心理学・行動経済学

アレのパラドックスとは?「確実性効果」「可能性効果」を使ったビジネス活用例を解説

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事故に遭遇する確率は限りなく低いのに、みんな保険に入っています。なぜ99.9%大丈夫なのに100%の安心を求めてお金を払うのでしょうか?

逆に天文学的な確率でしか当たりを引けない宝くじに、「もしかしたら当たるんじゃないか?」と思ってしまうのはなぜでしょうか?

この疑問を解くキーワードは「アレのパラドックス」「確実性効果」です。

99%と100%は、数学では1%の違いですが、心理的な差は1%ではありません。同じように、0%と1%の心理的な差は1%よりずっと大きいのです。

ここに目を向けると、意外なビジネスチャンスを見い出せます。特に確率が絡むようなビジネスをしているのであれば、絶対に知っておいた方が良い内容です。

この記事では次のことがわかります。

  • アレのパラドックスとは何か?(実験事例で解説)
  • 確実性効果と可能性効果とは何か?
  • 確実性効果と可能性効果を活用したビジネスアイデア

マーケターや新規事業企画をしている人は、この記事を読むと斬新なアイデアが湧くかもしれませんよ?

アレのパラドックスとは?

アレのパラドックス(Allais paradox)とは…

リスクがある選択を行うときに、発生確率によって、一貫性のない選択を行ってしまう現象のことです。

この言葉の定義だと、何言っているかよくわからないですよね。

アレ氏が行った実際の実験を見れば、アレのパラドックスが理解できます。

アレのパラドックスの実験

1952年、後のノーベル経済学賞を受賞するフランス人のモーリス・アレ氏は、名だたる経済学者が集まる会議に出席していました。アレ氏は雑談のノリでとある実験をします。

アレ氏は、出席者(つまり有名経済学者)に次のような2つの問題を出しました。

問題①

次のAとBのくじがあるとしたら、どちらを引きますか?

Aのくじ

  • 確実に100万円もらえる

Bのくじ

  • 10%の確率で120万円もらえる
  • 89%の確率で100万円もらえる
  • 1%の確率で何ももらえない

問題②

次のCとDのくじがあるとしたら、どちらを引きますか?

Cのくじ

  • 11%の確率で100万円もらえる
  • 89%の確率で何ももらえない

Dのくじ

  • 10%の確率で120万円もらえる
  • 90%の確率で何ももらえない

ちょっとややこしいですね。問題の選択肢をよく見てみましょう。

どちらの問題も、賞金が貰える確率を1%上げる代わりに、賞金額を20万円下げる妥協をするか、否かという選択肢になっています。

実験の結果

問題を出された経済学者の答えは、次の通りでした。

  • 問題①
    Aのくじ(当選率を1%上げる代わりに賞金額を20万円下げる)
  • 問題②
    Dのくじ(当選率を1%上げる代わりに賞金額を20万円下げる選択はしない)

おそらく、この問題を見た大抵の人は同じ選択をすると思います。ですが、経済学の原則に照らし合わせると、この選択は明らかにおかしいことになります。

どちらの問題も「1%の当選率」と「20万円」のトレードオフの問題ですが、問題①と問題②で矛盾した答えをしています。

経済学の原則に沿うならば、次のように、その人の性格によって一貫した選択をしなければ道理に合いません。

  • リスク回避的な人
    1%の当選率 > 20万円 と感じる

AのくじCのくじを選択するはず

  • リスクが好きなギャンブラー
    1%の当選率 < 20万円 と感じる

BのくじDのくじを選択するはず

ですが実験の結果を見ると、

  • 当選率99% → 100%になる状況
    1%の当選率 > 20万円
  • 当選率10% → 11%になる状況
    1%の当選率 < 20万円

と矛盾した選好になっています。

同じ1%でも、当選率が99%のときと、当選率10%のときでは、価値が変わってしまったのです。この矛盾が「アレのパラドックス」です。

これの現象は行動経済学の「確実性効果」で説明できます。次の章で解説していきます。

アレのパラドックスの原因:「確実性効果」とは?

確実性効果(certainty effect)とは

100%確実なものに過大な価値を感じる現象のこと。行動経済学の用語です。

例えば、次の例文を見てみてください。

例文

確率で100万円もらえるゲームがあります。次の4つの選択肢は、いずれも100万円もらえる確率が5%上がると書いてあります。

A0%から5%に上がる
B5%から10%に上がる
C60%から65%に上がる
D95%から100%に上がる

これらの嬉しさは同じでしょうか?

多くの人は、「0%→5%」と「95%→100%」が嬉しいと感じます。「95%→100%」は特に嬉しく感じませんか?

人間の脳は100%確実なものが大好きです。ハズレなしのクジって嬉しいですよね。アレのパラドックスは、この100%信仰によって起こっています。

確実性効果の秘密は「決定加重」にあり!

冷静に考えてみると、同じく当選率が5%上がる選択肢に対し、「0%→5%」や「95%→100%」の選択肢だけ魅力に感じるのは不思議に思いませんか?

その秘密は、「決定加重(decision-weight)」にあります。

決定加重とは、実際の確率に対し、人間が認識する主観的な確率のことです。人間の脳は、確率を額面通りに受け取っていないのです。

決定加重の調査結果

ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学ダニエル・カーネマン氏とエイモス・トべルスキーの調査によれば、決定加重は次の通りになっています。

実際の確率(%) 決定加重(主観的な確率)
0% 0%
1% 5.5%
2% 8.1%
5% 13.2%
10% 18.6%
20% 26.1%
50% 42.1%
80% 60.1%
90% 71.2%
95% 79.3%
98% 87.1%
99% 91.2%
100% 100%

この調査結果から次のことがわかります。

決定加重からわかること

  1. 「本来の確率」と「人間の主観的な確率」が一致するのは「0%と100%」だけ
  2. 「100%→99%」への確率ダウンは、主観的な確率では「100%→91.2%」まで下がる
  3. 「0%→1%」への確率アップは、主観的な確率では「0%→5.5%」にアップする

「ほぼ確実な状態」が「100%確実」になることには大きな魅力があります。これが「確実性効果」の正体です。保険サービスは、確実性効果を狙った商品です。

その一方で、「可能性0の状態」から「1%」に上がるだけで、魅力が大幅に上がります。この現象を「可能性効果」と呼びます。まず当たらないであろう宝くじを買ってしまう心理は可能性効果にあります。

グラフで表すとこんな感じになります。

実際の確率の35%あたりまでは、主観的な確率が上回っているので、実際の確率より高く感じます。

実際の確率の35%を超えると、主観的な確率が下回り、実際の確率より低く感じるようになります。

このグラフを「確率加重関数」と呼びます。

確実性効果と可能性効果をビジネスで活用事例 5選

「実際の確率」と「人間が感じる確率」には、差があることがわかりましたね。歪みと呼んでも良いかもしれません。歪みとはつまるところビジネスチャンスです。

確実性効果と可能性効果をうまく使ったビジネスは、すでに世の中にたくさんあります。そのシーンを5つ紹介します。

活用事例①:保険ビジネス

「実際に事故が起きる確率」と「人間の主観的な確率_の差を埋めるビジネスが、「保険」です。

事故は99%起こりませんが、万が一起きたら非常に嫌な想いをします。実際には99.9%以上は何も起きないでしょうが、100%でない限り、人間の脳は事故の確率を過大に見積もります。

海外旅行保険は、数千円程度の掛け金で、旅行中のリスクを補償してくれます。実際に事故にあった人はごく少数ですが、多くの人が海外旅行に行くたびに申し込んでいます。

Apple製品には、保証期間を延長するApple care プランがあります。わたしも初めてiPhoneを買ったときは心配になって加入しました。(使えなくなるほどの故障は滅多に起きないという実体験を経て、加入しなくなりました)

商品を「〇〇日間返金保証」という形で、購入したあとに失敗するほんのわずかな可能性まで潰すキャンペーンも有効です。

活用事例②:訴訟買取ビジネス

アメリカには実際に訴訟を買い取るビジネスがあります。

アメリカの訴訟買取ビジネス

  • 例えば、5,000万円の損害賠償をかけた裁判中と仮定してみましょう。
  • あなたの状況は、過去の判例によれば95%勝訴です。
  • とはいえ、負けて賠償金0円になる可能性もあります。

こんなとき、「その訴訟、4,500万円で買い取りますよ!あなたが負けても買っても4,500万円は補償されます。」と営業を受けたら魅力的に思いませんか?

神経をすり減らしながら、勝つか負けるか悩み続ける日を送ることを考えると、飛びつきたくなるでしょう。

アメリカは訴訟大国だから、訴訟買取ビジネスが成り立つのかもしれませんが、このエッセンスは何かの事業に使えるかもしれません。

活用事例③:100%偽物なしマーケット

次のようなジャンルの商品は、フェイク品を摑まされるリスクがある市場です。信頼のないお店はフェイク品の可能性が拭えません。安いからといって、うかつに飛びつけません

フェイク品の恐れがある市場

  • ブランド品
  • アート
  • 骨董品 など

スニーカー市場でもフェイク品が大量に溢れています。メルカリなどのアフターマーケットで買うには勇気がいります。レアなスニーカーをプレミア価格で買って、偽物だったら大ショックです。

そこで現れたのが、スニーカー売買のアフターマーケットに鑑定をつけたサービスです。目利きの鑑定士が、100%本物と認定したスニーカーしかマーケットで流通しません。

鑑定料があるので、メルカリよりも1〜2割程度高くなりますが、偽物のリスクを考えれば納得できます。このビジネスをアメリカで始めた「Stock X」は、ユニコーン企業の仲間入りを果たしています。

活用事例④:抽選販売でフォロワーを増やす

またスニーカーの例で恐縮です。

レアなスニーカーはネット抽選で販売されますが、当たる可能性はかなり低いです。世界中のショップ20箇所で抽選参加しても、当たらないのがザラです。

でも可能性は0%じゃないんですよね、たまに当たるんです。「可能性効果」により、「0%じゃない限りは当たるんじゃないか?」と思って、やっぱり抽選には参加します

スニーカーショップは、レアスニーカーの正規販売権を獲得するだけで、実際の販売数の数倍〜数十倍の会員を獲得しています。アコギなショップは、SNSアカウントのフォローを抽選条件にして、大量のフォロワーを獲得しています。

ちょっと露骨な気もしますが、マーケティング的には有効な打ち手です。

活用事例⑤:絶対当たるガチャ

ソーシャルゲームのガチャにも、「確実性効果」が使われています。ガチャの当たりは、排出率がかなり低く設定されています。(規制により、どのゲームでも排出率は公開されているはず)

理論上は30回ガチャを回せば、ほぼ100%レアが当たるとしても、確実ではありません。確実でない以上、消費者の主観的な確率はもっと低くなるので、100%当たるガチャは魅力的に映ります。

当たる確率が低いとわかっている中で、「30回ガチャすれば、確実にレアが当たります!」とキャンペーンをすれば、かなり引きがあるでしょう。

まとめ

今回は行動経済学より、

  • アレのパラドックス
  • 確実性効果
  • 可能性効果

を紹介させていただきました。

アレのパラドックスとは…

  • リスクがある選択を行うときに、発生確率によって、一貫性のない選択を行ってしまう現象のこと
  • 「確実性効果」によって発生する

確実性効果とは…

  • 100%確実なものに過大な価値を感じる現象のこと
  • 「実際の確率」と「人間が主観的に捉える確率」にギャップがあるために発生
  • 保険サービスは、このギャップを利用して100%の安心をビジネスにしている

可能性効果とは…

  • 「0%」が「1%」になるだけで過大な価値を感じる現象のこと
  • まず当たらないであろう宝くじを買ってしまうのは、可能性効果によるもの

「実際の確率」と「人間が感じる確率」に差があるので、ここにビジネスチャンスがあります。

サラッと紹介しましたが、かなりスゴイ事実ですよね。使えるシーンが限られるので、そうそう使えるワケではないかもしれませんが、ハマるシーンではキラー要素になしそうです。

確率が絡むようなビジネスをしている人は、引き出しとして覚えておくと良いでしょう。

参考書籍

記事内で紹介している実験事例などは、行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の著書『ファスト&スロー』を参考にしています。

同書は、行動経済学のバイブル的な1冊(上下巻なので2冊ですが)となっています。人生にもビジネスにも、応用できるヒントが目白押しです。

「アレのパラドックス」「確実性効果」「可能性効果」は下巻に収録されていますが、上巻の流れから読んでいった方が理解が深まると思います。

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