連合の原理とは?
心理学や哲学の世界における「連合の原理(あるいは単に「連合」といった場合)」とは、2つ上の要素が、仮に全く関係ない要素同士だったとしても、結びついて想起されてしまう現象のことです。
古代ペルシア帝国の皇帝の伝令役である勅使の運命に思いを馳せてみましょう。
戦争の勝利を伝えた場合、勅使は寛大な扱いを受けます。食べ物から酒から女性までもが与えられました。しかし敗北の知らせであれば、勅使は即座に殺されてしまうのです。
ただの伝令役である勅使は、戦争の勝敗には一切関係ありません。それなのに、良い知らせと結びついた人間は天使に見え、悪い知らせと結びついた人間は悪魔に見えるのです。
「連合の原理」は、18世紀にイギリスの経験論・連想学派から誕生した考え方ですが、その原点は古代ギリシアの大哲学者アリストテレスまで遡ります(歴史的背景は本記事の趣旨ではないので、詳細は割愛します)。
ちなみに連合の原理を重視した心理学の一派を「連合心理学」と呼びます。
連合を引き起こす4つのトリガー
連合の概念の祖であるアリストテレスは、連合が起こるトリガーとして、「類似」「時空間的接近」「対比」の3つを挙げました。
そしてずいぶん後になってトリガーとして登場したのが、「刺激と反応の結びつき」です。いわゆる「パブロフの犬」に見られる、条件付けのことです。
連合の原理の本質を掴むため、それぞれカンタンに触れていきましょう。
トリガー①:類似
2つ以上の要素に何らかの共通点が見られるとき、それらは十把一絡げに同じグループとして見られます。
例えばイスラム過激派がアメリカやヨーロッパでテロ事件を起こしたとき、全く関係ない現地のイスラム系の人々が嫌がらせを受けました。
パンデミックの原因が中国だと噂された際、世界各国で中国人(実際にはアジア系の人々)への風当たりが強くなりました。
理性では、隣にいるイスラムや中国人が何ら害のない人だとわかっています。しかし本能では、どうしても悪いイメージと結びついてしまうのです。
- 「日本人は勤勉」
- 「イタリア人は女好き」
- 「大阪人は面白い」
といったステレオタイプな連想は、出身地の類似によって連合が起こっています。大阪人は勝手にハードルを上げられていて、良い迷惑ですね。
トリガー②:時空間的接近
「類似」は要素間に共通点があるため、その連想はあながち間違いではないかもしれません。「インド人は数学が得意というイメージ」は、概ね当たっているのではないでしょうか。
しかし全く関係ない要素であっても、時間的あるいは空間的に距離が近いと、両者は関連づいて認識されるようになります。
モーターショーでは、最新の車の隣に美人モデルを立たせます。メーカー側が、モデルが持つ美しさや好ましいイメージを、製品に乗り移らせたいと考えているからです。そして実際その通りになります。
これは空間的な接近に当たります。
楽しい時間を一緒に過ごした人は、実際に楽しい人だと認識されます。レクリエーションや接待ゴルフ、修学旅行は、その場にいる人を好きにさせる装置として機能します。
これらは時間的な接近に当たります。
トリガー③:対比
全く関係ない要素でも、対比(コントラスト)の関係にすると、両者は関連づいて想起されます。
例えば「山」と「海」は全くの別物です。しかしコントラストがハッキリしているために、両者はしばしば一緒に連想されます。
連合の原理としては機能するものの、活用範囲が限定的です(わたしが知らないだけかもしれませんが)。この記事でも、これ以上は触れていません。
トリガー④:「刺激→反応」による条件付け
AとBが全く関係なくても、「Aによって、Bが起こる」という因果関係が認識されると、両者は関連づいて想起されます。
「パブロフの犬」の実験では、ベルを鳴らした後にエサを与えるという行動を繰り返すと、犬はベルの音を聞いただけで唾液を流すようになります。
ベルにエサのイメージが乗り移ったわけです。
これは「古典的条件付け」と呼ばれる現象です。連合の原理が発現する1つのパターンです。
「スキナー箱」の実験では、レバーを押すとエサが出てくる箱を用意し、偶然レバーを押してエサにありつけたマウスは、その後も繰り返しレバーを押すようになります。
レバーにエサのイメージが付加されています。
こちらは「オペラント条件付け」と呼ばれています。
また「古典的条件付け」と「オペラント条件付け」は、2つ以上の要素を連合させて覚えさせることから、総称して「連合学習」と呼ばれています。
≫「古典的条件付け」と「オペラント条件付け」の違い。実生活やビジネスに活用する方法を解説
身近に起こる連合の原理
やや硬い話が続いたので、ここからは身近な話をしましょう。直感的に「連合の原理」がわかる事例を集めてみました。
例①:水星と火星のイメージ
「水星」は涼しいイメージ、「火星」は暑いイメージがあります。
しかし実際には、地球より太陽に近い水星の昼間の気温は430°Cと灼熱です。一方で地球より太陽から遠い火星は、平均気温-63°Cの極寒です。
単に名前の頭に「水」と「火」がついているというだけで、実際とは異なるイメージがついているのです。
同じように、世界最大の島である「グリーンランド」は、緑豊かな温暖な気候を連想させます。実際には1年を通して、島のほとんどが分厚い雪と氷に覆われている極寒の地です。
例②:色が持つイメージ
色にはさまざまなイメージがありますが、そのイメージもまた、連合によって植え付けられています。
例えば「赤」には、食欲を増進したり、闘争本能が湧いたりといった、実際的な効果があります。
食欲が増すのは、果実や野菜が食べ頃を迎えたときに、実が赤くなることに由来します。もしかしたら、新鮮な獣の肉が赤いことも一つの理由かもしれません。
だから「赤い=すぐ食べろ」と脳が解釈するのです。
闘争本能が湧くのは、血のイメージからでしょう。
獣か敵かあるいは自分か。誰の血かはさておき、景色が赤く染まっているシーンは、奮起して戦わなければならないシーンです。
そのため運動会では、赤組の勝率がわずかに上回るとか。
実際には、「赤」はただの色。赤い折り紙は、光の反射によって赤く見えるだけで、それ以上に何ら意味を持っていません。
しかし脳は、「赤」の代表的な物体のイメージを連想せずにはいられないのです。
例③:イケてるグループ・ダサいグループ
学校生活の中でよく見られる現象です。当人は一切変化しなくても、イケてるグループに入ると「イケてる」と認識され、ダサいグループに入ると「ダサい」と認識されます。
そのため、他人の目を気にする生徒は、イケてるグループに擦り寄る行動を取ります。
合コンの幹事(特に女性)は、自分より魅力がない人を集める傾向があるとか。しかしあえて魅力的な人を集め、自分もその仲間と認識させる戦略もアリではないでしょうか?
どちらが有効かはわかりませんが。
例④:悪い子供とは遊ぶな
しばしば大人たちは、
- 「悪いグループの子とは遊ぶな」
- 「団地の子とは遊ぶな」
と言います。
もし子供が、「あの子は別に悪いことなんてしないよ?」と言ったとしても、親は怪訝な表情を浮かべるでしょう。
親が心配しているのは、その友達から悪い習慣が移ることだけではありません。悪い子供と一緒に遊んでいる我が子が目撃され、近所の人に悪い印象に映ることも、同じくらい気にかけているのです。
その友達がホントに悪い子かどうかを見ているのだけでなく、その友達に悪いイメージがついていないかも見た上で、「遊ぶな」と忠告しているのです。
(その賛否についてはここでは触れませんが)
例⑤:スポーツチームの熱狂的なファン
スポーツの熱狂的なファンは、選手と同じユニフォームを着て、試合の場で選手と一緒になって汗を流します。また私生活においても、そのチームのグッズを身につけたりします。
この行動は何を意味しているのでしょう?おそらく深層心理では、自分と推しのスポーツチームを連合させようとしているのではないでしょうか。
つまり自分に、そのスポーツチームの印象を紐づけたいのです。そうすることで、チームの活躍が本来は関係ない自分に乗り移ります。チームの勝利を、自分の勝利にしようとしているのです。
応援にあれほど熱狂できるのは、そこに自分の評判や尊厳がかかっているからです。もはやただのスポーツ観戦ではありません。これは代理戦争です。他人事じゃないから真剣なんです。
そのような背景から、基本的に強いチームほど多くのファンを抱えています。自分の代わりに戦って、自分の株を上げてもらわなければならないので、チームは強いほど都合が良くなるからです。
というわけで、スポーツチームにとっての王道のマーケティングは、何よりもチームを強くすることにあります。
例⑥:国民的キャラクターを演じた俳優
印象が強いキャラクターを演じた俳優には、その役のイメージが強く紐づきます。
「男はつらいよ」シリーズで寅さん役を演じた渥美清さんは、もともと色んな役を演じていた俳優さんでした。
しかし後年は何をやっても寅さんにしか見えず、もはや「寅さん=渥美清」になってしまいました。
俳優さんにとって、連合によって役のイメージが定着することは、メリットにもデメリットにもなります。
「金八先生」でおなじみの武田鉄矢さんは、教師のイメージや、道徳的なイメージが連合されています。そのイメージが功を奏して、バラエティ番組などで講師役として起用されています。
実際にはただ教師役を演じていただけで、武田鉄矢さんがその分野に詳しいわけではありません。しかし「何かを教える役=武田鉄矢」なので、仕事が舞い込んでくるのです。
しかし役のイメージが強すぎると、それ以外の役ができなくなってしまうリスクが出てきます。
堺雅人さん主演のドラマ「半沢直樹」は、異例の人気を誇りながらも、続編まで7年の期間を挟みました。このインターバルは、堺雅人さんのキャリアにとっては良いことだったと思います。
もし「半沢直樹」を短期間で連発したら、「半沢直樹=堺雅人」のイメージが定着してしまったことでしょう。国民的俳優の階段を登っていた堺さんにとって、将来の役の幅が狭くなる事態になっていたかもしれません。
例⑦:大物政治家による選挙の応援
選挙戦では、首相や大臣を経験した大物政治家が、まだ支持基盤が弱そうな新人候補の応援に駆り出されます。
理由はもちろん、大物政治家の威光を、新人候補者に分け与えることです。
そうすることで、有権者の深層心理では、新人候補者にも「強いリーダーシップ」や「信頼感」といったイメージが植え付けられるのです。
連合の原理をビジネスに活用する方法
ビジネスでは、製品やあなた自身に良いイメージを持たせるために、「連合の原理」を応用できます。
活用①:正攻法は「顧客に満足感を与え続ける」こと
テクニック的な話をする前に、まずは正攻法からしていきましょう。
- 「製品を使った→満足した」
- 「あなたの提案に従った→課題が解決した」
といった良い行動を繰り返すと、製品やあなたに対する顧客の好印象が強化されていきます。「当たり前だろ!」と怒られそうですが、これがビジネスの基本です。
逆に不満を与える体験をさせてしまうと、あなたに対する好感度は下がります。
例えば「今月どうしても目標に届かないので、買ってください!」と、お願いする営業マンがいます。それまでに好印象を積み重ねていれば、OKしてくれる可能性は十分にあるでしょう。
しかしこの行為は、それまで貯めてきた「好意」という貯金を一気に取り崩す行為です。
せっかく積み重ねてきた好意を切り売りして、その場限りのお金に変えているのです。長期的には、どう考えてもマイナスです。
何よりもまず、「顧客に満足感を与え続けること」を念頭におきましょう。
活用②:インセンティブの導入
- 「毎日ログインしてもらう」
- 「高い頻度でお店に通ってもらう」
など、顧客に望んだ行動をさせる上では、インセンティブが有効です。
つまり行動の見返りに「報酬」を渡すということです。やっていることは単純で、「パブロフの犬」や「スキナー箱」と同じ。エサをぶら下げて行動を促します。
当然効果はあるわけですが、注意点もあります。
行動の目的が報酬になってしまい、元から少なからずあった内から生じるやる気が押し出されてしまう「アンダーマイニング効果」が起こるからです。
報酬(主に金銭的な)が目的になってしまうと、対価に見合った行動しかしなくなります。ショボい報酬なら、「そこまで頑張ることもないだろう」と値踏みされてしまうのです。
報酬はあくまで、行動開始のきっかけに留めるのが理想。
その後は、その行動自体が楽しくなるように設計すると、行動が長続きします。ゲームの中毒性をビジネスに応用する「ゲーミフィケーション」が、有効な打ち手になるでしょう。
活用③:ランチョンテクニック
ここからはテクニック論です。
要求を通すために美味しい料理を振る舞う「ランチョンテクニック」という手法があります。実に単純ですが、美味しい料理を一緒に食べた人を好きになってしまうのです。
「接待」が典型的ですが、何も接待だけがランチョンテクニックではありません。
- 顧客コミュニティの懇親会(オフ会)を開く
- 新製品のお披露目をレストランで行う
- カフェに商品サンプルを置かせてもらう
- 来店客にお菓子を振る舞う
- 商談やミーティングはランチの場で行う
- 店舗内にレストランを設ける
など、シチュエーションの工夫のしようは色々とあります。
IKEAの大型店舗には、しっかり目のレストランが設けられています。ショッピングの途中で、休憩がてら食事する導線になっており、ブランド自体の好感度アップにつながっていると考えられます。
活用④:服装で権威を借りる
ある職業で使われている典型的な服装(または制服)には、その職業に対するイメージが乗り移っています。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」
と言うように、袈裟(けさ:お坊さんが身につける前かけ)はただの布ですが、もはやお坊さんそのもののイメージまでもが付加されています。
袈裟は悪い例えでしたが、要するに服装には、その職業の権威が憑依しているわけです。服を着替えるだけで、あなたはその服が持つ権威も一緒に着込むことができるのです。
- 白衣を着れば、医師の権威を
- 黒帯を締めれば、武道家の権威を
その身に宿すことができます。
「その業界の典型的な服装をしよう」という話なのですが、ビジネスシーンでは今だにスーツの力が強いと見えます。スーツ離れは進んだものの、人々が持つスーツに対するイメージは変わっていません。
わたしはスーツを着る必要はなくなった身ですが、絶対に決めたい場面や初対面で印象づけたい場面では、やはりスーツを着ていきます。ジャケパンではなく上下揃ったスーツに、ネクタイも締めます。
同じような行動を取る男性が多いのではないでしょうか?
みな直感的に、スーツの権威を知っているからそうするわけです。そして往々にして、その通りの効果があります。ちなみに見た目から繕うのは、詐欺師の常套手段でもあります。
≫【服従せよ】権威性=無条件で従わせる力。権威を獲得するコツを解説【実績0でも可】
活用⑤:印象の良い人の隣に座る
製品に好意を抱かせたければ、既に好かれている人にその製品を持たせれば良いのです。だから企業はCMで好感度が高いタレントの隣に製品を置くのです。
スポーツ選手のスポンサーは、その選手の実績はもちろん見ていますが、それ以上にその選手の好感度を見ています。消費者に製品を好きになってもらうためには、好感度が高い選手に身につけてもらう必要があるからです。
メーカーが芸能人やインフルエンサーに製品をプレゼントするのは、露出(インプレッション)が取れるという目的も大きいですが、その人の好感度を製品にインストールさせることも重要な目的です。
また製品でなく、あなた自身を好きになって欲しい場合には、相手が既に好感を持っている人に、隣に座ってもらえば良いのです。
営業が引き継ぎ訪問をするときは、前任の営業マンと一緒に行くのが通例です。これは儀礼的な意味だけではなく、前任が持っている好感度を後任にインストールする意味もあるのです。
クレームで顧客に謝らなければならないなら、役職という権威がある上位職を連れて行くべきです。しかしさらに効果的なのは、顧客に1番好かれている人を連れていくことです。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!