権威性=従わせる力
「権威性(authority)」とは、カンタンに言えば他者を従わせる力のことです。
またよく似た言葉に「権力(power)」があります。権力は「振るう」もので、腕力と同じように物理的に行使することで発揮する服従の力です。
一方で「権威(authority)」は、「示す」ものです。相手を物理的に抑え込むのではなく、水戸黄門の印籠のように、見せるだけで相手を服従させる力です。
権力を持つのも魅力的ではありますが、あなたが真に目指すべきは「権威」の獲得です。
「権威」と「権力」の違い
「権力」は、力(歴史的には主に武力)で相手を従わせます。実際には賞罰という形態を取るケースが多く、権力を保持する者はその賞罰を実行するだけの力を持っています。
そして「権力」を持っていることが周知の事実となると、権力者が力を行使するまでもなく、周囲の人が言うことを聞く「権威」の状態に移行します。
政府や警察、軍隊は、「権力」を持っていると同時に、「権威」も持っています。だから権力側が力を行使せずとも、基本的にはみんな言うことを聞いているのです。
ただし「権力」があっても、「権威」を獲得できていないケースは往々にしてあります。
Google社は、インターネット検索の世界で「権力」を持っています。Googleの意向に沿わないサイトを、検索順位の圏外に飛ばす力を持っているからです。
しかしながら過去のGoogleには、「権威」はありませんでした。
Google社は「ユーザーに価値あるサイトを作りましょう」と言い続けてきたものの、検索順位を上げるための手段はブラックハットSEO(アルゴリズムの穴を狙う不正な手段)が主流でした。
ただ最近では、Google社が頻繁にアルゴリズムのアップデートを行い、不正の穴を埋めています。不正を行ったサイトは、圏外へ飛ばされるようになりました。
Googleの「権力」が周知の事実となり、ホワイトハットSEO(Googleの意向に沿って、ユーザーに価値あるサイトを作る)が主流になってきています。
Google社は「権威」を獲得しつつあると言えるでしょう。
いかに「権力」を持っていても、その力を振るうにはコストがかかります。権力は最後の強行手段であり、できれば振るわないに越したことはありません。
だからこそ「権力」を手にした人は、次に必ず「権威」を求めます。
武力で天下を納めたばかりの人は、「権力」は持っているものの、その力を知らないor認めていない人が大勢いる状態です。だから「皇帝」の称号や「ローマ教皇のお墨付き」を使って、「権威」を得ようとするのです。
本当に欲しいのは、自分が何もせずとも服従させる「権威」です。もし一足飛びに「権威」が手に入るなら、「権力」など必要ないのです。
「権力」がなくても「権威」は成立する
多くの場合は、「権力」を持つ人が「権威」も手にします。しかし「権力」を持たないのに、「権威」を持っている人もいます。
日本の天皇は「権力」を持っていないので、国民に対して何ら行動を強制する力はありません。しかし絶大な「権威」があります。だから自然と頭が下がり、もしすれ違うことがあれば進んで道を開けるのです。
若い2代目社長は、実際には「権力」を持っているものの、周りはその力を信じていません。2代目社長は「権力」はあるが、「権威」はない状態になります。
一方で会長に退いた先代社長は、「権力」は持っていないものの、いまだに「権威」は保持しています。先代社長の影響力の正体は、「権威」に他なりません。
ここで理解しておきたいのは、「権威」を持つために、必ずしも「権力」は必要ないということです。
後ほど具体的な方法を解説していきますが、あなたが「権威」をまとうために、茨の道を進んで「権力」を手にすることは、ベターではありますが、マストではありません。
権威性の実験事例:ミルグラム実験
権威性がどれほど過酷な行動を他人に強制できるかを示す実験に、「ミルグラム実験」があります。非常に有名な実験なので、ご存知の人も多いかもしれません。
この実験では被験者が2人1組になり、くじ引きで「教師役」と「生徒役」を決める。ただし片方の被験者はサクラであり、本物の被験者は「教師役」になるように細工されている。
「教師役」になった被験者は、2組の単語リストを読み上げる。その後に片一方の単語だけを読み、「生徒役」のサクラは、対になる単語を答える。答えが正しければ次の問題に移り、間違いなら電気ショックを流すように指示される。
電気ショックは45Vから始まり、間違えるたびに15Vずつ上昇する。最大は450V。なお実際には電気ショックは流れておらず、サクラは苦痛に身悶える演技をしているだけである。
サクラが回答を間違えるたびに、白衣を着た実験者が電気ショックの指示を出すが、苦痛のリアクションが大きくなっていく。最終的には、無反応になるまで続く。
この実験を行う前は、最後の電圧までショックを流す被験者は1.2%という予想っだった。しかし実際には、65%が最後の電圧までショックを流し切った。
ちなみに被験者のほとんどは、淡々と電気ショックを与え続けたわけではありません。「なぜこんな実験を行うのか?」と苦悶し、相当な葛藤の中で実験に臨んでいました。
しかし白衣を着た実験者が「問題ない。責任は全てこちらが負う」と答えると、多くの被験者は最大電圧まで流しきったのです。
歴史に残る非道な事件を現場で実行したのは、一介の公務員。我々と同じような凡人です。そんな普通の人に、身の毛もよだつような行為を強制させる、権威性の恐ろしさと強大さを物語る実験でした。
なぜ人は権威に従順なのか?
人は、権威ある人に驚くほど従順です。何も考えずに、反射的に「YES」と答えます。別の視点では、権威性が機能したからこそ、今日の高度な社会が築けたという側面もあります。
権威性には、なぜこれほどまでに人間の思考をハックする力があるのでしょうか?その理由を考察してみましょう。
理由①:生殺与奪を握られているから
もっとも純粋で歴史があるのは、暴力によって裏打ちされた権威です。
生殺与奪を握られているわけですから、言うことを聞かないわけにはいきません。家族の生殺与奪を握られてしまっていれば、自分が死地に赴くような指示にも従わざるを得ないでしょう。
逆に権威ある者に従っておけば、その庇護下に入り、身の回りの脅威から自分や家族を守ってもらえます。そしてより多くの報酬を手にする機会にも恵まれます。
権威に従うのは、当然の理屈ということになりますね。あまりにも当然すぎて、その行動の是非を自分で考えることすらしなくなってしまったわけです。
理由②:専門家の意見は大抵正しいから
「〇〇業界の権威」と言った場合、「権威=専門家」という意味合いが強くなります。
専門家の言うことに従順になるのは、シンプルに自分よりも専門家の意見が正しい可能性が高いからです。
急に体にブツブツができたとき、自分で医学書を開いて調べる必要はありません。専門家である医師の意見を仰げばよいのです。
人間は1日に35,000回の意思決定をしていると言われています。全ての判断を0から考えていては、とても時間が足りません。ショートカットできそうなら、なるべく簡単な思考で済ませるべきです。
専門家の意見に考えなしに飛びつくのは、「正しい可能性が高い」という理由にプラスして、「手っ取り早く答えに辿り着ける」という理由もあります。
体の大きさと権威性の話
原始的な権威は暴力に紐づいていたことから、体が大きいほど権威性が強くなる傾向があります。
これは人間だけではなく、動物にも当てはまります。多くの動物は、体を大きく見せる機能を持っています。またオス同士の争いでは、実際に戦わずとも、体が小さい方が身を引く行動を取ります。
背が高いビジネスマンの方が、重要な職に就きやすく、高収入である可能性が高い傾向にあります。また背が高い政治家の方が、その演説に説得力が増すことも知られています。
Bボーイがオーバーサイズの服を着るのも、体を大きく見せたいという深層心理の現れでしょう。ダンスでは体を大きく見せる方が良しとされますが、これはある種のダンスが、決闘の代わりとされていたことに起因するのかもしれません。
体を大きく見せるのは、もっとも原始的で古典的な権威性の作り方。詐欺師が底上げした靴を好むのも、同じ理由からでしょう。
「実物は意外と小さかった」の真意
よく有名人を直接目にした人は、「意外と小さかった」という感想を述べます。わたし自身も、しばしばそういう感想を持ちました。
これは画面越しにしか見たことがなかった有名人に対して権威を感じていたために、その人物が実際よりも大きいと錯覚していたからです。
有名人も一般人と同じような身長分布に従っているはずです。実際には平均身長くらいだったとしても、権威によって増幅されたイメージ上の身長よりは低く感じてしまうのです。
権威性が持つ意外な側面
権威性の本質を掴むためには、別の角度からも権威の姿を観察する必要があります。ここでは、「権威性は想像するほど厳格ではない」という側面をお話しします。
意外①:権威は絶対的ではない
ときに大企業の役員クラスともなると、その権威は相当なものです。社内はもちろんのこと、ビジネス界では絶大な影響力を誇ります。
しかしそんな大企業の役員でも、医師にかかれば従順。相手を「先生」と呼び、「ちゃんと生活習慣を見直してください!」と怒られれば、シュンとして「すみません」と謝ります。
どんな権威ある人物であろうと、初めてマグロ漁船に乗れば下っ端です。水産高校を卒業したての20歳にも満たない若者の方が、船の上では権威ある存在です。
多くの場合、権威は絶対的ではありません。その世界の権威に準ずる事になるので、シーンによって誰が権威を持っているかは変わります。
相手が誰であろうと、あなたが得意なジャンルに持ち込めさえすれば、あなたの方が権威になるということです。
基本的には大企業の方が権威を持っていますが、特定のジャンルにおいてはスタートアップの権威が勝ることもあります。
意外②:権威は捏造できる
本来なら権威を持っていない人にも、権威を持たせることが可能です。
それぞれが全く関係ない複数の要素であっても、それらが脳内で関連づけられることで、それぞれの要素に対するイメージが同化する現象に「連合の原理」があります。
武田鉄矢さんは俳優です。俳優としての権威はありますが、教育者としての権威は本来ありません。
しかし武田鉄矢さんには、往年の名キャラクター金八先生から「教師」のイメージが強く結びついています。
武田鉄矢さんに黒板で説明されると、なぜだか納得してしまいます。それは武田鉄矢さんに、「教師」のイメージが連合されているからです。
もしあなたが教育系コンテンツを販売しているなら、武田鉄矢さんを広告塔に据えると良いでしょう。言い方は悪いですが、武田鉄矢さんに講師の権威が捏造されているからです。
「連合の原理」は、何も人だけに限った話ではありません。
白衣には、医師のイメージが連合されています。ペーペーの研修医であっても、白衣を着ていれば医師の権威を身に纏えます。患者の信頼を得るなら、白衣を着るべきです。
この辺りの話は、次の章で詳しく解説します。
≫【心理学】連合の原理とは?「アレ」と結びつければ印象はカンタンに操作できる
【実績0でもOK】権威性を引き出す3つのトリガー
上記の「連合の原理」を使い、既に権威性が宿っている何かと関連づければ、どんなモノや人であっても権威を纏わせることができます。
仮にあなたに全く実績がなかったとしても、権威性を引き出すことは可能です。
トリガー①:肩書き
肩書きには、それ自体に権威が宿っています。
その人自身の実力はさておき、名刺に「社長」と書いてあれば社長の、「部長」と書いてあれば部長の権威が宿ります。「弁護士」や「博士」といった資格にも権威が宿っています。
本来肩書きをつけるには長年の努力を必要としますが、嘘っぱちでラベルをつけるだけでも機能してしまいます。
ときに社員数人(または1人)の「社長」には、大した権威はありません。大企業の平社員の方がよっぽど大きな力を持っています。しかし肩書きが「社長」なので、それだけで相手は丁重に接してきます。
企業にとっては、「上場」しているのは1つの肩書きです。実際には上場企業もピンキリですが、上場しているだけでも一定の権威を獲得できます。
とはいえ、いくら効果はあると言っても、ウソをつくのは流石に推奨できません。
しかし勝手に肩書きを作る分には自由です。平社員だろうが、個人事業主だろうが、専門性をアピールできる肩書きならバンバンつけるべきではないでしょうか?
トリガー②:服装
医師における「白衣」や、武道家の「黒帯」にように、服装にも権威が宿ります。
昭和の未解決事件「3億円事件」では、犯人は「警察官」の制服を着ていたと言われています。詐欺師はしばしば、「銀行員」や「弁護士」など、お堅い職業の服装で身を包みます。
後の発言や行動への印象が、第一印象に左右されてしまう現象に、「ハロー効果」があります。初っ端でその職業の典型的な服装をするだけで、中身は伴わずとも説得力はゲットできるのです。
汎用的には、「スーツ」の力が今だ健在。スーツ離れが加速しているものの、スーツが持つイメージは変わりません。初対面やここぞと言う商談では、ビシッと上下揃ったスーツにネクタイを締めていくのがオススメです。
企業の場合は、一等地の住所にあるオフィスが、服装の役割を果たすでしょう。羽振りが良いベンチャーが六本木にオフィスを構えたがるのも、権威性欲しさゆえでしょう。
個人的には、身の丈に合わないオフィスに大事な資金を燃やしているベンチャーは信用できませんが、一般的には権威として映っています。
トリガー③:装飾品
古代の中国では、玉璽(ぎょくじ:皇帝の印)は、絶対的な権威を持っていました。ある意味で、「玉璽を持っている人=皇帝」という感さえありました。
服装と同じように、装飾品もまた権威を示す好材料になります。基本的には、高価な装飾品ほど、強い権威性を示すアイテムになります。
高級車に乗っている人ほど、クラクションを鳴らされなかったという実験結果もあります。優秀な営業マンほど、靴や腕時計などに気を使います。
これまた服装同様に、その職業に典型的なアイテムを携えるのもアリでしょう。
ベタですが、メガネをかけると少し賢く見られます。デザイナーやプログラマーは、Macを使っていた方が仕事ができそうに見えます。
ビジネスで権威性を引き出す5つのコツ
ここでは個人というよりは、ビジネス(つまり事業)に対して権威性を持たせるコツを紹介します。主にマーケティングで使える手法です。
空っぽの器に権威を捏造するのではなく、既にある実力に「権威」というお化粧をして、いかに大きく見せられるかに主眼を置いています。
コツ①:有名人の権威を借りる
カール大帝やナポレオンといった成り上がりの英傑は、戴冠式によってローマ教皇が持つ圧倒的な権威を自身に結びつけました。
レベル感は違えど、現代人の我々も同じ手法が使えいます。つまり有名人が持っている権威を、企業や製品に結びつけるのです。
- 有名人に広告塔になってもらう
- 有名人からレビューしてもらう
企業がCMに好感度の高いタレントを起用するのは、タレントの持つ権威を製品にインストールさせたいからです。
また必ずしもタレントが正解とは限りません。イメージよりもスペックや効能をアピールしたい場合は、アカデミックの世界の権威(研究者や大学教授)を頼りましょう。
コツ②:権威ある人の理論を使う
権威ある人のお墨付きをもらえない場合は、権威ある人が提唱している理論を拝借しましょう。基本的には、アカデミックな権威から拝借します。
- 科学的に立証されている理論を使う
- 経営学のフレームワークを使う
ちなみ当ブログでも、このパターンを採用しています。筆者自身には何ら権威はありませんが、心理学や経営学の理論には権威があります。
だから権威のないわたしの言葉であっても、一定の信憑性を持って聞いてもらえるのです。
コツ③:導入実績
導入実績も権威づけになります。
- 〇〇万人が使っています
- ◯秒に1個売れています
- Amazon〇〇カテゴリーNo.1獲得
より権威を強調したいなら、権威ある企業や人への導入実績をアピールしましょう。
「美味しんぼ」の海原雄山が運営している「美食倶楽部」は、最高の食材だけが集まる「食の最高峰」です。そこに採用された食材には、大きな権威が付加されます。
大企業やインフルエンサーがあなたの製品を使っているとアピールすれば、彼らの権威を製品に憑依させることができます。「宮内庁御用達」は、最高の権威付けかもしれませんね。
コツ④:受賞歴
第三者機関からの受賞歴も、権威づけに効果的です。
- グッドデザイン賞
- 内閣総理大臣賞
- 〇〇部門で顧客満足度No.1
もちろん効果のほどは、評価元機関の権威によります。飲食店であれば、ミシュランが最高峰で、食べログの百名店なども高い権威を得ています。
ただし何もないよりは、何かしらの表彰を受けている方がベターでしょう。顧客はどの賞に権威があるかなんて知りませんし、あえて調べようともしませんから。
コツ⑤:利益相反しないと強調する
あなたに権威があれば、大抵の人は言うことを聞いてくれますが、あなたの要求をより確実に通すためには、もう一つテクニックが必要です。
それは、「あなたが相手と、利益相反の関係にない」とアピールすることです。
権威ある人が利益相反関係にある場合、相手は丸め込まれることを警戒します。だから相手に権威があると言えど、危険を察知してその言葉を鵜呑みにはできなくなるのです。
例えばWEB広告代理店は、広告出稿料の20%を徴収するビジネスモデルです。そのため、なるべく顧客にたくさんの広告費を出させるインセンティブがあります。
しかし顧客は、なるべく少ない広告費で、成果を上げたいと考えています。両者の間には利益相反関係があり、顧客は営業マンの言葉を100%信頼できません。
しかしビジネスは多くの場合、企業と顧客は利益相反関係です。だからこそ、明示的に「ボクは顧客の利益を第一に考えているよ!」とアピールすべきなのです。
本当に優秀なマーケターや営業マンは、あえて繕わずとも「顧客ファースト」を地で行きます。そこに顧客との強い信頼関係が生まれます。
しかし初対面の場合は、まだ顧客からの信頼を得られていないので、テクニックを使います。コツは「あえて自分(企業側)に不利な提案をする」です。
- 利益が出ない製品を提案する
- 他社が優れている場合は、他社製品を勧める
- お金にならない仕事を引き受ける
といった具合です。これで相手のガードが下がります。初対面ではぜひ意識してみてください。
権威性はブランドの決定的な差別化である
企業のブランドと権威性の関係について考えてみたいと思います。
事業が0からスタートした時点では、ブランド名やブランドロゴは、ただの文字情報や視覚情報でしかありません。文字列やロゴの色から伝わる以上には、顧客の心に何のイメージも湧きません。
しかしある程度顧客がついて来ると、ブランド名やブランドロゴに、特定のイメージが宿ります。「Apple」「ルイヴィトン」「ディズニー」には、それぞれのブランドイメージが付加されています。
ここでいうブランドイメージは、顧客にとっての「信頼」。
Appleであれば、スタイリッシュで、最高のユーザー体験を約束してくれるという信頼があるからこそ、ファンは無条件にApple製品を選ぶのです。そしてAppleはその信頼を決して裏切りません。
ブランドイメージが顧客に芽生えたということは、顧客の「信頼」を勝ち得たと同時に、その企業やブランドに「権威」が宿ったことを意味します。
権威があるからこそ、顧客は無条件にその製品を手に取ります。権威が決定的な差別化要因になっているのです。
「カノッサの屈辱」に見る権威の大切さ
ここで一つ、権威の大切さを教えてくれる歴史の出来事を紹介しましょう。
「カノッサの屈辱(1077年)」は、神聖ローマ帝国の皇帝がローマ教皇に破門され、雪が降る寒空の下、3日間に及んで裸足のまま教皇に破門の解除と赦しを請うた事件です。
当時のヨーロッパはキリスト教が最も幅を利かせていた時代。宗教が政治や文化の隅々まで入り込んでいました。国民=キリスト教徒であり、キリスト教徒以外に人権などなかったのです。
破門されたとなれば、皇帝といえど人権を失います。実際に臣下も諸侯も、破門された皇帝の言うことに耳を傾けることをやめました。つまり「権威」がなくなってしまったのです。
おそらくはプライドが高かったであろう超大国の皇帝が、このような屈辱的な行動を甘んじて受け入れたのは、「権威」を回復させるために他なりません。
これは決して昔話で終わらせて良い話ではありません。「権威とは、それほどの覚悟を持って守らなければならないものだ」と、現代を生きる我々に教えてくれているのですから。
権威の維持は最優先事項
企業が一度ブランドイメージを作ったなら、そのイメージを守り通さなければなりません。
- このブランドを、買えば間違いない
- このブランドは、必ず自分好みのテイストを守ってくれる
- このブランドの言うことを聞けば、他社の言うことは聞く必要がない
と信じさせ続けなければなりません。
もし権威が損なわれたら、ブランドのネームバリューは死んだも同然です。
食べログの評価には、一定の信頼、つまり権威があると考えられています。
ときに食べログは、広告費を払ってくれる飲食店ほど高い評価をつけていると言われることがあります。おそらくはその通りの部分もあるでしょう。
しかし、「評価が高いお店=絶対に美味しい」というラインだけは、死守しなければなりません。それこそが食べログというサービスの根幹であり、価値そのものだからです。
米国のスニーカーの二次流通プラットフォームである「StockX」は、フェイク品が多いスニーカーを鑑定し、本物だけを販売しています。同種のビジネスが、世界中で模倣されています。
しかしフェイク品の製造技術が上がるにつれて、販売した商品の中にフェイク品が紛れている事例が散見されるようになります。
顧客は、企業側の「この商品は本物である」という言葉を信じなくなりました。高額な商品を買った顧客は、後から別の鑑定サービスでダブルチェックする始末です。
わかりやすく権威が揺らいでいます。彼らは顧客獲得に多額の資金を投じていますが、本当に投資すべきは、フェイク品を絶対に見逃さない鑑定体制の実現に対してです。
権威性はブランドの根幹。権威を維持することは、マーケティングの最優先事項であるべきです。
いかにキャンペーンで客を釣ろうが、権威が揺らいでしまってはおしまい。「覆水盆に返らず」です。失った顧客はカンタンには帰ってきません。
まとめ
今回は、心理学の観点から「権威性」を解説しました。
人間のとって権威に従うのは当然の理屈であり、我々は権威ある存在に無条件で従う習性があります。その習性ゆえに、人類が今日の繁栄を築けたと言っても過言ではないでしょう。
しかしその傾向がいささか強すぎるようで、権威の存在をチラつかせるだけで、多くの人が疑いもせずに従ってしまう状況を作ることができてしまいます。
権威は着飾れる
それっぽい「肩書き」「服装」「装飾品」をまとうだけで、あなたの発言は説得力を増し、相手は疑う気持ちをなくします。仮にあなたに実績が一切なかったとしてもです。
また権威をより大きく見せたいなら、既に権威ある第三者のお墨付きをもらうのがオススメです。アカデミックの権威に推薦コメントをもらったり、受賞歴をアピールしたりといった具合です。
権威はブランドそのものである
権威性で表面を取り繕うテクニックも有効ではあるのですが、ホントに大切なのは、権威性の本質を理解してブランディングを行うことです。
市民権を得たブランドには権威が宿っています。顧客にとっては、権威は「信頼」とほぼ同義。顧客が抱いている信頼を損なう行為は、ブランドの死を意味します。
せっかく積み上げてきたブランドを自ら放棄すれば、それまでブランドの看板で売れていた製品が、もはや看板では売れなくなります。
企業にとって、ブランドの信頼を守ることは最大のマーケティングなのです。これは経営学の大家フィリップ・コトラー氏が提唱した「マーケティング3.0」の要旨でもあります。
カノッサの屈辱は良い教訓です。天下の皇帝様が、なぜ雪の上を裸足で3日間も耐え忍んだのか。権威は目に見えない資産。それも絶対に死守しなければならない資産だからです。
参考書籍
参考書籍は、社会心理学者ロバート・チャルディーニ氏の『影響力の武器』です。
人に要求を飲ませるために、最上の6つの方法を教えてくれる良書です。正気の沙汰なら絶対に飲まない要求でも、首を縦に振らせてしまう力を持っています。
マーケティングや営業界隈では、必読の一冊にノミネートされています。モノを売る仕事をするなら、確実に押さえておいてくださいね。
要約記事もありますので、時間がない人はこちらをどうぞ。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!