ビジネスをする上で、品揃えは多ければ多いほどいいと思っていませんか?実はそうとは限らないんですよね。むしろ逆効果になってしまうかも。
なぜなら、品揃えが多いほど買いづらくなる「ジャムの法則」があるからです。かえって品揃えを少なくした方が、購買率があがるのです。
品揃えの多さが価値となるプラットフォームサービスなどの場合は、「ジャムの法則」を回避する手立てが必要です。
この記事では次のことがわかります。
- ジャムの法則とは何か?実験事例で解説
- ジャムの法則をマーケティングに使う方法
- ジャムの法則のビジネス活用事例
ジャムの法則は、マーケティング界隈で特に有名ですが、ビジネス全般に応用できます。購買率や成約率を上げたいビジネスマンは、必ず目を通してくださいね。
選択肢が多いと選べない「ジャムの法則」とは?
ジャムの法則とは(Jam study)とは…
選択肢が多すぎると、選べなくなってしまう心理現象のことです。
「決定回避の法則」とも呼ばれています。
ジャムの法則を発表したのは、『選択の科学』の著者で知られるコロンビア大のシーナ・アイエンガー教授。スーパーマーケットでの「ジャム」を使った実験からこの名前がついています。
TEDでジャムの実験についてスピーチしています。興味があればどうぞ。
ジャムの法則の実験とは?
アイエンガー教授が行った実験は、次のようなものでした。
実験の内容
- スーパーマーケットに買い物に来たお客さんに、ジャムの試食販売をする
- 被験者を2グループに分け、それぞれで取り揃えるジャムの種類の数を変えて、どれだけ売れたかを観察する
被験者グループの条件
- グループA
:6種類のジャムを試食販売 - グループB
:24種類のジャムを試食販売
普通に考えると、種類が多い方が良さそうですよね。
実験の結果
結果は次の通りでした。
グループA(6種類)
- 試食をした人の割合:40%
- 試食後に購入した割合:30%
- 全数の購買率:12%
グループB(24種類)
- 試食をした人の割合:60%
- 試食後に購入した割合:3%
- 全数の購買率:1.8%
品揃えが6種類しかなかったグループAは、成約率(コンバージョン率)が10倍という結果になりました。
ジャムの法則の実験結果を考察
直感的な予想を裏切り、「品揃えが少ない方が売れる」という結果になってしまいました。
こうなってしまった原因は、次の3点が考えられます。
- 24種類は多すぎて全部試食することができない
- 多すぎる選択肢は、吟味できない選択肢を与えることになる
- 吟味できない選択肢の中にもっと良いものがあるかもしれないと思い、決定できなくなってしまう
ポイントは、もっと良い選択肢があるかもしれないのに、ベストじゃない選択をしてしまったら損に感じてしまうこと。損したくないので、選択を保留としてしまうのです。
この結果から、「選択肢は多い方が良いに決まっている」という考えは必ずしも正しくないことがわかります。
結局、選択肢はいくつがいいのか?
ジャムの実験を行なったアイエンガー教授は、選択肢は5~9(7±2)が最適と説いています。この数字は「マジカルナンバー」と呼ばれており、人間がパッと提示されて覚えていられる上限値です。
マジカルナンバーは尊重すべき数字ではありますが、現実のマーケティングに当てはめると必ずしも5~9が適切とは限りません。
ジャムの法則のポイントは、「吟味しきれない数の選択肢があると選べなくなる」です。絶対値で決められるものではありません。
- 自動販売機で飲み物を選ぶのであれば、10種類を超えても問題になりません
- 保険のプランであれば、3種類くらいが限界でしょう
状況によって、どの程度の数であれば吟味できるかは異なります。
ジュースやかき氷の味ならシンプルな比較検討になるので、選択肢の数が多めでも許容されるでしょう。しかし保険サービスや証券会社など、中身が複雑になれば、それだけ覚えておける選択肢の数は減っていきます。
そして「これ以上は、同時に比較検討できない!」と、脳のキャパシティの限界に達したところで、選択すること自体をやめてしまうのです。
1択はNG
迷って買われないくらいなら、「いっそのこと、厳選した1つの選択肢だけを与えてはどうか?」と考えた人もいるかもしれませんね。
しかし原則として1択はNGです。(例外は、指名買いのケースと、相手に土地勘があり1つの選択肢だけで良し悪しを判断できるケース)
脳は、物事を絶対的に評価するのではなく、相対的に評価します。1匹だけの羊がどれだけ白いかは判断できません。少なくとも、もう1匹は連れてこなければなりません。
1つの選択肢しか与えられないと、「きっと他にも選択肢があるはず。世の中では何がベストなんだろう?」という心理になります。そして目線が外に行ってしまいます。
その結果、別のお店に逃げられたり、相見積もりを取られたりするわけです。複数の選択肢を用意してあげれば、「この中のどれがベストか?」という心理なり、外に逃さずに済みます。
≫【神はギャップに宿る】コントラスト効果とは?2つ以上の選択肢で魅力を引き出す方法
迷ったら「3択」を使おう
汎用的に使いやすいのは「松竹梅」の3択でしょう。
複雑な選択肢であっても、3択なら大抵は許容されます。プレゼンや料金プランなど、幅広いシーンで3択が用いられていますね。
また真ん中の選択肢が選ばれやすくなるので、ある程度ユーザーの選択をコントロールできてしまいます(もちろん、売りたい選択肢を真ん中にします)。
≫【神は3択に宿る】松竹梅の法則(ゴルディロックス効果)とは?強引に3段階を作る方法も解説
マーケティングでジャムの法則を活用するときの注意点
ジャムの法則から、「なるほど、品揃えを減らした方が収益が上がるのか!」と考えてしまうのは早計です。
ビジネスの成果は、次の公式で表されます。
販売数 = 機会数(アプローチ数)× 成約率(コンバージョン率)
*本来は利益が一般的ですが、わかりやすくするために単純化しています
ジャムの法則が適用されるのは、あくまで「成約率(コンバージョン率)」のみ。「機会数(アプローチ数)」にも目を向けないと、収益は上がらないので気をつけてください。
機会数アップの施策は、別の角度で施策を検討する必要があるので注意しましょう。
選択肢を絞らない方が良いシーン
世の中には、選択肢の数が多いこと自体が顧客の価値になっている場合があります。
ファミリー向けの回転寿司は、メニュー数が多い方が魅力的です。たくさんの選択肢を用意した方が売上アップにつながりそうです。
しゃぶしゃぶ食べ放題チェーンでは、たくさんのつけダレや薬味を選んで組み合わせできるようになっています。これが顧客の楽しみでもあります。
一歩引いて考えると、1人の顧客がカンタンに複数の選択肢を吟味できるシーンでは、選択肢は絞らない方がベターに感じます。
ただしそれでも、大量の選択肢から選びやすくする工夫は必要でしょう。
お寿司ならジャンルで分けたり、しゃぶしゃぶのタレならオススメの組み合わせを掲示したり、といった具合です。
ジャムの法則のマーケティング活用事例
「ジャムの法則」を意識していたかは不明ですが、結果的に多くの企業が、ジャムの法則に沿った製品・サービスを展開しています。
少しだけ事例をご紹介します。
事例①:Apple製品のラインナップ
Apple製品は、スマホ、タブレット、PCなどがありますが、各ジャンル内のモデル数は3,4種類程度しかありません。
iPhoneを例にすれば「ハイエンドモデル・大画面モデル・廉価モデル」のように、選択肢は十分吟味できる数です。
iPhoneのラインナップ
スペックで多少迷うかもしれませんが、「最終的に買わない」という判断にはならないと思います。
事例②:各種プラットフォームビジネス
プラットフォームビジネスは、商品数の多さがビジネスの価値になっています。しかしながら、多すぎる選択肢を用意すると、購買率が下がってしまいます。
解決方法は、多すぎる商品を見切れる数まで絞り込む「フィルター機能」です。
どれだけの選択肢が適量かは、サービスやユーザー個々の特性によって異なります。ユーザー自身が適量と思える数に絞り込めるのが良いでしょう。
食べログ
食べログには、90万店舗(2020年2月時点)のお店が登録されています。全店舗を閲覧したことがある人はいないでしょう。
食べログのユーザーは、次のフィルターから、自身のニーズに合った候補を数十店舗くらいまで絞り込めます。
- 地名
- 価格帯
- 料理のジャンル
- 駅からの距離
食べログの検索画面
飲食店は立地の制約があるので、1番大事なのは地名によるフィルターですね。東京に住んでいる人に、大阪の名店をヒットさせても、そうそう行けません。
接待で嬉しい「個室ありフィルター」や「深夜営業ありフィルター」なども嬉しい仕様。
SUUMO
SUUMOにも同様に大量の物件が登録されています。
- 駅名
- 家賃
- 間取り
などで、10物件程度まで容易に絞り込めます。
SUUMOの検索画面
結局のところ、プラットフォームサービスの使い勝手は、フィルターに寄るところが大きいと見えます。
まとめ
今回は心理学より「ジャムの法則」を紹介しました。
マーケティングに限らず、ビジネスマンは知っておいて損はありません。引き出しとして持っておきましょう。
ジャムの法則とは…
- 選択肢が多すぎると、選べなくなってしまう心理現象のこと
- 吟味しきれない数の選択肢を与えられると起きる
ジャムの法則のビジネス活用方法
- 吟味しきれる品揃え数に制限することで、購買率を上げる
- 品揃えが多すぎる場合は、適切な数まで絞り込めるフィルター機能を用意する
まずは「選択肢は多いほど良い」という常識を捨て去るところからですね。
やっぱり汎用性があるのは「3択」です(もちろんシーンによっては変わりますが)。続けて松竹梅の法則(ゴルディロックス効果)の記事もチェックしてみてください。
≫【神は3択に宿る】松竹梅の法則(ゴルディロックス効果)とは?強引に3段階を作る方法も解説
参考書籍
参考書籍はもちろん、シーナ・アイエンガー教授の『選択の科学』です。(今回の記事は、必ずしも本書と同じように書いているわけではありませんが)
示唆に富んだ1冊なので、一度手に取ってみてはいかがでしょうか?
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!