- あの企業を攻略するために、何とかして担当者に気に入られたい
- もっと自社の商品の好感度をあげて、売上拡大に繋げたい
こんな風に考えているビジネスマンがたくさんいます。営業やマーケティングでは、顧客の好感度がビジネスの成果に直結するからです。
顧客の好感度を上げるために、簡単に使えるテクニックが「単純接触効果(またはザイアンス効果)」。何度も見たり聞いたりした物や人の好感度がだんだん上がっていく現象です。
この記事ではわかること
- 単純接触効果とは何か?
- 単純接触効果が起こるメカニズム
- 「営業」&「マーケティング」に活用する方法
わたし自身、かつて大企業で法人営業をしていて、全社1位の成績になった経験があります。「単純接触効果」の威力は、肌で感じています。ハッキリ言って、効果バツグンです。
どうしても攻略したいお客さんがいる人、顧客とのコミュニケーションに悩んでいる人は、ぜひ見てみてください。原理はめちゃくちゃカンタン。明日からすぐに活用できます。
単純接触効果(ザイアンス効果)とは?
単純接触効果(mere exposure effect)とは…
何度も見たり聞いたりした物や人の好感度がだんだん上がっていく現象です。心理学の用語です。
アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが発表した論文で世に広まったことから、「ザイアンス効果」または「ザイアンスの法則」とも呼ばれています。
突然ですが、ちょっと思い出してみてください。
友人や職場の会話で、会ったことはないけど何度も会話に出てきた人に対し、知らず知らずのうちに興味を持ったことはありませんか?
いざその人と初めて会ったとき、好感を持って接しませんでしたか?
ドラックストアで薬を選ぶとき、どれが良いのか違いはさっぱりわからない。けど、CMでよく見た記憶のある商品を手に取ったことはありませんか?
これらは「単純接触効果」によって起きる現象です。
単純接触効果が効かないシーン
ちなみに、どんな状況でも単純接触効果が有効なわけではありません。
次に該当する場合は、効果は望めません。
単純接触効果が効かないシーン
- 最初から嫌いなのものは、繰り返し見せても印象は良くならない(ストーカーしてもダメ)
- 接触回数による印象の向上は、10回程度が限界と言われている(それ以上は接触しても効果は薄い)
わたしは納豆が嫌いなのですが、納豆を何度見ても好きにはなりません。生理的に虫が嫌いな人は、何度虫を見ても辛いだけです。つまりはそういうことです。
単純接触効果(ザイアンス効果)の実験事例
ロバート・ザイアンス氏が「単純接触効果」を発表した論文では、以下の実験結果が紹介されています。
実験の設定
ミシガン大学とミシガン州立大学の学生新聞の広告欄に、とある単語を、数週間にわたって代わる代わる載せました。
単語はトルコ語(またはトルコ語風)で、アメリカの学生たちは単語の意味を理解できません。単語によって登場回数は、1〜25回とバラつかせています。
一風変わった広告なので、読者から質問されることもあったようですが、その際は「広告主は匿名を希望している」と回答されました。
実験の内容
数週間後、読者の学生に質問票を送り、新聞に登場したトルコ語の各単語が、
- 「良いことを意味しているか」
- 「悪いことを意味しているか」
その印象を答えてもらいました。
なお新聞に広告を載せたことには一切触れず、単にその単語の印象を聞いただけです。
実験の結果
結果は次の通りでした。
登場回数が多い単語ほど、「良いことを意味している」と回答した学生が多かった
この実験結果より、ちらっと目に入った回数が多い単語ほど、良い印象を抱くことがわかりました。なお、中国語の漢字で実験を行っても同じ結果でした。
また単純接触効果には、以下の特徴があることも確認されました。
発見された単純接触効果の特徴
- 対象に接触していた時間は関係ない。一瞬見ただけでも効果がある
- 対象の意味がわからなくても効果がある
- 対象を全く意識していないときに目に入った方が、強い効果がある
いずれも特筆すべき特徴ですね。なぜそうなるかは、次の章が仮説が関係してきます。
単純接触効果が起きる生物学的メカニズム
なぜ繰り返し見聞きしたものに好感をもってしまうのでしょうか?しかも、目に入った時間が一瞬でも、対象物の意味がわからなくてもです。
このメカニズムは生物の本能のようなもので、言われてみれば当たり前なことです。
生物にとって、「良いもの」か「悪いもの」かの判断ができない未知との遭遇は、命が危険にさらされる瞬間です。初めて見るものや人に警戒心を抱くのは、ごく自然な反応です。
でも、それが繰り返し登場するようになるということは、
- 何度も遭遇してたけど、特に悪いことが起きなかったぞ…?
↓ - ということは、これは危険なものじゃないんだ。
↓ - 警戒心を解いていいってことだね。
という心理が働き、好感を抱いてしまうのです。
目の前に50センチくらいの謎の獣がいたら、かなりの恐怖です。でもそれが見慣れた猫だったら何も思いません。むしろ微笑ましいくらいですね。
また単純接触効果には、「対象を全く意識していないときに目に入った方が、強い効果がある」という特徴がありましたね。
これは、作為的ではないランダム確率で起こった遭遇の方が、より対象物の危険性が低いと判断されるからではないでしょうか。
動物園にいる動物を何度見たところで、日常で遭遇したときの危険性は拭えません。ですが日常生活で、意図せず何度も遭遇した動物であれば、危険性は低いと判断できるでしょう。
画面越しでも単純接触効果が起きる理由
ここで1つ疑問が湧きます。
単純接触効果は、テレビ越しや紙面越しでも発動します。しかしスクリーンや紙は、実際の対象物ではないので、何度遭遇したところで危険性の判断はできません。
我々はテレビで何度も見ている芸能人に好感を抱きますが、その人物と直に遭遇したときに危険がない保証はありません。テレビで何度も見ているクマが、現に安全とは限らないのと同じ話です。
ここで考慮しなければならないのは、人間の脳は、少なくとも1万年以上前の狩猟採集民だった祖先と何ら変わらないということです。思考も進化の産物の1つであり、1000年やそこらでは変化しません。
我々の理性は、テレビやスマホの画面越しで見る人やモノが、実際には離れた場所にいることを知っています。離れているので、自分に危険が及ぶ可能性がないことも知っています。
しかし脳は本能レベルでは、対象が画面の向こう側にいるという事実を理解できません。
本来男性の「あの」生理的現象は、生殖のためのもの。現に目の前に、体を許した女性がいない限り意味を成しません。しかし画面越しの概念を理解できないために、画面の向こうにいる裸の女性に興奮してしまうのです。
本能レベルでは、「見える=触れられる距離にいる」と解釈します。だから危険が及ぶ可能性がない画面越しや紙面越しであっても、単純接触効果が発動するのです。
単純接触効果を仕事に活用する方法
単純接触効果は、文字通り原理が「単純」なので、手軽に取り入れやすい心理効果です。
今回は「営業」と「マーケティング」に単純接触効果を活用する方法をご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
「営業」に単純接触効果を活用する方法
わたし自身がかつて法人営業をやっていたので、「単純接触効果」の威力は肌で感じています。特に年齢が少し上のおっちゃん&おばちゃんは、足しげく通うと本当に好かれます。
- 「別の部署に用があったので、寄ってみました!」
- 「契約書を一緒に読み合わせしましょう」
といった感じで口実を作ってよく行きました。
足しげく通ったお客さんほどよろこばれて可愛がってもらったものです。優秀な営業マンは、心理学を知らなくても直感的にこれを理解しています。
やっぱり対面が一番
直接会った回数が多いお客さんの方が圧倒的に好かれました。
接触方法による反応の良さは、
- 対面
- 電話
- メール
でした。
人の温もり(?)があるコミュニケーションの方が効果が高い実感です。これは「単純接触効果」の本質を思い出すと合点がいきます。
「何度も遭遇したものは危険性が低いので、警戒心を解く。転じて好意を抱く。」なので、生身に近い方が効果が高いのは自然な話でしょう。見た目も声もわからないでは、警戒心は拭い切れません。
ただし最近は、ITツールの進化で対面を嫌う人も結構います。対面(電話もですが)は、強制的に相手の時間を奪うためです。DNAに刻まれた行動パターンよりも、理性が強く出ていますね。要するに合理的に考えられる人です。
そういう人には、無理せずメールやチャット中心の連絡にして、本当に用があるときに会いに行きましょう。
訪問回数 > 商談時間
単純接触効果で重要なのは「回数」です。商談時間を長くとるよりも、行く回数を増やす方が好かれやすいです。
どうしても落としたい相手がいるときは、10回までを目安に、めげずに通うといいでしょう。10回行っても嫌われているようなら諦めるなり、担当変えるなりした方がいいです。
「マーケティング」に単純接触効果を活用する方法
多くの人が知らず知らずのうちに、「単純接触効果」の影響を受けて、商品を購入しています。自動販売機で飲み物を買おうとしたとき、最近CMでよく見た商品をなんとなく買ってしまうのです。
マーケティングで単純接触を活用する上での大事なポイントは、売りっ気を出さずに接触回数を増やすことです。
売りっ気を出せば出すほど、作為的な遭遇に受け取られてしまいます。「この相手は、私に何か売り付けたいから何度も接触してくるんだ」と。しつこいセールスに好感は抱かないですよね。
また、人間には「嫌儲(けんちょ、または、けんもう)バイアス」があります。
嫌儲バイアスとは、お金儲けを汚いものだと思ってしまう傾向のこと。そのため人間は売りっ気への警戒が強く、商業臭がするコミュニケーションは逆に嫌われてしまいます。
というわけで、次のような売りっ気を抑えたコミュニケーションが有効です。
オウンドメディア(企業ブログ)
自社のメディアを作り、商品を直接売り込まないけど、商品に関係あるコンテンツを発信していきましょう。嫌味なく接触回数を増やすことができます。
読者の役に立つ情報を発信すれば、SEOで検索上位に表示されるようになり、ますます接触回数が増やせます。
≫コンテンツマーケティングとは?メリットは?アーンド・オウンド・ペイドの3メディアを使いこなせ
企業SNS
SNSは手っ取り早く接触回数を増やせるツールです。連動するオウンドメディアに飛ばすとさらに効果的です。
もちろん広告にしか見えない内容はNGです。読者の役に立つ情報や、企業のイメージが伝わる内容を嫌味なく展開しましょう。
余談ですが、企業から受け取るメールやら通知やらは、どうしても売り込み色が強い印象です。「お誕生日おめでとうございます!」とクーポンを送ってきたり。
それが嬉しい人もいますが、冷めた目で見る人の方が多いのでは?長い目で見たら、売りっけナシの純粋なお誕生日メールの方が好感度は上がるように感じます。
一見すると何なのか良くわからないCM
「ニッシンボー、名前は知ってるけど~♪」っていうCMありますよね。何年もあのスタイルでCMやっているせいで、何の会社かは全く伝わりませんが、社名だけは何度も耳にしています。
日清紡の営業さんは、このCMのおかげで随分商談しやすくなっているのではないでしょうか?わたしが何かの機会で、日清紡の社員の方とお会いすることがあったら、きっと好感を持って接すると思います。
実はこういう意味不明なCMも、長いスパンで見れば企業に貢献しています。
まとめ
今回は心理学より「単純接触効果」を紹介しました。
単純接触効果とは…
- 繰り返し見聞きすることで、その物や人の好感度が上がっていく現象のこと
単純接触効果の特徴
- 最初から嫌いなものには効果がない
- 接触回数で好感度を上げられるのは、10回程度が限界
- 接触時間は関係ないので、一瞬目に入るだけでもOK
- 本人が意識していないときに、不意に見聞きする方が効果が高い
直接成果につながる内容かどうかは、いったん脇に置いておいて、接触回数を増やす方法を考えてみましょう。長い目で見れば、きっとプラスの成果をもたらすはずです。
参考書籍
記事内で紹介している実験事例などは、行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の著書『ファスト&スロー』を参考にしています。
同書は、行動経済学のバイブル的な1冊(上下巻なので2冊ですが)となっています。人生にもビジネスにも、応用できるヒントが目白押しです。
「単純接触効果」は上巻に収録されています。
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