- 社内プロセスが煩雑になって生産性が落ちた
- 社員がチャレンジしようとしない
- 新規事業がなかなか立ち上がらない
こんな大企業病の症状は身近にありませんか?大企業じゃなくても、会社勤めをしていれば、少なからずはそう感じる場面をあるはずです。
実は大企業病の裏には、「後知恵バイアス」という心理が働いています。
「なぜ、あのとき〇〇しなかったんだ?だから失敗したんだ!」と叱る上司は、後知恵バイアスに侵されている可能性大です。
そんな環境は、部下にとっても会社にとってもマイナスなので、逃げた方が良いかも…?
この記事では次のことがわかります。
- 後知恵バイアスとは何か?(具体例で解説)
- 後知恵バイアスによって会社内に起こる弊害
- 後知恵バイアスのに陥らないための思考法
いま勤めている会社の風土が、後知恵バイアスまみれだとしたら、この先成長できません。自分の労働環境を見定めるためにも、ぜひ目を通してみてください。
後知恵バイアスとは?
後知恵バイアス(hindsight bias)とは…
すでに起こったことに対し、さもそれは事前に予測できたと勘違いする傾向のこと。心理学の用語です。
端的言えば、「後からならなんとでも言える」です。
ちなみに「後知恵(ごちえ)」と読みます。
後知恵バイアスの具体例
営業現場によくあるシーンで、後知恵バイアスを解説しようと思います。4コマ漫画風にしてみました。
次のような設定です。
- 複合機の売り込みをしている営業マン
- 他社の複合機を使っている大手企業に、「うちの複合機に取り替えましょう!」と提案中
入れ替えの作業も全て弊社でやりますので、お手間もかけません!
あそこの業者とは、社長同士が仲良いんですよね。申し訳ないですが、今回は見送りとさせてください。
なぜ社長に会って、リレーションを作っておかなかったんだ?そうすれば、うちが受注できたはずだ!
営業現場ではあるあるな怒られパターンです。業種は違いますが、わたしも営業やっていたので、こういうシーンを良く目にしていました。
後になって判明した事実を、「分かっていて当然だ」と言わんばかりに叱責されてしまうのです。
冷静になって考えてみましょう。
- 事前に社長同士が仲良いと察知することは可能だったのでしょうか?
- 後からきた新参者がリレーションを作ったら、本当に受注できたのでしょうか?
- 誰が提案しても、勝ち目のない勝負だったのでは?
- その会社の平均的な営業マンが、日頃の営業で社長にまで会っていないのであれば、今回は運が悪かっただけでは?
失敗した後に、理由をつけて叱責するのはカンタンです。後からならなんとでも言えるのです。
後知恵バイアスが起こる理由
人間の脳は、一貫性のあるストーリーになっていないと物事を理解できません。そのため、断片的な情報から、つじつまが合うように因果関係を作り出します。
例文①:街で財布を無くした
例えば次の文章を読んでみてください。
1日中ニューヨークの混雑した通りを散策し、名所見物を堪能したジェーンは、夜になって財布がなくなっていることに気がついた。
ダニエル・カーネマン著「ファスト&スロー(上巻)」より引用
この文章を読んだ人は、いやが応にも「スリ」を連想してしまいます。
文中に「スリ」という単語は登場していませんが、一貫性のあるストーリーにするために、「スリ」が勝手に連想されてしまうのです。
人間は脳は、偶然の出来事であっても「何か因果関係があるはずだ」と連想せずにいられません。偶然の出来事は存在しなくなり、全ては「必然の結果」に変換されてしまうのです。
「後知恵バイアス」にかかった人は、過去に起こった出来事の因果関係を勝手に連想し、必然的にそうなったと結論づけます。
そのため、事前に予測ができたはずだと勘違いしてしまうのです。
例文②:医療ミス
もう一つ例え話を見てみましょう。
次の出来事に対し、世間はどんな反応を示すでしょうか?
こんな出来事に世間はどう反応する?
- とある外科医が手術を行った
- 最善を尽くしたが、予想外の事故があり患者が死亡してしまった
おそらくマスコミは、さも事故のリスクは始めから高かったかのように報道するでしょう。そして、そのリスクに備えていなかった執刀医を責め立てます。
ですが、後からなら何とでも言えます。
そもそも事前に失敗する要因を見通せるなら、この世に失敗は起こりません。犯罪も起きないし、災害で人が死ぬこともないし、金融危機も起こりません。
全ての出来事に因果関係があって、人間がその全てをコントロールできるわけではないのです。
後知恵バイアスによって起こる4つの弊害
ビジネスシーンでは、「後知恵バイアス」によって様々な負の影響が起こります。それは「大企業病」となって企業を蝕みます。
決して大企業だけの話ではなく、中小企業であっても後知恵バイアスによる弊害は起こります。
弊害①:社内のプロセスが煩雑になる
大抵の会社員は、失敗したあとに「後知恵バイアス」で叱責を受けることを、直感的に理解しています。
失敗の責任が個人に及ぶのを回避するには、社内プロセスを設けるのが常套手段です。社内プロセスで承認を得れば、失敗しても個人の責任ではなくなります。
会社員には自分の身を守るために、あえて社内プロセスをガチガチするインセンティブがあるのです。
その結果、利益を生まない「会社のための仕事」が増えて、事業の生産性が落ちてしまうのです。
弊害②:非公式な社内ネゴが横行する
一般企業の社内では「仁義を切る」という言葉がよく使われます。ちょっと物騒な雰囲気ですが、ここでの意味は「非公式な社内プロセスを遵守すること」を指します。
正式な社内プロセスだけでは足りないと本能的に理解しているので、関係者に説いて回って、自分の責任を軽くしていくのです。
失敗したときに、「あなたもこの話に関わっていましたよね?」と言えると、責任範囲を自分の外側に延長して薄めることができます。
これも「後知恵バイアス」の影響。後から叱責されるのを避けるために、自然発生する行動です。リソースの無駄遣いなので、褒められたものではありません。
弊害③:チャレンジ精神の欠如
どんな経緯があろうと、チャレンジに失敗したら叱責は免れません。「後知恵バイアス」により、その失敗は必然の結果と判断されてしまうからです。
それならばチャレンジなんてしないほうが、精神的にもキャリア的にも良いという判断になります。減点方式の古い体質な会社ほど、この傾向は強くなります。
弊害④:新規事業に手を出せなくなる
新規事業とは、基本的にはブルーオーシャンを目指して、競争のない新しい市場を見つけることです。
新しい市場には先行者がいないので、十分な情報がありません。市場規模は曖昧で、将来の成長可能性も想定するしかありません。
しかしながら、「後知恵バイアス」で取締役や株主からの叱責を恐れる企業は、十分なデータを集めないと新規事業を承認しません。
CAGR(年平均成長率)などを見て、この市場はいけると判断してからGOが出ます。ですが、それでは遅すぎます。先行者優位は取れません。
後知恵バイアスの対策方法 5選
続いて、ビジネスの現場で起こる「後知恵バイアス」を克服する思考法を5つご紹介します。
後知恵バイアスを克服する思考法
- 運の要素があると認識する
- 結果よりもプロセスを評価する
- 構造的に確率を改善する方法を考える
- 失敗はあるものとして、仮説検証を繰り返す
- 評論家はなんの役にも立たない
こういう考えを持って動ける人は少数ですが、誰かが行動を起こせば、周りはいずれ感化されるはずです。
克服①:運の要素があると認識する
失敗にも成功にも運の要素があります。運は多くの場合アンコントローラブルです。自分たちではどうすることもできない「運」の存在を認めましょう。
自分たちにどうしようもできないアンコントローラブルな変数で、叱ったり褒めたりするのは意味がありません。同じように自分を過度に責める必要もありません。
克服②:結果よりもプロセスを評価する
成約率が50%の営業プロセスがあったとします。1回の失注は必ずしも失敗ではないでしょう。どんなに頑張っても失注するときは失注します。
「成功 or 失敗」の結果で評価せず、プロセスが正しかったかで評価する方が適切ではないでしょうか?
偶然の受注という「結果」よりも、期待値通りの確率で契約を取れる「プロセス」の方が再現性があるからです。プロセスが正しければ、10回営業すれば5回は受注できます。
なお正しいプロセスを考えるのはマネジメントの仕事です。プロセス通りにアクションして期待通りの成果にならないのは、部下ではなくマネジメントの責任です。
克服③:構造的に確率を改善する方法を考える
ビジネスにおける結果には、「確率」が存在します。事業の成功も営業の受注も、「確率」で起こります。もちろん失敗や事故も「確率」です。
「確率」で起こる結果を、属人的に考えるのは非効率です。なぜ成功するのか、なぜ失敗するのか、その構造を分析する方が効率的です。
構造を「仕組み」や「やり方」と読み替えてもOKです。
成約率50%の営業であれば、どのアクションがキーになって成功しているかの構造を理解しましょう。どう構造を変えれば成約率70%にできるか考えましょう。
解約率10%のサービスであれば、その解約が起きる構造を理解しましょう。どこに手を加えれば解約率1%まで下げられるか考えましょう。
後から理由をつけて、個人を叱ったり褒めたりしても、そこからは何も生まれません。「どう仕組みを変えれば改善できるのか?」を建設的に考えましょう。
克服④:失敗はあるものとして、仮説検証を繰り返す
現在のビジネス環境は、「VUCA」と呼ばれています。
VUCAとは、
- Volatility(変動)
- Uncertainty(不確実)
- Complexity(複雑)
- Ambiguity(曖昧)
の頭文字をつなぎ合わせた造語です。
成功するビジネスを狙って生み出すのは難しく、運に大きく左右されます。ユニクロ創業者の柳井正氏によれば、「失敗9:成功1」の割合です。
こんな環境の中で、失敗に対して後から理由をつけて叱責していては、誰もチャレンジしたくなくなります。
ビジネスは仮説検証の繰り返しだと考え、失敗を前提として改善していくマインドを持ちましょう。失敗は成功のもとですから。
そしてマインドだけでなく、組織のシステムもそうあるべきです。チャレンジした結果の失敗に、悪い評価をつけるのはナンセンス。失敗がない人はチャレンジしていないだけです。
克服⑤:評論家はなんの役にも立たない
評論家は、「後知恵バイアス」の塊です。後からああだこうだ言って、経済政策に失敗した政府を批判したり、大成功したベンチャー創業者を褒め称えたりします。
ではこの評論家たちは、完璧な経済政策を考えられるのでしょうか?あるいは、起業して確実に成功させることができるのでしょうか?
そんなの無理ですよね。評論家は何の結果も出せません。なんの役にも立たない評論家マインドは捨てましょう。
まとめ
今回は心理学より「後知恵バイアス」をご紹介しました。
後知恵バイアスとは…
- すでに起こったことに対し、さもそれは事前に予測できたと勘違いする傾向のこと
- 噛み砕いて言えば、「後からなんとでも言える」ということ
後知恵バイアスによって起こる弊害
- 社内のプロセスが煩雑になる
- 非公式な社内ネゴが横行する
- チャレンジ精神の欠如
- 新規事業に手を出せなくなる
後知恵バイアスを避ける方法
- 運の要素があると認識する
- 結果よりもプロセスを評価する
- 構造的に確率を改善する方法を考える
- 失敗はあるものとして、仮説検証を繰り返す
- 役に立たない評論家マインドを捨てる
会社員をしていると、多かれ少なかれ遭遇したことがあると思います。後知恵バイアスに犯された上司を反面教師にして、勇気を持って思考をチェンジしましょう。
参考書籍
記事内で紹介している実験事例は、行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の著書『ファスト&スロー』を参考にしています。
同書は、行動経済学のバイブル的な1冊(上下巻なので2冊ですが)となっています。人生にもビジネスにも、応用できるヒントが目白押しです。
「後知恵バイアス」は上巻に収録されています。
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