マーケティング

【マネできない差別化】コトラーのマーケティング3.0を超丁寧に解説【理念で売れ】

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経営学の世界でフィリップ・コトラー教授といえば超大物。そんな彼が、インドネシアの高名マーケターと一緒に作り上げた理論がマーケティング3.0です。

全世界の有名企業がこぞって取り入れているマーケティングの新潮流です。日本で書籍が発売されたのは2010年と幾分時間が経っていますが、未だに実践しきれていない企業がほとんど。

世間では、「マーケティング3.0は社会貢献。企業はCSR(企業の社会的責任)を意識しよう!」みたいなイメージですが、これは随分と舌足らずな解釈です。

「マーケティング3.0」は、社会貢献すればOKという話ではありません。むしろ単にイメージアップのために、PRやキャンペーン的に行う社会貢献では意味がないとしています。

「マーケティング3.0」の真意は、企業理念を隅々まで行き渡らせ、その通りに有言実行するということ。それまでのマーケティングでは語られなかった部分です。

「マーケティング3.0」は他社にマネされません。マネしようと思ってもできないのです。ざっくり言えば、他人があなたになれないと同じです。弱者ほどマーケティング3.0が武器になります。

原著は決してわかりやすい本ではないですが、なるべく噛み砕いて、多少の誤解は恐れずカンタンな言葉に変換して解説していきます。

マーケティング1.0〜3.0への変遷

「マーケティング3.0」というだけあって、前段階には「1.0」と「2.0」があります。地続きになっているので、まずは「1.0」と「2.0」も理解しておく必要があります。

流れを理解してないと、なぜ「1.0」と「2.0」だけではダメで、なぜ「3.0」が必要なのか、その理由がわからなくなってしまうからです。

マーケティング1.0「製品中心のマーケティング」

マーケティング1.0の時代は、米国では1900年代初頭から中盤、日本では行動経済成長期あたりに通用していたマーケティング手法です。

マーケティング1.0の基本的な考え方は、生産能力を磨き、コストを下げて、とにかく安く売ること基本的に「消費者目線」という考え方はありません

当時はモノが少なく、物質的に満たされていなかった時代。万人向けの製品を大量生産でコストを下げ、とにかく安く売れば飛ぶように売れたのです。車やテレビ、冷蔵庫などが代表的な製品でした。

「みんな車欲しいでしょ?テレビ欲しいでしょ?安くなきゃ買えないでしょ?じゃあ安くすれば買うよね?ね?」みたいな感覚です。

企業の目線は内側を向いていて、「どうしたら安く販売できるか」に終始していました。

代表例はフォードのT型車

corporate.ford.comより引用。フォード T型車

基本的には1つのモデルだけで、色も黒のみ。その代わり、分業による生産工程の徹底的な省力化で、圧倒的な低コストを実現。T型フォードは1,500万台以上販売されました。

マーケティング1.0のフレームワーク「4P」

マーケティング1.0の時代で有効だったのは「4P」というフレームワークです。

  1. Product(製品)
    :製品の仕様
  2. Price(価格)
    :製品の販売価格、原材料の仕入れ価格
  3. Place(流通)
    :販売チャネル
  4. Promotion(広告・宣伝)
    :宣伝の方法、PRの方法

この4つをちゃんと考えれば、ビジネスが上手くいくという意味です。

見ての通り「消費者」の視点がありません。この時代は、消費者をよく観察して、消費者の特性に合った製品を作ることは、求められていませんでした(安くすれば売れたわけですから)。

ちなみに4Pが現代において無意味かというと、そうではありません。ただ「これだけで戦える時代は終わったよ」というだけの話です。

マーケティング2.0「消費者志向のマーケティング」

マーケティング2.0では、ターゲットとする消費者を明確に定め、その消費者にあった製品を作るようになります。

米国では1970年代頃になると、各社が生産工程のコスト削減に励み、価格競争も来るところまで来てしまいました。あたりを見回すと、似たような商品ばかり。

同時にテレビや雑誌などで、消費者が手にする情報量はグッと増えました。そしてカンタンに各社の商品を見比べられるようになりました。

そうすると、消費者は各社の製品を「コモディティ」として見るようになります。もはや企業は、消費者からあえて自社製品を選んでもらう理由がなくなってしまいました。

コモディティとは「ただのモノ」という意味。特別感はなくありふれていて、思い入れもなく他の製品と代替可能という意味です。

ここで企業は目線を外側に向けます。つまり「消費者・顧客」ですね。さすがに消費者全員が、通り一辺倒に同じ製品が欲しいなんてわけはありません。

  • 3世代の家族であれば大きめのバン
  • 夫婦二人世帯であればシート2席の小型車
  • アウトドア好きならSUV
  • 女性なら可愛らしいカラーとデザイン

といったように、消費者に合った製品を開発するようになります。T型フォードのように、一車種というわけにはいきませんから。

マーケティング2.0の考え方は、現代でも大いに健在。今でも大事です。ただ、ここで止まっている企業もザラにあります。

なおこの段階では、あくまで企業側が「客はこういうのが欲しいんだろうな」と想像(場合によっては調査を踏まえ)して、製品開発をします。消費者は出来上がった製品を受動的に選ぶ格好です。

マーケティング2.0のフレームワーク「STP」

「STP」は、次の頭文字をとったフレームワークです。

  • Segmentation(セグメンテーション)
  • Targeting(ターゲティング)
  • Positioning(ポジショニング)

まずは雑多な顧客から、「30代で子持ちの働くお母さん」といった属性に区切ります。「20代男性」といった粒度だと粗すぎる印象です。

区切られた顧客層からターゲットを絞り、彼ら(彼女ら)の悩みやニーズを調査。そして、その悩みやニーズを満たす製品を作っていこうという考え方です。

至極真っ当な考え方で、現代の文脈でも大いに必要です。おそらく多くの企業で考えられているマーケティングは、ここが中心でしょう。

ですが時代はさらに進んでいて、STPだけでは競争に勝てなくなってしまいました。

≫【基本のキ】STP(セグメンテーション/ターゲティング/ポジショニング)とは?

マーケティング3.0「価値主導のマーケティング」

マーケティング3.0は、消費者の「精神」に働きかけるマーケティングです。

21世紀に入り、製品のコモディティ化が猛スピードで加速しました。もはや製品の機能だけでは差別化できなくなってしまったのです。だから精神性で差別化します。

急速にコモディティが進んだ背景から理解した方が良いでしょう。「①インターネットの発展」「②スマホの登場」が背景にあります。

①インターネット上に口コミが誕生

わたしが小学生くらいの頃は、インターネットはあるにはありましたが、今ほど生活の大部分は占めていませんでした。スマホがない時代だったので、家でしか使えませんでした。

家電を買うなら近くの電気屋さんに行きます。そこで初めて品物を物色して、店員さんと相談して、目の前にある選択肢から選んでいました。

どこのレストランが美味しいかなんて、事前にはわかリません。行き当たりばったりでお店を選んでいました。市街地から離れた名店を見つけるのは至難の業でした。

ですが、ネット上に口コミが広がるにつれて、消費者は前もって調査するようになります。

そして口コミの偉大さを知ります。その通りにすればハズレを引く確率がグッと下がると分かり、口コミを信奉するようになりました。

②スマホでよりリアルタイムに

2010年代からスマホが急速に普及します。

前もって調査せずとも、出先でリアルタイムに口コミを調べられるようになります。大きな買い物だけでなく、100円均一の小物まで口コミをチェックするようになりました。

こうなると消費者の選り好みは激しくなります。優れた一部の製品だけしか生き残れません。近所で美味しいラーメン屋は1つあれば良いのです。

またインターネットを使えるのは、提供者側も同じ。ライバルの長所をカンタンにパクれます。品質は急速に上がり、みんな同じような製品を作れるようになりました。

各社が鎬(しのぎ)を削った結果、もはや製品の機能だけでは差別化できなくなりました。大コモディティ時代の到来です。

消費者を機能で満足させられないなら、もはや「精神」で満たすしかありません。

人は、年収や顔の良さだけで他人を好きになるわけではありません。なんといっても人柄が大事。パートナー選びで1番大事なのは、相手と自分の価値観が合うかどうかです。

ならば企業も人柄で差別化しようというわけです。崇高な「企業理念」を掲げ、理念を有言実行することで、企業に1人の人間のような人格が形成されます。

言動と行動に一本筋が通っていて、高潔であり、利他的でもあります。そういう人格者を彷彿させる人柄が、消費者の価値観に訴えるのです。

同じ商品を買うなら、金のことしか頭にないセールスマンよりも、思いやりのあるセールスマンから買いたいですよね。カンタンに言えばそういうことです。

原著を尊重して「価値主導マーケティング」としましたが、「消費者の価値観に訴えるマーケティング」といった方が伝わりやすいかもしれません。

細かい話は、以降の章で順を追って解説していくとしましょう。

マーケティング3.0を構成する3つのマーケティング

マーケティング3.0は、顧客の「精神」を満たすことが目的です。そしてマーケティング3.0は、次の3つのマーケティングで構成されます。

  1. 協働マーケティング
  2. 文化マーケティング
  3. スピリチュアルマーケティング

マーケティング3.0を行う企業は、必ずしも3つ全てを網羅するわけではありませんが、少なくともどれか1つは取り入れています。

それぞれの中身を押さえておきましょう。

構成①:協働マーケティング

原著を尊重して「協働マーケティング」という言葉を使いましたが、一般的には「コミュニティマーケティング」と呼ばれることが多いでしょう。

マーケティング3.0では、企業は製品開発やコミュニケーションに顧客を参加させます。ビジネスへ顧客が関与する機会を、積極的に増やしていこうと考えます。

この潮流の背景に「双方向のインターネット」の登場があります。

安価なPC・スマートフォン・インターネット回線により、ほぼ全ての消費者はインターネットを手軽に消費できるようになりました。ここで誕生したのが、ブログやSNS、YouTube、Wikipediaなどの消費者が参加できるサービスです。

消費者は、インターネットで情報を受け取るだけでなく、積極的に発信できるようになりました。物言わぬ一般人だった消費者が互いに繋がり、口コミによる「消費者コミュニティ」が誕生します。

次第に消費者は、企業が発する情報よりも、コミュニティ内の他人の口コミを重視するようになります。下心がある企業よりも、同じ立場の消費者の話の方が信用できますからね。

いまや消費者コミュニティは、企業のマーケティングより強い影響力を持っています。もはや企業マーケターは、自社ブランドを完全にコントロールできません。

むしろ自ら消費者コミュニティに歩み寄り、一緒にブランドを作っていくのが最善手と気づきました。これが「協働マーケティング」の潮流です。

構成②:文化マーケティング

「文化マーケティング」もいまいちピンと来ない用語ですね。

もう少し親しみやすい表現をするなら、「経済発展によってできた『負』を解消するビジネス」です。CSR(企業の社会的責任)のイメージに近い概念です。

背景になったのはグローバル化です。輸送技術で物理的に世界中の人々がつながったと思ったら、インターネットにより世界中の人々を隔てる垣根は一層低くなりました。

世界がつながるということは、世界中の人々が同じ土俵で勝負するということ

強者が弱者を飲み込み、貧富の差が激しくなります。環境への負荷も問題になります。そして弱い国や地域の伝統や文化は、グローバル企業によってどんどん端に追いやられています。

グローバル化の波は、世界を均一にしようとする力です。しかし伝統的文化が消滅の危機に晒されるほど、地元民のグローバル化への抵抗心は強くなります。

しかし多くの人は、グローバル化を進める黒船(大企業)に対して無力です。この無力感に共感し、グローバル化の波から伝統や文化を守ってくれる救世主を求めています。

本書では、文化存亡の危機や貧富格差、環境問題といったグローバル化から生じる問題を解決することを「文化マーケティング」と呼んでいます。

そしてそれを行う企業は「文化ブランド」と呼ばれます。文化ブランドの多くは、「持続可能(サステイナブル)な世界」を目指します。人や地球に優しく、多様性を受け入れる世界です。

いわゆるSDGsの発想ですね。この文化マーケティングの話が、「マーケティング3.0=社会貢献」のイメージにつながっているものと思います。

構成③:スピリチュアルマーケティング

「スピリチュアルマーケティング」も字面だけだとよくわからないですね。こちらは「自己実現の欲求を満たすビジネス」と言い換えられます。

「自己実現の欲求」とは、マズローの欲求段階説にある最上位の欲求です。自分らしく生きたい、自分の理想を追求したいと願う欲求です。

最も原始的な欲求は、生命を維持するための欲求。基本的には生命を守るための欲求が優先されます。生命の危機が遠ざかるほど「承認欲求」が強くなり、さらに先にある「自己実現の欲求」へと辿り着きます。

現代は社会インフラの成熟のおかげで、生命が危機に晒される機会はかつてないほど少なくなりました。年月を追うごとその傾向は強くなり、同時に欲求は次のステージへと上がっていきます。

今日の消費者は、単にニーズを満たす製品だけではなく、精神を感動させる経験やビジネスモデルを求めています。自己表現のためのクリエイティブな経験を求めています。

マーケティング3.0では、企業は製品の「機能」だけで顧客を満足させるのではなく、製品が持つ「意味」でも満足させようとします。

≫マズローの欲求段階説とは?例を交えて丁寧に説明【全ての根源は「欲求」にある!】

ざっとまとめます。

マーケティング3.0の3つのパターン

  1. 協働マーケティング
    :消費者を製品開発やコミュニティに参加させる
  2. 文化マーケティング
    :グローバル化により生まれた社会課題を解決する
  3. スピリチュアルマーケティング
    :消費者の「自己実現の欲求」を満たす

「①協働マーケティング」は、他の2つと併用しやすいでしょう。

「②文化マーケティング」と「③スピリチュアルマーケティング」は、両方にタッチすることも可能ですが、どちらかに寄るケースが多いと思います。

環境問題をテーマにしているテスラやパタゴニアは「文化マーケティング」寄り。自分らしいライフスタイルを後押しするAppleやスターバックスは「スピリチュアルマーケティング」寄りです。

精神を満たすための3iモデル

マーケティング3.0は「精神」を満たすマーケティング。この点を掘り下げたフレームワーク3iモデルを紹介します。

マーケティング3.0では、人間の「肉体 + ①マインド・②ハート・③精神」を持って、消費者を全人的存在として捉えます。

「全人的」とは、人間を、身体や精神などの一側面からのみ見るのではなく、人格や社会的立場なども含めた総合的な観点から見るという意味。

「30代で子持ちの働くお母さん」のような表面的な顧客像ではなく、1人の人間として見ようねって話です

ただ「マインド・ハート・精神」という言葉は、日本人の言語感覚ではイマイチ違いがピンと来ません(わたしだけ?)。次のような言葉で補完させていただきました。

  1. マインド(=理性)
    :思考や分析を行う
  2. ハート(=直感)
    :感情を感じる
  3. 精神(=信念)
    :その人がその人であることの核。アイデンティティ

マーケティング3.0は、従来のマーケティングでは抜けていた「精神」へもアプローチしていこうという概念です。これを図示したのが「3iモデル」となっています。

図を見ただけだとさっぱり分からないので、本書で紹介されている「ティンバーランド社」の例を使い、丁寧めに説明していきます。

①ブランド・アイデンティティ

まず「ティンバーランド」というブランド名があります。

そしてティンバーランドは市場では、「アウトドアのイメージを基調とした高品質の靴とアパレル」というポジショニングをとっています。

ティンバーランドのブーツ

ここでいうポジショニングは、一般的なマーケティングの文脈と同じで、「どのターゲット層に、どんな商品を届けるか」という意味です。

ブランドとポジショニングにより、消費者は「なるほど、ティンバーランドはアウトドア系の靴を売っているブランドなんだ」と理解してもらえます。

これがブランド・アイデンティティです。

人に例えるなら、「バント職人の川相(*巨人軍の往年の名選手)」として個人は特定できる状態です。川合がブランド名で、バント特化がポジショニングです。

ただキャラ立ちはしているものの、川相選手の人柄まではわからない状態です。

ブランド・アイデンティティは、消費者の「マインド(≒理性)」に働きかけます。消費者は主に、製品の機能から理性的に便利そうとか、使えそうだと思います。

ティンバーランドの場合、消費者はブーツのデザインが自分の服装に合うかを見るでしょう。もし合いそうなら、「ティンバーランドのブーツは買ってもいいかも」と判断します。

ここまでは特に目新しい考え方ではありません。マーケティング2.0でも同様の動きをとります。

②ブランド・インテグリティ

そしてマーケティング3.0で肝になってくるのが「差別化」です。

ただし一般的に言われる「機能の差別化」はポジショニングに当たります。ここでの差別化は、機能の差別化ではありません。

(この時点だと、何言っているかよく分からないと思います。解説を続けましょう)

前述の「①ブランド・アイデンティティ(ブランド×ポジショニング)」により、「ティンバーランドって、〇〇な商品を扱っているブランドなんだよね」という理解は得られています。

ですがそれ以上の理解はありません。

もし同じようなブーツのブランドが現れても、ブランド名以外の違いは見出せません。この時点の消費者は、ティンバーランドと模倣ブランドに大した違いは感じません。

そこで企業は、

企業
企業
俺たちは他の企業とは全っ然違う!あなたと同じ信念を持っているんだ!一緒にしないでくれ!

と、他のブランドとの違いをアピールする必要があります。ですが、ただ口で言っても誰も信じません。行動で示す必要があります。

この行動こそが「差別化」です。機能の差別化ではなく、自社ブランドの高潔さを行動で示して差別化するのです。要するに筋を通すということです。

ティンバーランドは、「パス・オブ・サービス(社会貢献への道)」という社員のボランティアプログラムを実施しています。

売上が下がっても、赤字になっても続けてきたため、消費者の目にはポーズではなく、本当の差別化として映っています。

ここで消費者は、「この企業は口だけじゃない。純粋に理念を全うしているんだ…。一本筋が通っている」と感じます。

ブランド・インテグリティは消費者の「精神(≒信念)」に呼応し、共感を呼びます。

ちなみにインテグリティ(Integrity)とは、「高潔、誠実、清廉、完全な状態」という意味の英単語。ブランド・インテグリティは、ブランドの「高潔さ」や「完全さ」を消費者に届けることなのです。

③ブランド・イメージ

ポジショニングだけでは、消費者はブランドに対して特別な好意を寄せていません。ティンバーランドを、「いくつかあるブーツブランドの一つ」くらいにしか思っていません。

ですが差別化(筋の通った行動)を見せつけられた消費者は、「ティンバーランドって、実はクールなブランドなんだね!」というイメージが湧きます。

差別化を何年も続けるとすっかりイメージが定着し、「ティンバーランド」のブランド名自体に、ロゴ自体に、クールさが宿る瞬間が訪れます。

ブランディング用語で言えば、パーセプションチェンジが起こる瞬間です。”perception”は「認知」という意味。つまりブランドの認知が変わる瞬間ということです。

これがブランド・イメージ(=パーセプションチェンジ)が確立するには、消費者を欺かずに、年単位で筋を通し続ける必要があるでしょう。

ここでようやく3iのフレームワークが完成します。

好ましいブランドイメージは消費者の「ハート(≒直感)」を動かし、最終的な購買アクションへと導きます。

順を追っていくと、

  1. ポジショニングにより、「マインド」がそのブランドが有用かを判断する
  2. 差別化により、「精神」がそのブランドに共感できるか判断する
  3. 定着したイメージにより、「ハート」が購買を決定させる

という流れになります。

ミッション・ビジョン・バリューで企業DNAに落とし込め

マーケティング3.0を実践するには、「社内の土台作り」が欠かせません。

消費者の精神に呼びかける「差別化」は、大抵の場合で、社会をより良くする活動になります。短期的な売り上げにはつながらず、一見するとただのコストセンターに見えてしまいます。

しかもその活動を継続させなければブランド・イメージは定着しません一過性ではダメなのです。

社長がポケットマネーで寄付するケースがありますが、これは得策ではありません。社員全体にDNAが根付かないからです。あくまで社長個人の行動にしかなりません(立派ではありますが)。

加えて、「社会貢献のイメージで売上を上げたい」という下心から活動するのもNG。売上に繋がらなかったり、赤字になったら、十中八九活動を継続しなくなるからです。

社会貢献を企業文化に落とし込み、活動を継続するためには、ミッション・ビジョン・バリューに組み込むのが王道。

「ミッション・ビジョン・バリュー=企業理念」であり、マーケティング3.0の土台になります。

  1. ミッション
    :その企業の存在理由。世界をこう変えたいという想いが込められる。滅多に変えるものではないので、幾らか抽象的で、特定の事業に縛られない文言が良い
  2. ビジョン
    :ミッションを達成するために、その企業が将来なりたい理想の姿。羅針盤の役割を果たす
  3. バリュー
    :組織の行動基準。組織の人が、意思決定で優先する価値観を言い表す

結局のところ、マーケティング3.0とは、企業に組み込んだDNA、すなわち「ミッション・ビジョン・バリュー」の意味をマーケティングすることなのです。

≫【理念を掲げよ】ミッション・ビジョン・バリューとは?順番は?

マーケターはブランドのDNAを守るだけで良い

ブランドが定めたDNA(=企業理念)を消費者に伝えた後で、企業にできるのは、自社の行動をブランドのDNAと一致させることだけです。

この言動一致した姿勢は、「オーセンティシティ(Authenticity)」とも呼ばれています。ブランドがオーセンティック(本物)であるという意味です。

最高のコーヒーを提供したいと考えているスターバックスコーヒーでは、いち早く全店禁煙に踏み切りました。加えて、匂いの強い食べ物は廃止にしました。

「地球を救うためにビジネスを営む」パタゴニアは、全ての製品に再生可能素材、もしくはリサイクル素材のみを使用する活動を進めています。

夢の国たるディズニーランドには、現実を連想させるゴミが出ないよう徹底した清掃を行っています。

DNAが示す行動を誠実に取り続けている限り、共感した消費者コミュニティが勝手にマーケティングしてくれます。しかもそれは、企業が発信する声よりもずっと強力です。

マーケティング3.0には、消費者をコントロールしようとする従来的なマーケティング手法は出てきません。大々的にPRしたり、お金を払って良い評判を買うなど、変に消費者にちょっかい出す必要はありません。

ましてや嘘やでっち上げはご法度。ネット時代ではすぐにバレてしまいます。口コミが最も信頼できる時代において、ニセモノと判明したブランドは生き残れません。

まとめ

今回は、コトラー教授の「マーケティング3.0」を解説しました。

同名の書籍は、独特の専門用語が並び、かなり読みづらかったです。「多少の意訳はしょうがない」という感じで見ていただけらたら幸いです。

ざっとまとめましょう。

マーケティング3.0とは…

  • 製品の機能だけでは満たされない、「精神」まで満たそうとすること
  • 崇高な企業理念を掲げ、企業の行動を理念に一致させること
  • 共感した消費者が口コミでマーケティングしてくれる

そしてマーケティング3.0には、次の3つの構成要素があります。必ずしも全部満たす必要はありませんが、少なくともどれか1つは満たします。

マーケティング3.0の構成要素

  1. 協働マーケティング
    :消費者を製品開発やコミュニティに参加させる
  2. 文化マーケティング
    :グローバル化により生まれた社会課題を解決する
  3. スピリチュアルマーケティング
    :消費者の「自己実現の欲求」を満たす

従来のブランドは、市場におけるポジショニングだけでブランドを確立させていました。ポジショニングが明確であれば、消費者は自分のニーズを満たせるかの判断はできます。

ですがポジショニングだけでは、消費者のニーズは満たせても、精神までは満たせません。そこで出てきたのが、企業理念を具体的な行動で示す「差別化」のアクションです。

差別化のアクションは、往々にして社会貢献に根ざしたものになります。差別化により、ブランドはインテグリティ(高潔で完全な姿)に昇華します。

ただし企業が差別化のアクションを取り続けるためには、理念を企業文化にまで落とし込まなければなりません。そこで出てくるのが「ミッション・ビジョン・バリュー」の策定です。

あとは社員全員が「ミッション・ビジョン・バリュー」で宣言した通りに、行動を一致させれば良い。そしたら共感した消費者が、口コミで勝手にマーケティングしてくれる。

これがマーケティング3.0の骨子となっています。

マーケティング3.0に感じたこと

結局のところマーケティング3.0とは、「消費者の心の中にある欲求やニーズを汲み取り、それを代弁し、徹頭徹尾で実現する。その姿がブランドの人柄となり、消費者の共感と信頼を生む」ということです。

さて次の2人のうち、どちらが「信頼」できるでしょうか?どちらの言葉をより重く受け止めるでしょうか?

  1. 言葉巧みなギラギラしたセールスマン
  2. あなたの気持ちを理解して誠実に対応してくれる親友

もちろん前者は従来のマーケティングを行うブランドの比喩で、後者はマーケティング3.0を行うブランドの比喩。本当に困ったとき、あなたはどちらの提案を受け入れたいと思うか。

「信頼」こそ売上の最大のレバーになることを、我々は今一度思い出さねばなりません

企業活動の多くは、「どれだけ売るか?」「どれだけコストを下げるか?」に終始しています。それが利益を上げるための直接的なレバーになるからです。

こういった従来のマーケティングが完全に不要になるわけではありません。ですが打算でしか物事を考えないビジネスライクな人柄に、あなたは「信頼」を寄せるでしょうか?

マーケティング3.0の活動は、短期的な売上にはつながらないかもしれません。むしろコストが嵩むだけかも。ですが打算を超えた人柄の先には、消費者の「信頼」が生まれます。

マーケティング3.0は、ブランドにとって最も大切な「信頼」を回復させる活動に他ならなりません。ぜひ中長期の視点で、意思決定を行なっていきたいですね。

よくあるマーケティング3.0の間違い

多くの日本企業は、間違ったマーケティング3.0を実践しているように感じます。その間違えを正しておきましょう。

間違え①:企業理念がお飾り

企業理念は掲げておしまいではありません。企業理念を行動で示さなければ、マーケティング3.0は実践できません。

企業理念がお飾りになっていて、社員の誰も気に留めていない、むしろ社員が知りもしないがケースが多いのではないでしょうか。もし経営層すらそうなのであれば、もう最悪です。

間違え②:PR活動として社会貢献をする

世間の見た目を気にし、イメージアップのために社会貢献活動する企業もあります。クリーンなイメージで売上アップ狙い。日本企業が行うCSR活動は概ねこんな感じでしょう。

ですがそれはマーケティング3.0ではありません。ただのPR活動であれば、赤字になったり忙しくなったら、その社会貢献活動はおざなりになるでしょう。責任者が変われば中止になってしまうかも。

マーケティング3.0における社会貢献は、企業理念に根ざしており、企業の存在理由に直結するもの。担当者や責任者が変わることで中止するものでもありません。

あくまで最初にあるのは企業の理念。結果的には売上アップにつながりますが、直接的には売上アップを目的に行うものではありません。

  1. 理念を誠実に追いかける活動に消費者が共感する
  2. 消費者の口コミを通してブランド価値が上がる
  3. その結果として、売上げが上がる

こういう順番です。

間違え③:事業と関係ない社会貢献を行う

社会貢献活動と聞くと、「砂漠に木を植える」とか「東南アジアに学校を建てる」といったイメージをお持ちではないでしょうか?

企業の社会貢献は、ビジネスに全く関係ない活動と思われがちです。もちろんそういう場合もありますが、必ずしもそれだけがマーケティング3.0ではありません。

できるならビジネスモデルの中に社会貢献を組み込む方が、消費者へ訴求しやすいでしょう。

いくつか例を上げるなら、

  • オーガニック栽培している農家から原材料を仕入れる
  • 動物実験をしない
  • 児童労働や長時間労働させている工場からは仕入れを行わない
  • 二酸化炭素を出さないクリーンな電気だけを使う
  • 絶滅危惧種の動物の毛皮は使わない
  • フェアトレード(公正価格、買い叩かない)で仕入れる
  • 働くお母さんを積極的に採用する

といったやり方もあるでしょう。

なんなら典型的な社会貢献活動とも限りません。消費者の精神に働きかける要素が、わかりやすい社会貢献系に多かったというだけの話です。

「自己実現の欲求」を満たす製品で、消費者の精神を満たす方法だってあります。

Appleのスティーブ・ジョブズが発信した「Think different」。はみ出しものが世界を変えるというメッセージでした。クリエーターの心を突き刺す言葉です。

言葉通りにAppleは、iPodやiPhoneなど世界を変える製品を世に送り出しました。Apple製品はシンプルで美しく、洗練されたデザイン。クリエーターにとって、Apple製品を持つことは自己実現に繋がっています。

アイデアは無限にあります。ぜひ理念を軸にアイデアを持ち寄って考えてみてください。

弱者こそマーケティング3.0で戦うべし

マーケティング3.0は、弱者が強者に勝つための戦略でもあります。

あらゆる製品がコモディティ化する現代。各社が同じような製品を作れるなら、広告や研究開発にお金をかけられる大手が俄然有利です。普通に戦ったら勝てる見込みはありません。

例えるなら、ウサインボルトに100m走を挑むようなもの。機能や品質など、決まったルールで戦うとはそういうことです。相手に有利な条件で戦っても勝てません。

ですが、「ボルトとあなた、どちらが魅力的か?」となればどうでしょう?

ボルトが100%勝つことはないでしょう。あなたの方が魅力的と思う人もいるはず。あなたに魅力を感じる人は、身体的なスペックではなく「人柄」で評価してくれています。

マーケティング3.0も同様です。「ビジネスも人柄(=理念)で勝負しようぜ」という話なのです。

マーケティング3.0は誰にもマネされない

マーケティング3.0のキモである「企業理念と行動の一致」は、他社にはマネできません

事例に出てきた「ティンバーランド」のブーツを思い出してみましょう。似たようなブーツは誰でも作れるかもしれません。ですがティンバーランドのファンは、その理念に共感して購入しています。

見た目が同じだけのブーツなんて要らないし、むしろそんな紛い物は全くクールじゃないと感じるでしょう。「ティンバーランド」というブランドにクールさが宿っているのです。

もしかしたらその紛い物のブーツメーカーも、社会貢献プログラムを始めるかもしれません。ですが付け焼き刃のキャンペーンで続けられるほど甘くはありません。

ティンバーランドが社会貢献活動を続けられるのは、社会貢献が企業文化になり、そのDNAが社員全員に脈々と流れているからです。それが企業の存在意義だから誰も反対しないんです。

企業文化は一朝一夕で作れるものではなく、かつ覚悟がないとできないことでもあります。大企業ほど文化の育成には時間を要するでしょう。

ゆえに強固に作り上げたマーケティング3.0は、他社にはマネできないのです。マネしたくてもできないと言った方が正確かもしれません。

関連記事&参考書籍

関連記事:マーケティング4.0

コトラー教授はマーケティング3.0に続く「マーケティング4.0」も提唱しています。

こちらはマーケティング3.0の骨子はそのままに、デジタル時代の文脈に沿った具体的なマーケティング手法を説いています。完全に続編といった感じ。

マーケティング4.0の理論は全て、「5A」というフレームワークがベースになっています。コトラー教授が提唱する新しいカスタマージャーニーのフレームワークです。

各々のビジネスを「5A」に当てはめながら、最終的には顧客をブランドの伝道師たる「推奨者」に変貌させることを目指します。

マーケティング3.0の次は、マーケティング4.0の解説記事もぜひチェックしてみてください。

【ネット時代の新常識】コトラーのマーケティング4.0と「5A」を徹底解説|推奨者を勝ち取れ経営学者のフィリップ・コトラー教授の「マーケティング4.0」は、デジタル化が進んだ現代に向けてアレンジされた、新しいマーケティング手法で...

関連記事:ゴールデンサークル理論

「ゴールデンサークル理論」は、マーケティング3.0を究極にシンプルにした理論です。

ビジネスの企画は、

  1. WHY(なぜ?)
  2. HOW(どうやって?)
  3. WHAT(何を?)

の順番で考えろ。プレゼンならこの順番で話せ。以上です。

ポイントは、まず第一に理念に当たる「WHY」が来ること。「なぜ我々が存在するのか?」をピラミッドの頂点にして考えるということです。

マーケティング3.0の本当に大事な部分だけを、端的に部下や同僚に伝えたい場合は、ゴールデンサークル理論の方が向いています。素早く、分かりやすく伝わります。

詳細はゴールデンサークル理論の解説記事へどうぞ。

【あなたの提案が刺さらない理由】ゴールデンサークル理論とは?例文で解説相手を引きつけるプレゼンテクにお困りではないですか?ゴールデンサークル理論は、「WHY→HOW→WHAT」の順番で説明するフレームワークです。この順番を意識するだけで、相手の心を揺さぶるプレゼンができます。ほとんどの人は、逆の順番で説明しているので提案が刺さりません。...

関連記事:ストーリーテリング

マーケティング3.0は理念に沿った行動をしていれば、顧客は勝手に気づいて評判を口コミしてくれるとなっています。

しかし実際には待っているだけでは不十分でしょう。ストーリーにして伝えることで、顧客に分かりやすく、そして記憶に残りやすくなります

ゴールデンサークル理論もある意味で短いストーリーですが、もっと丁寧にストーリーを作る方法があります。映画の技法を使い、顧客を惹きつける脚本を書きましょう。

ぜひストーリーテリングの解説記事もセットでチェックしてみてください。

【違うそうじゃない】ビジネスに効くストーリーテリングの実践方法を徹底解説最近は「ビジネスにはストーリーが大事!」と声高々に言われています。聞いた話では、クリエーター系の専門学校でも、「作品にストーリーを持たせ...

参考書籍

参考書籍はもちろん『コトラーのマーケティング3.0』です。

なかなか難しい内容なので、サッと読んだだけでは腹落ちしないかもしれません。じっくり腰を据えて読んでみることをオススメします。

『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』もオススメです。

こちらは日本版マーケティング3.0の事例集のようになっています。マーケティング3.0の概念を理解してから読むと、グッと理解度が増します。マーケティング3.0にも言及もされているので、意識されているようです。

こちらは本聴き放題の「Audible」読み放題の「Kindle Unlimited」にも対応しています。普通に買うよりずっとお得にインプットできるので、こちらがオススメです。

≫ Audible(初回30日間無料)で本書をチェックする

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社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!

あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。

それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。

しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!

外せない❶ Kindle Unlimited

Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。

新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。

Kindle Unlimited 公式サイト

≫【厳選】ビジネスマンがKindle Unlimitedで読むべき15冊

外せない❷ Audible

こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。

Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。

冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。

Audible 公式サイト

≫【厳選】ビジネスマンがAudibleで聴くべき17冊

ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。

どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。

そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。

ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!

とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!

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