- 徹夜したけど、思うように仕事が進まなかった
- 酒を飲んだらついカッとなって、声を荒げてしまった
これらは、脳のシステム1・システム2によって起こる現象です。システム1は「速い脳」、システム2は「遅い脳」とも呼ばれています。
行動経済学の理論は、全てこの脳の2システムに端を発しています。行動経済学に興味がある人は、まずこの根っこから学びましょう。
この記事では次のことがわかります。
- 脳のシステム1とシステム2とは何か?
- システム1とシステム2が、なぜ行動経済学で重要な概念なのか?
- 2システムを使い分けて仕事に活かす方法
本で読めば相当時間がかかる概念をたった数分で学べます。ぜひチェックしてみてください。
脳はシステム1と2システムとは?

「システム1」「システム2」とは…
脳が意思決定をするときに、無意識に脳内にある2つのシステムを使い分けているという概念です。
行動経済学におけるあらゆる理論の根幹をなす概念です。
システム1は別名で「速い思考」、システム2は別名で「遅い思考」とも呼ばれています。
両システムの使い分けの例は、次のような感じです。
- 2+2の計算をする
- ぶらぶら歩く
- 看板に書かれた大きな文字を読む
- 空いている道路で車を運転する
- 突然聞こえた音の方角を感知する
- 目に入った母国語を読む
- 32×64の計算をする
- 一定のペースを維持しながら歩く
- かすれた読みづらい文字を読む
- 狭いスペースに車を駐車する
- 突然を音が聞こえた方角へ、あえて振り向かないようにする
- 慣れない外国語を読む
なぜ脳内を2つのシステムに分ける必要があったのか?
脳の仕組みがこのようになっているのには、もちろん理由があります。
脳内を2システムに分割する狙いは、脳のエネルギーの節約です。システム1とシステム2の役割分担は、脳の努力(負荷)を最小限にするよう効率的にできています。
- システム1は深く考えず、瞬時に答えを出すので、脳のエネルギーをほとんど消費しません。
- 一方で、システム2は熟考して答えを出すので、脳のエネルギーを多く消費します。
全ての判断をシステム2に回してしまうと、脳がすぐにパンクしてしまいます。大部分をシステム1がさばくことで、バランスを取っているのです。
両システムの違いは、以降の章で詳しく解説します。
システム1は「自動的に働くシステム」

「システム1」=「直感」と考えて差し支えありません。直感とは、理性を働かせるのではなく、感覚でただちに物事とらえることです。
- 日本語(母国語)で書かれた看板を見たら、意識せずとも意味が頭に浮かびます。
- 何か物音がしたとき、意識しなくてもどの方角から聞こえたのかわかります。
これらはシステム1が無意識のうちに、情報を自動的に処理した結果です。
システム1には、次のような特徴があります。
システム1の特徴
- 脳に入ってきた全ての情報は、必ずシステム1が先に自動で処理する
- 瞬時に作動するので、OFFにすることはできない
- 深く考えずに、経験則で答えを出そうとする
- なるべく最近の出来事から答えを探し、見つからない場合は過去の記憶を遡る
日常における大抵の状況は、システム1の判断でうまくいきます。実際にほとんどの意思決定は、システム1で何となく判断されています。
お昼ご飯をどこで食べるか決めるときに、壮大な計算は必要ありません。手近な距離にある以前に行って美味しかったお店を選べば、失敗することはないでしょう。
ただし、システム1は信じやすく騙されやすいところがあります。それゆえ、少なからず判断ミスを起こしてしまいます。
システム2は「努力を要するシステム」
直感のシステム1に対し、システム2は「理性」を司っています。直感に反した、もしくは直感では対応できない判断を担当します。
次のような判断は、システム2でなければ対応できません。
- 32×64の計算をする
- 突然を音が聞こえた方角へ、あえて振り向かないようにする
いずれも直感とは反しているので、意識的な努力が必要な行動ですね。このような判断には、脳のエネルギーを多く消費します。
システム2には、次のような特徴があります。
システム2の特徴
- システム1の間違った判断を却下したり、一部修正した上で承認する
- システム1では難しい、頭を使わなければ解決できない問題を対応する
- 働かせるのに意識的な努力が必要で、なかなか働かない
- システム1が犯した判断ミスに対し、しばしば監視をサボってそのまま承認してしまう
- 飲酒や睡眠不足で、システム2が弱まってしまう
物事をちゃんと考えずに判断する人がよくいますが、こういう人は、「システム2が弱い人」と言わざるを得ません。俗に言う「頭が弱い人」です。
あなたのシステム2を試してみよう!
あなたのシステム2が正常に働いているか試してみましょう。
次の問題を解いてみてください。
- バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
- バットはボールより1ドル高いです。
では、ボールはいくらでしょうか?
では、答え合せをしていきましょう。
- 「5セント」と答えた方
おめでとうございます!システム2がちゃんと働いています。
- 「10セント」と答えた方
残念ながら今回はシステム2が機能していなかったようです。
この問題を見た全ての人は、「10セント」が即座に浮かんだはずです。これはシステム1による判断です。
よく考えると、ボールが10セントだと、バットは1ドル10セントになり、合計1ドル20セントになってしまうと気がつきます。システム1の安易な直感に対し、修正を加えるのがシステム2の役割です。
「10セント」と答えた人は、システム2がちょっと努力すれば却下できたはずの直感を、やすやすと許可したことになります。
システム2の幅広い役割
システム2は幅広い場面でその役割を担っています。一部を紹介します。
我慢する
システム1が下した直感や感情をコントロールするのは、システム2の役割です。上司や家族にイヤなことを言われたとき、直感では怒りをあらわにしたいところ、システム2がそれを制止します。
ついカッとなって事件を起こした人は、その瞬間システム2が疎かになっていたと言えます。飲酒はシステム2が弱めるので、辻褄が合います。
ビックリしたときの反応
平常時は、脳のエネルギーを省力化するためにシステム1が思考を取り仕切りますが、異常事態となれば話は別です。何らかの危険が降りかかっても。的確に判断して生き延びなければなりません。
ビックリしたときは、「普通じゃないことが起こった」と脳が判断しています。この状況をシステム1に任せておけないので、システム2が注意深く判断するモードになります。
例え話ですが、「新宿駅を降りたら人が一人もいなかった」という状況に陥ったら、「まぁ、いいか」と見過ごさずに冷静に考えますよね。
見づらいものを見ようとする
小さな文字やかすれた文字で、文字が読みづらくなるだけでも、システム2は駆り出されます。
外国語を読むときと同じで、パッと見てパッと理解できないので、注意深く見る必要があります。
システム2のリソースは有限
システム2は、意識して注意を払わなければ出てきてくれませんが、その注意力には決まった予算があります。
ゲームのRPGで例えると、呪文を使うためのMP(マジックポイント)みたいなものです。1日で使用できるシステム2のMPは有限で、使い切ってしまえば、それ以上は注意力・集中力を使えなくなります。
徹夜で仕事をしたときに、かけた時間の割にイマイチ進まなかった経験はありませんか?その原因は、システム2のMPが尽きてしまったからです。
システム2の思考は1度につき1つだけ
システム2を使える事柄は、1度に1つだけです。もし、2つ以上のことを同時にしている場合、システム2で処理するような複雑なものは1つに限られます。
車を運転しながら「32 × 64」の計算はできるかもしれませんが、狭いスペースに駐車している最中はできないでしょう。
システム2が何らかのタスクで忙殺されているときは、システム1が行動に大きな影響力を持ちます。
注意が必要な作業をしている人は、システム2の感情コントロールが疎かになっているので、話しかけたらより素の感情がかえってきます。
システム1がヒューリスティックと認知バイアスを引き起こす

「システム1」「システム2」の概念は、行動経済学で非常に重要とされています。その理由は、行動経済学のあらゆる理論が「システム1」によって引き起こされるからです。
システム1が引き起こす「ヒューリスティック」と「認知バイアス」についても触れていきます。
ヒューリスティック
ヒューリスティックとは、「簡単に解けない複雑な問題に対し、自分で解けそうなより簡単な問題に置き換えて考える思考プロセス」のことです。
システム1は、経験則によって、深く考えずに答えを出そうとします。真面目に考えたら大変なので、自分が答えやすい簡単な問題にすり替えて、答えを出しているのです。
たとえば「天気予報で降水確率50%だったときに傘を持っていくべきか?」という問題を、「今の空は雨が降り出しそうか?」という問題にすり替えていていませんか?
大抵の場合、ヒューリスティックで考えれば正しい答えを出せますが、判断ミスもしばしば起こります。
●ヒューリスティックをより詳しく知りたい人は、こちらの個別記事を見てみてください。
≫ ヒューリスティックとは?バイアスとの違いは?具体例で解説
認知バイアス
認知バイアスは、ヒューリスティックによって起こる判断ミスの中で、特に多くの人が同様に陥ってしまう「あるある」な判断ミスのことです。
認知バイアスには、「〇〇効果」「〇〇の錯誤」「〇〇の法則」といった名前がついており、100種類以上あると言われています。
一般的には認知バイアスの方が世に知られていますが、システム1から始まり、ヒューリスティックによって引き起こされるのが認知バイアスなのです。
システム1・システム2を仕事に活用する方法

システム1・システム2を活用すれば、いつもの仕事をより良い方向へ導くことです。
コツは次の通りです。
自身のシステム1が間違いをおかしそうになったときに、システム2がきちんと監視して、判断ミスを修正できるようにすること。
相手を仕向けたい方向によって、相手のシステム1に働きかけるか、システム2に働きかけるかを使い分けること。
今回は5つ活用方法を紹介します。
①難しい作業をしている人には話しかけない
難しい作業をしている人は、システム2を使っている可能性が高いです。そうすると、それ以外の事柄はシステム1で処理することになります。
感情のコントロールはシステム2の仕事なので、システム2が忙殺されている人に話しかけたら、機嫌が悪くてイヤな思いをするかもしれません。
②会議中に内職しない
仕事における作業は、システム2を使わなければならないシーンが多いです。会議中に内職している人は、会議の内容をシステム1で聞いていることになります。
そうすると、重要なことを聞き逃したり、普通に聞いていれば気づくはずの誤りや、自分にとって不利な話を見過ごしてしまいます。
③夜更かししない
睡眠不足はシステム2の働きを弱めます。(ちなみに飲酒もです)
夜更かしした翌日は、タスクに集中できない、複雑なことを考えられなくなる、など全般的にパフォーマンスが落ちます。慢性的に寝不足の人は、常にパフォーマンスが落ちていると自覚しましょう。
④複雑なタスクをしている上司に、承認依頼をする
システム2で仕事をしている上司に何かの承認依頼をすると、システム2が感情のコントロールをしてくれないので、不機嫌になるかもしれません。
ただし、システム2が忙殺されているので、あなたの承認依頼はシステム1で処理することになります。もしかしたらあっさり承認してくれるかもしれません。
⑤プレゼンは大きく見やすい文字を使う
小さくて見辛い文字は、相手のシステム2を呼び起こします。システム2は熟考するモードなので、細かいツッコミをもらってしまう可能性があります。
大きく見やすい文字を使えば、相手に深く考えさせずに、いい印象だけを伝えることも可能です。
逆に、本当によく見て欲しいときは、あえて小さい文字を使ってシステム2を呼び起こす作戦もアリです。資料の用途によって使い分けるのがいいでしょう。
まとめ
今回は行動経済学より、脳の「システム1」「システム2」を紹介しました。
日常のあらゆる意思決定の場面が、驚くほどこの理論で説明ができてしまいます。ぜひ日頃から「システム1」「システム2」を意識してみてください。
「ああ、確かにそういう風に考えているかも」と感じもらえたと思います。
- 意思決定をするときに、無意識に脳内にある2つのシステムを使い分けているという概念
- 脳内を2システムで役割分担する理由は、脳のエネルギーを節約するため
- 「システム1」=「直感」
- 脳に入ってきた全ての情報は、必ずシステム1が先に自動で処理する
- 深く考えずに、経験則で答えを出そうとする
- 大抵の場合、システム1の判断は正しいが、判断ミスも多い
- 「システム2」=「理性」
- システム1では難しい、頭を使わなければ解決できない問題を対応する
- 働かせるのに意識的な努力が必要で、なかなか働かない
- システム1が犯した判断ミスをよく見逃してしまう