「自己中心性バイアス」は、自分視点でものごとを考え、相手の視点に立てない傾向のこと。
小さな子供はほぼ例外なく、自己中心性バイアスにかかっています。大人になるにつれて薄れていくものの、根本的に克服できていない大人が多い印象です。
いつまで経っても他人の視点で物事を考えられない。そんな大人は子供と同じ。残念なことに、どんなに歳をとっても中身は子供のままの人が大勢いるのです。
なんて言ってしまう営業は、残念ながらまだまだ子供です。
この記事でわかること
- 自己中心性バイアスとは何か?
- 克服できない人はどれだけ損してるか?
- 克服するための矯正方法
自己中心バイアスを克服できているかは、「良識ある大人」と「いい歳した子供」の境目。克服できれば、仕事もプライベートもうまくいきます。お客さんや同僚、上司から信頼されます。家族関係は円満になります。
心当たりがある人は、ぜひこの記事を読んでみてください。克服の手がかりを掴めます。
自己中心性バイアスとは?
自己中心性バイアス(egoistic bias)とは…
自分の持っている情報によって、相手の心理を推し測ってしまう傾向のこと。
認知バイアスの一種で、心理学の用語です。
幼い子供は、初対面の人に対し、「〇〇ちゃんと遊んだの!」「〇〇市民プールに行ったよ!」と、相手が知らない情報をお構いなしにしゃべってきます。
相手が「〇〇ちゃん」や「〇〇市民プール」を知らないと気づいていないのです。これが自己中心性バイアスの最たる例です。
ときに「自己中心」と聞くと、わがままや横柄なイメージが浮かびますね。
結果的にそうなる要因にはなりますが、自己中心性バイアス自体にネガティブなニュアンスはありません。あくまで、「相手の立場に立って考えられない傾向」という意味です。
熱心に営業してもお客さんからあしらわれたり、悪いことはしてないはずなのに家族との関係がギクシャクしたりしている人は、自己中心性バイアスが原因かもしれません。
自己中心バイアスの原因
自己中心性バイアスの裏には、「利用可能性ヒューリスティック」があります。心理学や行動経済学の用語です。
利用可能性ヒューリスティックとは、自分が思い出しやすい事柄の発生確率を過大に評価してしまう現象のことです。
わかりやい例を出しましょう。
問題です。「歯医者」と「コンビニ」、件数が多いのはどちらでしょうか?
おそらくほとんどの人は、「コンビニ」が第一に思い浮かぶでしょう。理由はコンビニの方が、入った回数や利用した店舗数が多いからです。
実際には歯医者の方が件数は多いのです。しかし年に数回、人生を通して数件しかお世話にならない歯医者は、コンビニに比べれば思い出しづらいのです。
同様に、自動車事故よりも、飛行機事故で死亡する確率の方が高いと錯覚してしまいます。強烈なニュースを思い出しやすいのは、飛行機事故の方なのです。
自己中心性バイアスは、自分が知っている情報を、他人も同様に知っているだろうと錯覚する現象。利用可能性ヒューリスティックによって起こる脳のエラーの1つです。
自己中心性バイアスの実験事例
自己中心性バイアスの実験事例を紹介します。
実験①:家事の貢献度
1979年、心理学者のマイケル・ロスとフィオーレ・シコリーは「夫婦間における家族活動の貢献度」を調査する実験を行いました。
37組の夫婦が被験者。
各夫婦は、夫と妻が別々に、「朝食の準備」「子どもの世話」といった家事に自分がどれほど貢献しているかを回答する。
また各質問に対し、夫婦がそれぞれ行っている具体的な行動を挙げてもらう。
まず貢献度の評価は、夫婦の申告を足して100%にならなければ辻褄が合いません。もし夫が45%と申告したなら、妻は55%と申告すれば、この夫婦は正確に貢献度を測れていることになります。
しかし結果は、7割以上の夫婦で、合計の貢献度が100%を超えてしまいました。
どちらも自分が行っている家事は把握していますが、パートナーの家事は全ては見えていません。そのため相手の貢献を過小評価し、自分の貢献を過剰に見積もってしまったのです。
また自分が貢献した具体例は平均11件挙げられたのに、パートナーに対しては平均8件しか挙げられませんでした。
実験②:他者の感情理解
神戸大学の林創准教授らが行った、「自分だけが知っている情報によって、他者の感情理解がどう左右されるか」の実験を紹介します。
被験者は次の通り、4つの年代から抽出した。
- 小学3年生:106人
- 小学6年生:108人
- 高校1年生:122人
- 大人:154人
被験者に、「主人公が遊んでいた積み木を、他の子に倒されてしまった」というネガティブな話を2パターン見せる。片方は「意図的」であり、もう片方は「偶発的」である。
どちらがより悲しいかを、次の選択肢から評価してもらう(一般的には、わざと倒された方が悲しいと評価するはず)。
- 意図的の方が悲しい:+1
- 偶発的の方が悲しい:−1
- どちらも悲しさは同じ:0
次に、「積み木を倒したシーンを、主人公が見ていなかった」というバージョンも同様に評価してもらう。つまり主人公は、意図的なのか偶発的なのかを判断できず、積み木を倒されてしまった事実だけを知る状況である。
ポイントは、積み木がわざと倒されたのか、偶然倒されたのかを判別できないバージョンをどう評価するか。本来であれば、悲しさの度合いはどちらも同じと考えるのが妥当です。
しかし結果は、次の通りでした。
本来ならピンクのグラフは、「0」になっているのが正しい答え。
しかし大人であっても20%近い人は、「主人公はその事実を知らないにも関わらず、わざと積み木が倒された方が悲しいはずだ」と回答しました。
詳細は、神戸大学のホームページをご覧ください。
【こんなに違う】自己中心性バイアスにかかった人と克服した人
ここで自己中心性バイアスにかかっている「大人になりきれない子供」と、克服した「良識ある大人」で、どれほど違いがあるかを比較してみましょう。
仕事やプライベートのシーンごとに対比してみました。思わずハッとする内容もあるはず。
シーン①:他人への説明
自己中心性バイアスにかかっているかどうかは、他人に何かを説明するシーンで判別できます。
自己中心性バイアスにかかっている人
平気で専門用語や、その業界でしか通用しない慣習などを、説明なしにポンと口にします。相手に意味が伝わらないのでは?とは考えません。
克服している人
相手の知識レベルを見定め、平易な言葉で説明します。初対面で知識レベルが判断できない場合は、小学6年生や田舎のおばあちゃんでもわかる説明をします。
説明のゴールは、相手に対象を理解させること。どちらが得するかは明白ですね。
シーン②:提案
続いては、営業やショップ店員がお客さんに商品を提案するとき。ここでも自己中心性バイアスにかかっているかどうかで対応に差が出ます。
自己中心性バイアスにかかっている人
人気商品や自分のセンスで良いと思った商品をオススメします。「何がオススメですか?」と聞かれたら、即座に「コチラです!」と返します。
ひどい人は、「あと契約1つで目標達成なんです!」とか「どうしても受注金額のコンテストで勝ちたいんです!」と、顧客には関係ない事情を口走ります。
克服している人
相手のニーズを想像してオススメする商品を変えます。いきなり商品を勧めることはせず、まずは用途や使用環境をヒアリングするところから始めます。
顧客のメリットにならない提案は決してしません。
顧客により高い満足度を与えられるのは、もちろんニーズに合致した提案です。低い満足しか与えられない自己中心性バイアスにかかっている人は、リピートしてもらえません。
シーン③:交渉
提案と重複するところもありますが、何かの交渉ごとのシーンでも差が出ます。ちなみに交渉ごとは仕事だけでなく、家族や友達間でも登場します。
ここではA案とB案のどちらにするかの交渉とします。例えば、「事業を継続か撤退か」、「夏休みの旅行は海に行くか山に行くか」、といった具合です。
自己中心性バイアスにかかっている人
「Aが良い!Aの方がメリットが大きいから!」と、自分の尺度で両案のメリット・デメリットを解釈します。
克服している人
「まず各々の目的を整理しよう」と、双方のメリットが一致する箇所を探します。
もしA・Bどちらかでは双方のメリットが満たせないと判明したら、折衷案や第3案を提案します。
自己中心性バイアスを克服している人は、Win-Winの交渉ができる人です。長期に良好な関係を作れるのは、Win-Winの交渉だけ。それ以外はわだかまりが残ります。
シーン④:夫婦・恋人のケンカ
パートナーとの言い争いがあったとき、自己中心性バイアスにかかっているかどうかで、解決できるか深刻化するかが決まります。
自己中心性バイアスにかかっている人
「誰が生活費を稼いでると思ってるんだ?」「あなたは家事や育児に協力してくれないじゃない!」と言います。
どちらも相手方の苦労には目を向けません。
克服している人
相手をなじる前に、「自分のどこに落ち度があったか教えて欲しい。どう協力できるか考えるよ」と言います。
その上で家庭と仕事の優先度を双方で話し合い、落とし所を探します。
知人の離婚話を聞くと、夫婦どちらか(または両方)が、自己中心性バイアスにかかっているケースが多くありました。
シーン⑤:贈り物
贈り物や結婚式の引き出物も、自己中心性バイアスにかかっているかで、選び方が変わります。
自己中心性バイアスにかかっている人
シンプルに自分が欲しい品物を選びます。自分がもらう側の立場のときに、「この人のセンスイマイチだな」と感じていることは、すっかり忘れてしまいます。
克服している人
相手の人柄や年齢などを考慮して、喜ばれるであろう品物を選びます。
また残る物は捨てづらかったり、既に相手の家にあるものとバッティングしたりするので、消える物を選ぶ傾向もあります。
この視点は、ビジネスセンスにも影響します。相手の喜ぶものを想像できなければ、商品企画も営業も成功できません。
シーン⑥:ビジネスチャンスの発見
ビジネスチャンスは、「不」のつく場所に転がっています。不便、不安、不愉快、不明などなど。総じて、誰かが困っているシーンですね。
自己中心性バイアスにかかっている人
目の前で困っている人を見ると、「そんなことも分からないのか。情弱め」と見下したり、「これくらい分からない方が悪い」と相手のせいにします。
克服している人
「なるほど!ここが手の行き届いていない痒い場所なんだ!」とビジネスチャンスを見つけます。理解できない相手が悪いとは思わず、どうしたらもっとわかりやすくなるかを考えます。
ビジネスはどこまで行っても相手目線。商売とはそういうものです。自己中心性バイアスはチャンスを見る目を曇らせます。
自己中心性バイアスを克服する方法は?
では肝心の、自己中心性バイアスの克服方法についても触れていきましょう。
自己中心バイアスを一度克服してしまうと、まだ他人目線の発言ができない人が不思議に思えてきます。「なんでこの歳になっても分からないんだろう?」と。
しかし自分視点を他人視点に変えるのは、ちょっとしたコペルニクス的転回。それまで右手で文字を書いていたのに、明日から左手で書くようなもの。
矯正が必要で、人によっては一生克服できません。わたしは営業時代に矯正しました。オートで他人視点になるまでには、3年ほどかかりました。
克服方法①:自分主語を禁止する
自己中心バイアスの矯正に役立つのが、主語を相手にすることです。実際には、「自分主語を禁止!」とした方が意識しやすいでしょう。どちらも意味は同じです。
会話やメールなど、どうしても必要な文脈以外は自分主語を制限してみましょう。すると次のような文章が使えなくなります。
- オレはお昼にラーメンが食べたい!
- ボクは毎日仕事でクタクタなんだよ!
- わたしとしては、こちらの最新の冷蔵庫がオススメです!
代わりに次のような文章を使うことになります。
- お前、昨日は飲み会だったんだろ?昼は軽めに蕎麦でもどう?
- (奥さんに対し)毎日子供とずっと一緒で、ストレス溜まってるよね?
- お客様は外食が多いということなので、こちらの小さめの冷蔵庫が合っていると思います
実際にやってみるとかなり難しいはず。まずは、「あ!いま『オレ』って言っちゃった!」と、メタ認知できるだけでも大きな進歩です。
克服方法②:相手に耳を傾けるところから始める
自己中心バイアスにかかっている人は、いきなり自分の意見を押し付けます。自分が「良いと思っている=他人にとっても良い」と勘違いしているので、耳を傾ける気がないからです。
意見を言いたくなったときは、まずはグッと堪えます。そして相手の意見をヒアリングします。
例えば友人から、次のような相談を受けたとしましょう。
もしあなたがフリーランスだったら、「そうか!じゃフリーランスになったらいいよ!通勤もないし、人間関係のストレスもないしね!」と、食い気味に提案しがちです。
しかしここはグッと堪えます。あなたが提示している理由は、あくまであなた視点のもの。相手も求めているとは限りません。
あなたが返すべき第一声は、「そうかそうか。ちなみに、いまの会社のどんなところに悩んでいるの?」です。
そこで友人の答えが、
なら、フリーランスは最適解にはなりません。
もう少しヒアリングを続けて、上司の側に一方的に問題があるなら、人事に言うなり異動を申し出るといったアドバイスになるでしょう。それでも会社が誠実に応じないなら、同業種への転職が視野に入ります。
もしかしたら、その友人のコミュニケーションが舌足らずな場合もあります。それならば異動云々の前に、明日から使えるコミュニケーションのコツを伝えても良いでしょう。
相談されたときは、即答してしまいがちですが、まずは理由を聞くところから。さらにその奥の理由まで聞いて、十分な情報を理解してから提案しましょう。
類似・関連する認知バイアス
自己中心性バイアスと似たような認知バイアスがいくつかあります。
ここでは「確証バイアス」と「スポットライト効果」を紹介します。
確証バイアス
「確証バイアス」とは、自分の仮説を検証するときに、自分に都合のいい情報ばかり集めて、そうでない情報を無視してしまう現象のことです。
新規事業のプレゼン準備を想像してみましょう。もちろん上司に説得するためには、その事業に需要があり、競合に勝てる理由を説明しなければなりません。
このときほとんどの人は、アイデアを後押しする情報ばかり探します。そして、反対の意見を述べているソースはスルーしてしまいます。
しかし本当に成功確率を上げるなら、そのアイデアを反証(破綻シナリオを立証)するデータを探さなければなりません。
もし反証できるデータが見つからなければ、その事業の成功確率は飛躍的に上がります。
確証バイアスは、非常に強力な認知バイアス。自己中心性バイアスを克服できていても、確証バイアスから逃れられる人はそうそういません。
≫_確証バイアスとは?99%の人が陥る過ちを具体例で解説【知らなきゃ絶対避けられない】
スポットライト効果
「スポットライト効果」とは、自分が気にしていることを、他人も同じように気にしていると感じる認知バイアスです。
カンタンに言えば自意識過剰のこと。よく言われるように、他人はあなたのことなど気にかけてはいないのです。
大勢の前でスピーチをするとき、自分としては緊張で足がガクガクして、間抜けに映っていないか心配になります。しかし周りからは「堂々としてたじゃん!」と褒められることがあります。
自分の中ではメチャクチャおしゃれに決めていると、周りからも「カッコいい!」とか「カワイイ!」と思われいるに違いないと思いがち。周りはちっともそんな風には思っていません。
スポットライト効果も、自己中心性バイアスと同じく、他人も自分と同じように見えていると錯覚してしまう現象です。
自己中心性バイアスの下位概念(一部)と考えられます。
≫【気づかれないだと?】スポットライト効果=自意識過剰。その克服&活用方法とは?
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!