顧客には大きく2種類います。「新規顧客」と「既存顧客」です。
少し前までは「新規獲得至上主義」がはびこっており、既存顧客は蔑ろにされてきました。
しかし「1:5の法則」や「5:25の法則」により、既存顧客を維持する方が実はコスパが良いと知られるようになり、徐々に新規獲得に偏ったマーケティングは消滅しつつあります。
この記事では、顧客獲得のコスパを説いた「1:5の法則」や「5:25の法則」を解説しています。またどういう理屈でそうなるのかもわかりやすく解説しています。
読み終えたあなたは、雰囲気ではなくロジカルに新規顧客と既存顧客にリソースを割り振れるようになります。
リソースが限られる中小企業・スタートアップのマーケティング担当者や自営業者は、ぜひ最後までチェックしてみてください。
1:5の法則と5:25の法則とは?
1:5の法則
1:5の法則とは…
新規顧客の獲得コストは、既存顧客から売上を上げるためにかかるコストの5倍かかるという法則
会話の中では「イチゴの法則」と言われることが多いですね。
イメージしやすいように、単価1,000円のラーメン屋を例に考えてみましょう。
新規顧客を獲得するために、駅に広告を出したり、オープンキャンペーンで半額の500円でラーメンを提供したりします。顧客1人当たりび獲得コストは、仮で500円としましょう。
この場合、既存顧客に次回食べに来てもらうためのコストは、5分の1の100円で済みます。トッピングサービス券でもあげておけばまた来てくれる。そんなイメージです。
5:25の法則
また類似の法則に、「5:25の法則」があります。
5:25の法則とは…
5%の既存顧客流出を防ぐことで、利益率は25%改善されるという法則
「なぜ流出を防ぐと利益が改善されるのか?」と感じた人もいるかもしれません。
しかしこのロジックは正しく、かつ単純な算数の話です。
流出を防げばコストが5分の1で済むので、その分多くの利益を残すことができますね。厳密には、そのままでは利益率-25%になるところが、±0%で済むという話です。
「1:5の法則」と「5:25の法則」は、どちらも同じことを言っています。
流出してしまった顧客の売上を穴埋めするためには、5倍のコストを払わなければなりません。だから既存顧客は死んでも流出させてはならぬという訳です。
つまり「リテンション」の重要性を説いています。”retention”は、”retain(維持する)”の名詞形です。顧客を維持するためのマーケティング全般を指す用語です。
法則の根拠は?
「1:5の法則」と「5:25の法則」は、どちらも同じ人物が提唱しています。
大手コンサルティングファームであるベイン・アンド・カンパニー社の名誉ディレクターフレデリック・F・ライクヘルド氏です。
どちらも同氏が顧客調査によって導き出した法則です。ちなみに同氏は、有名なNPS(ネットプロモータースコア)の提唱者としても知られています。
既存顧客のマーケティングコストが低い理由
既存顧客の維持は少ないコストで済む理由は、大方のイメージ通り新規獲得に必要な広告費などがかからないからです。
ただこのイメージだけだと弱い理解になってしまうので、よりロジカルに考えてみましょう。
顧客の購買体験を時系列にした「カスタマージャーニー」に当てはめてみました。
新規顧客の「旅」はこれから始まる
新規顧客の場合、最悪製品の存在を知らないところから始まります。情報の波をかき分け、まずはあなたの製品を知ってもらわなければなりません。
知ってもらった後は、競合の中からあなたの製品を選んでもらわなければなりません。他の製品との違いを理解させるために、生身の人間が説明しなければならない場合もあるでしょう。
それでも新規顧客は、買った後に本当に失敗しないか不安です。その不安を払拭するためには、無料サンプルを進呈したり、1ヶ月無料でお試しさせたりします。
そこまでやっても購入に辿り着かない人もいます。新規顧客を購入に至らせるまでは、非常に険しい道のりなのです。
既存顧客は既に「旅」の後半にいる
一方で既存顧客は、少なくとも1度は購入まで辿り着いています。その製品を知っているだけでなく、一度はその価値を認めています。
加えて今日のビジネスモデルの多くは、インターネット上で顧客接点を持っています。既存顧客の連絡先(メールアドレスやSNSアカウント)までゲットできているのです。
新製品やイベントにお客さんを呼びたい場合、比較的良い反応が期待できる顧客に直接コンタクトが取れるのはかなりのアドバンテージ。しかもメールならタダ同然です。
リピートしてもらうには多少頭は使うかもしれませんが、大きなコストは必要としません。
≫【今でも重要】カスタマージャーニーとは?意味・目的・作り方を解説【サンプルあり】
【教訓】1:5の法則の成功例と失敗例
「1:5の法則」を教訓とすると、現実世界のマーケティングから成功例と失敗例を見つけることができます。
アリとキリギリスみたいな対比で読んでいただければと思います。
成功例:地方のスナック
地方のスナック(都会のスナックも同じかもしれませんが)は、基本的に既存顧客だけで成り立っています。
少なくとも新規顧客のためにマーケティングをしているとは思えません。新規の顧客はほとんどいないのに、なぜか地方のスナックはなかなか潰れません。
スナック経営者が「1:5の法則」を意識しているとは限りませんが、結果として既存顧客への投資に重きを置いていることがわかります。
お客さんの顔を覚えて、次回来てくれたらそのお客さんに合った話をしたり、何も言わずにいつものお酒を出してくれます。それが居心地の良さにつながっています。
また近所の他のお店(八百屋、美容院、中華料理屋など)に、自分もお客さんとして行くことで人間関係を作っています。だから近所の人が夜な夜なスナックに遊びに来てくれます。
常連客が足繁く通ってくれるから、大したコストがかからず、細々でも末長く営業できているわけです。昔から続いている街の商店は概ね同じ構図になっています。
失敗例:通信キャリア
その昔、通信キャリア(携帯電話)は、他社に移ると電話番号が変わってしまう仕様でした。当時はキャリアのメールアドレスを使っていたので、他社に移るとメアド変更の連絡をしなければならないのも億劫でした。
そのため多くの人が1つのキャリアを長く使う傾向があり、10年以上の長期顧客はザラ。わたし自身も15年ほどKDDIを使っていました。
しかし2006年にMNP(番号ポータビリティ制度)が始まります。各社は他社から新規顧客を奪うことに躍起になり、こぞって乗り換えキャンペーンを仕掛けました。
新規顧客には数万円のキャッシュバックを用意しているにも関わらず、長年使ってくれている既存顧客は一切無視。これが当時のMNP合戦の様相です。
これでは既存顧客はバカみたい。わたしは格安SIMに乗り換えました。なお15年使った恩恵はたった2万ポイントだけ(新規顧客へのキャッシュバックより安い!)でした。
既にほとんどの日本人が携帯電話を使っている状況では、各社がいくらキャンペーンしようと業界全体ではお客さんは増えません。
間抜けな話ですが、キャリア間を顧客が行ったり来たりするだけの結果に、各社は巨額のマーケティングコストを支払ったわけです。これが既存顧客をバカにしたツケです。
余談ですが、戦国時代の様相と通じるところがあります。
各国の武将は、他所の領土が欲しかったのではなく、自分の領土を守りたかっただけ。しかし守るためには、奪われる前に倒さねばならなかったのです。
新規獲得と既存維持に割くリソースのバランス
「1:5の法則」を解説した本記事は、基本的には「既存顧客を大切にせよ」という論調です。しかし新規獲得を0にはできません。
いくら既存顧客を大事にしても、自然減は出てきてしまうからです。引っ越したり、ライフスタイルが変わったりすれば、製品に満足していても離脱は起こります。
新規獲得と既存維持にかけるリソースのバランスを考えてみましょう。具体的な数字はビジネスによって変わりますが、大雑把な考え方は示せます。
考え方①:事業ステージで考える
事業のステージが、「立ち上がったばかり」なのか「既に成熟して繁盛している」なのかでで、力の入れ具合が変わります。
開店したてのクリニックなら、あの手この手で新規顧客を呼び込まなければなりません。しかし先程の例のように、既に常連客がいるスナックは既存顧客だけに力を入れます。
ただし立ち上がったばかりで新規獲得に力を入れていたとしても、入ってきた顧客をフォローしなければ流出していきます。これでは自転車操業ならぬ、自転車マーケティングです。
少しでも既存顧客ができた瞬間から、既存顧客の維持活動は始めなければなりません。
考え方②:製品のライフサイクルで考える
製品市場には寿命があります。製品の寿命を4ステージに分けて考える「プロダクトライフサイクル」に当てはめて考えてみましょう。
はじめの導入期は、市場のポテンシャルに対して顧客が少ない状態です。既存顧客よりも、まだ購入に至っていない潜在顧客の方が多いということです。
つまり導入期に近いほど、新規獲得の比重は高くなります。
衰退期に近づくにつれ、潜在顧客が減っていきます。しかも購買意欲が低い顧客ほど後に残るので、獲得コストはどんどん上がっていきます。
よって衰退期に近づくほど、既存維持の方がコスパが高くなります。最終的には新規顧客は限りなく0になり、既存顧客の維持だけになります。
≫【栄枯盛衰の法則】プロダクトライフサイクルとは?各ステージでとるべき戦略を解説
考え方③:市場のシェアで考える
市場シェアをどれくらい獲得しているかでも、力の入れ具合が変わります。
極端な話をすると、シェア0%なら新規獲得しかあり得ませんし、シェア100%なら既存顧客の維持しかやることがありません。
「ランチェスター戦略」は、市場のシェアを何%取れば良いかを明らかにしています。
- 2社間の競争なら「73.9%」
- 3社以上の競争なら「41.7%」
が地位の揺るがないとされる最終目標値。それ以上は必要ありません。
ゆえにこのパーセンテージを閾値と考え、足りなければ新規獲得を、到達したら既存維持をメイン戦略に据えるのが良いでしょう。
なおここでの市場シェアは局地的な話。全国のシェアではなくその地域のシェア、全ジャンルではなく特定ジャンルのシェア、と捉えてください。
≫【弱者の勝ち筋】ランチェスター戦略とは?市場シェア「41.7%」「26.1%」を目指せ!
コストを抑えて新規獲得する3つの方法
ときに最近では広告費0の企業も珍しくありません。なぜそんなことが罷り通るのか?
実はバカ正直に5倍のコストを払わなくても顧客獲得できる方法はあります。最後にその方法についても触れておきましょう。
方法①:離脱顧客を取り戻す
離脱顧客も既存顧客と同じで、一度カスタマージャーニーを通過しています。0からマーケティングする必要がないので、新規獲得よりも低コストで獲得できる層です。
一度離脱した顧客は取り戻せないと思うかもしれませんが、それは間違いです。
古典的なマーケティング本である『ハイパワーマーケティング』では、次の通りに離脱顧客へのアプローチ方法を紹介しています。
離脱パターン別のアプローチ
- 何かのきっかけで偶然購入がストップ
:ただ連絡するだけでOK。顧客は価値を感じているものの、急を要さないので戻ってくるきっかけを待っている - 問題や不満により購入するのをやめた
:コンタクトを取り、不満の原因を取り除けば7割の顧客は戻ってくる。しかも以前よりエンゲージメントが高くなる傾向がある - そもそも需要がなくなってしまった
:戻っては来ないが、最近購入がないのを気にかけて連絡することで、好印象を与えられる。結果として他の顧客に紹介してくれる
なお連絡するまでは、どの理由で離脱しているか分かりません。
まずはしばらく連絡せずに申し訳なかった旨を伝えます。そして対応に不備がなかったか、いま現在困っていないかを聞きます。
以降は返ってくる反応によって対応を変えましょう。
離脱顧客の取り戻し方は、↓の記事でより細かく解説しています。気になる人はチェックしてみてください。
≫【実は良コスパ】離反顧客・休眠顧客を取り戻す3ステップのアプローチを解説
方法②:バイラルマーケティング
自社で新規顧客を獲得するのは大変。なので既存顧客に別の顧客を紹介してもらう「バイラルマーケティング」を使いましょう。
バイラル(virus)とは「ウイルス性(つまりウイルスのように広まる)」という意味。要するにクチコミのことです。
クチコミを発生させるためには、まず第一に品質が高いことが条件になります。低品質な製品を他人に紹介してしまうと、信頼に傷がつくので勧めてもらえません。
ただし品質が高いだけだと、誰かに聞かれたときは紹介してもらえますが、能動的な紹介は期待できません。
能動的なクチコミを得るためには、紹介したら顧客が何らかのメリットを得られる構造を作る必要があります。
能動的なクチコミを得るコツ
- 経済的メリット
:友達を招待したらポイントやアイテム、何かしらの権利などをゲットできる - 承認欲求を満たす
:高級品、限定品、レア物、かっこいい・かわいいといったステータスを誇示できるモノ。見せびらかすことでステータスになる - 自己実現を助ける
:強いメッセージを帯びた製品や、ライフスタイル製品、環境に優しい製品など。その製品を持っていると公言することで、自分の価値観を伝えられる - 2次利用の許可
:キャラクターなどは、2次利用可能とすることで拡散してもらえる。初音ミクは非営利なら2次利用ほぼOK。くまモンは熊本県に関係していれば、営利目的でも利用ができる
典型的なのは「①経済的なメリット」です。ポイントやキャッシュバックのようにお金に近いメリットの印象が強いのですが、それだけではありません。
Dropboxは友達を紹介すると、双方に無料で追加ストレージが贈られます。ソーシャルゲームでは、限定アイテムをプレゼントする手法が一般的です。
初代ポケモンには通信ケーブルで友達と交換しないと進化しないポケモン(ゲンガーなど)がいました。経済的かと言われると微妙ですが、これも一種のバイラルです。
方法③:コミュニティマーケティング
ファン同士が集まると、そこに「顧客コミュニティ」が出来上がります。そして意図的に顧客コミュニティを作る手法を「コミュニティマーケティング」と呼びます。
理屈は難しくありません。ぜひ小学生の頃を思い出してみてください。
友達の何人かが週刊少年ジャンプを読み始めれば、周りの友達もつられて読み始めます。誰かがドラクエの話で盛り上がっていれば、他の友達もドラクエを始めたくなります。
活発な顧客コミュニティが出来上がると、そのコミュニティ構成員の周りの人に、製品が伝播する現象が起きます。これも一種のバイラルと呼んで良いかもしれません。
またコミュニティができると、漫画やゲームそのものが面白いという理由以外に、「友達と楽しいコミュニケーションが取れて楽しい」という別の価値が生まれます。
顧客コミュニティは、離脱防止にもなり、顧客エンゲージメントの向上にもなり、また新規顧客の獲得にもつながります。一石三鳥のメリットがあります。
ただしコミュニティ運営は見た目より難しいもので、カンタンに考えると失敗します。
まず何の目的を持って集まるコミュニティなのかをはっきりさせなければなりません。そしてその目的は、ちゃんと顧客の欲求を満たす内容でなければなりません。
また売り込みのためのコミュニティになってしまうと、サーッと人がいなくなってしまいます。あくまで顧客が主役。顧客の交流の場と考えるべきです。企業側は場の盛り上げ役に徹しましょう。
まとめ
今回は「1:5の法則」と「5:25の法則」を紹介しました。
1:5の法則とは…
- 新規顧客の獲得コストは、既存顧客から売上を上げるためにかかるコストの5倍かかるという法則
5:25の法則とは…
- 5%の既存顧客流出を防ぐことで、利益率は25%改善されるという法則
カスタマージャーニーの最初から仕掛けていかなければならない新規顧客は、獲得までに長い道のりを要します。当然それだけコストもかかります。
しかし既にカスタマージャーニーのお尻の方に来ている既存顧客は、ちょっとプッシュするだけでリピート購入してくれます。
既存顧客の流出は高くつくので、最優先で食い止めなければならないという話ですね。
ただし既存顧客は、どんなに頑張ってフォローしてもいなくなってしまうケースがあります。そのため新規顧客の獲得にかけるリソースは0にはできません。
どれだけ新規顧客にもリソースを割くべきかは、状況によって異なります。
新規と既存へのバランスの取り方
- 事業ステージで考える
:立ち上がりは新規、繁盛したら既存を重視 - 製品のライフサイクルで考える
:導入期は新規、衰退期に近づくにつれ既存を重視 - 市場シェアで考える
:安定的地位となるシェアまでは新規、それ以降は既存を重視
どちらかと言えば、新規顧客に目を向けたり、新規獲得をより高く評価する企業が多いのではないでしょうか?
状況によりけりですが、事業が進展すればするほど、増えた既存顧客のフォローにリソースを充てていくべきでしょう。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!