心理学・行動経済学

現状維持バイアスとは?克服方法を解説|「デフォルト効果」によるビジネス活用方法も

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大して必要じゃない。なのになぜ、メルマガを解約するのがこんなに億劫なんでしょうか?

転職した方がいいとわかっている。なのになぜ、なかなか転職に踏み切れないのでしょうか?

「現状維持バイアス」にかかった人は、合理的な選択肢が目の前にあるのに、現状維持を選んでしまいます

現状維持バイアスとは、現在おかれた状況からの変化を嫌い、現状を維持したくなってしまう心理現象のこと。この心理を理解していないと、保守的な人の心は動かせません。

いくら頑張ってアプローチしてものれんに腕押しです。

この記事でわかること

  • 現状維持バイアスとは何か?
  • 起こるメカニズムとは?
  • 現状維持バイアスを克服する方法
  • 逆手に取って、ビジネスに応用する方法

現状維持バイアスは、強力な心理作用です。これを逆手にとって人を動かす「デフォルト効果」もやはり強力です。

身近に保守的な人がいて、なんとかして打破したいと思っている人はぜひ見てみてください!もちろん、自分自身の行動を変えたい人にもオススメです!

現状維持バイアスとは?

現状維持バイアス(status quo bias)とは…

現在おかれた状況からの変化を嫌い、現状を維持したくなってしまう心理現象のことです。そこから抜け出すためには、強い意志が必要になります。

ちょっと思い出してみてください。

何かの拍子に登録されていたメルマガを解除するまでに、どれくらいかかったでしょうか?

数ヶ月、下手したら数年かかっている人も多いのでは?解除すらしていない場合もあるでしょう。お金を払っているわけでもないメルマガですら、解除するには強い意志が必要です。

そんな現状維持バイアスには、2種類の発生パターンがあります。

  1. 「惰性による」現状維持バイアス
  2. 「損失回避性による」現状維持バイアス

それぞれの中身を見ていきましょう。

パターン①:惰性による現状維持バイアス

惰性による現状維持バイアスとは、「どっちでもいい」「どうでもいい」から現状通りでいいと考えることです。「惰性」という言葉そのままの意味です。

また一つ思い出してみてください。

あなたは、PCやスマホのスクリーンセーバーの時間設定を変えたことはありますか?仮にデフォルトが5分になら、多くの人が5分のまま使っているのではないでしょうか?

利用者のスクリーンセーバーに対する考え方を、次のように分類してみましょう。

  • A:絶対に5分より短くしたい
  • B:どっちでもいい or よくわからない
  • C:絶対に5分より長くしたい

「Aの人」と「Cの人」は、デフォルトが何分の設定であろうと、自分が望むスクリーンセーバーの時間に変更します。

「Bの人」には強いこだわりがないので、デフォルトの5分から変更しようとしません。現状維持バイアスにより、現状の設定を維持することになります。

パターン②:保有効果による現状維持バイアス

人間には、一度所有したモノや環境に愛着が湧いて、それを所有していないときよりも価値が高いと感じる性質があります。

これを「保有効果」と呼びます。

手に入れた後は、手に入れる前の2倍ほどの価値に感じます。この性質により、一度手に入れた物を手放して、同等の物を手に入れても、精神的には損失になってしまうのです。

損失を避けるためには、「2倍以上のメリットがない限りは、現状維持した方が良い」という判断になります。

次のような現象は、保有効果による現状維持バイアスの典型例です。

愛用している腕時計にいつの間にかプレミアがついていた。買ったときの値段より高く売れるが、なかなか売る気にならない。結局、現状維持で使い続ける。

恋人がいるけど、もっと良い人を見つけてしまった。でも今の恋人と別れる気になれずに、現状維持を選んでしまう。

保有効果自体も、ビジネスに応用できる心理効果です。↓の詳細記事も参考にしてみてください。

≫【持たせたら勝ち】保有効果(授かり効果)とは?具体例で徹底解説

現状維持バイアスの身近な具体例 4選

実際に起こる現状維持バイアスの例を集めてみました。

より具体的なイメージを掴んでもらえると思います。

例①:いまの仕事が好きじゃないのに転職できない

「もっと興味がある仕事がある」「別業界に転職した方が将来性がある」そう思ってもなかなか転職できないものです。

一つの理由は、惰性による現状維持バイアス。いまの仕事は耐えられないほど嫌ではないし、そこそこの生活もできている。「であれば、わざわざ転職しなくてもいいのでは?」という考えになります。

もう一つの理由は、損失回避性による現状維持バイアスです。いまの会社で得ている同僚からの信頼や、積み上げてきた実績は、社内の出世に必要な要素です。それを捨てるのは、もったいないと考えてしまいます。

例②:営業先の保守的な顧客

営業をしていると、明らかに提案内容の方が優れているのに、「別に今のままでいいよ」という反応をもらうことがあります。営業経験者なら誰しも遭遇しているはず。

こんな顧客は現状維持バイアスにかかっています。後述しますが、こういう顧客には2倍のメリットを提示しないとなびかない可能性が高いです。

守る営業より攻める営業の方がはるかに難しいのは、現状維持バイアスに起因しています。

例③:保守派の意見が強くなる

政治にしろ、社内にしろ、常に改革派より保守派が強いものです。

理由はシンプルです。改革によって大勢の人が薄く広く得られる利益よりも、一部の既得権益者が失う損失の方がはるかに大きいからです。

既得権益者は全力で改革に反対します。政治家も経営者も、どうしても声が大きい方に傾いてしまうので、保守派の意見が尊重されるのは無理からぬこと。

トップが断固たる決意を持たない限り、改革は失敗する運命と言えます。

例④:携帯電話の強制加入オプション

最近は悪評がついて、大っぴらにやってないと思いますが、以前は携帯電話を購入したときに、勝手に有料オプションをつけられていました。

「初月は無料なんで、いらなかったら解除してくださいね~」と言われますが、現状維持バイアスにかかって解除しない人が一定数います。

やり口が露骨なので苦情が出てしまい、今はあまり行われていません。

例⑤:臓器移植のドナー登録

大体の行動経済学の本では、現状維持バイアスの例に、臓器移植のドナー登録率の話がよく出てきます。

下図のように、臓器移植ドナー登録率は国によって大きな開きがあります。ちなみに、日本人のドナー登録率は10%台です。

出典:Do Defaults Save Lives? Eric J. Johnson* and Daniel Goldstein → リンク

ドナー登録率が高いオーストリア人は、そうでないデンマーク人に比べて、何倍も慈悲深いのでしょうか?

もちろんそうではありません。両国でドナー登録の方法が違うためです。

デンマークのドナー登録方法

オプトイン方式

オプトイン方式では、自らドナーになると意思表示した人だけが、ドナー登録される

オーストリアのドナー登録

オプトアウト方式

オプトアウト方式では、国民は勝手にドナー登録される。嫌な人は意思表示をして、ドナー登録を解除する

登録率が高いオーストリアでは、デフォルトは国民全員ドナーです。「俺は絶対にドナーにはならん!」という人以外は、そのままドナーになっています。

(相手編)現状維持バイアスを克服させる4ステップ

営業現場で「あるある」なのが、絶対にメリットがある提案をしているのに、なぜか顧客が首を縦に振らないシーン。他には、身近な人に転職などのチャレンジをさせたいシーンもありますね。

あなたが相手に働きかけて、現状維持バイアスを克服させるための4ステップを紹介します。

ステップ①:現状維持バイアスに気づく

まず最初のステップは、「あっ、今この人は現状維持バイアスにかかっているな」と気づくことです。

お医者さんが病名をつけてから治療方法を考えるのと同じです。まず現状維持バイアスにかかっていることを理解して、次に説明する各対策を取っていきましょう。

ステップ②:数字で定量的に判断する

「現状維持」と「新しい環境」では、メリットにどれほど差があるのか数字で比較しましょう。

現状維持バイアスには、「惰性」と「保有効果(手に入れたモノや環境の価値を過大に感じてしまう)」の2タイプがあります。

どちらにしても、直感により現状維持を選んでいます。「現状維持」と「新しい環境」で、両者の効果を数字で比べて、感情ではなく理性に判断させましょう。

ステップ③:「現状維持=損失」と捉える

数字で比較してもなびかない人はいます。むしろそれが大多数です。現状に不満はないから、わざわざ環境を変えなくていいと思っているからです。

ここからが説得(または交渉)の本番。そういう人には、大局的には、「現状維持=実は緩やかに損失になっていく」と認識させましょう。

有り体に言えば、「FOMO(フォーモ)」を意識させます。”Fear of Missing Out”の略語で、「見逃したり取り残されたりすることへの不安」という意味です。

世は常に進化しています。教育も技術も経済も成長し続けています。周りのみんながエスカレーターで登っているときに、自分だけ階段の踊り場で止まっている場面を想像してみてください。

現状維持をしていると、相対的な価値はドンドン下がっていきます。ドンドン世のトレンドから遅れていきます。「そのままで本当に良いんですか?」と問いましょう。

≫_取り残される恐怖「FOMO」を事例で解説。抜け出して「JOMO」の精神で楽しもう!

ステップ④:最終手段は2倍以上のメリットを出す

それでも現状維持を選ぶ頑固な人は、「今の環境を捨てるのが怖い」と思っているのでしょう。

人間は一度手に入れた環境に、手に入れる前の2倍の価値を感じます。だから現状を捨てられないのです。

それならば、新しい環境への移行に2倍以上のメリットを提示しましょう。2倍以上であれば、理論上、現状維持バイアスを乗り越えられる可能性が高くなります。

(自分編)現状維持バイアスを克服する2つの方法

続いてあなた自身が、現状維持バイアスを乗り越えるためのコツを2つ紹介します。

仮にあなたが現状維持バイアスにかかっていないと思っていても、意図的に行ってほしい方法でもあります。

方法①:他人にアドバイスを求める

あなた自身にも覚えがあるのではないでしょうか?

他人にアドバイスするときほど、ズバッと的確な意見を言えるもの。自分にはできそうにない選択を、よくも他人様に堂々と言えたもんだと、自分自身に呆れてしまうこともあります。

しかしこの現象は、保有効果による普遍的なもの。だからこそ、意図して他人にアドバイスを求めるのが有効なのです。

保有効果により、あなたは現在の環境に本来の2倍の価値を感じています。だから新しい環境に飛び込めないのです。

しかし他人は、保有効果の魔法にかかっていません。そのため純粋にメリットが大きい方をアドバイスしてくれます。

方法②:自ら手にした環境を捨てる

「失うものがない人は強い」は事実です。現状維持バイアスにかかりようがないからです。

そこそこ良い職に就いている人は、勇気を出してチャレンジしようという気概が起きません。チャンスを掴んだ多くの人は、レールの上にはいないアウトロー。これは偶然ではありません。

そしてこのことが分かっている、本当に一流の人は、持っている環境を自ら捨てます。経営者であれスポーツ選手であれ、一流は絶頂のタイミングで引退します。

下り坂が緩やかになるように努めるくらいなら、新天地の開拓を選ぶのです。サッカーの中田英寿選手やZOZOの前澤さんは、絶頂期に次のチャレンジに転身しました。

身軽でいることは、あなたのチャレンジを後押しします。今の勤務先や付き合っている人間関係は、ホントに守るべきでしょうか?心に手を当てて考えてみましょう。

デフォルト効果で現状維持バイアスを逆手にとろう!

現状維持バイアスは、悪いイメージに捉えられがちですが、逆手にとってビジネスに応用することができます。

その方法には、デフォルト効果(default effect)を使います。

デフォルト効果とは、現状維持バイアスによって、最初に設定されていたデフォルトの選択肢に寄ってしまう現象です。

iPhoneユーザーの中で最も多く使われている着メロは、デフォルトのメロディでしょう。

ここでは、デフォルト効果のビジネス活用例を紹介します。

活用①:課金サービスは、○ヶ月無償プランでとりあえず提供

多くのサブスクリプションサービスは、1ヶ月目が無料です。

  • 無料で使うためには、とりあえずクレカ登録が必要
  • もし契約しないのであれば退会手続きしてもらう
  • 退会すれば一切お金はかからない

というスタイルが一般的ですね。

ニーズにマッチしないケースを除けば、来月からそのサービスが使えなくなる「損失」を避けるたくなります。

その結果、よほどサービスがダメじゃなければ、とりあえず現状維持でサービス利用を継続してくれる可能性が高まります。

いきなり有料の入り口よりハードルは下がっていて、実際には結構な割合でそのまま利用継続してくれる優れた手法です。

活用②:メルマガは強制する

メルマガの登録は会員登録と同時にすべき。もしメルマガ登録のために、わざわざボタンを押す必要があるとしたら、登録してくれる人は滅多にいないでしょう。

強制的であっても、一度メルマガを登録させてしまえば、現状維持バイアスでなかなか解除されません

たまに良い情報があるだけでずっと継続してくれます。解除してその情報が見れなくなるのは「損失」になるからです。

活用③:契約は自動更新にする

契約更新タイミングのたびに、「更新する」か「解約する」かを選ばせるのは、わざわざ契約数を落としているのと同じです。

言い方は悪いですが、デフォルトで契約更新にしておけば、大して使っていないサービスでも継続利用してくれる可能性が高いのです。

みなさんにも、あまり使ってないのに加入し続けているサービスがあるのではないでしょうか?

活用④:売りたいプランにデフォルトでチェックをつける

プランが複数ある場合は、売りたいプランにデフォルトでチェックを入れておきましょう。(もちろん、そのプランが大多数の人にとって良いコンテンツである必要はあります)

最安プランに強い要望がない限り、多くの人がデフォルトで選択されたプランを契約します。もしフラットにプランを選択させた場合は、最安プランに流れる層が必ず出てきます。

まとめ

今回は行動経済学より「現状維持バイアス」をご紹介しました。

わたし自身も身に覚えがあります。サブスク契約するときは、悩みに悩んでやっと契約したのに、大して使わなくなってもなかなか解約しないんですよね…。

次の通りまとめます。

現状維持バイアスとは…

  • 現在おかれた状況からの変化を嫌い、現状を維持したくなってしまう心理現象のこと
  • 「惰性」による現状維持バイアスと、「保有効果」による現状維持バイアスがある

現状維持バイアスを克服する4ステップ

  1. 現状維持バイアスに気づく
  2. 数字で定量的に判断する
  3. 「現状維持=損失」と捉える
  4. 最終手段は2倍以上のメリットを出す

デフォルト効果とは…

  • 最初に設定されていたデフォルトの選択肢に寄ってしまう現象のこと
  • 一定期間無料でサービスを提供したり、メルマガを強制登録させると、デフォルト効果で継続してくれる人が一定数いる

逆に考えてみましょう。

この記事を読んだあなたは「現状維持バイアス」を回避することができます。ところが、そんな脳のエラーがあるとは知らない世の中のほとんどの人は、疑いもなく現状維持を選びます。

少し大それた発言かもしれませんが、「現状維持バイアス」を知って、理性で抑え込めるだけで、あなたは他の人より抜きん出る存在になれるかもしれません。

ぜひ現状維持バイアスの存在を、頭の片隅に入れておきましょう!

関連記事

現状維持バイアスを引き起こす保有効果。この記事でも何度も出てきましたね。

保有効果は、「損をしたくない気持ち(損失回避性)」から派生しています。行動経済学の世界では、非常に強い心理作用の一つとされています。

損失回避性を体系的にまとめたプロスペクト理論を知っていると、さらに本質的な理解につながります。

本質的な理解は、応用の幅を広げるので、ぜひチェックしてみてください。

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しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!

外せない❶ Kindle Unlimited

Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。

新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。

Kindle Unlimited 公式サイト

≫【厳選】ビジネスマンがKindle Unlimitedで読むべき15冊

外せない❷ Audible

こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。

Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。

冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。

Audible 公式サイト

≫【厳選】ビジネスマンがAudibleで聴くべき17冊

ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。

どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。

そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。

ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!

とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!

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