臨時収入はなぜあんなに気前良く使いたくなるのでしょうか?同じお金なのに、毎月の給料と使い方が変わるのはなぜでしょうか?
その答えは「メンタルアカウンティング(心理会計)」にあります。
「お金に色はない」とはよく言いますが、人間の脳は、お金を「得た経路」や「使い道」によって、カラフルに色分けして認識しています。
「毎月のお給料」と「臨時ボーナス」は別物で、「普段の食費」と「贈答用の食べ物の費用」も別物です。
この記事では次のことがわかります。
- メンタルアカウンティングとは何か?
- メンタルアカウンティングに則った節約の方法
- メンタルアカウンティングを活用して売上げを伸ばすアイデア
節約したい人や、顧客の財布を緩めたいと思っている人は、ぜひチェックしてみてください。
メンタルアカウンティングとは?
メンタルアカウンティング(mental accounting)とは…
同じお金でも、入手した方法や使い道によって色分けし、別の勘定として扱うこと。日本語では「心理会計」と呼ばれます。
心の中には複数の帳簿があり、無意識のうちに、その帳簿ごとに使い過ぎかどうかを判断しています。
臨時収入で、仲間に美味しいものを気前良く奢った経験はありませんか?
それはまさにメンタルアカウンティングの典型例です。「お金に色はない」という言葉がありますが、実際には、めちゃくちゃ色がついています。
お金を勘定するときに、収入と支出で考えるように、メンタルアカウンティングも、「収入」と「支出」に分けて考えるとわかりやすいです。
収入のメンタルアカウンティング
まずは収入に関するメンタルアカウンティングです。収入を得た経路によって、お金の使い方が変わってしまいます。
収入のあり方は人それぞれですが、サラリーマンであれば、
- 毎月のお給料
- ボーナス
- そのほかの臨時収入
という経路が多いでしょう。
どの経路で手に入れたお金かによって、使い方が変わります。
毎月のお給料は生活費に当てて、身の丈に合わない贅沢はあまりしません。
ボーナスは臨時収入感があるので、毎月のお給料よりも財布が緩みます。ただしボーナス込みで年収を考えている人も多いので、惑わされずに財布の紐が緩まない人もいます。
副業をしている人は、本業のお給料は堅実に生活費に充てて、副業分の収入を贅沢に使う人もいるでしょう。
ギャンブルで勝ったお金や拾ったお金だとしたらどうでしょう?予期せぬ臨時収入です。多くの人は財布の紐が緩むでしょう。贅沢どころか、友達に奢ってしまうかもしれません。
という感じで、収入経路によってお金の使い方が変わってきます。この感覚を否定できる人はいないでしょう。
支出のメンタルアカウンティング
続いて支出に関するメンタルアカウンティングです。
大体のご家庭の支出は、
- 家賃or住宅ローン
- 光熱費
- 食費
- 通信費
- 保険
- 交際費
- 娯楽費
に分かれています。
支出のバランスはそれぞれのお財布ごとに見ています。他のお財布の状況にはあまり影響を受けません。
外食は食費を圧迫するので、控えているご家庭も多いと思います。でも記念日や同窓会で行く外食は、交際費として別のお財布から出しています。
結婚式のご祝儀で3万円の出費があったからといって、その月の食費をマイナス3万円にすることはありません。
光熱費が安い春や秋だからといって、浮いたお金で3,000円のランチを食べようとはしません。
こちらも、いずれも直感的に理解できたのではないでしょうか。
メンタルアカウンティングの実験例
ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者ダニエル・カーネマン氏と、エイモス・トベルスキー氏が行った実験を紹介します。
実験の内容
- 被験者は、チケットの値段が10ドルのお芝居を観に行こうとしているという設定です。
- 被験者を2つのグループに分け、それぞれの条件に沿って質問します。
実験の条件
グループA
劇場でチケットを買おうとしたら、10ドル札を失くしていたことに気づいた。財布から10ドル出してチケットを買いますか?
グループB
事前に10ドルで前売り券を買っていた。劇場まで来て、前売り券を失くしていたことに気づいた。もう一度10ドル出してチケットを買いますか?
両者の違いは、「お金そのものを落としたのか」「チケットを落としたのか」です。
実験の結果
結果は次の通りです。
グループA
88%の人が、10ドルでチケットを買うと回答
グループB
46%の人が、10ドルでチケットを買い直すと回答
両グループの条件は、実質は同じ。パッと見何が違うのかわからなかった人もいると思います。
それなのに、「前売り券を購入したグループBの人達」は、なぜ、もう一度チケットを買うのをためらったのでしょうか?
理由はすでにチケット代を「娯楽費」という勘定で購入してしまっていたからです。すでに10ドル使ってしまっているので、娯楽費で計20ドル使うことになります。
一方で、ただ10ドルを失くしただけだと、まだ「娯楽費」の勘定にカウントされていません。だから新たに10ドル支払うことに抵抗感が無いのです。
メンタルアカウンティングを活用する具体例
メンタルアカウンティングの活用方法として、「節約に活かす例」「ビジネスに活かす例」を紹介します。
節約に活かす例
キャッシュレスやクレカは散財しやすい
キャッシュレスやクレジットカードの利用明細は、時系列順に買ったものが並びます。いろんな支出がごちゃ混ぜです。
本当はお財布を分けて管理したいところ、それがやりづらい環境になるので、知らず知らずのうちに散財してしまう傾向があります。
現金で買い物をするときと比べ、クレジットカードで買い物するときは支出額が2倍になるという実験結果もあります。
逆にビジネス目線では、キャッシュレス決済やクレジットカードを導入した方が、売上げが増えることになります。見逃す手はありませんね。
臨時収入のときこそ、財布の紐をキツく
臨時で得た収入は、何も気にしなければ「あぶく銭」として散財することになります。
節約したい人は、「お金はお金。本来はお金に色はない。」と思って、必要なものだけ見定めて買いましょう。
次のような収入は、財布の紐が緩くなりやすいので注意しましょう。
- ボーナス
- 確定申告等の還付金など
- ギャンブルで勝ったお金(やらないのが一番ですが)
ビジネスに活かす例
別のお財布を狙ってアップセル
こちらはビジネスの視点でメンタルアカウンティングを活かす方法。
なかなか面白い着眼点だと思います。
100g3,000円の肉を食費から捻出することはそうそうないと思います。でも、ギフトであれば普通に買われます。
予算10,000円のレストランに普段から行ける人はそう多くありません。ですが、記念日であれば普通でしょう。
同じジャンルの商品でも、用向きが変わればお財布が変わります。ちょっとした工夫でアップセルが狙えます。
- 日用品は、売り方を変えて贈答品として売り出してみてはどうか?
- レストランは、レジャーのお財布を取りに行ってもいいのでは?
- 家や車といった大きな買い物に紛れ込ませれば、もっと高額なお財布を狙えるのでは?
こんな風に考えてみると、新しいビジネスにつながるかもしれません。
まとめ
今回は行動経済学より「メンタルアカウンティング」をご紹介させていただきました。
メンタルアカウンティングを学ぶと、お金にはベッタベタに色がついていることがわかりますね。
メンタルアカウンティングとは…
- 同じお金でも、入手した方法や使い道によって色分けし、別の勘定として扱うこと
メンタルアカウンティングによって起こること
- 毎月のお給料は堅実に使うのに、臨時収入だと気前良く散財する
- 記念日の食事や結婚式のご祝儀は、食費とは別のお財布から出るので、高額でも支払う
既存のビジネスモデルを、ちょっとターゲットを変えて、別のお財布を狙うだけで、新しいビジネスになるかもしれませんよ?
参考書籍
メンタルアカウンティングの名付け親で、ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者リチャード・セイラー氏の著書『実践 行動経済学』。代表的な行動経済学の書籍の一つです。
ちょっと難しい言い回しの記述がチラホラありますが、読むだけの価値はあると思います。ビジネスでもプライベートでも使える示唆に富んでいます。
もう一冊(上下巻なので2冊ですが)は、これまた行動経済学の書籍では代表的な『ファスト&スロー』。こちらの著者のダニエル・カーネマン氏もノーベル経済学賞を受賞しています。
「メンタルアカウンティング」は下巻に収録されていますが、上巻から続く流れで見た方が理解が深まると思います。
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本来なら聴き放題の対象になるような本ではないはず。ひょっとしたら、対象外になる日が来るかも…。早めのチェックをオススメします。
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