野球で打率3割は好成績ですが、アウト率7割と言われたら「あれ?大したことないな」と思いますよね。
「日本代表が南アフリカに勝利!」と「南アフリカ代表が日本に敗れる」では、思い浮かぶイメージが違いますよね。
同じことでも、見る角度を変えると全く異なる印象になってしまう現象を「フレーミング効果」と呼びます。
マーケティングで応用する際は、「損失」にフォーカスして言いかえると、顧客により刺さるコピーが作れます。
この記事では次のことがわかります。
- フレーミング効果とは何か?
- フレーミング効果の実験事例
- フレーミング効果を活用したもっと売れるコピーの作り方
小難しい理屈が無く、カンタンなテクニックなので、明日から実践できます。ぜひチェックしましょう。
フレーミング効果とは?
フレーミング効果とは(framing effect)…
同じ意味であっても、表現の仕方が変わるだけで、受け取る人の印象が真逆になってしまう現象のことです。
心理学や行動経済学の用語です。
例えば、重い病気にかかって手術が必要になったとします。
医師から手術の説明を受けたときに、次のどちらが受け入れられやすいでしょうか?
- A:手術が成功して完治する可能性は90%です。
- B:手術が失敗して死亡する可能性は10%です。
言っていることは同じですが、「A:成功率90%」の方が明らかに印象がいいですよね。実際にAの説明を受けた人の方が、手術を承諾する確率が上がることがわかっています。
ちなみに、フレーミングとは「枠組み」という意味です。
対象を捉えている枠組み(フレーム)の見方を変えると、感じる意味が変わってしまうことから、フレーミング効果という名前がつきました。
フレーミング効果の実験事例:アジア病問題
行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が行った、「アジア病問題」という有名な実験です。
実験内容
被験者を2グループに分け、それぞれに次の問題を出します。
アジア病という病気の流行で、600人が死亡すると予想されています。提示する2つの対策にのうち、どちらが正しいと思いますか?
被験者グループの条件
被験者グループ①
次の2つの対策のうち、正しいと思う方を選ぶ。
- 対策案A
:200人が助かる
- 対策案B
:1/3の確率で全員助かるが、2/3の確率で全員助からない
被験者グループ②
次の2つの対策のうち、正しいと思う方を選ぶ。
- 対策案A
:400人が死亡する
- 対策案B
:1/3の確率で誰も死亡しないが、2/3の確率で全員死亡する
被験者グループ①と②では、表現こそ違いますが、選択肢の意味は全く同じです。
本来であれば(もし人間の脳が合理的にできているのであれば)、被験者グループ①と②は、ほぼ同じ結果にならなければなりません。
実験の結果
被験者グループ①
- 対策案A
:200人が助かる
→ 「72%」の人が選択
- 対策案B
:1/3の確率で全員助かるが、2/3の確率で全員助からない
→ 「28」%の人が選択
被験者グループ②
- 対策案A
:400人が死亡する
→ 「22%」の人が選択
- 対策案B
:1/3の確率で誰も死亡しないが、2/3の確率で全員死亡する
→ 「78%」の人が選択
実験結果の考察
「アジア病問題」の実験結果を考察してみましょう。
- 「助かる」に焦点を当てたグループ①
- 「死亡する」に焦点を当てたグループ②
では、抱く印象が変わっていることがわかります。
この現象は人間が持つ「損失回避性」から起こっています。損失回避性により、
助かる文脈では、
「確実に200人を助けたい。一か八かの賭けでこの200人まで死亡させたくない」
死亡する文脈では、
「確実に400人死亡するのは受け入れがたい。一か八かでも全員を助けたい」
という判断がなされています。
「損失回避性」は、行動経済学の傑作「プロスペクト理論」の一部です。詳しくは↓の記事をチェックしてみてください。
≫ プロスペクト理論とは?具体例と図でわかりやすく超丁寧に解説
アメリカのクレジットカード業界の事例
1970年代のアメリカで、クレジットカード決済が広まりつつありました。
クレジットカード会社は、クレカ決済による売上げの数%を、小売店から手数料として徴収します。クレカ決済されると、小売店は数%の売上げ減になります。
そのため一部の小売店は、「現金払い」と「クレジットカード払い」で価格差をつけようとしました。手数料の分、クレカ払いの価格を高めに設定したのです。
これに反発したクレジットカード会社は、支払い方法による価格差を禁じるルールを設けるも、政府によって無効にされてしまいます。
最終的にクレジットカード会社が、小売店に出した条件は次の通りです。
クレジットカード会社が譲歩した条件
- クレジットカード払いの金額を「通常価格」と表記する
- 現金払いの場合は「現金値引き」と表記する
意味は全く一緒ですが、もし現金が「通常価格」としたら、クレジットカード払いは「割高価格」という意味になります。
割高で買うのは、お客さんにとっては「損失」になります。損失を避けたいので、クレジットカードを使わなくなってしまいます。
クレジットカード会社は人間の「損失回避性」を見抜いていたワケですね。この表現であれば、クレジットカードを使うことは「損失」ではなくなります。
フレーミング効果のマーケティング活用方法
「フレーミング効果」の有効な使い方は、人間の「損失回避性」に働きかけること。すでに事例で紹介した通りです。
人間は何かを得る喜びより、何かを失う悲しみの方が2倍ほど大きく感じる性質があります。そのため損失を強調された方が感情が揺さぶられるのです。
しかもただ言い換えるだけなので、コストはかかりません。
活用①:活用キャンペーンは得ではなく損失を強調
普通キャンペーンと言えば、
- いま申し込むと1,000円おトク!
- 今月お買い上げいただいたお客様には5,000円キャッシュバック!
といった感じで、顧客のメリットを強調した表現がされています。
「フレーミング効果」を使って言いかえると、次のようになります。
- この機会を逃したら、以降の申し込み料金は1,000円値上げします
- 今月購入しないと、5,000円キャッシュバックの権利が失効します
損失が強調されています。顧客の損したくない感情を刺激し、より買いたい気持ちにさせることができます。
活用②:この出費は実質得するという言い回し
当たり前の話ですが、何かを買うと自分が持っている金が減ります。買ったモノやサービスが期待外れだと損失を被ってしまいます。
消費者は損したくない気持ちから疑心暗鬼になって、財布の紐が固くなっているかもしれません。
そんなときは「そのモノやサービスを使うと○○の効果があって、実際には買った値段よりも得するよ!」と表現することで、損失のイメージを帳消しにできます。
次のような例が考えられます。
30万円のプログラミングスクール
→プログラミングを学んでエンジニア就職すれば年収が30万以上アップ!たった1年で取り返せます!
30万円の出費は高額ですが、初年度の年収で相殺されているので、実質損がありません。しかも次年度以降は丸々得するので、よりお得に見えます。
もう一つ例を見てみましょう。
6万円の食洗機
→1年で2万円(1日あたり60円)の節水効果!
家電を買ったら3年くらいは使いますよね。この表現であれば、実質損失なしのイメージを植え付けることができます。
まとめ
今回は、心理学より「フレーミング効果」をご紹介いたしました。
人に何かを伝えるときは、「この表現を変えてみることで、もっと印象が良くならないか?」と自問してみてください。
コストは不要。ちょっと一言変えただけで、とんでもない成果が得られるかもしれませんよ?
フレーミング効果とは…
- 同じ意味であっても、表現の仕方が変わるだけで、受け取る人の印象が真逆になってしまう現象のこと
フレーミング効果の活用方法
- キャンペーンは得ではなく損失を強調する
- この出費は実質得するという言い回しをする
似たようなテクニックに「シャルパンティエ効果」があります。こちらも数字の表現を変えることで、より強いメッセージを作ることができます。
キャッチコピーによく使われるテクニックです。併せてチェックしてみてください。
参考書籍
記事内で紹介している実験事例は、行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の著書『ファスト&スロー』を参考にしています。
同書は、行動経済学のバイブル的な1冊(上下巻なので2冊ですが)となっています。人生にもビジネスにも、応用できるヒントが目白押しです。
「フレーミング効果」は下巻に収録されていますが、上巻から続く流れで見た方が理解が深まると思います。
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本来なら聴き放題の対象になるような本ではないはず。ひょっとしたら、対象外になる日が来るかも…。早めのチェックをオススメします。
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