- 「大手〇〇社が市場の何%シェア」みたいな資料ありますよね。「で、だから何なの?」って思いませんか?
- 大手による寡占だったらどうすればいいの?
- 分散市場で、トップ企業でも数%のシェアだったらどうなの?
こんなときは、「ランチェスター戦略」を知っていれば、今の市況から何をすべきかを読み取ることができます。
ランチェスター戦略は、「ビジネスにおいて、市場シェアを何%を取れば勝てるか?」を説いた経営戦略のフレームワークです。
この記事では次のことがわかります。
- ランチェスター戦略とは何か?
- あなたの事業が市場で目指すべきシェアは何%なのか?
- 市場における弱者の戦い方
大多数の「弱者」は、ニッチな領域でトップに立てるように戦略を立てましょう!経営企画を考える人や、事業を推進する立場の人は、必須知識なので絶対に押さえてください!
ランチェスター戦略=市場シェアの獲得戦略
ランチェスター戦略(lanchester strategy)とは…
「ビジネスにおいて、市場シェアを何%を取れば勝てるか?」を説いた経営戦略の理論です。
第一次世界大戦のときに、イギリス人エンジニアのフレデリック・ランチェスター氏が考案した「ランチェスターの法則」が起源になっています。
戦争における優勝劣敗のルールを説いた「ランチェスターの法則」を、ビジネスにおけるシェア獲得戦略に昇華させたものが「ランチェスター戦略」です。
ランチェスター戦略は主に、その市場において、「弱者がどのように立ち回るべきか」の道しるべとして使われます。
ここでいう弱者とは、「一定以上の市場シェアを獲得した業界1位の企業」を除いた全ての企業を指します。つまり、ほとんどの市場参加者は弱者ということになります。
起源となったランチェスターの法則とは?
「ランチェスター戦略」の起源となっている「ランチェスターの法則」は、戦争における勝ち負けの法則です。軍の戦闘力を数値化することで、どちらの軍が勝つかを説いています。
ランチェスターの法則には、「第1の法則」と「第2の法則」があります。この2つの法則の考え方が、ランチェスター戦略の基礎になっています。
ここは完全に戦の話なので、ビジネスと距離があるように感じるかもしれません。ですが、このロジックが肝なので、ざっくり押さえておきましょう。
ランチェスター第1の法則
ランチェスター第1の法則は、「1対1の戦闘」かつ「槍や剣による戦闘」に適用されます。
第1の法則における軍の戦闘力は、次の式で表されます。
ランチェスター第1の法則の公式
- 戦闘力 = 武器性能 × 兵力数
ちなみに、兵士の練達度や士気は、「武器性能」に含みます。
第1の法則で戦闘を行なった結果、「戦闘力」が高い方がその分だけ生き残ることになります。(下図参照)
ビジネスにおける企業の戦闘力は、次のように置き換えることができます。
- 戦闘力
… 企業の競争力(市場シェアに現れる) - 武器性能
… 人材の能力、製品の魅力などの質的要素 - 兵力数
… 社員の数、代理店の数、加盟店の数など量的要素
ランチェスター第2の法則
ランチェスター第2の法則は、「集団 対 集団」かつ「戦闘機や戦艦などの近代兵器を使った広範囲戦闘」に適用されます。
第2の法則における軍の戦闘力は、次の式で表されます。
ランチェスター第2の法則の公式
- 戦闘力 = 武器性能 × 兵力数の2乗
第2の法則では、兵力に相乗効果が出ます。そのため、「兵力数」は2乗でカウントされます。
より兵力差が結果に如実に現れるようになります。(下図参照)
つまり、兵士の数が多い軍が、圧倒的に優位に立ちやすいということです。
ランチェスターの法則をビジネスに応用したランチェスター戦略
さてここからは、「ランチェスター戦略」のより踏み込んだ話をしていきます。
基本的な考え方:戦闘力3倍を目指そう
「攻撃三倍の法則」という言葉をご存知でしょうか?
防御する相手を破るためには、3倍の戦闘力が必要という意味です。逆に言えば、3倍の戦闘力があれば、相手に絶対に負けない安全圏にいることになります。
ここでいう3倍とは、全軍の総合力ではありません。各戦闘の局面で3倍の戦闘力があれば良いのです。
敵方10万人の軍に3万人で立ち向かったら、相手の戦闘力は3倍以上なので負け戦は必至。ですが、敵軍を1万人に分断できれば、3万人でも勝利できます。
ビジネスもシェア3倍で勝ち
日本全国の大きな市場であれ、地域や特定顧客層に限定した市場であれ、そこで下位の企業の3倍のシェアを取っていれば、競争に勝利できます。
「ランチェスター戦略」では、この「相手の3倍取れば勝ち」という数字から、どれくらいのシェアを取れば市場で安定的な地位を確立できるかを割り出しています。
計算上ぴったり3倍にはなりませんが、大体3倍と考えて大丈夫です。
第1の法則:2社間の競争はシェア「73.9%」を目指せ!
2社しか参入企業がいない市場では、「ランチェスター第1の法則」が適用されます。武器性能(製品の魅力)が同じであれば、兵力による純粋な殴り合いです。
2社しか参入企業がいないケースはあまり多くありませんが、狭い地域やジャンルに限定すれば普通にありえます。
2社間市場で「73.9%」のシェアを獲得すれば、もう1社は26.1%なので下位企業の約3倍。ランチェスター戦略では、73.9%のシェアを「その市場で絶対的な地位が揺るがないポジション」と位置付けています。
ただし、100%独占はかえって毒になる
「73.9%」も取れるなら、そのまま「100%」を目指せばいいのでは?という疑問が湧いてきます。その気になれば達成できそうです。
しかしながら、必ずしもシェア100%の独占が市場にとって望ましいとは限りません。競争がなければ、製品の改善が進みづらくなり、市場全体の需要自体が縮小してしまう可能性があります。
加えて、1社しかサプライヤーが存在しない製品は、その企業が何らかの事情で製造をストップしたり、製品仕様を変更したりしたら、どうなるでしょうか?
仕入れている企業にとっては事業リスクです。製造業は、1社しかサプライヤーがいない製品を忌避する傾向があります。
「78対22の法則」を当てはめるならば、せいぜい78%までで止めておくのが良さそうです。
第2の法則:3社以上の競争なら「41.7%」を目指せ!
3社以上の企業が参入している市場では、「ランチェスター第2の法則」が適用され、兵力数は2乗でカウントされます。
一般的には、市場には3社以上の参入企業がいるので、大抵はこちらを目指します。
そのため、下位企業の3倍のシェアではなく、√3倍とれば安全圏になります。(√3倍は=1.7320508倍です)
ランチェスター戦略の理論上、複数企業が参入している市場では、「41.7%」のシェアが安全圏となり、首位独走できる条件となります。ランチェスター戦略で最も重要な数値であり、多くの企業がここを目指しています。
分散型市場なら26.1%を目指す
分散型市場だと、41.7%のシェアが非現実的なケースがあります。この場合は、「26.1%」を目指します。
市場でシェアが1位であっても、26.1%を下回ると優位を保つことはできません。いつ2位の企業に抜かれるかわからない状態です。
結論:ニッチな市場で戦おう
出版市場で考えたとき、中小出版社のシェアはごくわずかで、角川書店や小学館に勝つのは難しいでしょう。しかしながら、ここでの市場とは何も全出版物である必要はありません。
例えば、IT系の専門書だとオーム社という出版社が強かったりします。このジャンルは専門知識が必要で、おそらく大手出版社よりも強いはずです。
つまり、ジャンルやエリアを絞って、ニッチな市場でシェア41.7%(または26.1%)を目指せば良いのです。大手はニッチすぎる市場には手を出さないので、どんなに小規模な企業でもチャンスは十分にあります。
参考:ランチェスター戦略の目標値
「ランチェスター戦略」の目標値はもっと細分化されていますので、参考までに載せておきます。
シェア率 | 目標値 | 意味 |
73.9% | 上限目標値 | その市場の独占的な地位となり、絶対安全圏となる。ただし、これ以上シェアを取ると市場自体が縮小する恐れがある。 |
41.7% | 安定目標値 | 地位が圧倒的に有利となり立場が安定する。首位独走の条件として多くの企業の目標値となっている。 |
26.1% | 下限目標値 | トップの地位に立つことができる強者の最低条件。安定不安定の境目。これを下回ると1位であってもその地位は安定しない。 |
19.3% | 上位目標値 | ドングリの背比べ状態の中で上位グループに入れる。市場では2位か3位で、弱者の中では強者という立ち位置。 |
10.9% | 影響目標値 | 市場全体に影響を与えるようになり、シェア争いに本格参入できる。これを超えると黒字が出るようになる。 |
6.8% | 存在目標値 | 競合者に存在を認められるが、市場への影響力はない。これ数値未満が撤退の基準として使われる場合もある。 |
2.8% | 拠点目標値 | 市場での存在価値はないに等しいが、今後の展開の足がかりになりうる。市場参入したら、まずはここを目標とする。 |
最終的には41.7%を目指しつつも、途中のシェア率を中間目標にすると良いでしょう。
ポジション別の取るべき戦略
ランチェスター戦略では、参入企業をシェアの獲得状況によって、「強者」と「弱者」二分します。取るべき戦略はどちらになるかで大きく異なります。
強者の戦略=ミート戦略
強者とは、以下の3つのどれかに当てはまる企業のみが当てはまります。
強者の条件
- 2社間の市場のシェア73.9%以上の1位企業
- 3社以上の市場で、シェア41.6%以上の1位企業
- 3社以上の市場で、シェア26.1%以上で1位、かつ下位に√3倍をつけている企業
強者がとるべき戦略とは、すなわち「ミート戦略」です。下位企業がやって上手くいったことを、真似することです。
下位企業はあの手この手で、顧客を獲得するアイデアを市場に出すわけですが、良いアイデアがあったら即座に真似してしまうのです。パナソニックの前身である松下電器は、「マネシタ電器」と揶揄されるくらい、徹底的にミート戦略を行ったことで有名です。
雑兵をしらみつぶしに叩くように、相手の芽をことごとく摘んでいくイメージ。ただし他社のアイデアを間髪入れずに実現していくのは、体力がないと成立しないません。
また消費者心理的にも、同じ画期的な製品であれば、弱小企業よりも業界1位の信頼できる企業から買いたいですよね。そういう意味でも、ミート戦略は強者だけに許された戦略と言えるでしょう。
弱者の戦略=差別化戦略
「強者」以外は、全員「弱者」になります。仮に市場シェア1位であっても、強者の条件に満たなければ、弱者の戦略が必要です。
弱者が取るべきは、「差別化戦略」です。それも、強者にミートされない差別化です。
「オンリーワン戦略」と言ってもいいでしょう。顧客ターゲットや展開エリアを見直し、そこに特化したサービスで差別化する必要があります。
差別化は広い意味で捉えてよく、イノベーションで新しい市場を作ることも含まれます。従来のラーメン屋として市場に参入するだけでなく、カップラーメンという新しいジャンルを作っても良いワケです。
そうして局所的な市場で、「26.1%」または「41.6%」を獲得して、安定的な地位を確立します。
差別化戦略①:ニッチを極める
強者にミートされない方法の最右翼は、やはりニッチを極めることでしょう。
ニッチすぎる市場は強者にとって役不足なので、参入するモチベーションが湧きません。まずはニッチ市場で地固めして、その後により上位の市場を目指すのが王道です。
この辺りの話は、大企業が新興市場を攻めあぐねてしまう「イノベーションのジレンマ」も参考になります。合わせて解説記事をチェックしてみてください。
差別化戦略②:製品の「意味」で差別化する
昨今では、製品そのものでの差別化が難しくなりつつあります。
背景として、製品を作るのハードルがどんどん下がっていることが挙げられます。特にインターネットサービスなどの無形商材は、工場のように莫大な設備投資は必要ありません。
これまで以上に多くのプレイヤーが市場に参加できるようになり、もはや単に機能や価格だけで差別化できる時代ではなくなっているのです。
そんな背景があってか、現代においては、製品の持つ「意味」が問われるようになりました。企業はその製品の持つ「意味」を顧客に伝えていく力が試されるでしょう。
「意味」とは、すなわち「理念」です。企業がどんな「理念」を持ってその製品を開発していて、どのような形で製品に「理念」が反映されているのかを伝えていくのです。
Appleやパタゴニア、スターバックスコーヒーなどは、「理念」から落とし込まれた製品作りがわかりやすい例だと思います。製品だけでなく、企業文化にも理念が反映されています。
企業の理念は簡単に変えられるものではありません。故に真似もしづらいのです。その理念が、創業者の個人的なエピソードに紐づいている場合は、もはや誰にも真似できなくなります。
これからのビジネスは、こういったある種アートな側面がより重要になっていくでしょう。
理念主導のマーケティング方法は、「マーケティング3.0」の理論で体系化されています。マーケティング3.0の解説記事も参考にしてみてください。
市場はいずれ分散型から寡占型へ移っていく
ランチェスター戦略で目指すシェア目標値は、「73.9%」「41.7%」「26.1%」の3つです。市場が成長している最中は、参入企業がたくさんいて、「26.1%」でもかなりアグレッシブな目標になるでしょう。
しかしながら、市場が成熟するにつれて合併や淘汰で参入企業が減り、分散型市場から寡占型市場へ移っていきます。最終的にはほぼ独占市場になっていきます。
例えば、以前は都市銀行はたくさんありましたが、今は3メガバンクに集約されました。コンビニ、携帯キャリア、航空会社といった成熟した市場は、大手2-3社に集約されています。
もし今は分散型の市場でも、いずれはシェア「41.7%」を目指すことになると認識しておきましょう。
市場の成長による環境変化は、「プロダクトライフサイクル理論」により体系化されています。もしお時間があれば見てみてください。
https://asu-yoku-laboratory.com/what-is-product-life-cycle
まとめ
今回は市場シェア獲得の戦略を体系化した「ランチェスター戦略」を紹介しました。
ランチェスター戦略とは…
- 「ビジネスにおいて、市場シェアを何%を取れば勝てるか?」を説いた経営戦略のフレームワーク
- 戦争の優勝劣敗のルールを説いた「ランチェスターの法則」が基礎になっている
ランチェスター戦略のポイント
- 2社間の競争
:市場シェアの73.9%が安全圏
- 3社以上の競争
:市場シェアの41.7%が安全圏
- 分散型市場の場合
:市場シェアの26.1%を下回ると1位でも地位が安定しない
- 上記を満たした企業だけが「強者」、それ以外を「弱者」と呼ぶ
強者と弱者の戦略
- 強者の戦略
:ミート戦略(下位企業の真似をする) - 弱者の戦略
:差別化戦略(ニッチな市場で勝つ)
事業をマネジメントする人は、必ず知っておくべき内容です。ぜひ頭の片隅に入れてくださいね。
参考書籍
今回の参考書籍は、『ランチェスター戦略 「弱者逆転」の法則』です。ランチェスター戦略を軸としたコンサル業をされている方の著書。
基本的な内容はこちらで網羅できるでしょう。サラッと読める分量なので、忙しい人にもオススメです。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
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こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!