「安売りするしか、差別化のしようがない!」
「競合と差別化できなくて、いつもガチンコのコンペになってしまう!」
ある種の業界では、現場はこんな悲痛な悩みを抱えています。
ビジネスモデル上、どうしても競合との差別化が難しい業界があります。わたしが以前勤めていた通信キャリアもそうでした。どこで買っても同じなので、思いっきり競合他社と比較されてしまうのです。
しかし諦めてはいけません。ちゃんと競合を出し抜く手はあります。
この記事では、
- ホワイトハット方式
:真っ当にビジネスモデルで差別化する - ブラックハット方式
:人間の心理を突いて、あなたから買わせる
の2通りの考え方で、競合ではなく「あなた」から買わせる方法を解説しています。
前提として、製品自体の差別化はできない状況と仮定します。そこで目指すべきゴールは、「条件が同じなら、あなたから買うわ」と言わせること。
少々マニアックな記事ですが、参考になる人は意外と多いはず。製品の差別化が難しくて悩んでいるマーケターや営業マンは、ぜひ最後までチェックしてみてください!
差別化ができない(または難しい)業界の構造的問題
製品の差別化に苦しむ業界は、多くのケースで構造的な問題を抱えています。問題と言うと悪いイメージに聞こえますが、別に悪いことをしていくなくても陥ってしまう問題です。
おそらくあなたが属する業界も、この構造が当てはまっているのではないでしょうか?
ケース①:コモディティ化した産業
「コモディティ(commodity)」は、直訳では「物品」という意味の英単語。ニュアンスとしては、特別感はなくありふれていて、思い入れもなく他の製品と代替可能という意味合いがあります。
またかつては差別化されていた高付加価値製品が、競争によって陳腐化してしまう現象を「コモディティ化」と呼びます。次のような製品は、コモディティ化しています。
コモディティ化している業界の例
- 日用品、消耗品
- 食料品
- インフラ
- 保険
- 医薬品
- エネルギー
- 家電(モノにもよるが)
おそらくこれらの業界の企業に、思い入れを持っている人は少ないでしょう。
基本的には安い価格をオファーできる企業が選ばれます。売り切れていれば、他社製品で済ませても良いと考えています。乗り換えることに対して残念な気持ちはさほどありません。
コモディティ化してしまった業界は、どうしても製品での差別化が難しくなります。
ケース②:自社製品を持たない産業
ビジネスの下流にいる「卸売」「小売」は、自社製品を持っていません。そのためどうしても差別化が難しくなります。独占販売権がない「代理店」も、同じ立場になります。
扱っている製品は同じなのに、代理店同士あるいは、小売店同士が戦っているケースはごく当たり前の光景です。やはり価格勝負になってしまうので、現場は疲弊してしまいます。
「比較検討」のフェーズが鬼門
顧客が製品の存在に気がつき、購入して、実際に使用するまでの一連の流れを、マーケティング界隈では「カスタマージャーニー」と呼びます。
仮に次のような単純なジャーニーを考えてみましょう。
- 認知
- 関心
- 比較検討
- 購入
差別化できない業界にとって、鬼門になるのは「比較検討」です。
顧客に働きかければ、「認知」や「関心」は獲得できますが、どうしても「比較検討」で横並びに見られてしまいます。他社比較を入念に行うBtoB市場は、特にこの傾向が顕著。
営業トークで興味を持たせても、しばしば相見積もりを取られてしまいます。条件が同じならまだマシですが、他社により安い価格をオファーされるとあっさり負けてしまいます。
通信キャリアで法人営業をしていたわたし自身も、苦い思い出があります。
苦労してとある法人の全社員にスマホ(当時はまだガラケーが主流の時代)を導入させたのに、2年後の契約更新タイミングで、競合他社とコンペになってしまいました。競合他社は開拓の苦労をすることなく、単に呼ばれたから来ただけです。
先方とのリレーションができていればカンタンには負けませんが、営業担当が変わってしまうと、後任の代でコロッと負けたりします。こういうシーンをよく目にしました。
【ホワイトハット方式】あなたから買わせる4つの販売戦略
それでは実際にどうすれば、競合を出し抜いて「あなた」から買ってもらうための戦略を解説していきます。
まずはホワイトハット方式。WEBマーケティング界隈で「ホワイトハット」は、顧客により良い価値を提供しようとする真っ当な戦い方です。
戦略①:ベストプライス
当たり前ですが、「最安値」をオファーすればあなたから買ってもらえます。求められている回答ではないと思いますが、一応載せておきますね。
物理的な商圏が存在する場合は、そのエリア内での最安値をオファーします。インターネット上のビジネスの場合はエリアの垣根がなくなるので、基本的には国内最安値をオファーすることになります。
勝者は、最安値をオファーできる1社だけになるので、熾烈な戦いになります。
ウォルマートやかつてのダイエーのように、安売りに命をかける覚悟があるなら別ですが、基本的には、価格競争を避ける方法を考えるべきでしょう。
戦略②:サービスをセットにして上位の価値を提供する
顧客がその製品を購入する「目的」はなんでしょうか?その目的を特定し、より高い次元で目的を達成するサービスをセットにすれば、「あなた」から買う理由になります。
システムインテグレーション(SI)は、典型的な例。サーバやルータなどの機器は、どこから買っても同じです。しかしより使いやすく、遅延が少なく、セキュリティの高いシステムを構築してくれる業者から購入します。
ITの話がわかりにくければ、家を作る工務店を想像してください。木材やらバスタブやらは、どこから買っても同じです。しかしより理想通りの家を、上手に施工してくれる工務店を選びます。
直接的には、差別化できない製品を売っているかもしれませんが、本質的に売っているのはサービスです。主に「技術」というサービスを売っているのです。
技術の他には、「早さ」や「ホスピタリティ」がサービスになる場合もあります。
ファミレスなら、「小さい子供が座るイス」や「段差がなくてベビーカーが通れる」といった、「ホスピタリティ」がサービスになるでしょう。顧客は単に料理を食べたいだけでなく、子供がいてもストレスなく食べたいのです。
製品自体は差別化できなくても、顧客の価値を最大化するサービスをセットにできれば、「あなた」から買う明確な理由になります。
≫【ついに言語化】ビジネスとは何か?顧客の価値とは何か?ビジネスの本質を解説します
戦略③:サポートを強化する
同じ製品を同じ値段で売っているなら、「より手厚いサポート」を提供してくれる方を選びます。厳密にはサポートもサービスなので、上記の戦略の一部といっても良いでしょう。
家電量販店やAmazonの方が明らかに安いのに、街の電気屋さんを使う人がいるのは、購入後のサポートが手厚いからです。
顧客は単に家電を使えれば良いわけでなく、滞りなく使いたいのです。自力で目的を達成できないなら、多少値が張っても、サポートが手厚いお店から買うのは自然なことです。
こちらも表面的には製品を売っていても、本質的にはサポートというサービスを売っていることになります。
また営業マンの専門知識や提案力の高さも、サポートの一部です。他社から買ったら、その知識や提案の恩恵を受けられなくなります。顧客は優秀な営業マンから買うに十分な理由があります。
戦略④:理念への共感で売る
同じ製品を売っていて、かつサービスレベルも同等だったとしたら、より好ましいイメージを持つ方から買うはずです。端的に言えば、好きなブランドから買いたいのです。
企業へ抱く好ましいイメージは、「企業理念」を出発点とします。もちろん顧客は、企業理念など見ていません。顧客の目に映っているのは、理念に沿った企業の行動だけです。
企業が理念に沿って誠実に行動していると、ブランド名やロゴにある種のイメージが宿ります。それこそが本当の意味でのブランドです。ブランドは醸成されるもので、一朝一夕で作れるような代物ではありません。
ブランド名を見るだけでイメージが湧くのは、その企業が積み重ねてきた行動の先に、理念の存在を感じ取るからです。そしてその理念に共感しているから、ブランドだけで購入するのです。
製品はカンタンに真似できますし、サービスも真似しようと思えばできるでしょう。それらに比べ、ブランドイメージは遥かに模倣が難しい領域です。ルイヴィトンと同じバッグを作っても、ルイヴィトンにならないのと同じです。
同じ野菜を買うなら、より環境に優しい農家から買いたいと思うはずです。理念への共感は、強力な差別化要因になるのです。
≫【マネできない差別化】コトラーのマーケティング3.0を超丁寧に解説【理念で売れ】
【ブラックハット方式】あなたから買わせる3つの販売戦略
WEBマーケティングにおける「ブラックハット」とは、アルゴリズムの穴を突いて、プラットフォーム側が意図しない方法で成果を上げることです。
ここでは人間の心理をハックし、巧妙に「あなた」から買ってもらうように仕向ける方法をブラックハットと呼ぶことにしましょう。
戦略⑤:恩を売る
人間には「返報性」があります。恩であれ仇であれ、受けた報いはキッチリお返ししなければ気が済まない性質があります。本能レベルの深い心理から生じているので、避けるのは困難です。
そこで顧客が持つ「返報性」を利用するわけです。あなたが顧客にあらかじめ恩を売っておけば、顧客はその恩を返すために、「あなた」から買わざるを得なくなってしまうのです。
ビジネスシーンで恩を売るためには、次のような方法が考えられます。
- 接待
- 無料の試供品
- 日頃からの有益な情報提供
- お金にならない依頼を引き受ける
発想こそブラックハットですが、やっていることは至極真っ当です。優秀な営業マンなら、「やって当然」と感じるようなものばかりではないでしょうか。
もし製品やサービスでの差別化が難しいと思うなら、人対人のギブに徹することです。顧客の利益を第一に考え、日頃からギブし続けていれば、顧客は喜んで「あなた」から買いたいと思うでしょう。
逆に言えば、製品やサービスできっちり差別化できているならば、そのような努力の必要性は相対的に下がります。
≫【試食販売が売れるワケ】返報性の原理を解説。2倍売れるビジネス活用の具体例も
戦略⑥:ローボールテクニック
「ローボールテクニック」は、先に好条件だけを提示して、その好条件に承諾させてから、悪条件を付け加えたり、好条件を取り除いたりする交渉術です。
魅力がない製品を売るときに抜群の効果を発揮しますが、かなりアコギなやり方です。一般的には下法として知られており、詐欺師や悪徳業者が好んで使う方法でもあります。
例えば、売る気がない商品を宣伝する「おとり広告」という手法があります。
飲食店で見られるケースでは、「激安メニュー」「限定メニュー」といった広告を見た顧客がいざ来店すると、「この店舗では扱っていません」と断られてしまいます。
しかしお店に入ってしまった以上は、しょうがないから通常メニューを食べて帰るわけです。
なぜ条件が悪化したのに、立ち去らずに買ってしまうのかと言うと、人間の「一貫性の法則」を突いているからです。人は一度態度を決めてしまうと、その後も一貫した行動をとってしまいがちです。
差別化できない製品は、
- まず好条件をチラつかせて飛び付かせる
- 何かしら理由をつけて、その好条件は適用しない
とすれば、どこで買っても条件は同じになります。
しかし顧客は、「ここまで来ちゃったからあなたから買うわ」となってしまうのです。最初の好条件は、「一貫性の法則」を狙ったワナというわけです。
おとり広告は違法ですが、「限定10食」「3名様限定の目玉商品」といった具合に、数を絞る分には問題ありません。限定を逃した人の何割かは、何かしら買って帰ります。
通信キャリアとして後発だった楽天モバイルは、電波でも不利な状況であり、まともに勝負したら顧客を獲得できないことは明白でした。
そこで「1年間利用料0円」を打ち出します。しばらく後にこの好条件は取り除かれたわけですが、他社相当の金額になっただけなので、よほどの不満がなければ乗り換えません。
これが楽天モバイルのスタートダッシュ戦略だったわけです。多少の批判はあったものの、ローボールテクニックとしては、キレイなやり方だったと思います。
≫一貫性の法則とは?小さなコミットメントで相手に「YES」と言わせる方法を解説
戦略⑦:紹介経由で売る
「赤の他人」と「友人」が同じ製品を扱っているなら、当然友人から買おうとするでしょう。より好意を抱いている人から買いたいからです。
赤の他人のあなたが営業すれば、顧客は相見積もりを取るなどして、他社と比較します。しかし既にいる顧客を、顧客の友人に営業させれば、比べられることなく買ってもらえます。
きっちりやるなら、顧客に営業させるインセンティブを用意します。
「友達紹介プログラム」は、紹介した方とされた方の双方に特典をつける手法です。また「ネットワークビジネス(いわゆるマルチ)」は、知り合いに営業させること自体が、ビジネスモデルに組み込まれています。
日頃から顧客と良好な関係を築けているなら、「興味ありそうなお知り合いがいたら、ご紹介いただけくことは可能ですか?」と聞くだけでもOKです。必ずしもインセンティブは必要ないでしょう。
友人の紹介でやってきた営業マンは、友人からの使者です。ぞんざいな扱いをすれば、友人の顔に泥を塗ることになります。他の条件が同じなら、「あなた」から買うしかありません。
ゆるくやるなら、既存顧客や見込み顧客が集まるコミュニティを作るのもアリ。「コミュニティマーケティング」と呼ばれる手法です。熱心な既存顧客が、コミュニティ内で勝手に営業してくれます。
まとめ
今回は、差別化が難しいコモディティ産業や、自社製品を持たない業界でも、他社を差し置いて「あなた」から買ってもらう方法を解説しました。
わたしが営業マンになりたての頃は、半ば諦めていました。魅力的な自社製品がある企業をうらやましく思っていました。しかし実際には、やりようはいくらでもあるもんです。
ホワイトハット方式(正攻法)
- ベストプライス
- サービスをセットにして上位の価値を提供する
- サポートを強化する
- 理念への共感で売る
ブラックハット方式(心理をハックする)
- 恩を売る
- ローボールテクニック
- 紹介経由で売る
企業としては、「ホワイトハット方式」を実践すべきです。顧客の真の目的を察し、より高い次元で目的を達成させるサービスを提供しましょう。理念によってブランドを育てるのも大切です。
営業マンのような個人は、「ブラックハット方式」に頼らざるを得ません。基本的には、日頃から顧客にギブし、その見返りとして受注をゲットします。「信頼で売る」と言い換えても良いでしょう。
ちなみ今回は、「製品で差別化ができない業界」を想定して書きましたが、ちゃんと魅力ある製品で差別化できる業界であっても、これらのテクニックは有効です。
「製品で差別化ができない業界」は、これらのテクニックに頼らざるを得ないというだけの話。誰であっても、実践したらプラスの効果が得られるはずです。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!