褒めた方が、より難しい課題にすすんで取り組むことがわかりました。
エンハンシング効果をビジネスで効果的に使う方法
- 社員にやる気を出して欲しい
- 部下のパフォーマンスを上げたい
こう思っている経営者やマネジメントが多いと思います。ビジネスシーンで、エンハンシング効果をもっと効果的に活用する方法を紹介します。
方法①:プロセスで評価する
結果を褒めるよりも、過程の努力を褒めた方が、自発的に難しい課題に取り組んでくれることが実験で明らかになっています。
であれば、当然ながら評価も「過程」、つまりプロセスを見るべきです。
結果だけで評価されるのが一般的ですが、その見方は少々ずれています。
結果はどんなに頑張ったところで、運に左右されます。
契約率50%の商談があったとして、2人の営業がそれぞれ対応すれば、どんなに頑張っても片方は失注します。
結果で評価すると、運で評価することになってしまうのです。
一方プロセスに運は絡みません。適切なプロセスを遂行した人は、確率通りの成果を上げます。そして、プロセスを考えるのは、上司や経営者の役目です。
プロセス自体の失敗は、部下ではなく上司の責任。会社組織の成り立ちの上では、現場の社員は、プロセスを正しく遂行した人ほど評価されるのが自然ではないでしょうか。
現場に近い人ほど「プロセス」で評価され、上位の立場の人ほど「結果」で評価されるべきでしょう。
方法②:役職者から褒める
誰にだって褒められれば嬉しいものですが、一般社員から褒められるのと、はるか上の経営幹部から褒められるのでは、感じ方が異なるでしょう。
相応の高い地位の人から褒められた経験は、さらに自己肯定感を強めて、より一層やる気を引き出すと考えられます。意識的にそういった機会を作ることをお勧めします。
方法③:本人以外に間接的に伝える
あえて本人に伝えず、共通の知人・同僚に、「あいつ、最近すごく成長してるんだよね」と間接的に伝えるのも効果的です。
本人に直接伝えると、多少ヨイショしている感が出てしまいます。誰かを経由して間接的に伝えることで、本当に自分が評価されているんだと伝わります。
これは商品の公式ページの謳い文句よりも、第三者の口コミの方が信用できるのと同じ理屈。心理学では「ウィンザー効果」と呼ばれています。
ちなみに経由した人が、褒め言葉を本人に伝えてくれない可能性も0ではありませんが、心配はいりません。悪口なら伝えないかもしれませんが、褒め言葉なら大抵伝えてくれるものです。
方法④:みんなが見ているところで褒める
褒められているところを多くの社員に見られていれば、より一層嬉しさが引き立ちます。
わたしの勤めている会社でも、半期に1回優秀な社員が集めて表彰するイベントがありました。経営幹部だけでなく、社員の家族も参加するので、褒められた社員はより一層鼻が高くなります。
社内報で、優秀な社員の働きを好事例として紹介するのも効果的です。
まとめ
今回は心理学より「エンハンシング効果」を紹介しました。
エンハンシング効果とは…
- 相手を褒めることで、その人のやる気を引き出すことができる心理現象のこと
- 対義語は「アンダーマイニング効果」
エンハンシング効果による正しい褒め方
- 過程の努力を褒める
- 逆にやってはいけないのは、結果だけを褒めること
エンハンシング効果のビジネス活用例
- プロセスで評価する
- 役職者から褒める
- 本人以外に間接的に伝える
- みんなが見ているところで褒める
小難しい理屈はあまり気にせず、まずは周りの人を褒めてみましょう。それだけでパフォーマンスアップにつながります。
また過程を褒めるためには、日頃の頑張りをしっかり見守ってあげることも大事ですね。
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冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!