心理学を使った交渉術やマーケティングは、数え切れないほど存在します。そしてそのどれもが、一定の効果を発揮します。
しかし最強の効果を発揮するのは、なんと言っても「好意」です。人を動かす上で、「好意」以上の武器(自分にとっては弱み)が他にあるでしょうか?
彼氏・彼女、かわいい我が子からのお願いなら、なんとか聞いてあげたいと思うもの。むしろ受け入れなければ、強い罪悪感に見舞われます。「惚れた弱み」とはよく言ったものですね。
この記事では、社会心理学者ロバート・チャルディーニの名著『影響力の武器』より、他人の好意を勝ち取るための6つの心理学的アプローチをします。
どういう状況になれば、人は人を好きになるのか。そしてどういう行動をすれば、相手はあなたのことを好きになるのか。ここを徹底的に紐解いていきます。
もちろん恋愛にも使えるテクニックですが、本記事はビジネス文脈に重きを置いています。
顧客にブランドや製品を好きにさせるのが、最強のマーケティングです。あなた自身を好きにさせるのが、最強の営業です。ぜひ最後までチェックしてみてください。
アプローチ①:外見の魅力(ハロー効果)
ホントに単純だなと思ってしまいますが、見た目がいいだけで、人は相手に好意を持ってしまいます。恋敵のようなシチュエーションでもなければ、同性であっても見た目が良い人を好みます。
第一印象が良い人ほど、その発言や行動まで好ましく受け取られる「ハロー効果」という現象があります。ハロー効果は、我々が想像する以上に強い効果を発揮します。
見た目によって得すること
- 見た目が良いほど、話の説得力が増す
- 見た目が良いほど、頭がよく見える
- 見た目が良いほど、年収が高い
- 見た目が良い候補者ほど、投票が集まる
- 見た目が良い就活生ほど、内定を取りやすい
- 見た目が良い被告ほど、罰則が軽くなる
美男美女は、モテる以外にこれだけ多くのメリットを享受しているのです(実に羨ましい)。だから「顔が良ければ人生イージーモード」なんて言われたりするわけです。
身だしなみに気を配ろう
ほとんどの人は、自分の判断が相手のルックスに左右されたとは認めません。
認めてしまえば、自分が論理的に考えていないと白状するようなものだからです。しかし実際には、心理の深いところでは、見た目で判断を下してしまっているのです。
そのため、好意を勝ち取り相手に要求を通す上では、見た目を整えることは非常に重要です。少なくとも、見た目で悪い印象を与えないくらいの気配りはするべきでしょう。
ただし多くの人は、平均的な見た目をしています。アドバンテージにするのはちょっと難しいかもしれません。続けて解説するアプローチも参考にしてください。
≫【出来る人は使っている】ハロー効果とは?具体例で解説【第一印象に気を使え!】
アプローチ②:類似性
人は、自分と似ている人を好みます。特に「コレ!」というものはなく、何であれ類似性を持っていれば、相手を好んでしまうのです。
類似性の例
- 出身地が同じ
- 名前が同じ(あるいは似ている)
- 好きなブランドが同じ
- 好きなスポーツチームが同じ
- 同じ業界に勤めている
- 同じようなライフスタイルを好む
- 同じ趣味を持っている
- 共通の友達がいる
わたしはスポーツにさして興味はないのですが、オリンピックを見ると、どうしても日本人選手に好意を抱いてしまいます。そして日本人がメダルを取ると嬉しく感じます。
実のところ、オリンピック選手は赤の他人であり、利害関係もありません。しかし同じ出身国という類似性があるだけで好きになってしまうのです。地元のスポーツチームが好きになるのも、無理からぬ話です。
共通点を探し出せ!
営業マンやナンパ師は、トークの中からなるべく多くの共通点を探し出そうとします。共通点を持つ相手のお願いは断りづらいと知っているからです。
選挙ポスターでは、候補者がその地元出身であることをよくアピールしています。これはその土地の有権者との共通点をアピールしているのです。一般大衆には、公約よりも同郷であることの方がよっぽど効果があるでしょう。
ギリシャ神話のトロイア戦争には、こんなエピソードがあります。
ギリシアのディオメーデスとトロイアのグラウコスは敵同士であったが、祖父同士が旧知の間柄と判明し、戦闘を中止しました。そして以降は戦場で出会っても戦わないと誓い合いました。
敵同士であっても、共通点が見つかった瞬間に友情が芽生えるのです。
アプローチ③:ほめる
「好意の返報性」とは、好きになった相手を、逆にこちらも好きになってしまう現象のことです。
人間は本来は群れで生活する生き物です。生存確率をあげるために、仲間と助け合って生きてきました。しかし仲間は誰でも良いわけではなく、友好な関係が結べる相手でなければなりません。
自分のことを好きになってくれる人は、おそらく害をもたらさず、友好な関係を結べる相手です。生存戦略上、好かれた相手を好きになるのは、ごく自然な成り行きなのです。
つまり相手の好意を勝ち取りたければ、まず「わたしは相手に好意を持っている」と伝えなければなりません。手っ取り早い方法は「ほめる」ことです。
お世辞でもOK
営業経験がある人ならわかると思いますが、見え透いたお世辞であっても、相手は喜びます。よほど魂胆がハッキリ見えていなければ、お世辞を言われた相手を好きになってしまうのが人間の性です。
アパレルショップで「こちらのお洋服、よくお似合いですよ♪」と言われるのは、狙いが直線的すぎます。さほど嬉しいとは思いませんし、店員さんを好きになることもないでしょう。
しかし営業マンや、ホスト/キャバ嬢にほめられると、大抵の人は嬉しくなってしまいます。営業トークとわかっていますが、あくまで購入するのは製品が気に入ったからであり、建前上は、ほめられたから買うわけではありません。
この微妙な距離感があるだけで、営業トークとわかっているのに、相手のことを好きになってしまうのです。人間って愚かな生き物だなぁ、と思ってしまいますね。
優秀な営業マンは、常にほめられそうなポイントを探っています。お願い事をする前には、必ずほめ言葉を添えます。それだけで、「コイツ、多分いい奴だ」と思ってもらえるのです。
アプローチ④:馴染み(単純接触効果)
接触回数が多いほど、その対象を好きになってしまう「単純接触効果」があります。
ドラッグストアで柔軟剤を買うとき、ほとんどの人は、CMなどで聞いたことがある名前の製品を手に取ります。聞いたこともない製品を買うことは、通常ありません。
もし投票に行って、各候補者の公約をイマイチ理解していない場合は、よく知っている人に投票するでしょう。昔からその地域で政治をやっていた人、芸能人、有名実業家などです。
つまり人間は、気づかないうちに、馴染みがある人を好きになっているのです。
接触が多いほど「安全=好き」
なぜ接触頻度が増えるだけで好意を抱くのか?と、不思議に思う人もいるかもしれません。
こう考えると理解できるでしょう。
ぜひ太古の昔の遠い祖先になったつもりで想像してください(人間の心理は、少なくとも1万年以上前の狩猟採集民だった祖先の頃から変わっていないので)。
あなたが初めて遭遇する獣、あるいは初めて食卓に出されたキノコ。次の瞬間に何が起こるかわからない恐怖があります。場合によっては命を落とすかもしれません。
しかし何度も見ている獣やキノコは、状況証拠的に人間に害をなさないと判断できます。「何度も見聞きするもの=安全」なので、好きになってしまうのです。
テレビCMの中には、商品のメリットを訴求せず、長年同じような内容を繰り返しているものもあります。一見するとムダに思えるかもしれませんが、馴染みという強力な好意を勝ち取っているのです。
売り場に行った顧客に、「あ、この名前(製品名or企業名)知ってる!」と思わせれば、もう勝ったも同然なのです。
≫【売れる営業マンの秘密】単純接触効果(ザイアンス効果)とは?営業&マーケティング活用例を解説
アプローチ⑤:協同作業
「呉越同舟」という古事成語をご存知でしょうか?敵国同士の呉人と越人であっても、乗り合わせた船が嵐に遭遇すれば、生き残るために協力して難局を乗り切るという意味です。
「同じ釜の飯を食う」も意味するところは同じですね。それまでは初対面の赤の他人であったとしても、同じ目標のために苦楽を共にした仲間は、生涯の友になるのです。
つまり、およそどんな間柄であっても、協同して同じ目標を達成したり、共通の危機に対処したりすれば、そこに好意が生まれるということです。
吊り橋効果も、ここに根っこがあるように思います。
共通の目標を設定する「ジグソー法」
教育分野には、「ジグソー法」という協同学習プログラムがあります。
複数人の生徒がグループになり、各人が担当パートを受け持ち、1つの課題に取り組むプログラムです。仲が良くない生徒同士であっても、仲間意識が芽生えるようになります。
協同作業によって相手の好意を引き出すためには、シチュエーション作りが欠かせません。
ジグソー法のように、あらかじめ、「好意を抱いて欲しい相手」と「その好意の向き先になる人」が、共通の目標に取り組む場を設定しましょう。
アプローチ⑥:好ましい何かと関連づける(連合)
心理学や哲学では、2つ以上の要素が頭の中で結びつくことを「連合の原理」と呼びます。両者は別個の概念であったとしても、両者のイメージが互いに結びつけられてしまいます。
あなたはごく普通であっても、あなたと関連づいている対象物のイメージが、あなたにも乗り移ります。イケてるグループに属していれば、あなたもイケていると思われますし、ダサいグループに属していれば、あなたもダサいと思われます。
「ギャンブル好き→タバコを吸っている」とか「ダボダボの服を着ている人→ラップが好き」といった、ステレオタイプなイメージが結びつけられるならまだ納得感があります。
しかし「連合」の面白い(というより脳が単純すぎる)ところは、全く関係ない要素同士であっても、距離が近ければ結びついてしまうところです。
自動車の広告では、よく車の隣に美人モデルが立っています。
両者は全く関係ありませんが、見た人の脳の中では、モデルの持つ美しさや好ましさが、車のイメージに付加されるのです。
だからテレビCMでは、好感度が高いタレントが起用されるわけです。企業の狙いはもちろん、そのタレントの好感度にあやかって、自社製品の好感度を上げることです。
タレントの収入の大元は、スポンサー企業が払う広告費です。そのため企業が欲している好感度は、タレントにとって自身の商品価値とほぼイコールなのです。
不倫やらの不祥事で好感度が下がったタレントは、演技が上手かろうが、見た目が良かろうが使ってもらえません。悪いイメージがついたタレントに商品価値などないのです。
「ランチョンテクニック」で胃袋を掴め!
連合は見た目だけで起こるわけではありません。例えば食事は、人間の根源的欲求の最右翼なので、「味」との結びつきはなかなかに強力です。
「ランチョンテクニック」は、美味しい料理を一緒に食べることで、自らの印象を底上げする手法です(なんて単純!)。
接待に良い店を使うのは、美味しい料理が出てくるほど、自分の株が上がるからです。ここぞというときのデートやプロポーズでは、とびっきり美味しいお店を選ぶべきでしょう。
料理上手の女性に捕まった男性は、よく「胃袋を掴まれた」と言います。女性の見た目や性格はさておき、作ってくれる料理が美味しいほど良い女に映ってしまうのです。
≫【心理学】連合の原理とは?「アレ」と結びつければ印象はカンタンに操作できる
スポーツチームの熱狂的なファンの真意
好意には色々な形がありますが、ひとつ奇妙な現象に、スポーツチームの熱狂的なファンの存在があります。
家族には、血縁関係があります。同僚や顧客とは、利害関係があります。友人は、同じ空間で楽しく過ごすという意味では、広義の利害関係と言っても良いのではないでしょうか。
しかしスポーツチームのファンは、そういった関係性は見られません。赤の他人です。
好きになる理由は、せいぜい地元の繋がりくらい。それなのに、なぜあれほどの熱量を出せるのか、ときには暴力的な行動を取れるのか。不思議に思うところです。
たかがスポーツではない
熱狂的なファンにとって、推しのチームの勝敗は他人事ではありません。
スポーツでもなんでも、勝負事を見る側は、自分と類似点がある人を応援します。
しかしそれは単なる応援ではありません。選手やチームは自分の代理であり、勝負には自分自身の尊厳がかかっています。ゲームの勝敗は、自分にとっての勝敗も同然なのです。
だからチームが勝利を収めたときに、ファンは「俺たちの勝利だ!」と言います。実際には選手やチームの勝利ですが、自分もチームの一員とみなしていることが見て取れます。
彼らにとっては、たかがスポーツではありません。自分のアイデンティティがかかっています。だから不甲斐ない選手や、不利なジャッジをするレフェリーが許せないのです。
熱狂的なファンが抱える弱さ
自分と共通点を持った選手やチームが勝利するのは、誰だって嬉しいものです。
しかしそこに以上な執着を見せる人は、現実世界で栄光を勝ち取ることは不可能だと感じているために、スポーツチームの業績を自分の業績に結びつけているのです。
自分で戦うことを放棄し、共通点のある他人に戦ってもらっているのです。何かしらのコンプレックスがあり、そのようなマインドになってしまっているものと思われます。
スポーツファン以外にも、同種の人々は見受けられます。
- 地下アイドルの熱烈な追っかけ
- 行き過ぎた教育ママ
- インフルエンサーに擦り寄る人
こういった人々にも、他人の業績を自分に結びつけようとしています。やはり弱さを抱えている人たちなんだと思われます。
ビジネスで好意を引き出す8つの方法
やや蛇足を挟みましたが、ビジネスで好意を獲得するアイデアについても触れていきましょう。
なおここで紹介する方法が全てというわけではありません。「今回紹介した6つのアプローチを応用すると、こんなアイデアが使えるよ」という話です。
ぜひ参考にしてみてください。
方法①:友達紹介プログラム
顧客から好かれていれば、顧客の財布の紐を緩ませることはカンタンです。しかしあなたが好かれる前に、最初から好かれている友達に営業をさせる方が、よほど楽で効果的でしょう。
「友達紹介プログラム」は、既にその製品を使っている顧客が友達を紹介すると、双方がクーポンなどのメリットを享受できるマーケティング施策です。インターネットサービスでは定番のバイラル施策です。
必要だから買うというよりは、「付き合いだからしょうがない」という交際費のイメージがしっくりきます。顧客の購買への心理的ハードルは、グッと下がります。
またネットワークビジネス(≒マルチ商法)は、友達に営業させることに特化したビジネス形態です。他社優位のない製品が高く売れるのは、友達から勧められて断りづらいからです。
他にも、営業するときに、「〇〇さん(顧客の友人)もお得意様なんですよ」と、友人の名前を出すだけでも効果があります。友人との繋がりがある以上、無下にはできなくなるからです。
方法②:デザインに気を配る
好意を持つ入口は、第一印象となる「見た目」です。
製品自体はもちろんのこと、パッケージ、店舗、ホームページなど、見た目が良いだけで過大な評価を獲得できます。逆に見た目が悪ければ、過小評価を受けることになります。
ビジネスにおけるデザインの重要性は、一般に認識されているよりもずっと高いのです。
スペックや効能よりも、雰囲気や世界観を重視する女性顧客にとっては、デザインが全てです。「コスパが良ければ、見てくれは妥協してくれるはず」という男性的な視点は通用しません。
またデザインは売上貢献の測定が難しいため、おざなりになっているケースが散見されます。定量的に効果を示せないので、現場が重要性を訴えても、上を納得させるのは困難です。
経営層がデザインの重要性を認識し、トップダウンでリソースを投下する必要があります。
方法③:雑談を有効に使う
ビジネスシーンの雑談は、間を埋めるための時間稼ぎではありません。ちゃんと売上につながるよう、好意を勝ち取れるように立ち回るべきです。
意識したいのは次の点です。
- 共通点を探す
:出身地、趣味、家族構成、専門分野など、相手の自分の共通するトピックを探す - ほめる
:相手の仕事ぶり、品の良さ、知識、経験など、ほめられる箇所を探す。ただしコンプレックスに触れかねない容姿は避けた方が無難
共通点にしても、ほめるポイントにしても、引き出すにはあなたの方から情報を開示していくのがオススメです。「自己開示の返報性」があるので、あなたが自分をさらけ出すほど、相手もポツポツとしゃべり始めるでしょう。
やっていることはナンパ師と同じですが、ある意味で男女の関係とビジネスには近いものがあります。ぜひ意識してみてください。
≫【雑談ベタな営業マンへ】「最小限」の雑談で最大の成果をあげる極意を教えます
方法④:メルマガ/お手紙
何度も見ていて馴染みがあるものほど、顧客は好意を抱きます。
- マス広告を長年出している企業
- 店舗数が多い大手チェーン
などは有利です。顧客の中で馴染みの存在になっているので、複数ある選択肢から選ばれやすくなります。
しかしそこまでお金をかけなくても、顧客の馴染みを獲得する方法はあります。それがメルマガやお手紙(郵送物)です。
顧客の連絡先を取得しておく必要がありますが、配信のコストは激安です。電子メールの方が安価ですが、メールボックスに埋もれる可能性もあるので、郵送物も併用すると良いでしょう。
あなたと何度も接触している事実を作りたいだけなので、内容はあまり重要ではありません。年賀状や暑中お見舞いなど、商売と関係なくてもOKです。
むしろ売込みばかりだと敬遠されるので、商売っ気は抑えた方が得策です。顧客を友人のように思いやる内容にし、こちらの好意を伝わるようにしましょう。
方法⑤:グッドコップ・バッドコップ
グッドコップ・バッドコップ(直訳:良い警官・悪い警官)は、2人1組で行う古典的な交渉術です。
ここは語源の通り、警察の取調べをイメージしましょう。
まず悪い警官役は、わざと激昂した態度を取ります。
「話さないっていうなら、5年は豚箱にぶち込んでやるからな?覚悟しとけよ!!」と叫びながら、机をバンバン叩き、ときにはイスを蹴っ飛ばします。
そこに良い警官役が割って入って来ます。悪い警官役を一時退席させることもあります。
「悪いな。アイツどういうワケか知らないけど、あんたが気に食わないみたいだ。ただ、協力しない容疑者が不利な扱いを受けるのはホントだ」と優しい口調で語りかけ、
「しかしだ。あんたの容疑はそこまで重いもんじゃない。俺としては、2年あたりで済ませたいんだよ。ここはお互いのために協力しようや」と続け、
「なぁ、全て正直に話してくれるか?」と自白を促します。
「被告」と「良い刑事」が味方同士になり、協同で「悪い刑事」に立ち向かうという構図になっています。だから被告は、良い刑事に好意を抱いてしまうのです。
主に交渉で使用されるテクニックですが、この構図を転用すると営業シーンにも使えます。
例えばあなたが自動車ディーラーの営業マンだったとしましょう。
高価な買い物なので、顧客としてはなるべくコストを下げたいのが本音でしょう。そこで営業マンと顧客は、「よりリーズナブルに購入する」という共通の目標を持った同士になります。
営業マンは、「上司にどこまで下げられるか交渉してきます!」と言い、上司を共通の敵に仕立てあげるのです。
こうすることで、営業マンと顧客は「共犯者」となり、顧客は営業マンを好きになってしまうのです。この後で妥当な価格を提示すれば、成約は目の前です。
方法⑥:コミュニティマーケティング
その製品の顧客や見込み客が集まるコミュニティを設ける手法を、「コミュニティマーケティング」と呼びます。
顧客コミュニティには、似たような趣味嗜好を持つ人が集まるので、外の世界よりも隣人に好意を抱きやすい環境です。つまり、外の世界よりも友達ができやすい場所なのです。
コミュニティでの交流が楽しければ、その軸になっている企業や製品に対する好感度もますます上がっていく好循環が作れます。阪神ファン同士が交流することで、阪神タイガースへの愛が加速するイメージです。
またカンタンにビジネスを模倣できるようになった現代において、コミュニティは決定的な差別化要因になります。2つの全く同じ製品があったとしたら、友達に会える方を選ぶに決まっています。
そして活発なコミュニティは、お金で買えるものではありません。だからこそコミュニティマーケティングは、現代において非常に重要視されているのです。
方法⑦:顧客をビジネスに参加させる
昨今では、製品企画のプロセスに顧客を参加させるケースが増えてきました。表向きは、顧客に寄り添った製品を企画するのが目的ですが、メリットはそれだけではありません。
このプロセスでは、社員と顧客が協同で、より良い製品の形を検討します。同じ目標に向かって一致団結することで、顧客はその企業や製品に対して好意を抱くようになります。
ここまでだと、ビジネスプロセスに参加した数少ない顧客の客単価が増えるだけの話です。しかし重要なのは、その先の展開です。
ビジネスに参加させる顧客を選ぶ際、母体となるのは顧客コミュニティです。コミュニティの代弁者となった顧客は、ビジネスプロセスに参加した後にどのような行動を取るでしょうか?
当然コミュニティ内で活動報告し、企画している製品の素晴らしさをアピールします。コミュニティの他のメンバーは、より自分に近い人物から推奨を受けるわけですから、その影響力は企業からのメッセージよりも強くなります。
顧客をビジネスに参加させると、その顧客がアンバサダーとなり、周囲のコミュニティに勝手に営業してくれます。コストはほとんどかからず、効果は絶大です。
方法⑧:美味しい料理の横に立つ
「ランチョン・テクニック」は、美味しい料理を共にした人が好きになってしまうという、単純にして強力なテクニックです。
つまり接待は、営業上、非常に効果的な打ち手の一つということになります。奢ってもらった借りを返そうとする「返報性の原理」もダブルで効いてくるので、効果は絶大でしょう。
しかし美味しい食べ物とセットになっていれば、別に奢らなくても、人や製品に好意を頂かせることは可能です。どうやって美味しい料理の横に立つかを考えてみましょう。
- 顧客コミュニティの懇親会(オフ会)を開く
- 新製品のお披露目をレストランで行う
- カフェに商品サンプルを置かせてもらう
- 来店客にお菓子を振る舞う
- 商談やミーティングはランチの場で行う
- 店舗内にレストランを設ける
など、シチュエーションの工夫のしようは色々とあります。
IKEAの大型店舗には、しっかり目のレストランが設けられています。ショッピングの途中で、休憩がてら食事するような導線になっており、ブランド自体の好感度アップにつながっていると考えられます。
さらに言えば、別に味だけにこだわる話ではありません。楽しい思い出とセットになっていれば良いので、ビンゴ大会を開くでも、ゴルフ接待するでも良いのです。
まとめ
今回は、他人の好意を勝ち取る方法を、心理学の知見から解説しました。
「惚れた弱み」と言うように、好きな人のお願いは断れません。ならば、好きにさせてしまうことが、最強の交渉術であり、最強のマーケティング戦略ということになります。
好意を勝ち取るためのアプローチ
- 外見の魅力(ハロー効果)
:見た目が良いほど評価が上がる。身だしなみには注意すべし - 類似性
:人は、同じ条件であれば、共通点がある人を好きになる。共通点を持つ相手のお願いは断りづらい - ほめる
:好意の返報性により、好かれた相手を好きになってしまう。そして「ほめる=相手へ好意を寄せている」のシグナルになる - 馴染み(単純接触効果)
:接触回数が多いことは、その対象物が安全である状況証拠になる。だから馴染みのある人や物を好きになる - 協同作業
:「同じ釜の飯を食う」のように、共通の目標に向かって協同した相手を好きになる - 好ましい何かと関連づける(連合)
:好ましいイメージのもの(例えば美味しい食べ物)を関連づけるだけで、あなたの印象もプラスの評価を受ける
これらのアプローチをまじまじと見ると、人間は随分と表面的な要素で、好き嫌いを判断しているように感じますね。
ということは、表面を繕うような姑息なテクニックを使うだけでも、相手の好意は勝ち取れてしまうことになります。そして実際に、その通りだったりします。
人間の脳は、複雑なようで意外と単純なところがあります。
本能レベルでは、「光を見たら群がってくる虫」と大差ないのかもしれません。光をくべるような小細工で顧客を吸い寄せられるなら、使わない手はありませんね。
参考書籍
参考書籍は、社会心理学者ロバート・チャルディーニ氏の『影響力の武器』です。
人に要求を飲ませるために、最上の6つの方法を教えてくれる良書です。正気の沙汰なら絶対に飲まない要求でも、首を縦に振らせてしまう力を持っています。
マーケティングや営業界隈では、必読の一冊にノミネートされています。モノを売る仕事をするなら、確実に押さえておいてくださいね。
要約記事もありますので、時間がない人はこちらをどうぞ。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!