数多くの著作を残したドラッカーの集大成『マネジメント』は、世界中でもっとも愛されているビジネス書の一つです。
ただし、この本には非常に悩ましい弱点があります。それは「とっても読みにくい」ということです。ビジネス書を読み慣れている人でも、ちょっと辛いレベルです。
ドラッカーの『マネジメント』が読みにくい理由
- 文章が非常に堅い
- 抽象的な単語の羅列が多く、言いたいことがスッと頭に入ってこない
- 言いたいことが多すぎて、理解が追いつかない
ただし、その中身はビジネスの本質を貫いており、ビジネスマンが持っておくべき原則が記されています。いわば「ビジネスの道徳の教科書」と言っても過言ではないでしょう。
知らずにいるには大変に惜しいです。
この記事では、ドラッカーのマネジメントの要点だけをすくい、わかりやすい言葉に噛み砕いて要約しています。
この記事を読めば、
- 企業にとって最も大事な仕事
- マネージャーたる者が備えるべき資質
- 機能する組織の作り方
- 組織を最大限に活かし、成果を上げる方法
といった、骨太なビジネス観が養えます。
管理職は絶対に知らなければならない教養ですが、現場の人にとっても有用です。「正しいことにYES」「間違っていることにNO」と言えるようになるでしょう。
まだドラッカーのマネジメントに触れたことがない人、触れたけど難解さに挫折した人は、この記事でエッセンスだけでも持って帰っていただければ幸いです。
ドラッカーと著書『マネジメントー基本と原則』の基本情報
まず基礎情報として、ドラッカーと著書『マネジメント』が生まれた背景を知っておきましょう。多少なりとも、ドラッカーの著書を理解する上での助けになるはずです。
ドラッカーの人となり
ピーター・F・ドラッカーは、1909年、ウィーンの裕福な家庭に生まれたユダヤ系オーストリア人です。父親は高級官僚、母親は精神科医、その他の家族も超一流の知識人であり、幼い頃から誰よりも「知」に触れて育ちました。
そのキャリアは、貿易会社に始まり、投資銀行、記者、大学教授、経営コンサルタントなど様々な職種を経験しています。ドイツで記者をした時代に書いた論文がナチスの反感を買い、生命の危険を感じてイギリスに渡り、その後はアメリカに渡っています。
アメリカに渡った後は、超一流企業のトップマネジメントへのコンサルタント業に生涯の多くの時間を費やしました。2005年にカリフォルニア州の自宅で95歳で亡くなりました。
著書『マネジメント-基本と原則』
ドラッカーは生涯に39冊もの著作を書き上げました。
1974年に書き上げたマネジメント思想の集大成『マネジメントー課題・責任・実践』から、重要な部分だけを抜粋したのが、2001年の『マネジメントー基本と原則』です。
本記事は、2001年の著書からさらに要点だけとまとめています。
「マネジメント」の定義
「マネジメント」と聞くと、上司が部下を管理する手法をイメージしますが、ドラッカーが使うマネジメントという単語は、それより遥かに広い意味を持っています。
ドラッカーの考えるマネジメントとは、「人の強みを生かし、組織の成果につなげる活動すべて」です。
つまり、現場の末端の人間であっても、組織の成果に貢献する人は、マネジメントをしていることになります。
経営者であろうと、平社員であろうと、学校、病院、政府や行政機関であろうと、組織にはマネジメントが必要なのです。
ドラッカーがマネジメントの先に求めたもの
ドラッカーは、生涯を通してマネジメントのあるべき姿を探し続けました。しかも95歳で亡くなる寸前までです。そこまで彼を駆り立てたものは一体何だったのでしょうか?
そこまでしてドラッカーが追い求めたものは、「自由で機能する社会」です。この考えに至るには、ドラッカーが生きた時代背景が大きく影響していると考えられます。
現在は資本主義の1強ですが、ドラッカーが若かりし頃は、社会主義や共産主義も台頭していました。戦争もありました。
ドラッカー自身はユダヤ人であり、同胞の惨劇も目の当たりにしています。皆がより良い社会を実現しようとして多くの失敗を繰り返していました。
かくも上手くいかない社会に対し、ドラッカーに芽生えた意識が、「どうすれば、社会はよりよくなるのだろう?」でした。
そしてその答えを「組織」に求めたのです。
そのため、ドラッカーは、「全ての企業を含めた組織は、社会という大きな生命体の一器官(organ)であり、社会貢献をするために存在する」と説いています。
もう一度言います。組織は社会貢献のために存在しています。
社会貢献というと、貧困支援や緑化活動のようなイメージを持ちますが、そうではありません。社会に求められるものを提供することは、全て社会貢献です。
- より遠くへ移動したい欲求を叶える「鉄道」
- 離れた人とコミュニケーションをするための「電話」
- 人より早く計算をする「コンピュータ」
は、いずれも大きな社会貢献を果たしています。
組織を正しく動かすことが、社会をより良くするために、もっとも有効な方法だとドラッカーは信じていたのです。
マネジメントの3つの役割
ドラッカーはマネジメントの役割を次の3つに大別しています。
マネジメントの3つの役割
- その組織に課された特有のミッションを達成する
- 仕事を通じて働く人の自己実現を図る
- 社会の問題の解決に貢献する
その組織に課された特有のミッションを達成する
組織には固有のミッションがあります。創業者やトップマネジメントが、その組織に課した組織が存在する目的です。「企業理念」と置き換えても良いでしょう。
ミッションが無ければ、ただのサークル活動や友達付き合いと何ら変わりありません。達成しなければならないミッションがあるから、それを達成するための事業があるのです。
仕事を通じて働く人の自己実現を図る
多くの人は、「仕事」はご飯を食べていくために必要な活動と思っていますが、それは一つの面にすぎません。
「仕事」は、社会的な地位を持って、同僚や外部のパートナーと協力して、自分自身のやりたいことを実現する場でもあるのです。
マネジメントにより、人を活かし、働く人の一人ひとりの自己実現を助ける必要があります。ブラック企業のように社員を道具として扱い、本人の意思をねじ曲げて仕事を強いるのは、もちろんアウト。
社会の問題の解決に貢献する
ドラッカー特有の考え方ですが、企業を中心とした組織は、社会貢献をするために存在しています。そして、自社が社会に及ぼすマイナスの影響を極力減らさなければなりません。
お金は儲かっても、それが詐欺紛いであったり、環境破壊を及ぼすならば、それはドラッカーの見解では企業たり得ません。
企業とは何か?
大多数の人は、「企業とは、利益を追求する組織」と考えています。社会科の授業でそう習ったような気もしますね。
しかしながら、ドラッカーは「企業=利益追求」という考え方をかなり強く否定しています。利益を得ることは、単に企業を存続させるための条件であって、そのものが目的にはなり得ないと言うのです。
ドラッカーが考える企業が持つたった一つの目的は「顧客を創造すること」です。
企業は顧客のニーズや欲求を発見し、それを満たす手段を提供して、社会をより良くする組織です。この考え方は、ドラッカーの「企業は社会貢献するために存在する」という思想が思いっきり反映されています。
企業を決めるのは「顧客」である
そして、ドラッカーはこうも言っています。「企業とは何かを決めるのは顧客である」と。
これは少し不思議に聞こえるかもしれません。企業が何かを決めるのは、創業者や社長、百歩譲っても株主でしょう?と思いますよね。
ただ冷静に考えてみると、何もおかしいことは言っていません。企業が提供する財やサービスに、対価を払うのは「顧客」です。社長も社員も株主も、「顧客」に生かされているのです。
企業は「顧客」の欲しがるものを作ることでしか存在できません。だから、企業とは何かを実質的に決めるのは「顧客」なのです。
企業の最重要機能「マーケティング」と「イノベーション」
企業にはたくさんの部署があります。人事、経理、総務、エンジニアリングなど、多様な機能が備わっています。
ドラッカーによれば企業の目的は「顧客を創造すること」でしたね。
この文脈から、企業が顧客を創造するために最重要な機能は、「マーケティング」と「イノベーション」の2つです。
余談ですが、ドラッカーの言葉を信じるなら、人材価値がもっとも高い職種はマーケティングやイノベーション(新規事業創造)のスキルを持った人ということになりますね。
ただし、ここでいう「マーケティング」はかなり広い概念です。単に広告を運用したり、WEBマーケティングをする人だけを指しているわけではありません。
第1の機能:マーケティング
マーケティングと聞くと、企業の製品やサービスをどう販売するかを考える職種と捉えられがちです。
ドラッカーの考える真のマーケティングは、「どう売るか?」や「何を売りたいか?」ではなく、「顧客は何を買いたいか?」からスタートします。
考え方の起点は、絶対的に顧客です。多くの企業が「顧客が大事」と口では言っていても、実際には顧客起点の考えを持っていません。
机上で調べた市場規模だけで事業を考えたり、ひとりよがりの技術を使った事業を考えたり、上司の受けが良さそうな事業を考えたりします。「実際にいる市井の顧客が何を求めているのか?」を理解する努力をしていないのです。
第2の機能:イノベーション
マーケティングは、顧客が「いま」何を求めているかに答えを出す仕事です。
しかしながら、それだけだと製品やサービスは競争にさらされ、利益率が下がり、いずれは陳腐化して市場から必要とされなくなります。マーケティングだけでは、企業は存続することはできません。
イノベーションとは、カンタンに言えば、「まだ顧客が気づいていない欲求を発見し、その欲求を満たす新しい価値を提供して、新しい市場を作ること」です。
既存のサービスが陳腐化する前に、新しい市場を作ることがイノベーションというわけです。
企業の寿命30年説が昔からありますが、寿命を迎えてしまうのは、イノベーションを起こせなかったからに他なりません。
昨今は製品のライフサイクルがどんどん短くなっているので、一つの製品が30年も持つことはほとんどありません。
マネージャーとは何か?
ドラッカーの定義する「マネジメント」は、「人の強みを生かし、組織の成果につなげる活動すべて」でした。
そのため、現場の社員であっても、組織の成果に責任を持っていれば、「マネジメント」に参加しています。マネジメントする人であれば、「マネージャー」と呼びたいところ。
ただ、この本のややこしいところは、「マネージャー」は、やはり部下を持つ組織の長を指しています。経営者〜中間管理職のことです。
代わりに、現場で働く高度な知識や技術を持った人のことを「専門家」と呼んでいます。専門家もマネジメントには参加しているのですが、マネージャーとは呼ばれていません。
「マネージャー」と「専門家」に本質的な上下関係はなく、単に役割が違うだけ。組織の貢献度によっては、部下を持たない「専門家」の方が給料が高くても不思議はありません。
マネージャーが果たすべき2つの役割
マネージャーが果たさねばならない役割は次の2つです。
マネージャーが果たすべき2つの役割
- 投入した資源の総和より、大きなアウトプットを出すこと
- 直近の仕事と、将来のための仕事のバランスをとること
それぞれ見ていきましょう。
①投入した資源の総和より、大きなアウトプットを出す
つまりは、組織のシナジーを最大化することです。資源とは昔から言われるように「人・もの・金」です。「もの」には、設備や情報や技術などが含まれます。
自社と競合他社では、同じような資源を持っていることが多いはず。投入した資源(インプット)が同じであれば、資源を上手く使ってどれだけ大きなアウトプットを出せるかが勝負になります。
特に重要なのは「人」です。
メンバーの強みを発揮させ、弱点は組織で補うことが大切です。マネージャーは、自身のビジョンと指導力でオーケストラに最高の演奏をさせる指揮者に似ています。
②直近の仕事と、将来のための仕事のバランスをとる
マネージャーは、数ある仕事の中から取り組むものを選び、残りは捨てなければなりません。大切なのは、「今すぐやらなければならない仕事」と「将来のためにやるべき仕事」のバランスです。
大抵のマネージャーは、今すぐやらなければならない仕事は分かっていて、急な仕事の対応に精を出しています。しかしながら、将来のためにやらなければならない仕事を深く考えようとしない人が多い。
例えば、社員の育成に力を入れたり、次のビジネスの芽を探したり、新しいスキルを勉強したりすることです。逆に、急いで取り掛かっている仕事が本当に必要なのかを問いただすのも良いでしょう。
マネージャーの5つの仕事
マネージャーが果たす2つの役割の次は、具体的にマネージャーが行うべき5つの仕事を見ていきましょう。
マネージャーの5つの仕事
- 目標を設定する
- 組織する
- 動機づけとコミュニケーションを図る
- 評価測定する
- 人材を開発する
①目標を設定する
まずは組織の目標を明らかにします。この組織は何をするためにあるのかを定義するのです。KPIと呼ばれることも多いですね。
- 営業組織であれば「新規契約数」
- 人事採用組織であれば「採用への応募者数」
など
まれに新しく作った組織で、KPIがはっきりしていない場合があります。組織の長も何をすれば成功なのか、定義できていない状態でとりあえず始めてしまうケースです。
新しいことにチャレンジするとそういうケースもあり得ますが、成果にはなかなか繋がらないでしょう。
②組織する
組織の目標が設定できたら、目標達成に必要なスキルを持った人を、目標達成に必要な人数だけ集めます。各メンバーに役割を与え、各メンバーに目標を割り振ります。
③動機づけを行い、コミュニケーションをはかる
組織の運用が始まった後は、メンバーのモチベーション維持に努めましょう。メンバー間のコミュニケーションを助けたり、悩んでいるメンバーに手を差し伸べます。
ガチガチに監視するようなマイクロオペレーションは、メンバーのやる気を削ぐので注意しましょう。
④評価をする
各メンバーの働きに対しフィードバックを与えます。
- 目標に対し、メンバーの働きの望ましかった点、望ましくなかった点
- 各メンバーの働きが、組織全体の成果にどう貢献したか
を伝えましょう。
フィードバックがなければ、メンバーは自分の働き方のどこを継続して、どこを改善すればいいのかわかりません。結果として、組織が狙っている成果を出すことができません。
⑤自らを含めた人材を育成する
企業の未来は、マネジメントができる人材にかかっています。マネージャー自身は、より大きな成果をあげられるよう、次のマネジメントのステージを目指します。
そうすると、いまマネージャーが手掛けている仕事は、誰かに引き継いでいかなければなりません。基本的には、組織内のメンバーを次代のリーダーに育て上げることになります。
マネージャーの資質
ドラッカーは、マネージャー登用の絶対条件となる資質は「真摯さ」だと明言しています。
「真摯さ」の定義は難しいのですが、逆に真摯さに欠く人の条件は定義できます。次のような人は、マネージャーに登用してはなりません。
マネージャーに登用してはいけない人の特徴
- 強みよりも、弱みに目を向ける
できないことに気がついても、できることに目が向かないと、組織は弱体化する - 何が正しいかよりも、誰が正しいかを重視する
上司が言った間違ったことよりも、部下が言った正しいことを優先できなければ、いずれ組織は堕落する - 真摯さよりも頭の良さを重視する
そのような人は、人として未熟であり、大の大人になってもそうなら大抵の場合は治らない - 部下の成長を脅威と感じる
組織の成果を上げるには、部下の成長が不可欠。組織の成果よりも、自分の立場が気になる人は、人として弱い - 自らの仕事に高い基準を設定しない
そのような人がマネージャーだと、部下は上司や自身の仕事をあなどるようになる
仮にマネージャーに能力が不足していても、無害なことはあり得ます。その上の上司や部下のメンバーが上手いこと協力しているケースです。
しかしながら、どんなに優秀な人間でも、「真摯さ」を欠いたマネージャーは組織を破壊します。組織内のメンバーが病んでしまったり、やる気を削いで成果をあげられなくなります。
マネージャーの職務設計
マネージャーに登用する人に対し、どのように仕事を設計するかを見ていきましょう。
この章は主にマネージャーを登用する立場にある、更に上位のマネージャー向けです。
マネージャーの職務設計における御法度
ドラッカーは、マネージャーに持たせる仕事に対し、「正しい設計を保証する公式はないが、避けなければならないポイントはある」と発言しています。
マネージャーの職務設計における御法度
- 職務を狭く設計する
- 補佐役にする
- プレイングマネージャーにしない
- 自組織内の人間だけでは仕事を遂行できない
- 報酬や仕事内容の不足をポストで補う
- 過去に失敗続きの仕事をそのまま与える
①職務を狭く設計する
これはもっともありがちな間違えです。簡単に身につくような職務だけを与えてしまうと、その人材の成長を阻んでしまいます。しかも、大した働きをしなくなってしまいます。
その職についている限り、学び続けなければならない程度に広い職務設計が必要です。
②補佐役にする
仕事とは呼べない職務を与えるのはさらに有害です。
本来のマネージャーの仕事には目的と目標があり、貢献する責任があります。
補佐役は、自らに追うべき目標がなく、貢献すべき責任もありません。補佐する上司の喜ぶことをしようとします。
結果として、補佐役を与えられた人間は堕落していきます。ただし短期間なら、有望な若手を経験ある者の補佐役に任命するのは、良い学びの機会になるでしょう。
③プレイングマネージャーにしない
マネジメントは重要な仕事ですが、それだけに専念するほどの量にはなりません。そうすると、部下の仕事を奪うようになり、部下にとっても不幸な状態になります。
そもそも、ビジネスマンは自分の仕事がない状態に耐えられません。離職する人の大きな理由の一つが、自分のやるべき仕事がないことです。
マネジメント業務だけしか与えられず、延々と調整するだけの仕事では、欲求不満が起きるので、マネージャーはすべからく「プレイングマネージャー」でなければなりません。
④自組織内の人間だけでは仕事を遂行できない
マネージャーの仕事は、自身1人か直属の部下を使うだけで、遂行できるものにしなければなりません。
通常業務を進めるために、いちいち他部署との会議や調整が必要となっては、仕事になりません。実際の職場でもこういうケースは多いと思います。同様に頻繁に出張しなければならない職務設計も間違っています。
⑤報酬や仕事内容の不足をポストで補う
肩書き(およびそれに紐づく報酬)は、責任の重さを意味します。企業からの期待の現れでもあります。
ジェスチャーとして地位を与えてしまうと、本来あるべき組織と仕事の関係をねじ曲げてしまいます。与えられた本人は勘違いをし、周囲の人間は反感を覚えます。
⑥過去に失敗続きの仕事をそのまま与える
なぜ失敗するのかわからないが、優秀な人材が立て続けに失敗してしまう仕事が偶然発生することがあります。前任者が2人続けて失敗した仕事を、そのまま次のマネージャーに与えてはなりません。
失敗する構造を分析し、解明しなければ、次のマネージャーも失敗してしまう確率が高いです。その責任は、失敗したマネージャー本人ではなく、その仕事を割り振ったさらに上位のマネージャーにあります。
マネージャーへの職務設計のポイント
マネージャーの職務設計のNG事項がわかったところで、正しく設計するために意識するポイントを見ていきましょう。
マネージャーへの職務設計のポイント
- マネージャーの主たる仕事は何か
- マネージャーに課す目標は何か
- 上下と横の関係を意識する
- 自身が必要な情報と他部署に提供すべき情報は何か
これらのポイントは、マネージャーに仕事を割り振る上席マネージャーが気にするのはもちろんのこと、仕事を割り振られる下位のマネージャー本人も意識する必要があります。
①マネージャーの主たる仕事は何か
当たり前の話ですが、そのマネージャーと部下から成る組織が、本来果たすべき仕事が何なのかを定義します。いわゆる「本務」の業務です。
それは必ず継続的な仕事です。プロジェクトとして一時的に行う仕事があっても、必ず本来の仕事があります。例えば、営業部長や市場調査部長といった継続的な仕事です。
②マネージャーに課す目標は何か
まず組織全体の目標があり、その一端をマネージャーの仕事として与えることになります。組織全体の目標のために、その1人のマネージャー(とその部下から成る組織)にどれほど貢献してもらうかを定義します。
定義された貢献度合いを超える成果を出すことが、優れたマネージャーであることの証となります。
③上下と横の関係を意識する
どんなマネージャーでも、ビジネスの全工程を自分の組織内で完結することはありません。関係する仕事を持つ部署が、必ず上下左右にいます。
逆に言えば、上下左右の部署の仕事が把握できていなければ、業務の線引きができず、そのマネージャーに与える仕事が明確になりません。
④自身が必要な情報と他部署に提供すべき情報は何か
マネージャーの仕事は、「必要とする情報と、その情報の流れにおける立ち位置」で決まります。
例えば次のようなイメージです。
- 企画部門が策定したビジネス案は、プロダクト部門に伝えられる
- プロダクト部門は開発した製品の情報を、営業部門に伝える
- 営業部門は顧客から得られた情報を、プロダクト部門や企画部門に返す
自分の部署はどこの部署からの情報を必要としていて、逆に自分の部署の情報を誰に与えれば良いのか、を明確にしておく必要があります。
組織運営のコツ
続いては、マネージャーが組織を円滑に運営するためのポイントを紹介していきます。
自己目標の管理
「自己目標の管理」とは、各個人が自分自身で目標を設定し、一人ひとりが自己評価を行って、アクションにつなげることです。いわゆるセルフマネジメントですね。
自己目標は、次の3ステップで運用します。
自己目標の運用3ステップ
- 目標設定
- プロセスの管理
- 結果の評価
一般的には組織から一方的に押しつけられるノルマが目標になります。ですが、各メンバーにはどうしても他人事に感じられてしまいがち。必ずしも期待した成果につながらないケースが散見されます。
自分自身で設定した目標を、自分自身でマネジメントし、自分自身で評価することで、最善を尽くすための強いモチベーションが芽生えます。
ステップ①:目標設定
まずは組織全体の目標を確認し、自身が貢献する目標を考えます。通常は「年度・半期」といった特定の期間内の目標となります。
「目標設定」のポイント
- 組織の発展と個人の成長に寄与するチャレンジングな内容
- 上司からの押し付けではなく、本人の主体性を基礎とする
- 定量だけでなく、定性的な目標も盛り込む
ステップ②:プロセスの管理
目標を設定した後は、目標を達成するために行うアクションの進捗を管理していきます。もちろんマネージャーは、各メンバーのアクションに対し、アドバイスを適宜与えます。
「プロセスの管理」のポイント
- 結果だけではなく、プロセスの充実にも目を向ける
- 環境の変化には柔軟に対応する
- 目標達成への途中経過が一目でわかる管理方法が良い
ステップ③:結果の評価
当初に設定した期間(年度や半期)が終わったら、期初の目標と実際の結果を振り返ります。本人と上司が率直に会話し、フィードバックと共に適切なサポートを付け加えます。
「結果の評価」のポイント
- 目標の困難度・外部要因を考慮し、理不尽さのない評価をする
- 今後の能力向上、業績改善につながる未来志向な評価をする
- 基本的には部下本人が自己評価で結果を評価する
組織に持たせるマインドセット
組織のメンバーを含め、全員が共通して持っておきたいマインドセットがあります。
組織に持たせるマインドセット
- 天才をあてにしない
- 成果を中心に考える
- 問題よりも機会に集中する
- 人事の意思決定が最重要
①天才をあてにしない
組織内に天才が1人いたとして、その天才いなければ成果を出せない組織は、組織として機能していません。天才がいなくなった瞬間に瓦解してしまいます。
組織の目的は、大多数の凡人を最大限上手に活用して、非凡な結果を上げることです。凡人の強みを引き出して、組織の弱みを無効化しなければなりません。
②成果を中心に考える
仕事は成果のために存在します。
例えば技術を磨くことは、成果を出すための手段にはなり得ますが、仕事の目的そのものにはなり得ません。常に成果のために仕事があるべきです。
そして、成果を中心に考えるには、成果の本質を理解する必要があります。
- 成果は100発100中ではない。しばしば失敗する
- 成果は長期のもの
転じて、失敗したことがない人は、信用してはならないということです。
失敗したことがない人は、見せ方で誤魔化しているか、大した仕事に取り組んでいないない人です。弱みがないことを評価してはいけません。
優れた人ほど多くのチャレンジをして、多くの失敗をしています。失敗で評価を下げてしまうと、意欲を低下させてしまいます。
③問題よりも機会に集中する
問題中心に考える組織は、守りの組織と言えます。問題はもちろん解決しなければなりませんが、それはダメージを防ぐことであり、マイナスを小さくすることです。
企業はプラスの成果を出し続けなければならないので、問題よりも機会の方が重要です。市場の脅威を問題ではなく、機会と捉えるマインドセットが必要です。
パンデミックで飲食店の需要が激減したと見るか、出前サービスの需要増で新しい顧客にリーチできる機会と考えるか。ここが成功する企業と失敗する企業の分かれ道です。
④人事の意思決定が最重要
人事に関わる意思決定は、最大の管理手段と認識しましょう。
人事の意思決定はメンバーに対し、マネジメントが何を欲しているかを示すもっとも強力なメッセージです。
人事に関わる意思決定の種類
- 配置
- 昇給
- 昇進/降格
- 解雇
マネジメントが望む成果を上げている人に、相応の報酬を渡さなければ、意欲が下がります。最悪は職場を去ることになります。
マネジメントが望む成果を上げていない人を昇進させれば、周囲の意欲は低下します。賛否はありますが、女性管理職を増やす意図で成果が乏しい人を昇進させるのは、良い意思決定ではないでしょう。
意思決定を効果的に使う
マネージャーの意思決定が号令になって、組織がアクションを開始します。より効果的な意思決定が求められます。ポイントをそれぞれ見ていきましょう。
効果的な意思決定のコツ
- 意見の対立を促す
- 意思決定が必要かも吟味する
- 意思決定した以上、実行の障害はあってはならない
- フィードバックの仕組みを設ける
①意見の対立を促す
意思決定プロセスでは、異なる見解を奨励しなければなりません。もし提案した事柄が全会一致で、何の対立意見も出なかった場合は、決定を見送る方が賢明です。
ちょっとやりすぎに感じるかもしれませんが、対立意見がないということは、十分な議論ができていないと考えれるからです。
異なる意見を聞くことで、意思決定の質は格段に上がります。
間違った意見に騙されることを防ぐことができ、代案としてプランBを手にすることもできます。自分とは異なる知識や経験を持った人の想像力を引き出すこともできます。
②意思決定が必要かも吟味する
「そもそも、この意思決定は本当に必要か」も検討しなければなりません。
何もしないことも、一つの決定です。意思決定は「行動する or しない」の二者択一で、中途半端に手掛ける意思決定はNGです。
すでに明らかになった問題の解決や、機会逸失を避ける意思決定は即座にすべきですが、何もしなくてもどうにかなることなら意思決定は不要です。
大抵の組織には手に収まらないほどの仕事があります。そんな中で、「今のままでもいいが、やった方がいい」レベルの仕事に割くリソースはありません。
③意思決定した以上、実行の障害はあってはならない
意思決定をした以上は、即実行に移すべきです。
もし、一度意思決定をしたにもかかわらず、他の部署やより上位のマネージャーに、実行の是非を調整しなければならないのであれば、その意思決定は何の意味もありません。
逆に言えば意思決定の際は、しかるべき社内の利害関係者を巻き込んで、意思決定をしなければなりません。最初から意思決定のプロセスに、利害関係者を通すルールを入れておくべきでしょう。
日本企業では、正式な承認プロセスに入っていない別部署のお偉いさんに、非公式にお伺いを立てないと進まないことがあります。悪しき慣習と言わざるを得ません。
④フィードバックの仕組みを設ける
意思決定したあとの行動が、想定どおりに行くことは少ないです。思ったより営業が顧客を開拓できなかったり、パートナー企業の翻意があったりと、理由は様々。
意思決定を行う際は、あらかじめ、
- 意思決定の根拠となっている予測ロジック
- 結果が出た後に、成果をフィードバックする仕組み
を決めておく必要があります。
KPIとその算出ロジックを明らかにしておくと良いでしょう。KPIが達成できればもちろん成功。達成できなかった場合は、どの変数が想定通りでなかったかを振り返ることができます。
フィードバックがない失敗はただの失敗ですが、フィードバックがあれば、それは成果につながる学びになります。
コミュニケーションの原則を知る
ドラッカーは組織内のコミュニケーションに4つの原則があると説いています。
コミュニケーションの4原則
- コミュニケーション=知覚
- コミュニケーション=期待
- コミュニケーション=要求
- 情報≠コミュニケーション
コミュニケーションはフワッとした概念なので、何となく使っていることが多いですが、4つの原則を理解すると、より効果的に意思疎通ができるようになります。
①コミュニケーション=知覚
コミュニケーションは、受け手側の知覚、つまり相手が理解することで初めて成立するものです。話し手が一生懸命に伝えても、受け手の知らない言語で話されたらお手上げです。
営業職の人は心得ていると思いますが、お客さんが理解できない専門用語を使うのは御法度です。ちょっと嫌な言い方をすると、相手が理解できるレベルまで下げて話さなければ、コミュニケーション成立しません。
②コミュニケーション=期待
実は人間は、日々行われるコミュニケーションの全てを知覚しているわけではありません。
知らず知らずのうちに、自分が期待していることだけを抜き取って理解しています。顧客が関心がないことをいくらしゃべっても、顧客は頷くだけで何も記憶に残りません。
更に悪いケースでは、期待にそぐわない内容に対し、間違った解釈をされたり、反発を受けたりします。
コミュニケーションをとる相手が期待していること、つまり望んでいることは何かを知らなければ、コミュニケーションは意味をなしません。
③コミュニケーション=要求
特にビジネスシーンで行われるコミュニケーションは、受け手に何らかの要求をしています。
- 提案を承認してほしい
- 相談するから意見が欲しい
- 報告するから知っておいて欲しい
が代表的ですね。
要求した内容が、相手の価値観や欲求、目的に合致しない要求は受け付けられないと心得ましょう。
④情報≠コミュニケーション
情報はただ事実を示すものであり、それ自体が何か意味を持つものではありません。
その情報によって相手に、
- どういう気持ちになってほしい
- どう理解して欲しい
- どう行動して欲しい
といった意図がなければ、その情報はコミュニケーションたり得ません。
統計データや何かの図を見せても、その内容に何らかの洞察を伴わなければ、コミュニケーションは成立しません。
逆に情報がなくてもコミュニケーションは成立します。「あれやっといて」→「OK」のやり取りだけでもコミュニケーションは成り立っています。
情報とは、コミュニケーションの「論理」を支える存在に過ぎないと心得ましょう。
まとめると、まずは相手を理解することがコミュニケーションの第一歩ということです。
- 相手の知識レベル
- 相手が関心を持っている事柄
- 相手の価値観、欲求、目的
を知ることで、効果的なコミュニケーションを取ることができます。
効果的な管理手段
組織の管理手段は、業種職種で様々です。建設現場は工程の進捗を管理し、営業は目標数字への達成状況を管理しています。
管理手段において、守るべき2つのポイントを紹介します。
管理手段①:管理手段は単純にする
複雑な管理手段は、メンバーに理解されず、結局機能しません。本来の管理する目的を見失い、管理すること自体が目的になってしまう恐れもあります。
言い方は悪いですが、バカでもわかる管理を心がけましょう。
管理手段②:行動に焦点を当てた管理にする
まれに何に使うかよくわからないが、管理されている情報があります。管理した情報を使って、メンバーがどう行動するかが伴わないのであれば、管理に無意味にリソースを浪費してだけです。
また行動を起こして欲しい人にその情報が伝わっておらず、上位職だけが閲覧しているケースもあります。行動して欲しい本人に伝わらなければ、やはり何の意味もありません。
組織の条件
いかなる組織であっても、組織として最低限持っていなければならない6つの条件があります。
組織の6条件
- 明快さ
- 経済性
- 方向づけのしやすさ
- 理解のしやすさ
- 意思決定のしやすさ
- 安定性と適応性
- 永続性と新陳代謝
それぞれ見ていきましょう。
組織の条件①:明快さ
組織の明快さとは、その組織の立ち位置が、誰から見ても明らかであることです。
大企業にありがちですが、組織のマニュアルを見なければ、どの部署が何をやっているか分からない状態は好ましくありません。
組織のマニュアルがないと、自分の組織と他の組織の関連性が分からなければ、無用な摩擦、時間の浪費、意思決定の遅れをもたらします。
組織の条件②:経済性
組織の人数は、少なくて済むに越したことはありません。人件費を最小で抑えられることもありますが、単純にマネージャーが管理に費やす時間は少なければ少ないほど良いからです。
また過剰な人員は、別の問題を生みます。人が余ると成果ではなく、人間関係に気がそれるので、組織の雰囲気を悪くします。余談ですが、イジメは暇な人の間でしか起きません。
組織の条件③:方向付けのしやすさ
組織の目的は成果なので、メンバーの関心を「成果」に向けさせる必要があります。「成果」を出すための手段である「努力」や「技術」自体を目的だと錯覚させてはなりません。
組織の条件④:理解のしやすさ
メンバーが自分の仕事を具体的にイメージできなければ、仕事は回りません。明確に定義できる仕事を与える必要があります。
また、自分の仕事が組織全体でどこに位置し、他の部署の仕事が自分の仕事に何を意味しているがを理解できなければ、力の入れどころを見失ってしまいます。組織構造がコミュニケーションの障害になってはなりません。
組織の条件⑤:意思決定の容易さ
日々発生する意思決定は、適切なレベルで行わなければなりません。
なるべく現場に近い、低いレベルで意思決定できるに越したことはありません。あらゆる意思決定が、経営層などの高いレベルの意思決定が必要なら、それは障害以外の何物でもありません。
組織の条件⑥:安定性と適応性
成果を出すためにはある程度の期間、その領域に集中する必要があります。
決まった人間が安定して業務に臨める環境が必要です。人事都合で組織がコロコロ変わるようでは、成果は見込めません。
ただし、組織が完全に固定化されて、全く動かせないのはNG。外部環境の変化などで、組織を動かさなければならない場面は必ずあります。ちょっと動かしただけで、業務が混乱になるような組織では脆すぎます。
組織の条件⑦:永続性と新陳代謝
組織を永続させるためには、仕事が俗人的になり、その人が欠けたら業務がストップするような事態は避けなければなりません。
また、リーダーはいつまでも同じ地位にいるわけにはいかないので、常に次期リーダーを内部から調達できるようにしなければなりません。
トップマネジメントの役割
経営者が1人で全社員を見渡せる程度の規模であれば問題になりませんが、社員が数百人にもなると、1人ではコントロールできなくなります。
ドラッカーは、最高レベルの意思決定を行うトップマネジメントは、複数人のチームで行うべきと述べています。トップマネジメントが担う仕事は多岐に渡るので、1人で担うことは不可能だからです。
古今東西、大きな組織をワンマン経営していたリーダーが長続きした例はありません。
トップマネジメントのチームメンバーに必要な資質
トップマネジメントの仕事はルーティン化が難しく、多様な能力が求めれます。
トップマネジメントの役割を担うためには、
- 考える人
- 行動する人
- 人間的な人
- 矢面に立つ人
の4つの性格を兼ね備えている必要があります。通常全てを兼ね備えている人はいないので、チームで補う必要があります。
そして、トップマネジメントに参画させるにあたっての選考基準は、トップの人とは異なる強みを持っていて、トップに「NO」と言える人です。
ワンマン独裁であっては、トップマネジメントのチーム運営は機能しません。
トップマネジメントの仕事
トップマネジメントが担う仕事は、次の7つです。
トップマネジメントの仕事
- 組織のミッションを考える
事業の目的を考えること。企業の大小全ての組織が、このミッションに沿ってあらゆる意思決定を行う - 組織の規範となる基準を定める
企業に共通する価値基準を定めます。よく言われる組織のバリューのことで、「スピードを大事にする」「品質を第一に考える」など、事業の性質によって変わる - 組織を作り、維持する
特にトップマネジメントを作り上げ、将来のトップマネジメントを担う人材を育成する - 渉外を行う
取引先のトップ、金融機関、政府、労働組合などと良好な関係を築く - 行事や会食への出席
儀礼としての役割として。大企業よりも地場の中小企業の方がこの役割が強い - 重大な危機に正面から取り組む
企業のピンチにはもっとも経験があり、責任がある者が出張らなければならない。法的責任もある
トップマネジメント・チームのルール
トップマネジメントのチームが機能するには、厳しい条件を満たさなければなりません。
トップマネジメント・チームのルール
- トップマネジメントのチームメンバーは、各々の担当分野の最終責任者であり、その決定に他メンバーは異議を唱えられない
- トップマネジメントのチームメンバーは、担当分野以外の意思決定を行うことはできない
- トップマネジメントのチームメンバーは、直接的にも間接的にも、他のメンバーを批判したり攻撃してはならない
- トップマネジメントのチームにはキャプテンがいる。危機的状況において全責任を負い、決断する権限を持つ
- 例えば「われわれの事業は何かの定義」「資本関係に絡む決定」「重要な人事決定」など、ある種の決定はチーム全体で判断する
- トップマネジメントの各チームメンバーは、自身の担当領域の自立性を持つために、自身の考えと行動をチーム内に徹底周知しなければならない
トップマネジメントが行うべき大切な問い
事業の根幹をなす問いに答えるのは、トップマネジメントの仕事です。次の5つの問いを考え続けなければなりません。
トップマネジメントが考える5つの問い
- われわれのミッションは何か?
- われわれの顧客は誰か?
- 顧客にとっての価値は何か?
- われわれにとっての成果は何か?
- われわれにとっての計画は何か?
それぞれ見ていきましょう。
①われわれのミッションは何か?
企業が存在する目的そのものを問う質問です。ドラッカーが経営コンサルタントをした際に、もっとも重視していたことでもあります。
ミッションは長期のもので、可能な限り大きく、内外の人に魅力的なものでなければなりません。ミッションを全社員に浸透させ、社員はミッションを心から賛同していなければなりません。
ミッションはそうそう変わることはありませんが、3年ごとに見直し、10年に一度のペースで再定義するのが望ましいです。
②われわれの顧客は誰か?
ドラッカーは「企業の最大の目的は、顧客の創造にある」と述べています。顧客が誰なのかを定義しなければ、顧客の創造などできません。
既存製品に関しては既存の顧客を理解し、時代の流れに合わせて顧客像をアップデートしてきます。新しい市場の開拓に際しては、ノンカスタマー(まだ顧客になっていない人)を観察し、分析することが大切です。
③顧客にとっての価値は何か?
顧客にとっての価値は、当たり前のようで、実は多くの人が考えられていません。顧客はその製品が欲しいから買うのではなく、その製品がもたらす価値にお金を払っているのです。
キャデラックの顧客は、乗り物としての価値ではなく、承認欲求を満たすことを価値としています。車というよりは、ブランド物や宝石と同じ部類に入ります。
顧客にとっての価値を知っているのは顧客だけです。
企業の人間が勝手に想像してはいけません。そのために、顧客を徹底的に観察し、顧客の反応に耳を傾け、顧客を理解する必要があるのです。
④われわれにとっての成果は何か?
「どうなったらわれわれは顧客へ価値を与えられたことになるのか?」を定義するということです。
成果を定義することで、「自分たちが成功しているのか、失敗しているのか」を正しく判断できます。
成果の定義ができたら、成果の評価基準を作ることになります。
- 数字で示せる定量的な評価基準
- 数字で示せない定性的な評価基準
の両方を用意する必要があります。
⑤われわれにとっての計画は何か?
ミッションを実現するための「ゴールの姿」と「ゴールへ到るための道筋」を定義します。いわゆる「戦略」です。
計画(戦略)を立てることで、取り組むべき仕事と、捨てるべき仕事が明確になります。
優れた計画を作るためには、
- 何を廃棄すべきか
- 何に集中すべきか
- いかなるイノベーションを目指すか
- 負うべきリスクは何か
- 生まれつつある機会は何か
の5つの検討を行います。
大抵の企業は、「やれることリスト」は、「やりたいことリスト」より少ないもの。
実のところ、何を廃棄するか、つまり「何をやらないとするか」の意思決定が、特に重要になってくるでしょう。
イノベーション
最後に「イノベーション」に触れて終わります。企業が持つもっとも重要な機能が「イノベーション」です。
企業は「イノベーション」を起こし続けなければ、既存の製品が陳腐化し、いずれ消え去る運命にあります。
イノベーション志向の組織の共通点
ドラッカー曰く、イノベーションを成功させる組織には次の共通点があります。
イノベーション志向の組織の共通点
- イノベーション=価値だと知っている
- イノベーションの力学を知っている
- イノベーションは、戦略的な廃棄が必要と知っている
- イノベーションに、既存事業の基準を用いない
- トップマネジメントがイノベーション志向を持っている
- イノベーションは独立した組織に任せている
それぞれ見ていきましょう。
①イノベーション=価値だと知っている
イノベーションを成功させる企業は、イノベーションの意味を理解しています。前述の通り、イノベーションは、技術革新や発明を表す言葉ではありません。
イノベーションは、「社会に新たな価値を創造すること」です。ビジネス文脈で言えば、「全く新しい価値を生む製品を世に出し、新しい市場を開拓すること」です。
そしてイノベーションは、組織の中でなく、組織の外に変化をもたらします。
そのため、イノベーションは常に市場に焦点を合わせなければなりません。企業の中の議論だけで出てくるものではないのです。
②イノベーションの力学を知っている
イノベーションを成功させる企業は、イノベーションの力学の存在に気がついています。
イノベーションは基本的に確率分布で発生します。パターン化されていて発生しやすいイノベーションもあれば、予期できない限りなく発生しづらいイノベーションもあります。
例えば、次のような世の動きに合わせて起こるイノベーションは、パターン化されています。まずはここを狙うのが良いでしょう。
- 需要が多いのに、供給が伸びていない領域
- 人口動態の変化
- 世の人々の認識の変化
など
しかしながら、中には世界の動きを利用するのではなく、世界の動きを変えてしまうような予測不能なイノベーションがあります。これらは確率分布の外にある存在です。
この類のイノベーションは、桁外れにインパクトが大きく法外な成功を治めますが、リスクも高さも相当です。そして再現性がないので、体系化することができません。初めから狙うのではなく、そのような機会に目を光らせておきます。
③イノベーションは、戦略的な廃棄が必要と知っている
既存事業の戦略では、現在の製品、市場、流通チャネル、技術などは継続する前提で立てられています。
しかしながらイノベーションの戦略は、既存のものは全て陳腐化すると仮定します。イノベーションの戦略の一歩は、市場を見渡し、古いもの、死につつあるものを廃棄することです。
④イノベーションに、既存事業の基準を用いない
イノベーションはすべからく新規事業であり、小さな事業からスタートします。かつ、当初は非常に少ない利益(または赤字)です。
すでに成功している既存事業の尺度で予算配分をすると、儲かる既存事業の方にしか資金が流れなくなります。評価も同様で、儲かりづらい新規事業の成果を、既存事業の成果と同列に評価してしまうと、新規事業に従事する人は評価されなくなってしまいます。
⑤トップマネジメントがイノベーション志向を持っている
イノベーションがうまくいかない原因に、現場が変化に対し抵抗することが挙げられます。ドラッカーによれば、そもそも変化への抵抗が起きている時点で、イノベーションは不可能と述べています。
イノベーションを成功させる組織のトップマネジメントは、「変化は当たり前のことであり、脅威(ピンチ)ではなく、機会(チャンス)であること」を自身の行動で示しています。
優れたアイデアは、思いついた時点では常に非常識であり、優れたアイデアを手にするには、多くの馬鹿げたアイデアが必要だと知っています。
どんなアイデアでも奨励し、それを真正面から検討することで、変化を恐れない風土を作っているのです。
⑥イノベーションを独立した組織に任せている
同一組織の中で、既存の事業を伸ばすことと、新規事業を創造することは、同時に行えません。イノベーションの仕事は、独立した組織に任せなければなりません。
このようなイノベーションのための組織は、なかなか現実には起こりづらく、いかにこの種の組織を当然の存在にするかが課題と言えます。
イノベーションに関する理論では、『イノベーションのジレンマ』が有名です。
iPhoneなどの革新的な製品が、しばしば「破壊的イノベーション」と評価されているのを目にしたことはありませんか?この「破壊的イノベーション」という言葉はイノベーションのジレンマから来ています。
イノベーションを起こすための組織作りのポイントは、「【超わかりやすく要約】イノベーションのジレンマとは?克服方法を解説【事例あり】」もチェックしてみてください。
最後に
今回は、ドラッカーの『マネジメント』から、エッセンス中のエッセンスを抽出し、要約して紹介しました。(要約と言いつつ、かなりの長さになってしまいましたが…)
今後お仕事をしていく中で、気になる場面に遭遇したら、またこの記事を振り返って見てみてください。きっとヒントが見つかるはずです。
参考書籍
本記事は、こちらの『マネジメント 基本と原則』の要約となっています。人生で一度は手にとってもらいたい一冊です。
ただし、原著はとっても読みにくいので、要約本とセットがオススメです。先にこっちを読んでおいた方が理解が早いと思います。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!