あなたは「メタファー」をご存知ですか?きっと単語は耳にしたことがあるはず。その意味までハッキリ答えられる人は少ないかもしれません。
メタファーは、大雑把に言えば「比喩」のことです。例え話です。
説明が上手い人は、意図的にメタファーを使います。そのため営業やプレゼンといった、ビジネスコミュニケーションスキルの文脈で語られることが多い印象があります。
ただ実のところ、メタファーは誰しもが無意識の内に使っています。「え?俺はそんなつもりないけど?」と思っても絶対使っています。そういうものなのです。
ポロッと自然に口から出たメタファーには、その人の深層心理やバックグランドが反映されています。自分自身でも気づいていない深層心理に触れるきっかけになります。
そのためメタファーは、マーケティングで顧客を深いレベルで理解する手法としても用いられます。従来のマーケティング手法の限界を打ち破る突破口にもなるのです。
この記事で分かること
- メタファーの基本的な意味
- 従来のマーケティング手法の限界
- マーケティング文脈でのメタファー活用術
インタビューやアンケート、ペルソナなど、よく使われる顧客理解のツールでは不十分な理由も文字数を割いて解説しています。
マーケティングはどこまで行っても顧客理解の世界。さらに深い世界を知ってもらえればと思います。ぜひ最後までお付き合いください。
メタファーは喩えること
メタファー(metaphor)は、広義では比喩表現の全般を指しています。
狭義では、比喩のひとつである「隠喩(または「暗喩」)」を指します。
比喩の種類 | 意味 | 例文 |
直喩(シミリー) | 「〜のように」と例える | 君は天使のようだ! |
隠喩(メタファー) | 「〜のように」を使わずに例える | 君は天使だ! |
類比、類推(アナロジー) | ある物事を、同じ特徴を持つ別の事柄に当てはめて、理解したり説明したりする | バイドゥ(百度)は中国版のGoogleです |
寓意(アレゴリー) | 抽象的な概念を、物語や絵画などを通じて表現する | 「ウサギとカメ」は、「コツコツ継続した者が最終的に勝利する」を物語で表現している |
これらの定義には明確な線引きがあるわけではありません。隠喩でもあり、アナロジーでもある例え話もあるでしょう。
ざっくりと、「例え表現」や「例え話」は、全てメタファーと捉えても差し支えありません。本記事もメタファーを広い意味で解釈しているので、それぞれの違いは意識していません。
一説によれば、人間は1分間話すあいだに6つのメタファーを使用していると言われています。意図して使うこともありますが、そのほとんどは無意識に使っています。
メタファーを使う目的
メタファーには大きく3つの目的があります。
メタファーを使う目的
- 直感的にわかりやすい説明
- 表現を豊かで味わい深くする
- 相手が使うメタファーから深層心理を読み解く
それぞれ見ていきましょう。
用途①:直感的にわかりやすい説明
ビジネスの世界でよく使われているのが、わかりやすい例え話としてのメタファーです。できる営業マンは、無意識のうちにこれを多用しています。
哲学の祖ソクラテスの言葉に、「大工と話すときは、大工の言葉を使え」があります。専門知識を周りの人にわかりやすく伝えるためには、相手が理解できる用語に変換しなければなりません。
わかりやすい説明にメタファーを使うにはコツが要ります。次のような順番で行います。
- これから説明する「A」の本質を抽出する
- 同じ本質を持つ身近な存在「B」を探す
- 「A」を「B」で例える
例えば、「コアコンピタンス」という用語。これは、「他社が真似できない、その企業だけが持つ固有の強み」という意味です。
コアコンピタンスは「秘伝のタレ」に例えられます。一子相伝で継ぎ足されてきた秘伝のタレは、他店には真似できない魅力。直感的に伝わる例えではないでしょうか。
この思考のプロセスは、抽象化と具体化をしています。本記事の趣旨からズレるので深掘りしませんが、こちらも重要なスキルです。
わかりやすい例え話でコミュニケーションスキルを上げたい人は、↓の記事の方が参考になると思います。
≫_抽象化と具体化のスキル。絶対に続けられるトレーニング方法とは?
用途②:表現を豊かで味わい深くする
表現をオシャレにカッコよく決めるにもメタファーが役立ちます。小説の表現などでよく使われます。いわゆる「レトリック表現」ですね。
例えば↓こんな言い回しはどうでしょうか?
- 俺はクズで役立たず。ただのボロ雑巾さ
- 100万ドルの夜景だ!
今回はあまりカッコよく決まりませんでしたが、メタファーを使って、言葉に独特の雰囲気を持たせることができます。
一般人がムリして使うほどの代物ではありませんが、うまく使いこなせば詩的、または知的に見えます。比喩表現のユニークさが書き味になっている小説家はたくさんいます。
知性は人間の魅力の一つ。メタファー力があなたの魅力を引き立てせるかも?
用途③:相手が使うメタファーから深層心理を読み解く
一般的には知られていないのが、他人の深層心理を知るためにメタファーを利用する用途。マーケティング用途が想定されます。
本記事で詳しく触れたいのはココ。というよりココを書きたかったがために執筆した記事でもあります。
メタファーは人が無意識のうちに使う表現。例え方によって、その人が対象に対して心の奥底で抱いている感情が読み取れます。
例えばある人は車種Xに対し、「この車に乗っていると、まるで翼が生えたように感じる」と表現するかもしれません。
翼は「自由」を象徴していると考えられます。身動きが取れない窮屈な平日から解き放たれ、週末に「自由」にドライブできる喜びを感じているのでしょう。
「自由」が、顧客が持つ車種Xへのブランドイメージです。
「自由」なイメージを全面に打ち出したクリエイティブは、潜在顧客を引きつける上でもっとも効果的な表現になるでしょう。エモい表現は狙って作れるのです。
従来のマーケティングの限界を知ろう
「この車はどんなイメージですか?」ってインタビューかアンケートで答えてもらえばいいだけじゃない?
と感じた人もいると思います。そんなまわりくどい方法なんて要らんでしょ、と。
いいえ。それじゃダメなんです。
従来の顧客理解ツールの限界
- 従来の顧客調査は95%を取り逃がしている
- 顧客はほとんどの思考を言語化できない
- 顧客の回答はそれほど信頼できない
それぞれの理由を解説していきます。
限界①:従来の顧客調査は95%を取り逃がしている
「95対5の法則」によれば、人間の行動や意思決定のうち、意識的に行っているのは5%に過ぎず、残りの95%は無意識のうちに行われています。
これはちょうど、氷山の海面に出ているわずかな部分(=意識)と、海中にある巨大な氷塊(=無意識)のようなイメージです。
従来のマーケティングの顧客調査は、インタビューやアンケートが主流。顧客のインサイトを言葉を通して手に入れます。
ですが、言葉は「意識的」に使うもの。顧客は5%の表層部分だけをしゃべっているに過ぎません。大部分の95%はみすみす取り逃がしていることになります。
古くからあるジョークに「街灯の下で鍵を探す」というものがあります。
ある酔っ払いが鍵をなくして、街灯の下を探していました。通行人がどこで鍵をなくしたか尋ねると、酔っ払いは向こうの暗闇を指さします。
「ではなぜそっちを探さないんだね?」と再度尋ねると、「ここは明るくて探しやすいからさ」と答えました。
多くのマーケターは、たった5%の表層部分しか表現されていない、上っ面の顧客データを一生懸命集めています。95%の深層心理は、手付かずのままなのです。
限界②:顧客はほとんどの思考を言語化できない
マーケターは、顧客がどういう思考プロセスで購買したか(あるいはしなかったか)を、言葉で聞いたり、紙に書いてもらったりすることで理解できると考えています。
ですがこれは間違いです。人間は自分の思考のほとんどを正しく言語化できません。
人間は日々言葉を使って生きているので、なんでも言葉で表現できると勘違いしがちです。ですが実際には、人間の思考の大半は言葉によらずに成立しています。
一説によれば、人間は1日に35,000回もの意思決定を行なっています。そのうちのほとんどの思考は、言葉を介さない「無意識」のもとで行われています。
例えば次の意思決定は、頭の中で「〇〇しよう」と、言葉で考えた結果ではありません。
- 音が鳴った方を振り向く
- 水たまりを避けて歩く
- 喉が渇いてコップに手を伸ばす
日常のほとんどの思考は、「無意識」のうちに言葉で考えることなく行われています。思考した瞬間に忘れるものもあれば、意識すること自体が困難な思考もあります。
顧客が下した「無意識」の決定を、ムリヤリ言葉で表現してもらうことは可能かもしれません。ですが表現できるのは、あくまで一部にとどまります。
ましてや何日も経った後に、その当時の思考を正確に言語化するのは極めて難しいと言えるでしょう。
限界③:顧客の回答はそれほど信頼できない
思考の大部分は聞き出せないにしても、インタビューやアンケートで得られた顧客の回答には価値があると思われています。実際にいくらか価値はあるでしょう。
ですが、顧客の言葉は必ずしも真実を語っていないとしたらどうでしょう?
別に嘘をつこうとしてそうなるわけではありません。真面目に答えているのに、自分の思考を正しく表現できないのです。
アンケートで「ぜひ買いたい!」と回答した人が、実際には買ってくれないケースが多々あります。
なぜ買わなかったのかを聞かれても、回答者はその行動の理由を説明できません。回答者がお世辞で「買いたい」と言わないように工夫してもこうなります。
むしろ言語化することで元の記憶からかえって遠ざかってしまう、「言語隠蔽効果」という厄介な現象さえ起きます。
ブラインドテストの結果も案外当てになりません。
パッケージを隠した状態でブランドAとブランドBを試食すると、ブランドAの方が美味しかったと答えます。
ですがパッケージを公開した状態でテストをすると、翻っていつも食べているブランドBの方が美味しかったと答えます。
回答者が「Aが好き」と選択したにもかかわらず、実験者側からBを差し出されても、入れ替わっていたことに気が付かない「選択盲」という現象もあります。
顧客は無意識のうちに、往々にして言葉にできない要因で購入を決定しています。それを口で表現してもらったところで、どうしてもズレが出てしまうのです。
慎重な行動でも「無意識」の影響は避けられない
ここで疑問に思った人もいるかもしれません。
と。何かを購入するシーンはそれなりに考えて判断しているんじゃ?と思いますよね。
この指摘は、半分正解で半分間違いです。
確かに購入は、最終的には「意識的」に考えた結果になるケースが多いでしょう。自動車のような高い買い物であれば尚更です。
ですが意思決定は、「意識的」になされる前に、すでに「無意識」のうちに下されています。先に無意識がオートで命令を出し、意識はそれを後追い実行しているに過ぎません。
認知心理学の世界では、「人間の自由意志は錯覚である」という意見すらあります。
ときに暑い夏は、オープンカーがよく売れるそうです。つまりその年の夏の気温が高いという理由で、もともと買う予定じゃなかったオープンカーを買う人がいるということです。
車は1年だけ乗るわけではありません。いま暑いから買うなんて馬鹿げていますね。
ですが馬鹿げていると感じる思考は意識的。そのずっと前に無意識は「暑い夏は風を感じながら海辺を走りたい!」と心に決めてしまっているのです。
顧客の無意識がメタファーに現れる
人の無意識は、「深層心理」や「潜在意識」とも呼ばれます。ちなみに仏教では「阿頼耶識(あらやしき)」なんて呼ばれています。
本人すら気づいていない「無意識」を、他人であるマーケターが触れるのは困難。通常マーケターが手にできるのは、言葉や文字を通したアウトプットされた「意識」の思考だけです。
ですが、顧客の言葉の中で使われるメタファーには、顧客の「無意識」が反映されています。顧客は言葉を通して「意識」で説明していても、その説明で使われているメタファーは「無意識」のうちに選んでいます。
メタファーに着目することで、言葉で表現するのが難しい(あるいは全くできない)重要な思考に触れることができるのです。
言葉はウソをつく、あるいはウソつく気はなくても誤った回答をする可能性があります。しかしメタファーにはウソも間違いもあり得ません。
言葉とメタファーに矛盾が生じた場合は、大抵はメタファーの方が正解です。
メタファー分析の方法
メタファー分析は、1on1のインタビュー形式で行うことが多いでしょう。
基本的にはオープンクエスチョンで質問をします。オープンクエスチョンとは、「はいorいいえ」や「AorB」のように選択肢で答えさせないタイプの質問のこと。
あなたにとって、〇〇というブランドはどのような存在ですか?
みたいな感じですね。
ランダムに用意した画像から、顧客のイメージに合うものを選んでもらったり、コラージュを作成してもらうのも効果的です。
「どうしてその画像を選んだんですか?」と質問して、思考を深掘りできます。
結婚式のシーンの写真が選ばれれば、ポジティブな思考と考えられます。都会のビルの写真であれば、先進的なイメージを持っているのかもしれませんが、情緒的なつながりに不満があるのかもしれません。
難しく考える必要はないでしょう。顧客がどんな表現の仕方をしているかを観察し、複数の言い回しに共通するニュアンスを掴めば良いのです。
コアメタファーを見つける
人間の心理に表層と深層があるように、メタファーにも比較的浅い無意識を表現するものもあれば、深い無意識を表現するものもあります。
深いメタファーほど広範囲の思考に影響を与えます。樹木に例えるなら、浅いメタファーは枝葉で、最深部のメタファーは根っこに当たります。
最深部のメタファーを「コアメタファー」と呼びます。コアメタファーは文脈次第でさまざまなケースがあります。
「ザルトマン・メタファー表出法(ZMET法)」によれば、次の7大コアメタファーは、全メタファーの70%を占めているとのこと。
7大コアメタファー
- バランス(balance)
- 変化(transformation)
- 旅行(journey)
- 容器(container)
- つながり(connection)
- 手段・資源(resource)
- コントロール(control)
ざっとそれぞれのイメージを見てみましょう。*日本語の文献が足りなかったので、一部筆者の主観で書いています。
①バランス(balance)
「バランス」のメタファーが使われたとき、その人の深層心理では「均衡」や「平等」がイメージされています。
ファーストフードを表現するとき、
- 「このツケは10年後に来るかもね」
- 「ファーストフードを食べた次の日はヘルシーな食事をするの」
といった言葉に、バランスのメタファーが隠れています。
規制改革のニュースを聞いたら、真っ先に「それによって職を失う人」に言及するかもしれません。メーカーの業績好調のニュースを聞いたら、「環境破壊」や「強制労働」を想起するかもしれません。
顧客がバランスのメタファーを使っている場合は、「帳尻を合わせる」や「不平等をなくす」といったニュアンスを含むメッセージが刺さります。
二日酔い対策の薬を販売している企業が、顧客がバランスのメタファーを使っていることに気づいたとしましょう。この場合は「胃のムカムカを抑える」よりも「飲みすぎた日はこれ1本」が顧客に刺さるコピーになります。
②変化(transformation)
「変化」のメタファーが使われたとき、その人の深層心理では「変革」や「刷新」がイメージされています。
電気自動車を表現するとき、
- 「これまでのガソリン車とは全く違う」
- 「この感覚は乗ってみなければわからない」
といった言葉に、変化のメタファーが隠れています。
顧客が変化のメタファーを使っている場合は、「古いものから新しいものへ」や「悪から善へ」あるいは「古き良きものの復活(≒温故知新)」といった変化のニュアンスを含むメッセージがささります。
オバマ元大統領の「Change」の言葉に、人々は希望を感じました。トランプ元大統領は「古き良きアメリカの復活」を叫びました。
当時のアメリカ国民は、アメリカ合衆国の政治に対し、変化のメタファーを持っていたのかもしれません。
③旅行(journey)
「旅行」のメタファーが使われたとき、その人の深層心理では、体験全体が一連の旅としてイメージされています。
転職活動を表現するとき、
- 「今のポジションは通過点に過ぎません」
- 「内定はゴールではなくスタート」
といった言葉に、旅行のメタファーが隠れています。
顧客が旅行のメタファーを使っている場合は、「目標(ゴール)達成」や「未知の世界に飛び込む」といった旅行のニュアンスを含むメッセージがささります。
定番卒業式ソングの「旅立ちの日に」でうるっと来てしまうのは、卒業式を迎えた生徒達が旅行のメタファーで溢れているからでしょう。一つの旅が終わり、次の旅がこれから始まるタイミングなのです。
余談ですが、ショッピングの体験はよく旅行に例えられます。
ふらっとお店に入って、面白そうな品を物色。すると店員が話しかけてきて、ちょっとピンチ?最後にはお気に入りの品を見つけて、帰路に着く。
そんなわけで、購買体験を時系列にプロットしたものを「カスタマージャーニー」と呼びます。
④容器(container)
「容器」のメタファーは、「内側の世界」と「外側の世界」を隔てるイメージです。
自分たちが阻害されていると見る場合もあれば、保護されていると見る場合もあります。または何か恐ろしいもの(あるいは素晴らしいもの)が、内包されているという見方もできるでしょう。
例えば生活保護を表現するとき、
- 「保護なしでは暮らしていけない」
- 「彼らは本当に手厚く守らなければならない対象なのか?」
といった言葉に、容器のメタファーが隠れています。
顧客が容器のメタファーを使っている場合、周囲の環境に対して、顧客がどう感じているのかを知る助けになります。「既得権益を守りたい」または「差別を撤廃してほしい」というニュアンスが多いはず。
顧客が求めているのは、「容器を維持してあなたの生活を守ります!」または「容器を取り払って差別をなくします!」といったメッセージでしょう。
既得権益を守りたい人に改革を迫りたい場合は、「この容器はなくさなければならないけど、これはあなたを守る話でもあるんだよ」というメッセージが必要になるでしょう。
⑤つながり(connection)
「つながり」のメタファーが使われた場合、深層心理では人間関係に対してポジティブまたはネガティブなイメージがなされています。
学校を表現するとき、
- 「周りにクラスメイトがいても僕はいつも孤独だ」
- 「たまに友達グループが鬱陶しく感じる」
といった言葉に、つながりのメタファーが隠れています。
顧客がつながりのメタファーを使っている場合、顧客が自分を取り巻く人間関係について、どのように感じているかを知る助けになります。ポジティブな場合もネガティブな場合もあるでしょう。
顧客の文脈に応じて、「新しい人との出会い」「親密な間柄」「ちょうど良い距離感のつながり」といったメッセージが使えるでしょう。
SNSのブランドメッセージは、大抵はつながりを意識したものになっています。
⑥手段・資源(resource)
「手段・資源」のメタファーが使われた場合、顧客は対象を、何らかの目的達成のためのリソースとして見ています。
言い換えると、その対象の力を借りることで、時間や労力をどれほど節約できるのかを気にしています。
家具を買うシーンを表現するとき、
- 「ゆっくり選ぶ時間がない」
- 「何分で組み立てられるだろうか?」
といった言葉に、手段・資源のメタファーが隠れています。
顧客が手段・資源のメタファーを使っている場合は、「あなたがやらなければならないことを、我々があなたに代わって行います」というニュアンスが効果的です。
結果として、「時間がかからない」「手間をかけさせない」「アフターサービスが手厚い」といったメッセージになるかもしれません。
⑦コントロール(control)
「コントロール」のメタファーが使われた場合は、対象物をコントロールできるか否か、もしくはどうやったらコントロールできるかを気にしています。
パンデミックを表現するとき、
- 「我々はウイルスに対してなす術がない」
- 「どうすればウイルスと共存できるだろう?」
といった言葉に、コントロールのメタファーが隠れています。
人類はもともと自然に生かされていましたが、どこかの時点で自然をコントロールするようになりました。大河川からの灌漑で農作物を育てたのもそう、家畜を育てて食肉としたのもそうです。
「人類の発展=コントロールの発展」といっても良いくらいです。人類は相手を屈服させてコントロールすることが、成功の秘訣だと感じているのかもしれません。
顧客がコントロールのメタファーを使っていたら、「難敵に立ち向かい、アンコントローラブルをコントローラブルにする」というメッセージが刺さります。
コントロールするのは自然現象かもしれませんし、上司や部下、片想いの相手のように人の心かもしれません。
引き出したメタファーを活用する方法
引き出したメタファーをどのように使うか。最後にこちらにも触れていきましょう。
大きく2つの活用方法があります。
メタファーの活用方法
- 隠れたニーズを見つける
- ブランディングに活用する
それぞれ見ていきましょう。
活用①:隠れたニーズを見つける
メタファーを分析することで、従来では難しかった顧客の深層心理までリーチできます。場合によっては、本人すらも気がついていない潜在ニーズを掴むことも可能でしょう。
すでに触れたように、顧客は自分の思考を言葉にして、正確に伝えることができません。インタビューでは「ニーズあり」だったのに、実際には買わないケースが散見されるのはそのためです。
顧客の「言葉による説明」と「深層心理が言葉の端々に出るメタファー」、両者に矛盾があった場合はメタファーの方に軍配が上がります。
活用②:ブランディングに活用する
顧客にとって1番スッと入ってきて、耳に馴染むメッセージは何だろうか?どんなブランドイメージを打ち出せば、顧客の心に響くんだろう?
その答えもメタファーにあります。特により深い思考を表すコアメタファーは、顧客がそのブランドに対して無意識に感じている文脈でもあります。
当然ながら文脈に沿ったメッセージが、もっとも顧客に刺さります。わかりやすく言えば、エモいメッセージになります。
例えば顧客が、転職活動に「旅行」のコアメタファーを使っているなら、転職を旅に例えます。転職を「新しい世界への船出」と表現しても良いでしょう。
また、企業が持っている自社ブランドのイメージと、顧客がそのブランドに感じているイメージは往々にして異なります。
なぜなら人によって、そのブランドに接している文脈が違うからです。
コカコーラに「先進的な都会のイメージ」を持っている人もいれば、幼い頃の思い出と共に「ノスタルジックなイメージ」を持つ人もいます。
もし企業側と顧客側でブランドイメージがズレていたら、どちらを優先すべきか?
もちろん顧客を優先すべきでしょう。定着したブランドイメージはもはや顧客のもの。企業にできるのは、顧客が持つブランドイメージに行動を合わせるだけです。
顧客が持つブランドイメージは複雑で、それまでの人生観や現在置かれている環境も密接に絡んできます。本人すら気づいていないイメージを言語化してもらうのは難しいこと。
だからメタファーを使って、無意識にあるブランドイメージを引き出そうというわけです。
参考書籍
参考書籍は『心脳マーケティング』。著者のジェラルド・ザルトマン教授は、ハーバードビジネススクールのマーケティング研究者。日本ではあまり知られていませんが、かなりの権威です。
やや古い書籍ではありますが、関連する他の書籍がなく、メタファーを用いたマーケティングならとりあえずこの1冊を読むしかありません。
正直マニアックな本ですが、まずほとんどのビジネスマンは読んでいないので、知識に差をつける良い機会になるかもしれません。
こちらは日本でもお馴染み。経営学のカリスマであるコトラー教授の『マーケティング3.0』でも、一部メタファーのマーケティング活用が記載されています。
実はコトラー教授の引用元もザルトマン教授の別の書籍なのですが、翻訳本がなく、同書を参考にした次第です。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!