心理学・行動経済学

ヒューリスティックとは?バイアスとの違いは?具体例で解説|仕事に使える行動経済学

行動経済学には「ヒューリスティック」という概念があります。経験則と説明されることが多いですが、それだけでは理解した気になれませんよね。

行動経済学におけるヒューリスティックは、簡単に解けない複雑な問題に対し、自分で解けそうなより簡単な問題に置き換えて考える思考プロセスという意味です。

そして、ヒューリスティックは次の3つに大別されています。

3大ヒューリスティック

  • 利用可能性ヒューリスティック
  • 代表性ヒューリスティック 
  • アンカリングと調整のヒューリスティック(固着性ヒューリスティック )

この記事では次のことがわかります。

  • ヒューリスティックとは何か?
  • ヒューリスティックが起こるメカニズムは?
  • ヒューリスティックと認知バイアスはどういう違いがあるのか?
  • 代表的な3つのヒューリスティックの概要

この記事を読むだけで、行動経済学におけるヒューリスティックの基本がサクッと学べます。ぜひチェックしてみてください。

ヒューリスティックとは?

ヒューリスティック(heuristic)または、ヒューリスティクス(heuristics)とは…

ある問題に対し、必ず正しい答えを導けるわけではないが、簡略化したやり方を用いて、ある程度のレベルで正解に近い答えを得る方法という意味です。

ギリシャ語で「見つけた!」や「わかった!」という意味を持つ”Eureka(ユーレカ、またはエウレカ)”という単語が語源になっています。

行動経済学におけるヒューリスティック

ヒューリスティックは、行動経済学の世界では非常に重要な概念です。

行動経済学で用いられるときは、「人が何らかの意思決定をするときに、完璧な分析はせずに、簡略化した思考で判断する手法」をヒューリスティックと呼びます。ニュアンス的に経験則と同義で扱われることが多いです。

さらにわかりやすく言えば、「簡単に解けない複雑な問題に対し、自分で解けそうなより簡単な問題に置き換えて考える思考プロセス」がヒューリスティックです。

このとき、置き換えとして頭の中で作り出した簡単な質問を「ヒューリスティック質問」と呼びます。大抵の場合、ヒューリスティック質問に回答することで、本来の質問に対しても正解を出せますが、間違うことも往々にしてあります。

コンピュータ用語では、「間違いが起きない正しいアルゴリズムで計算すると計算時間が膨大にかかってしまうことから、多少の誤差の範囲を認めた近似アルゴリズムで済ます手法」をヒューリスティックと呼びます。

Webサイトのユーザビリティを評価する手法に「ヒューリスティック分析」があります。UI/UXの専門家が、その経験知によってWebサイトやアプリのユーザビリティを評価する分析手法です。

 

なぜヒューリスティックが起こるのか?

偶にとはいえ間違えった判断をしてしまうのに、なぜ人間の脳はヒューリスティックを使って考えるのでしょうか?

理由は、脳のエネルギーを節約するためです。

その秘密は、「脳のシステム1・システム2」にあります。こちらも行動経済学の用語です。何か行動をしたり判断をするときは、まずシステム1で処理し、一部の複雑な問題だけシステム2に回されます。

それぞれのシステムは、次のような特徴を持っています。

システム1の特徴

  • 深く考えず、主に経験則から勘で答えを出す
  • 自動かつ、高速で働き、意識的な努力は必要ない
  • 脳のエネルギーはほとんど消費しない

システム2の特徴

  • システム1では答えを出せない、複雑な計算などの頭を使わなければ解決できない問題を対応する
  • システム1の判断が間違っていれば、却下したり、修正したりする
  • 熟考するため、脳のエネルギーを多く消費する

システム2が全ての意思決定を処理すれば、間違えは起こりづらくなりますが、実態はほとんどシステム1で完結します。このような役割分担になっているのは、脳の努力(負荷)を最小限にするためです。

全てをシステム2で判断しようとすれば、脳はすぐにガス欠で機能不全に陥ります。ある程度システム1が感覚でさばいてバランスを取っています。

「ヒューリスティック」は、脳の負荷を下げるために簡易な思考で済ませることなので、システム1の一機能と言えます。

ヒューリスティックと認知バイアスの違い

行動経済学には、「認知バイアス」と呼ばれる概念があります。(単に「バイアス」と呼ばれることもある)

認知バイアスは、多くの人が同じように陥ってしまう判断ミスのパターンのことで、100種類以上あると言われています。

行動経済学よりも心理学の方が馴染みがある言葉かもしれません。

ヒューリスティックとバイアスの違いがわかりづらいので、次のよう覚えておきましょう。

ヒューリスティック

「難しい問題をカンタンな問題に置き換えて考える」という思考のプロセス

認知バイアス

ヒューリスティックによって起こる判断ミスの中で、特に多くの人が同様に陥ってしまう「あるある」な判断ミス

3大ヒューリスティックとその具体例

行動経済学には、代表的な3つのヒューリスティックがあります。この3つを押さえておけば、ヒューリスティックを理解したと胸を張って言えます。

3大ヒューリスティック

  • 利用可能性ヒューリスティック
  • 代表性ヒューリスティック 
  • アンカリングと調整のヒューリスティック(固着性ヒューリスティック )

それぞれの概要を見ていきましょう。さらに詳しく知りたい人は、個別記事があるので、そちらもチェックしてください。

利用可能性ヒューリスティック

利用可能性ヒューリスティックとは…自分にとってその情報の引き出しやすさで、確率や程度を判断する思考プロセスのことです。

人は「自分が見たもの・体験したこと」を過大評価しやすい傾向があります。自分にとって思い出しやすい事柄はよくあることで、自分にとって馴染みがない事柄は世の中でも起きないと考えてしまいます。

利用可能性ヒューリスティックの具体例:どっちが死亡事故のリスクが高い?

次の問題を考えてみてください。

問題

次のどちらが、事故で死ぬ確率が高いと思いますか?

  • A:車に乗っているときに死ぬ確率の方が高い
  • B:飛行機に乗っているときに死ぬ確率の方が高い

「B:飛行機」と思った方が多いと思います。

実際には、飛行機に乗っているときより、車に乗っているときの方が死亡事故に会う確率が高いです。

ほとんどの人は、どちらの事故で死ぬ確率が高いかのデータを持っていません。そのため、問題を「どちらのニュースが思い出しやすいか?」に置き換えて考えています。

車の死亡事故は1年中どこかしらで起こっていて、その都度報道はされませんが、飛行機事故は死亡者数が多いので確実に大ニュースになります。多くの人にとって思い出しやすいのは、飛行機事故の方なのです。

●もっと詳しい利用可能性ヒューリスティックの記事はこちら
≫ 利用可能性ヒューリスティックとは?豊富な例で解説

代表性ヒューリスティック

代表性ヒューリスティックとは…代表的・典型的だと思う事柄の発生確率を過大評価してしまう意思決定プロセスのことです。

例えるなら「不良はタバコを吸っていて、バイクに乗っている」というイメージから、バイクに乗っている人はタバコを吸っていると考えてしまうことです。

2018年時点で日本人の喫煙率は「17.9%」なので、全体の喫煙率から見れば、吸っていない確率の方が高そうです。

このようにそのカテゴリーの中で、ステレオタイプに属する事柄の確率を過大評価して考えることが代表性ヒューリスティックです。

代表性ヒューリスティックの具体例:リンダ問題

代表性ヒューリスティックの実験で、もっとも有名なのが「リンダ問題」です。いろんなところで目にする機会があるので、教養として知っておいて損はないです。

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実験の内容

被験者に、次の文章を読んでもらう

リンダは31歳の独身女性。外向的でたいへん聡明である。専攻は哲学だった。学生時代には、差別や社会正義の問題に強い関心を持っていた。また、反核運動にも参加したことがある。

その上で、現在のリンダは、以下のどちらの可能性がより高いか答えてもらう

  • A:リンダは銀行員
  • B:リンダはフェミニストな銀行員
 

結果は次の通りです。

実験の結果

  • 80%超の被験者が、「B:リンダはフェミニストな銀行員」と回答

「フェミニストな銀行員」は、「銀行員」の一部です。冷静に考えれば、「フェミニストな銀行員」の方が確率が高いことありえないとわかったはずです。

被験者はこの問題を、「リンダの人物像は、『銀行員』と『フェミニストな銀行員』のどちらのステレオタイプに近いか?」という質問に置き換えていたと考えられます。

リンダの人物説明が、フェミニストのステレオタイプに一致することから、被験者は誤った回答を出してしまったのです。

●もっと詳しい代表性ヒューリスティックの記事はこちら
≫ 代表性ヒューリスティックとは?連言錯誤との関係は?豊富な例で解説

アンカリングと調整のヒューリスティック(固着性ヒューリスティック)

アンカリングと調整のヒューリスティックとは…最初に見た数字や条件が基準となって、その後の判断が無意識に左右されてしまう現象のことです。

最初に見た数字や条件を「アンカー」と呼びます。アンカーを出発点として、そこから調整して最終的な判断を下すため、アンカーが変わると判断も変わってしまいます。

アンカリングと調整のヒューリスティックの具体例:寄付金に関する実験

アンカリングと調整のヒューリスティックは、お金に関する意思決定に顕著に現れます。この実験は寄付をテーマにしたものです。

実験の内容

  • 被験者に、太平洋でタンカー原油流出事故があったと仮定してもらう
  • その上で、「タンカー事故の影響で危機に瀕している、太平洋沿岸の海鳥5万羽を救うためにいくら寄付できますか?」と質問する

被験者グループの条件

  • グループA
    質問に回答する前に、「5ドル以上寄付するつもりはありますか?」と聞く
     
  • グループB
    質問に回答する前に、「400ドル以上寄付するつもりはありますか?」と聞く

結果は次の通りです。

実験の結果

  • グループA
    平均20ドル寄付すると回答
     
  • グループB
    平均143ドル寄付すると回答

*ちなみにアンカー質問なしの場合は、平均64ドルという回答でした。

この被験者たちにとって、寄付金の妥当な範囲は20〜143ドルの間だった考えられます。(被験者だったアメリカ人と日本人では、寄付に関する価値観が違うのは留意のこと)

高い数字がアンカーになっていれば、より高額な寄付をしてくれることがわかります。

アンカリングと調整の具体例:質問とは無関係なアンカー

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が行なった実験の結果です。

寄付金の例とは違い、最初に言い渡されるアンカーは質問の内容と無関係になっています。

実験の内容

  • 被験者を2つのグループに分け、「国連加盟国のうち、アフリカの国は何%を占めるか?」に回答してもらう
  • 回答する前に、宝くじの当選発表で使う数字が書いてある円盤で数字を見せる。数字は1〜100だが、細工がしてあり、必ず「10」か「65」で止まるようになっている

被験者グループの条件

グループA

  • 円盤が指した数字は「10」で、その数字を紙にメモしてもらう
  • 問題に回答する前に、「国連加盟国に占めるアフリカ諸国の比率は、いま書いた数字より大きいですか?小さいですか?」に答えてもらう

グループB

  • 円盤が指した数字は「65」で、その数字を紙にメモしてもらう
  • 問題に回答する前に、「国連加盟国に占めるアフリカ諸国の比率は、いま書いた数字より大きいですか?小さいですか?」に答えてもらう
 

結果は次の通りです。

実験の結果

  • 「10」を見せられたグループA:回答の平均値は25%
  • 「65」を見せられたグループB:回答の平均値は45%

この実験結果から、問題とは全く関係ない数字でもアンカリングが成立するということがわかります。

●もっと詳しいアンカリングと調整のヒューリスティックの記事はこちら
≫ アンカリング効果(固着性ヒューリスティック)とは?豊富な例で解説

まとめ

今回は行動経済学より「ヒューリスティック」を紹介しました。あわせて3大ヒューリスティックも紹介しました。

「ああ、確かにそういう風に考えているかも」と感じもらえたと思います。

ヒューリスティックとは…

  • ある問題に対し、必ず正しい答えを導けるわけではないが、簡略化したやり方を用いて、ある程度のレベルで正解に近い答えを得る方法のこと
     
  • 行動経済学では、簡単に解けない複雑な問題に対し、自分で解けそうなより簡単な問題に置き換える思考プロセスを指す

3大ヒューリスティックとは…

  • 利用可能性ヒューリスティック:
    自分にとってその情報の引き出しやすさで、確率や程度を判断する思考プロセスのこと
     
  • 代表性ヒューリスティック:
    代表的・典型的だと思う事柄の発生確率を過大評価してしまう意思決定プロセスのこと
     
  • アンカリングと調整のヒューリスティック:
    最初に見た数字や条件が基準となって、その後の判断が無意識に左右されてしまう現象のこと

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