顧客に製品を提案するとき、次のどちらが売上アップにつながると思いますか?
- A:欠点は隠して、良い面だけを伝える
- B:良い面だけではなく、欠点も素直に伝える
心理学の両面提示と片面提示によれば、答えは、「欠点は晒すべし」です。
この記事でわかること
- 片面提示と両面提示の意味
- なぜ欠点を晒すと売れるのか?
- 両面提示をマーケティングで実践する方法
外面を良く見せるばかりがマーケティングではありません。意図的に欠点を晒すこともまたマーケティングなのです。
この記事を読み終えたあなたは、欠点を晒すことの重要性を知ることになります。それも感覚ではなく、論理的に。そして確信的に。
マーケターは必須で知っておきたい知識です。是非ご一読を。
片面提示と両面提示とは?
まずは片面提示と両面提示の意味を押さえましょう。
- 片面提示
:メリット(またはデメリット)のみを伝える提案 - 両面提示
:メリットとデメリットの両方を伝える提案
ザッツオール。シンプルな対比の概念です。
「片面提示」が向いているシーン
片面提示で、相手が「Yes」と言うのは、次のシーンです。
- あなたが相手から全幅の信頼を受けている
- 提案内容に関し、相手の知識が全く足りていない
- 相手がマヌケ。または気が動転している、焦っている
もしあなたが信頼されているのであれば、相手はあなたの提案を疑う必要がありません。その域まで到達すれば、片面提示でも両面提示でも、「Yes」の結果は変わりません。
それ以外だと、片面提示が向いているシーンは、現実的にはあまりありません。
「両面提示」が向いているシーン
両面提示の方が「Yes」を引き出しやすいシーンは、次の通りです。
- あなたと相手の間に、まだ信頼関係がない
- 提案内容に関し、相手がある程度の知識を持っている
- 相手が、比較検討するくらいには思慮深い
現実のビジネスシーンでは、両面提示が向いているシーンの方が多いと思われます。
「両面提示」がより重要な時代に
インターネットの登場により、今日の顧客は、過去のどの時代よりも賢くなっています。
自分が欲しいと思う製品に対し、事前に情報を持っているのが通常です。また提案を即決で受け入れるのではなく、ネットでクチコミを調べてから判断する習慣が身についています。
悪い情報は、もはや隠し通せません。都合の良いことしか口にしない「片面提示」は、信用されないばかりか、後から調べられて信頼を失うハメになります。
現代のマーケティングで採用すべきは、「両面提示」です。都合が悪い情報も、包み隠さず伝える正直者が、顧客の信頼をつかむ時代になったのです。
両面提示の実験事例
社会科学者ゲルト・ボーナーが、2003年に行った両面提示に関する実験を紹介します。
レストランの広告を3種類作成し、それを被験者に評価してもらった。
広告の種類は次の通り。
- メリットだけ
:当店はくつろいだ雰囲気です - 関連がないメリットとデメリットを載せた
:当店はくつろげる雰囲気ですが、専用駐車場はありません - 関連があるメリットとデメリットを載せた
:当店は狭いですが、狭さを活かしたくつろげる雰囲気です
その結果、評価が高い順に、③>②>①となった。
メリットだけの片面提示よりも、デメリットも加えた両面提示の方が効果が高い、という結果になりました。
またデメリットを単に提示するだけよりも、メリットとデメリットが関連している方が効果が高いという点も、示唆に富んでいます。
なぜ両面提示は売れるのか?
さて、なぜ両面提示にしたほうが、顧客の印象が良くなるのでしょうか?その理由を考えてみましょう。
端的に言えば、顧客が、「あなたは正直者なので、きっと私に不利な提案はしないだろう」と感じるからです。つまり「信頼を勝ち得る」ということです。
これでこの章を終えても良いのですが、もう少し考察しましょう。より本質的な考察です。
「不確実性」に着目せよ
イソップ物語「金の斧銀の斧」を読んで、「たった1度正直に話ただけで、そんなご褒美がもらえるの?」と、ちょっと行き過ぎに思いませんでしたか?
正直に話せば、いくらかの信頼は得られるでしょうが、初対面ですぐに信頼が完成するとは思えないですよね。
しかし顧客の信頼を勝ち得ているか否かに依らず、欠点を晒せば、顧客が感じる「不確実性」は絶対に減らせます。ここがミソなのです。
株式市場では、株価にマイナスな悪い噂が立ち登ると、その噂を織り込んで株価が下がっていきます。不確実性は、株価を下げる要因になります。
しかしいざその噂が現実になると、株価はドンと下がると思いきや、底打ちして上昇に転じます。悪い噂が現実になったことで、不確実性の霧が晴れたからです。
それ以上悪くならないと判明したので、投資家は安心して買い戻せるのです。
不確実性がある状態だと、そのまま突き進んだ場合に、後でどれほど大きなしっぺ返しをくらうかわかりません。この状態を「リスクが大きい」と表現します。
(注:厳密には、不確実性とリスクは同義語です)
リスクが大きい状態では、行く手にどれほど深い沼が待ち構えているのかわからないので、足を踏み出せなくなります。
しかし欠点があらかじめわかっていれば、後で起こるかもしれない悪い出来事は予測可能になります。計算できる未来は、もはやリスクではありません。
沼の深さが30cmとわかれば、あとはそれを受け入れるかどうかの判断になります。受け入れ可能なら、迷う理由はもうありません。
まとめると、次の流れになります。
- <あなたが>欠点を晒す
- <顧客の>不確実性が減る(=リスクが減る)
- <顧客は>悪い未来が予測可能になる
- <顧客は>悪い未来が許容可能か判断する
- <顧客の>許容範囲内なら買わない理由がなくなる
欠点を晒せば、顧客の前に漂っている不確実性の霧が晴れ、購入を躊躇する理由がなくなるのです。だから売れるんです。
両面提示を上手に使うコツ
マーケティングや営業で、両面提示を上手に使うにはコツがあります。最大限の効果を引き出しましょう。
コツ①:欠点を先に言う
順番の話です。メリットとデメリット、どちらを先に言うか?
結論を言ってしまうと、「欠点を先に述べよ」です。
以下の例文なら、「A」が正しい順番となります。
この商品は、
- A:高額ですが、耐久性があり長持ちします。
- B:耐久性があり長持ちしますが、高額です。
悪い話を先に聞き、後で良い話を聞くと、実際よりも大きな差に感じるようになります。これを「コントラスト効果」と呼びます。
また2つの相反する情報を聞いたとき、より記憶に残りやすいのは、直近で聞いた方になります。こちらは「親近効果」と呼ばれています。
コツ②:メリットとデメリットを関連させる
前述の実験の通り、メリットとデメリットは、リンクしている方が顧客の好印象度がアップします。
つまり、「デメリットは、メリットの裏返しである」と表現するのがベストです(順番は、デメリットを先に、メリットを後にするのを忘れずに)。
- (デメリット)品揃えは少なめですが、
(メリット)当店は自信を持って提供できる品しか取り扱っておりません。 - (デメリット)お料理をお出しするのにお時間がかかりますが、
(メリット)注文を受けてから一品ずつお作りしています。
といった表現が良いでしょう。
コツ③:不確実性を残さない
両面提示の本質的な効果は、顧客の「不確実性」を減らすことにあります。
顧客が感じているであろう懸念や不安に対し、先回りして情報を与えます。そのためには、インタビューやクチコミから、顧客の感情を理解しておかねばなりません。
完全に払拭できる懸念もありますが、消しきれない懸念もあります。しかしそれでも、懸念材料は洗いざらい伝えて、不確実性を減らすのが正しい判断です。
ちなみに顧客のリスクを先回りして消しこむマーケティング手法は、「リスクリバーサル」とも呼ばれます。両面提示は、リスクリバーサルの一手法と言えるでしょう。
≫【断らせない】リスクリバーサルで購入ハードルは劇的に下がる【マーケティング18事例】
欠点を言ったら顧客が逃げるのでは?
「欠点をバカ正直に伝えたら、取れたはずの顧客を取りこぼす」と考える人もいるかもしれません。しかしその意見は近視眼的。中長期のビジネスに沿った考え方ではありません。
欠点が理由で買うのをやめた顧客は、そもそもあなたの顧客になり得なかったのです。
もしそんな顧客に買わせてしまったら、不満に感じてあなたの敵に回るでしょう。クレームを入れてくれるならまだマシ。多くは何も言わずに去っていき、悪評をバラまきます。
カスタマーサポート業界でよく知られる「グッドマンの法則」の提唱者は、次のような調査結果を出しています。
- 不満を持った顧客の96%は何も言わない
- 悪いクチコミは、良いクチコミの2〜4倍拡散する
- 悪いクチコミは、平均で9〜10人に広まる
1人の顧客に欠点を隠して売れば、10人の未来の顧客を失うことになりかねません。
ちなみにこの調査結果は、インターネットが普及する前の話。現代の悪いクチコミは、より加速度的に広まるでしょう。そのような禍根を残すわけにはいきませんね。
≫【ピンチは大チャンス】グッドマンの法則とは?苦情を売上に変えるマーケティングのススメ
どのシーンで両面提示を使うか?
さて欠点を晒すのが良いとして、どのタイミングで晒すのが良いのでしょうか?
マーケティングで両面提示を実践するタイミングについても解説します。
王道は「比較検討」や「購買」のフェーズ
顧客が製品を認知し、その後に購買、あるいは他人への推奨に至るまでの一連の流れを、「カスタマージャーニー」と呼びます。
前半の「認知」や「関心」のタイミングでは、顧客は製品のメリットに目が止まります。
主な「認知」「関心」の施策
- テレビCM
- インターネット上のバナー広告
- 街中のポスター
普通はメリットだけを伝える片面提示で、デメリットを伝えるケースはほとんどありません。スペースにも限りがあるので、大きくデメリットを書くことはしません。
両面提示が必要になるのは、後半の「調査(比較検討含む)」や「購買」のフェーズ。
主な「調査」「購買」の施策
- 公式サイトの製品ページ
- 導入事例
- クチコミ
- 営業マンのクロージング
顧客は製品のメリットを理解し、「買ってみようかしら?」という気持ちになっています。
ここで欠点が気になり始めます。「他社製品より劣っていないか?」「この製品が1番良さそうだけど、本当に買って後悔しないか?」と。
欠点も含めた両面提示が、購買を決める一押しに必要になります。
≫【今でも重要】カスタマージャーニーとは?意味・目的・作り方を解説【サンプルあり】
≫【全12種】AIDA・AISAS・4A・5Aなどカスタマージャーニーのフレームワークを一挙紹介!
欠点で「認知」や「関心」を取るテクニックも
現代人は情報の洪水の中で生きています。99%の広告は、空気のようにスルーされており、「認知」や「関心」を獲得できません。
強制的に広告に目を向かせるために、あえて欠点をメインのコピーに使うテクニックもあります。
- 「他社よりも高額です。」
- 「見た目は決して良くありません。」
こんなコピーが目に入ったら、きっと違和感を感じますね。白鳥の群れに、1羽だけ黒い鳥が混ざっている感じでしょうか。自然に目が止まってしまうのです。
心理学の「認知的不協和」によれば、人間は気づいた矛盾を、矛盾のまま放って置けません。無意識のうちに、矛盾を解消する理由を探し、納得したいと感じます。
「広告なのに、なんで悪い話をするんだろう?」と、わざと矛盾を感じさせ、情報の洪水から自社のメッセージに気づかせる効果があります。
ある意味で、炎上マーケティングとも通じるやり方(そこまで悪どくはないけど)です。王道ではなく、奇をてらったやり方と言えるでしょう。
しかし現状では知名度がない中小企業や新興ブランドであれば、こういった飛び道具も武器になります。
両面提示を使ったマーケティング事例
実際のビジネスでは、どのように欠点を披露し、売上につなげているのでしょうか?
代表的な両面提示のマーケティング事例を見ていきましょう。
事例①:Amazonや楽天のレビュー
Amazonや楽天は、悪いレビューを絶対に消しません。残した方が売れるとわかっているからです。
レビュー(クチコミ)が素晴らしいのは、自然な形で欠点を披露できる点です。企業の立場から製品の悪口を言ってしまうと、ちょっと不自然に映ってしまいます。
ついつい悪いレビューは消して回りたくなりますが、これはとんでもない悪手。Amazonや楽天がここまで成長できたのは、ユーザーレビューを適切に扱ってきたからに他なりません。
ただし悪いレビューが増えすぎるのも考えもの。本来はメリットを提供するはずの製品で、50%以上が悪いレビューだったとしたら、根本的な問題を抱えていると考えられます。
特に根拠はありませんが、2対8の法則に当てはめてみてはいかがでしょう。良いレビュー8割に対し、悪いレビュー2割。体感的には、ちょうど良い塩梅だと思います。
事例②:キューサイ青汁
キューサイ青汁のCMといえば、お馴染みの「マズい!もう一杯!」ですね。
「マズい」という、顧客にとってはデメリットを全面に押し出された格好です。
このCMからは、次のような印象を受けます。
- 青汁だからやっぱりマズいんだ
- 味が悪いってことは、体には良いんだろうな
- 「もう一杯」って言えるくらいだから、飲めないほどマズくはなさそう
むしろ「マズい」と言ってもらったことで、製品の特徴がより鮮明になりました。顧客にとっては不確実性が減り、より手に取りやすくなっています。
またこのケースは、あえて矛盾したコピーで顧客の注目を引くテクニックを使っています。結果としてキューサイ社は、青汁ジャンルで大きな認知を獲得するに至りました。
まとめ
今回は、心理学より「片面提示」と「両面提示」を解説しました。
- 片面提示
:メリット(またはデメリット)のみを伝える提案 - 両面提示
:メリットとデメリットの両方を伝える提案
顧客が多くの情報を見比べられる現代の環境では、基本的に「両面提示」を使いましょう。つまりデメリットは、自ら包み隠さず伝えましょう。
両面提示を使うときは、次のコツを意識しましょう。
両面提示を上手に使うコツ
- 欠点を先に言う
- メリットとデメリットを関連させる
- 不確実性を残さない
①と②のコツはテクニック論ですが、③は本質的な話です。
欠点が見えない状態では、顧客は買った後にどれほどの不利益を被るかを推し量れません。不確実性が高いと、万が一の大損失を恐れて、購入を躊躇してしまいます。
欠点をあえて曝け出し、顧客の不確実性を取り払えば、どれくらいの確率でどれくらいの不利益を被るかの見当がつきます。許容できれば、購入しない理由がなくなります。
「欠点があるから買わない」ではなく、「欠点が見えていないから買えない」が、正しい認識です。ぜひ欠点をさらけ出す正直者でいきましょう。
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ビジネスの一般的な考え方では、欠点は隠したり克服したりするものです。
これに対し心理学の「両面提示」は、少なくとも「欠点を隠すべきではない」と主張しています。
しかし欠点にまつわるマーケティング話はそれだけに留まりません。「欠点は克服せずに、伸ばして利用すべき」という考え方もあります。
↓の記事では、欠点を生かしたマーケティング手法を解説しています。両面提示の話も含まれており、より実践的な記事となっています。
≫【逆転の発想】欠点は克服するな!欠点を価値に変えるマーケティング方法を解説
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!