ビジネスとは、顧客に価値を与えて、その対価を得ること。個人が顧客となるBtoC市場では、「欲求を満たすこと」が顧客の価値です。
さてビジネスの根源ともいうべき「欲求」とは、なんなのでしょうか?
「欲求」に関する理論は、古今東西に様々あります。古いものは2500年前からあります。3種類で説明するシンプルなものから、40種類にわたる複雑なものまであります。
ただし今のところ、科学的に立証された決定的な理論は存在しません。人間の脳はまだ解明されていないので、あくまで暫定的な理論となっています。
この記事では、代表的な理論やビジネスに使える理論を、計8つ紹介します。
- 三大欲求
- キリスト教の七つの大罪
- ブッダの七大欲求
- マズローの欲求段階説
- アルダファーのERG理論
- マレーの欲求リスト
- 進化心理学
- ケンリックの欲求ピラミッド
これらの理論は、ビジネスでどの欲求を満たすかを考える際に、フレームワークとして使えます。ぜひ腹落ちしたものを使ってみてください。
世界でもっともメジャーなのは、「マズローの欲求段階説」です。ただ個人的には、「進化心理学」で考える欲求の方が納得感があり、気に入っています。
ぜひこの記事を最後まで読んで、ビジネスの根っことなる「欲求」の知識を深めましょう!
三大欲求
日本人が「欲求」と聞いて、最初に思いつくのが「三大欲求」ではないでしょうか?
誰それが提唱している理論というわけではなく、よくある「三大〇〇!」のように、いつしか言われるようになった格言のようです。
- 食欲
:食べたい - 性欲
:交わりたい - 睡眠欲
:眠りたい
これらの3つの欲求は、人間に関わらず、生物が共通して持っている原始的な欲求です。ちなみに性欲を「排泄欲」に置き換える場合もあります。
特に強い3つの欲求と捉えることはできますが、全ての欲求を説明する上では網羅的ではありません。
キリスト教の七つの大罪
キリスト教において、陥ると地獄に落ちるとされているのが「七つの大罪」です。
ちなみに聖書に、明示的に7つの大罪が書かれているわけではありません。カトリックなどの宗派によってはそういう教えをしているそうです。
- 傲慢
:自分が他人よりも優れている思い込み、驕り高ぶること - 強欲
:身の丈以上の欲望を持つこと - 嫉妬
:他人の成功を羨んだり、妬んだりして、不幸や失敗を願うこと - 憤怒
:我を忘れて怒り狂うこと、怒りに身を任せること - 色欲
:浮気や不倫をすること、またのその欲望を持つこと - 暴食
:生きるために必要以上の暴飲暴食をすること - 怠惰
:働かずに自堕落な生活を送ること
ニュアンスとしては、これらの欲求そのものが悪というよりは、必要以上に求めようとすることが悪だと説いています。この「必要以上に求めてしまう」というところがミソ。
普通に生きるためには必要がないのに、本能が過剰に求めてしまう訳ですから。それだけビジネスに繋げやすいと解釈できますね(大罪を誘っているので、キリスト教的にはとんでもない話ですが)。
ブッダの七大欲求
仏教の祖であるブッダ(本名はゴータマ・シッダールタ)が説いたとされるのが、「七大欲求」です。
- 生存欲
:生きたい - 睡眠欲
:眠りたい - 食欲
:食べたい - 性欲
:交わりたい - 怠惰欲
:ラクをしたい - 感楽欲
:音やビジュアルなどの感覚の快楽を味わいたい - 承認欲
:認められたい
ブッダは、「あらゆる欲求に無反応を貫くことが、幸福の秘訣である」と説きました。そして代表的な欲求としてあげたのが7つの欲求。これが原始仏教の教えです。
例えば承認欲は、他人に認められたい、より重要な人物と思われたいという欲求ですね。しかし上には上がいるので、一時的に満たされても、すぐに次を求めます。いっそ捨ててしまった方が心安らかに暮らせるというものでしょう。
仏教もキリスト教と同様に、「必要以上に求めるのが悪」というニュアンスを持っています。ただ仏教の方は、1ミリでも欲を持つのはNGという感があり、より清廉な姿勢を求めています。
マズローの5段階の欲求
世界でもっともメジャーな欲求の理論が、心理学者アブラハム・マズローが説いた「5段階の欲求」です。
これまで紹介してきた理論が単に欲求リストを提示していたのに対し、マズローは欲求に段階があると考えました。
- 生理的欲求
:生命維持に関する欲求で、最も根源的な欲求 - 安全の欲求
:安全な環境を求めたり、身分を安定させたいと願う欲求 - 所属と愛の欲求
:他人との繋がりを求める欲求 - 承認の欲求
:他人から認められたい欲求や、自尊心を満たしたい欲求 - 自己実現の欲求
:自分らしさを追求したい欲求
低次の欲求が満たされていない場合は、まずはそれが優先されます。低次の欲求が満たされるにしたがって、高次の欲求にシフトしていきます。
食糧がなく、いつ餓死するともわからない人は、まず生理的欲求に属する食欲を満たそうとします。一足飛びに、ブランド物の腕時計で承認欲求を満たそうとはしないでしょう。
現代の先進国では、ほとんどの国民が中流階級となり、生命に関わる欲求はある程度満たされています。より高次な欲求にも手を伸ばす人が増えていると考えられます。
5段階を見てみると、低次な欲求ほど動物的であり、高次に行くほど社会的になっているのが分かります。そして最上位の「自己実現の欲求」は、人間特有の欲求と考えられます。
世界的にもよく引用されていて、本サイトでも度々取り上げているマズローの説。しかし実験による統計データを踏まえておらず、科学的に立証されていないという弱点もあります。
「高名なマズローさんが言ってるから」ということで、市民権を得ている格好です。
≫マズローの欲求段階説とは?例を交えて丁寧に説明【全ての根源は「欲求」にある!】
アルダファーのERG理論
心理学者であるクレイトン・アルダファー氏が、マズローの欲求段階説を改良してできたのが「ERG理論」です。
まずマズローの5段階の欲求を、3段階にシンプルにまとめました。
- 生存欲求(Existence)
:生き延びるために最低限必要な環境を求める欲求。生理的な欲求や、物理的な安全を求める欲求が含まれる。 - 関係欲求(Relatedness)
:人間関係に関する欲求。他人と有効な関係を築きたい欲求や、他人に認められたい欲求が含まれる - 成長欲求(Growth)
:人間が本来持っている成長し続けたいと願う欲求
この3分類の意味を考えてみると、
- 生存欲求=動物的で、全ての動物が求める欲求
- 関係欲求=社会的で、群れをなす動物が求める欲求
- 成長欲求=人間的で、人類だけだ求める欲求
と解釈できそうですね。
やはりマズローと同じく、低次の欲求から優先的に満たそうとします。ただし高次の欲求が満たされないと、低次の欲求を遡って求める「可逆性」という現象を認めています。
とは言え、マズローの5段階の欲求と大同小異で、使い勝手はあまり変わりません。好きな方を選んでみてください。
≫【活用方法つき】アルダファーのERG理論とは?マズローの欲求段階説との違いは?
マレーの欲求リスト
心理学者ヘンリー・マレーが説いた「マレーの欲求リスト」は、心理学で最初に生まれた欲求リストとされています。前述のマズローやアルダファーの理論より少し前に誕生しています。
- 臓器発生的欲求
:臓器から発する欲求。生理的欲求とも呼ばれる - 心理発生的欲求
:臓器からは直接発しない欲求。社会的欲求とも呼ばれる
の2カテゴリーに分けて、それぞれで計40種類もの欲求をあげている点が特徴です。
臓器発生的欲求
欠乏から摂取を求める(4つ)
- 吸気欲求:酸素を求めたい
- 飲水欲求:水を求めたい
- 食物欲求:食べ物を求めたい
- 感性欲求:身体的な感覚を求め、楽しみたい
膨張から排泄を求める(4つ)
- 排尿・排便欲求: 尿や便を排泄したい
- 性的欲求:性的関係を得たい、快楽を得たい
- 呼気欲求:息を吐きたい
- 授乳欲求:乳児へ授乳したい
危機から回避を求める欲求(4つ)
- 暑熱回避欲求:適正体温を維持したい
- 寒冷回避欲求:適正体温を維持したい
- 毒性回避欲求:有毒なものを回避し逃れたい
- 傷害回避欲求:病気、怪我、死を避けたい
全ての動物が感じるであろう欲求を、「臓器から来る欲求」と定義されています。この解釈とセンスは、個人的にしっくり来るものがありました。
心理発生的欲求
物質(モノ・金)を求める欲求(5つ)
- 獲得欲求:お金やモノをを得たい、増やしたい
- 保持欲求:お金やモノを手放したくない
- 保存欲求:モノを収集したい、傷つけないように保存したい
- 秩序欲求:整理整頓したい
- 構築欲求:組織化したい、組み立てたい、築き上げたい
向上心・野心に関する欲求(4つ)
- 承認欲求:認められたい、尊敬されたい、自慢したい
- 達成欲求:困難を乗り越えたい、挑戦して成功したい
- 顕示欲求:楽しませたり注意を惹きたい、目立ちたい
- 優越欲求:社会的地位を上げたい、他者より優れていたい
自己防衛・保身に関する心理欲求(4つ)
- 不可侵欲求:批判から逃れたい、自尊心を傷つけないようにしたい
- 防衛欲求:自分を正当化したい、避難や軽視から自身を守りたい
- 屈辱回避欲求:屈辱を避けたい、失敗して笑われたくない
- 中和欲求:失敗をリベンジしたい、弱さを克服して名誉を守りたい
支配・権力に関する欲求(7つ)
- 支配欲求:他人をコントロールしたい、影響を与えたい、統率したい
- 服従欲求:優秀な人に服従したい、協力したい、仕えたい
- 同化欲求:他人を真似たい、同意したい、同化したい
- 自律欲求:他人の影響や支配に抵抗したい、独立したい
- 攻撃欲求:他人を軽視して意地悪したい、攻撃して奪いたい
- 屈従欲求:他人に降伏したい、謝罪したい、罰を受け入れたい
- 対立欲求:独自の存在でいたい、他人と違った行動をしたい
禁止に関する欲求(1つ)
- 非難回避欲求:ルールや法に従い、処罰や罪を避けたい
愛情に関する欲求(4つ)
- 親和欲求:他人と交流したい、集団に加わりたい、仲良くしたい
- 養育欲求:困っている人を助けたい、同情したい、保護したい
- 援助欲求:保護されたい、同情されたい、愛されたい
- 拒絶欲求:他人を無視したい、差別したり排除したい
娯楽に関する欲求(1つ)
- 遊戯欲求:リラックスしたい、気晴らししたい、遊びたい
情報・知識に関する欲求(2つ)
- 認知欲求:知識を学びたい、理解したい、好奇心を満たしたい
- 説明欲求:他人に指摘したい、証明したい、教えたい
これらの臓器と関係しない欲求は、群れを成す社会的な動物のみに見られる欲求に見えますね。
全40種類を「具体的で当てはめやすい」と捉えるか、「まとまりがない」と捉えるかは、その人次第。ただ細かく分類するほど、応用ケースを想定しづらくなる点は要注意です。
進化心理学
心理学の中では、比較的マイナーな「進化心理学」。しかし欲求を理解する上で、個人的にしっくりくるのが進化心理学の考え方です。
進化心理学では、多くの人間が共通して持っている心理は、進化の過程で適応した(生きるために都合が良かったため、淘汰の末に残った)と考えます。
生物の究極の目的は、子孫を作ることです。人間も例外ではなく、全ての欲求は「子孫繁栄」の一点につながっていると考えます。
子孫を残すためには、大きく次の2つの欲求を求めることになります。
- 繁殖
:異性と生殖行為をする。あるいはそのチャンスを得るために、異性の気を引こうとする - 生存
:自分が死なないようにする。また子孫を残すための配偶者や、子孫である子どもを維持しようとする
ビジネスで欲求を捉える際は、直接的であれ、間接的であれ、「繁殖」か「生存」のどちらかに強く結びついているかでジャッジすると良いでしょう。
パッと思いつく通り、医療や性産業は欲求にストレートに応えています。ゆえにどちらも強い吸引力がある産業となっています。
お金を稼ぐ系のジャンルは、今も昔も吸引力のあるビジネスです。お金は生存する上で不可欠であると同時に、たくさん持っていれば繁殖にも有利(つまりモテる)です。ゆえにお金に対する欲求は強力です。
サバンナ原則とは?
進化心理学の重要な前提条件に「サバンナ原則」があります。狩猟採集民だった数万年前に存在しなかったモノや環境は、現代人も本能的には理解できないという内容です。
生物の進化は、1000年や1万年程度では起こりません。人類に共通する心理は、脳の進化の産物です。我々の脳は、まだサバンナで生活していた遠い祖先と全く変わらないのです。
祖先にとって食料は貴重な存在であり、生きるために不可欠なエネルギー源でした。全く同じ脳を持っている現代人は、飽食の時代を本能では理解できません。
「カロリー=食べろ!」が本能です。だから生存への欲求が、甘いものや動物性脂肪を過剰に求めてしまうのです。
一方で同じ食事に関する話でも、「カロリーを控えめのダイエット食」は、祖先にとっては生存を危うくします。脳は理解できないコンセプトでしょう。
本能レベルではダイエット食を、生存への欲求を満たすための食糧とはカウントしません。異性を惹きつけ、繁殖への欲求を満たすためのツールと見なしています。
まとめると、進化心理学で欲求を考えるときは、
「数万前の祖先の気持ちになって、そのアイデアが【繁殖】か【生存】に結びつくかで判断する。ただし当時存在しなかった概念は理解できないと仮定する」
を意識しましょう。
自動車の広告を考えるとき、早く移動できるなどの性能に関する訴求は、本能レベルではアピールになりません。カッコ良いイメージ(モテる)や、家族団欒のイメージ(家族の生存)が必要です。
ちなみに進化心理学は、男女の違いによる欲求の違いや、年齢の違いによる行動の違いも説明しています。いずれも他の心理学では見られないもので、マーケティングでは大いに活用できるでしょう。
≫【下世話!】進化心理学をわかりやすく解説。欲求の本質を学ぼう【人間もタダの動物だった!】
ケンリックの欲求ピラミッド
前述の進化心理学の知見を使って、「マズローの欲求段階説」にチャレンジしたのが「ケンリックの欲求ピラミッド」です。
高次の欲求を実現するために、低次の欲求が必要になるという意味で、ピラミッドの形をとっています。マズローの説よりもこちらを好んで使う人もいます。
- 子育て(Parenting)
:自分の遺伝子を持った子孫を守り、次世代へ引き継がせる - パートナーの維持(Mate retention)
:パートナーを繋ぎ止め、他の異性と生殖行為をさせないようにする - パートナーの獲得(Mate acquisition)
:生殖行為の相手を獲得する - 地位/尊敬(Status / Esteem)
:他者より優位な地位を築き、異性を惹きつける - 所属(Affiliation)
:集団に属し、助け合うことで、生存確率を上げる - 自己防衛(Self-Protection)
:生命を脅かす脅威から身を守る - 喫緊の生理的欲求(Immediate Physiological Needs)
:食欲や睡眠欲、排泄欲のような生理的な欲求
心理学者のダグラス・ケンリック氏は、著書『野蛮な進化心理学』で、「マズローは、人間の一生において繁殖が持つ中心的な重要性を語っていない」と批判しました。
そしてマズローのピラミッドの頂上にあった「自己実現の欲求」を取り去ってしまいました。自己実現に邁進するのも、結局のところは異性を惹きつけるのが真の目的だと説明しています。
ケンリックの主張時、マズローは既に亡くなっていました。マズロー的には、人間が人間たる所以を「自己実現の欲求」に見出していたように感じます。おそらく反論の一つや二つはあるでしょう。
このピラミッドの頂点は、「子育て」となっています。自分の遺伝子を存続させるのが生物としての目標であり、究極的には自分の子供に孫を作ってもらってゴールとなります。
なお実際に太古の祖先を観察したわけではないので、進化心理学という学問自体、仮説の域を出ていません。マズローもケンリックも、科学的な裏付けがあるわけではないのです。
どちらが正解に近いかは神のみぞ知るところ。個人的にはどちらも納得する部分が多分にあります。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!