ビジネスの世界で「フィードバック」と言われるとき、大抵は上司が部下へ評価を返すことを指します。しかし本来の「フィードバック」に込められた意味は、それよりずーっと広いのです。
フィードバックは単なる評価ではありません。フィードバックの本質を知れば、人間にとってフィードバックは楽しいものであり、いかに我々がフィードバックを求めているかがわかります。
代表的なフィードバックの活用先には、次が挙げられます。本来はかなり幅広いのですが、多くの人はその有用性に気づいていません。
フィードバックが有効な分野
- マネジメント
- 商品企画
- UI/UXデザイン
- 顧客ロイヤルティ向上
一部の人だけが、フィードバックの力に気づいています。したたかに利用し、顧客を思い通りに動かしています。
この記事ではフィードバックを、単なる上司部下のコミュニケーションという狭い枠組みで捉えるのではなく、一歩引いて俯瞰的な視点から解説しています。
この記事を読めば、フィードバックの応用の幅が広がります。フィードバックを操って、成果を上げるヒントが得られます。ぜひ最後までチェックしてみてください。
フィードバックの本来の意味
フィードバック(feedback)は、元々はシステム用語として生まれました。日本語訳は「帰還」です。
システムを操作した人(入力側)に対し、システム(出力側)がその結果を返すことがフィードバックです。フィードバックを受けた人は、その結果を次に活かしたり、調整したりします。
転じて、上司が部下に仕事ぶりを伝えることや、商品やサービスに対してユーザーが感想を述べることも、フィードバックと呼ばれるようになりました。
「Aを行った→Bという結果になった」と、明示的に伝えることがフィードバックです。この構造を持ってさえいれば、何であれフィードバックは成立します。
傘を持たずに出掛けてズブ濡れになるのもフィードバックですし、草っ原を歩いて足中を蚊に刺されるのもフィードバックです。
こう考えると、自然であれ、人為的であれ、日頃あらゆるものからフィードバックを受けていることに気がつきますね。
フィードバックがなかったらどうなるか?
バスケのフリースローからは、次のようなフィードバックを得られます。
- リングに触れずに入った
:正しいシュートだったとわかります。次も同じでOKです。 - リング手前にぶつかって外れた
:次はもう少し強めにボールを投げるよう調整します。
さて、これがもし暗闇にボールを放ったとしたら?何も見えもしなければ、音も聞こえない状況だったとしたら…?
一切フィードバックが得られなければ、正誤の判断がつきません。そして次にどう調整すれば良いかもわかりません。
誰もいない部屋で漫才をしても、ウケたのかスベったのかがわかりません。これでは改善のしようがないのです。
フィードバックが必要なシーン
自然に任せていても、いつかは行動のフィードバックが得られるでしょう。しかし自然に放って置いて良いシーンもあれば、人為的にテコ入れしなければならないシーンもあります。
あえて人間が手間をかけてまでフィードバックをしなければならないシーンとは、一体どういうシーンなのか?重要な話です。考えてみましょう。
シーン①:行動と結果の関係がわかりづらい
世の中には、行動とその結果が、頭の中で結びつかないシーンが多々あります。
- 小さな子供は、壁にお絵描きするのが悪いことだとわからない
- このボタンを押すと、何が起こるかわからない
- 勉強を頑張ったら、どんなメリットがあるかわからない
新入社員は、どのような行動をすれば、仕事が上手くいくか、あるいはミスにつながるかがわかりません。だから上司のフィードバックを必要とします。
相手が門外漢だったり初心者だったりすると、何が正解か分かりません。良識ある人がフィードバックによって導く必要があります。
シーン②:行動から結果までにタイムラグがある
「それ、もっと早く教えてよ!」と言いたくなるシーンは、まさにフィードバックを必要としているシーンです。
ある種の行動は、自然に任せていると、かなり遅いタイミングでしかフィードバックを得られません。
- 慣れない運動をして、翌日に筋肉痛になる
- 行列に並んだつもりが、別のレーンの列に並んでいた
- 愛情を注いできた子供が、将来孫を連れて遊びにきてくれる
その行動の先に何が待っているかをわかっている人は、わかっていない人に対し、早い段階で気づかせる必要があります。
シーン③:重大な結果を伴う
行動の結果で得られるフィードバックが、もはや取り返しのつかない事態となるシーンもあります。
- 暴飲暴食で生活習慣病になる
- 運転中に居眠りをする
- 一世一代のプロポーズをする
自動車教習学校によっては、高速道路は実習ではなく、シミュレーターを使って済ませます。実習中に死亡事故が起こった事例があるからです。シミュレーターなら、安全な形でフィードバックを得られます。
「家を買う」や「パートナーを選ぶ」といった、ポジティブで場面でも、本来はフィードバックが欲しいところですね。
フィードバックを行う目的
フィードバックを行うのは、どのような狙いがあってのことでしょう?
何となくは想像できると思いますが、ここはキッチリ言語化しておきましょう。
目的①:行動の結果を知らせる
まず第一に、行動の結果、何が起こったかを本人に知らせることです。
放ったボールが、ゴールに入ったのか、入らなかったのか、どんな放物線を描いたのか、教えてあげるのです。
ネットショッピングで注文したのに、メールが来なかったら不安になりますね。購入できたのか、あるいは決済エラーで買えなかったのか、結果はどうあれフィードバックは必要です。
目的②:モチベーションを維持・増大する
その行動に対するモチベーションを持続させるためには、継続的なフィードバックが必要です。
ある意味、ピアノの鍵盤を叩いて、音が鳴るのもフィードバックです。もし叩いても音が鳴らなかったら?やる気がなくなってしまいますね。
フィードバックとは本来、楽しいものです。ゲームはある意味、敵を倒したり、あるいはやられてしまったり、レベルが上がったり、武器が増えたりという、フィードバックを楽しんでいるのです。
目的③:良い行動を増大させる
フィードバックを行うのは、もちろん相手を望ましい方向に導きたいからですよね。チームを成功に導いたり、初めてサービスを使うユーザーに迷わずメイン機能を体験させたり。
正しい行動に対して、「正しい!」とフィードバックすることで、相手は安心して行動を続けることができるようになります。
目的④:誤った行動を減少させる
逆に間違った行動を減らすのも、フィードバックの役割です。
課長が部下にいつもキツく叱りつけていたら、その部下はチームに貢献する気持ちが失せてしまうでしょう。部長は課長の指導方法に対し、フィードバックを行わなければなりません。
全4パターンのフィードバック方法
一般的にフィードバックには、「ポジティブなフィードバック」と「ネガティブなフィードバック」の2種類があると言われます。
しかし心理学の「オペラント条件付け」という理論によれば、人がある行動を増やしたり減らしたりする要因には、次の4種類があると結論づけています。
- 強化子(ポジティブな反応)の出現
- 罰子(ネガティブな反応)の出現
- 強化子(ポジティブな反応)の消失
- 罰子(ネガティブな反応)の消失
見落としがちですが、反応が消えるのもまた立派なフィードバックなのです。
パターン①:ポジティブな反応の出現
典型的なフィードバックはポジティブな反応です。
正しい行動をしたら、褒められたり、報酬をもらえたりします。ボタンを押す場合は、単に音が鳴ったり、ボタンの色が変わるだけかもしれません。
ポジティブな反応を得ることで、「そうか、この行動は正しかったんだ!」と理解できます。
パターン②:ネガティブな反応の出現
ネガティブな反応も、しばしば用いられるフィードバック方法です。
罰則や叱責は、ネガティブな反応です。周囲から白い目で見られるのも同様です。
単にエラーメッセージを返すのも、ネガティブな反応に該当します。
ネガティブな反応を得ることで、「次はこの行動は改めよう(またはやめよう)」と理解できます。
パターン③:ポジティブな反応の消失
ポジティブな反応が消えることは、ネガティブな反応が現れるのと同じ意味を持ちます。つまりその行動を減らす要因になります。
メンバー時代はガリガリと仕事を1人で進めていても褒められますが、マネジメントになったら急に褒められなくなります。
マネジメントは、求められる仕事の内容が変わったと理解できます。自分で仕事を完結させず、部下に振るようになるでしょう。
かつては残業するほど褒められたものですが、最近は眉をひそめられるようになりました。社会が残業を正義と見なす風潮がなくなってきたと理解できます。
パターン④:ネガティブな反応の消失
ネガティブな反応が消えたら、ポジティブに捉えてその行動を増やすことになります。
ローションを使ってニキビが減ったとしたら、引き続きそのローションを使い続けるモチベーションになります。
カスタマーサクセスを導入して、契約更新時の解約が減ったとしたら、その施策は成功だったということです。引き続き継続すべきでしょう。
フィードバックのコツ
誰かにフィードバックを与える際は、ぜひ意識したい3つのコツがあります。
コツ①:即時フィードバックする
フィードバックは即時で与えられなければ、効果が最大限に発揮されません。
昔のフィルムカメラ時代を知っている人は、レンズのフタが閉まっていることに気づかず、現象したら写真が真っ黒になっていた経験があるでしょう。
旅行の思い出が、全て真っ黒になってしまう残念な結末です。
この失敗談を、ユーザー側の問題として結論づけるべきではありません。カメラメーカー側が、商品設計の段階で問題があったと認識すべきでしょう。
このようなミスが起こってしまうのは、フィードバックがあまりにも遅いからです。即時フィードバックがあれば、犠牲は1枚で済んだでしょう。撮影前にフィードバックを与えていれば、0枚にできたかもしれません。
現在のデジカメやスマホは、撮ったばかりの写真を、画面内に小さく再表示するようになっています。即時にフィードバックが得られるので、旅行先で撮った写真が全て真っ黒になる心配はありません。
コツ②:与えすぎない
フィードバックの与えすぎにも注意が必要です。
インターネット上のサービスなどで、金銭が発生するボタンや、押したら最後元に戻らないボタンは、必ずと言っていいほど、「確認ボタン」とセットになります。
もし全てのボタンに「確認ボタン」を配置したら、ユーザーはどういう行動に出るでしょう?
きっと無意識に確認ボタンを連打するようになるでしょう。こうなっては、もはや確認ボタンが確認の意味を成していません。
厳密には、フィードバックの与えすぎが問題というよりは、通り一遍等のフィードバックを乱発することが問題なのです。
フィードバックには濃淡をつけましょう。時にはあえて反応しないことも、良きフィードバックになるのです。
コツ③:フィードバックを増幅する
フィードバックは、大袈裟なくらいがちょうど良いでしょう。
わたしは、スーッと目に染みるタイプの目薬が好きです。実は染みることに意味がないことは知っていますが、それでも染みるほうが好みです。
わたしは目が細く、一重の割にまつ毛が長いので、目薬をなかなか上手くさせません。染みていることで、「お、ちゃんと目に入ったな」とわかるからです。
ビタミン系のサプリは、おしっこの色が濃くなる方が効いている感じがします。フィードバックは盛ってるくらいで良いのではないでしょうか?
フィードバックのビジネス活用先4選
フィードバックは、ビジネスで随所に活躍できる代物です。代表的な4つの活用先を紹介します。
活用先①:マネジメント
まずは何と言ってもマネジメント。
フィードバックが必要とされる、「行動と結果の関係がわかりづらい」「結果までのタイムラグがある」「重大な結果を伴う」の3条件が揃っています。
まず経営方針を決めている経営層が、上級幹部の仕事ぶりが方針に沿っているかをフィードバックします。
幹部は経営方針を組織方針に落とし込み、さらに下の仕事ぶりが組織方針に沿っているかをフィードバックします。
最下層まで、この連鎖でフィードバックが行われます。
通り一遍等な常識論ではなく、その企業の経営方針や経営目標に裏打ちされたフィードバックでなければなりません。あくまで目的達成のためのフィードバックですから。
なおフィードバックと言うと、上司が部下にするイメージですが、逆も然りです。
上司と部下は役割が違うだけで、本来どちらがエラいという話はありません。プロ野球の監督と選手で、どちらがエラいという話にならないのと同じです。
組織の目標を達成するためには、双方が最善を尽くす必要があります。部下が上司にフィードバックするのは、当然と言えば当然の話なのです。
活用先②:製品企画
製品企画をする際は、「顧客により強いフィードバックを与えられないか?」を検討してみましょう。
個人的な体験談ですが、ドラム式洗濯機の匂いが気になり始めたので、洗濯槽クリーナーを使う機会がありました。
使用後は、黒くてドロッとした液体でも出てくるのかと期待していたのですが、実際には排水溝に流れてしまい、洗浄具合を目視することはできませんでした。
洗浄後に実際に洗濯をしてみて、洗濯物の匂いで判断しなければならなかったのです。何となく匂いが弱くなった気はしましたが、いまいちスッキリしない結果でした。
洗剤はよく泡立つ方がキレイに洗えている気がしますし、湿布はスーッと染みる方が効いている感じがします。やらないからわかりませんが、パチンコの確変も派手な演出の方が良いはずです。
顧客は、明確でわかりやすいフィードバックを求めています
活用先③:UI/UXデザイン
フィードバックが重要という認識が強く根付いているのが、UI/UXデザインです。
UI/UXデザインの仕事は、ユーザーが迷わずに製品体験し終える導線を作ること。
ボタンを押したときに音が鳴るのもフィードバックです。入力フォームを埋めたときに、ボタンの色が変わって押せるようになる演出もフィードバックです。
またエラーを防ぐのも大切なフィードバックです。
入力漏れに対して、赤い文字でエラーメッセージを出すのもフィードバック。確認ボタンを踏ませるのは、「これは重要な行動だよ!」という警告のフィードバックです。
活用先④:顧客ロイヤルティ向上
フィードバックを応用すれば、顧客の購入頻度や使用品を高めることもできます。一般に、「顧客ロイヤルティ」や「顧客エンゲージメント」と呼ばれる施策です。
ここでは人間の脳が、フィードバックそのものを楽しいと感じる性質を利用します。
ゲームが楽しいのは、細かくフィードバックを与えられ、着実に成長していると感じられるからです。成長を求めるのは、人間の根源的な欲求。欲求を満たしてくれるフィードバックは楽しいのです。
典型的な手法が、「PBL」です。以下の3つの要素を、体験に盛り込みます。
- P(ポイント)
:特定の行動でポイントが貯まる(例:マイル、歩数、ポイント) - B(バッチ)
:ポイントが一定量になるとバッジがもらえる(例:軍将校のバッジ) - L(リーダーボード)
:参加者内の地位を示す(例:ランキング、表彰台)
航空会社のロイヤルティプログラムが代表例です。
飛行機に乗るほどポイントが貯まり、一定の水準になるとランクアップします。そして他人が羨むステータスをゲットできるようになっています。
本来なら飛行機に1回乗るだけでは、何のフィードバックもありません。しかしロイヤルティプログラムによって、乗るたびにフィードバックを得られます。
それが楽しくて、何度も乗ってしまうのです。
ゲーム業界のテクニックをビジネスに生かす手法は、「ゲーミフィケーション」と呼ばれています。PBLはゲーミフィケーションの初歩的なテクニックです。
≫【ゲームの叡智】ゲーミフィケーションの意味とは?顧客ロイヤルティを高める極意を解説
まとめ:本能はフィードバックを求めている!
今回は、「フィードバック」に関して、一歩引いた視点から解説してみました。
フィードバックが語られるのは、ほとんどが組織人事の文脈。しかし実際には、フィードバックの意味は、「行動の結果を明示的に返すこと」です。そんなに局所的な概念ではありません。
フィードバックがないことは、人間にとって恐ろしいことです。
どんな場面であれ、フィードバックがないと、自分の行動が正解なのか不正解なのかわかりません。突き進んだ先に、何が待っているかがわからなければ、行動し続けることはできません。
逆にフィードバックがあれば、ちゃんと正しい方向に進んでいるとわかります。だから人間の脳は、生得的にフィードバックが楽しいと感じるようにできているのです。
ゲームが楽しいのは、欲しいタイミングでフィードバックを得られるように設計されているからです。学びたてが楽しいのは、フィードバックが大量に押し寄せてくるからです。
人の本能は、フィードバックを求めています。人事であれ、マーケティングであれ、製品企画であれ、意識してフィードバックを与えるようにしましょう。
社会人の学びに「この2つ」は絶対外せない!
あらゆる教材の中で、コスパ最強なのが書籍。内容はセミナーやコンサルと遜色ないレベルなのに、なぜか1冊1,000円ほどしかかりません。
それでも数を読もうとすると、チリも積もればで結構な出費に。ハイペースで読んでいくなら、月1万円以上は覚悟しなければなりません…。
しかし現代はありがたいことに、月額で本読み放題のサービスがあります!
外せない❶ Kindle Unlimited
Amazonの電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)」は、月額980円。本1冊分の値段で約200万冊が読み放題になります。
新刊のビジネス書が早々に読み放題になっていることも珍しくありません。個人的には、ラインナップはかなり充実していると思います。
外せない❷ Audible
こちらもAmazonの「Audible(オーディブル)」は、耳で本を聴くサービスです。月額1,500円で約12万冊が聴き放題になります。
Audibleの最大のメリットは、手が塞がっていても耳で聴けること。通勤中や家事をしながら、子供を寝かしつけながらでも学習できます。
冊数はKindle Unlimitedより少ないものの、Kindle Unlimitedにはない良書が聴き放題になっていることも多い。有料の本もありますが、無料の本だけでも十分聴き倒せます。
ちなみにわたしは両方契約しています。シーンで使い分けているのと、両者の蔵書ラインナップが被っていないためです。
どちらも30日間は無料なので、万が一読みたい本がなかった場合は解約してください(30日以内であれば、仮に何冊読んでいても無料です)。
そして読書は、早く始めた人が圧倒的に有利。本は読めば読むほど、複利のように雪だるま式に知識が蓄積されていくからです。
ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!