よく次のようなKPIを目にします。もしかしたら、あなたの会社のKPIもそうかもしれません。
こんなKPIには御用心
- 「売上」や「利益」がKPIになっている
- 細い計算ロジックがあり、関係する数字全てがKPIになっている
こんなKPIは機能していない可能性が高いです。こんなKPIを作っている人は、KPIを理解していません。
間違ったKPIは、事業が成功しないのはもちろんのこと、確実に関係者全員を振り回してヒドい目にあいます。
この記事では次のことがわかります。
- 3つのキーワード「KGI」「KSF」「KPI」とは?
- 良いKPIの条件
- KPIを正しく設定するための4ステップ
- 忘れがちなKPI運用のコツ
ビジネスマンであれば、確実に押さえておくべき内容です。
特に経営者・マネジメント・経営企画・営業企画といった立場の人は、これを知らずに人を動かすのはちょっとマズいです。事故る前にチェックしてくださいね。
3つのキーワード「KGI」「KSF」「KPI」の違いとは?
「KPI」だけは聞いたことがあるけど、「KGI」と「KSF」は知らない人が多いのではないでしょうか?
それぞれ次の意味があります。
KGI(Key Goal Indicator)
- 日本語では「重要目標達成指標」と呼ぶ
- その事業が最終的に達成したい目標を数値化したもの
KSF(Key Success Factor)
- 日本語では「主要成功要因」と呼ぶ
- その事業が成功するために、最も大事な要素
KPI(Key Performance Indicator)
- 日本語では「重要業績評価指標」と呼ぶ
- その事業が成功するために、最も重要な要素を数値化にしたもの
3点セットの概念なので、ぜひ押さえておきたい内容です。続けてそれぞれを解説していきます。
①KGI(Key Goal Indicator)
KGIは、その事業が最終的に達成したい目標を数値化したものです。営利企業であれば最終的には「利益」が目標になります。
ただし、事業のステージによっては利益以外のKGIが設定されます。創業期に利益をKGIにしてしまうと、先行投資で赤字を掘ることが許されなくなるからです。
最初から赤字が許されなければ、こじんまりした事業に収まり、大胆なビジネスで急成長させることは難しいでしょう。
KGIの例
- 利益
- 売上
- 顧客満足度
- ARPU(平均顧客単価)
- 獲得ユーザー数
KGIをぱっと見ただけでは、どんな活動をすればKGIを改善できるのかわかりません。利益にしても、顧客満足度にしても、改善させる方法はいくつも考えられます。
KGIはビジネスにおいてもっとも重要な数値ですが、KGIだけでは社員の意思統一は図れません。
②KSF(Key Success Factor)
KSFは、CSF(Critical Success Factor)とも呼ばれます。KGI改善ともっとも相関が高い要素を指します。KGIありきでKSFが決まります。
- 利益を伸ばすために、1番大切な要素は何か?
- 顧客満足度を上げるために、1番のトリガーは何か?
その答えがKSFです。
KSFの例
- 契約までの訪問回数
- 見積提示価格
- コールセンターの対応時間
- (SNSで)フォローしている人数
KSFは業種や業態によって千差万別なので、一般的にコレというものはありません。KSFをキチンと見極めるのは、マネジメントの重要な仕事になります。
③KPI(Key Performance Indicator)
KPIは、KSFに対する具体的な数値目標です。社員のパフォーマンスは、各々が課せられたKPIの達成度合いで評価されます。
KPIは「重要業績評価指標」です。基本的には「最重要」と考えてよく、最重要はいくつもあるものではありません。そのため、KPIは原則1つです。
人間はいくつもの目標を同時に追えるほど利口にできていません。2つ以上のKPIを追わせると、社員の判断によって注力度合いがバラけてしまいます。結果的にどのKPIがKGIに効いたのかわからなくなります。
良いKPIの条件
良いKPIの条件は、次の4点が挙げられます。
良いKPIの4条件
- 計測できる
- 個々人が、実際のところ何をすればいいのか想起できる
- 個々人の頑張りや工夫でコントロールできる
- フェアに比較できる
それぞれ見ていきましょう。
条件①:計測できる
まずKPIは数字で計測できなければ、意味がありません。数字が伴わなければ、どれだけ改善したのか、あるいはしなかったのか判断できないからです。
例えば「満足度」のような、あやふやなKSFを追うのであれば、10段階で評価してもらうといった工夫が必要です。
条件②:個々人が、実際のところ何をすればいいのか想起できる
誰が見ても統一したアクションが取れるようにするためには、社員が「実際のところ何をすればいいのか?」が容易に想起できるKPIが必要です。これは重要だけど見落としがち。
前述のようにKGIだけでは、何をすればいいのかはっきりしません。
個々の社員に「君たちの目標は利益だ!」と言ったら、社員たちは思い思いに別々のアプローチをするでしょう。これではマネジメントは効かず、チームは機能不全に陥ります。
条件③:個々人の頑張りや工夫でコントロールできる
個人がコントロールできない数字をKPIにしても意味はありません。上手い例えではありませんが、「株価」や「気温」は社員が頑張ってどうこうできる数字ではありません。
必ず個々の社員が、変化させることができる数字をKPIにしましょう。
条件④:フェアに比較できる
メンバーAさんとメンバーBさんで、達成の難易度が著しく変わってしまうのも問題です。
例えば、営業のKPIを金額ベースにしてしまうと、大きい顧客を持っている営業は、ちょっと頑張るだけで達成できてしまいます。その一方で、地方営業では、どれだけ足掻いても達成できませんかもしれません。
金額ではなく、前年比10%増のようなKPIの方がフェアかもしれません(前年比だと、逆に大口顧客がいる方が、稼がなきゃならない金額が多くて大変かもしれませんが)。
営業であれば1日の訪問回数、コールセンターであれば1件の対応時間は、フェアなKPIと言えるでしょう。
良いKPIの例「ECサイト」
ECサイト運営会社を例に、良いKPIがどんなものかを解説します。
次の例を見てみてください。
ECサイトのKPIの例
- KGI:ECサイトの月間売上
= 商品ページ閲覧数 × 買い物カゴ投入率 ×(1ーカゴ落ち率)× 顧客単価
- KSF:カゴ落ち率
- KPI:カゴ落ち率50%以下
KGIはベーシックに「売上」としました。
ECでは買い物カゴに入れっぱなしにしたまま、購入に至らないケースが散見されます。このようなケースを「カゴ落ち」と呼びます。カゴ落ち率は7割程度とも言われています。
ということは、カゴ落ちが5割に減るだけで、売上は67%もアップします。というわけで、カゴ落ち率が「KSF」です。「KPI」はカゴ落ち率50%としています。
このKPIであれば、社員には「買い物カゴの商品を買わせるようにすればいいんだな!」という共通理解が生まれます。
これなら迷わないですね。例えば、
- 買い物かごに入っている商品が値下げした場合に通知したり
- 品切れ間近になったら通知したり
と、具体的なアクションが想起できます。計測もできるし、コントロールもできます。
正しいKPIを作る4ステップ
「KPI」を次の順序で作成すれば、ロジカルな目標設定ができます。
KPI策定の4ステップ
- KGIを決める
- KGIを因数分解する
- 因数分解した要素からKSFを決定する
- KSFに数値目標(KPI)をつける
それぞれのステップのコツも載せているのでチェックしてくださいね。
ステップ①:KGIを決める
まずあなたの事業が目指すKGIを決めましょう。現場の人であれば、経営層から落ちてきた数字がそのままKGIとなる場合もあるでしょう。
大企業のコア事業など、成熟した事業は「利益」か「売上」になることが多いと思います。成長まっ最中の事業であれば、「ユーザー数」になるかもしれません。
KGI設定のコツ
決めたKGIは、必ず関係者間で握りましょう。KGIは事業の目的そのもの。ここが握れていないと、事業目的の認識がズレるという致命的なミスになってしまいます。
スタートの認識が誤っていると、KPI運用を回した後で、「俺はそんな指示はしていない!」とか「これ、なんの意味があったの?」と非難を浴びることになります。
ステップ②:KGIを因数分解する
KGIに決めた値が、どのような要因で上下するのか因数分解しましょう。
KGIを動かす要因は、事業の種類や職種によって千差万別なので、一概にこれとは言えません。
参考としては、次のような感じです。
例①:ECサイトのKGI(再掲)
- KGI:ECサイトの月間売上
= 商品ページ閲覧数 × 買い物カゴ投入率 ×(1ーカゴ落ち率)× 顧客単価
例②:法人営業のKGI
- KGI:営業部の売上
= 商談数( 訪問数 ÷ クロージングまでの平均訪問回数 )× 契約率 × 単価
ステップ③:因数分解した要素からKSFを決定する
次に、KGIを因数分解した要素の中から、最もKGIの改善に効きそうな要素(KSF)を選びましょう。ここが一番重要で頭を使うステップです。
まず「現場の社員に動かせないもの」は、真っ先にKSFから外しましょう。
法人営業の例を改めて見てみましょう。
法人営業のKGIを因数分解した例
- KGI:営業部の売上
= 商談数( 訪問数 ÷ クロージングまでの平均訪問回数 )× 契約率 × 単価
人間の訪問数には限界があるので、ある程度で頭打ちになります。法人営業であれば、せいぜい3件/日くらいでしょう。もしすでにその水準であれば、「訪問数」は動かせません。
業種にもよりますが、扱う製品の種類が少ないと単価をあげられない場合もあるでしょう。その場合は「単価」も動かせません。
残るは「クロージングまでの平均訪問回数」か「契約率」です。
契約率は、もう少し因数分解しないとどうアクションすれば改善するかわかりづらいですね。この場合は、「クロージングまでの平均訪問回数」をKSFにするのが良さそうです。
*これはあくまで一例で、もしかしたら「訪問数」を上げられる業種もあるかもしれません。あなたの事業に合わせて考えてみてください。
KSF選定のコツ
KSFはわかりやすいものを選びましょう。
見れば、「ああ、こういう工夫をしたら改善できそうだな」と誰もが想起できるKSFでないと、KPIを改善させる施策を打ちづらくなる
ステップ④:KSFに数値目標(KPI)をつける
ここまでくれば、あとは流れ作業です。因数分解した各要素に数値を入れていきます。
- KGIを埋める(①の時点ですでに決まっている場合もある)
- KSFに選ばなかった要素に数字を当てはめる。現場に動かせない要素は、決まった数字を当てはめやすい
- 残ったKSFは、自動的に方程式で数字が当てはまる。これをそのままKPIとする
これで、KPI作りは完了です。
KPI設定のコツ
計算するだけなので、これといったコツはありませんが、唯一「KPIは1つだけ」は意識するようにしましょう。
KPI運用フェーズのコツ
とりあえずKPIだけ決めて走り出すと、後々困ったことが起きます。
「KPIを追ってしばらく活動してみて、何かしら変化はあったね。で、この後どうすればいいんだっけ?」と、その後の方向性を見失いがちです。
これを防ぐために、予め次の4つを決めておきましょう。
事前に決めておくこと
- いつまでに(運用期間)
- どうなっていたら成功か(達成条件)
- 経過を誰にどの程度の頻度で報告するか(共有方法)
- 成功しなかったとき、運用を中止するのか、継続するのか(失敗したときの身の振り方)
これらは、事業責任者と事前に握っておきましょう。
できることなら、結果が上手くいかなかったとしても、「これは実験的な施策で、失敗したら別のKPIを設定して新しい施策をすればいい」というマインドまで握れるとベストです。
事業に失敗は付き物なので、1回上手くいかなかったら評価が下がるようでは、誰も挑戦できなくなってしまうので。
KPI運用結果の4つのパターン
KPI運用を回してみた結果、イレギュラーなケースを除けば、次の4つのケースに収束するはずです。
それぞれの身の振り方の例を紹介します。
パターン①:KPIが改善した / KGIも改善した
順調ですね。素晴らしい。
目標に据えたKGIを達成できるまで運用を継続しましょう
パターン②:KPIが改善した / KGIは改善しなかった
設定したKPIが誤っている可能性があります。KPIはあくまで仮説なので、こういうことも当然起きます。むしろ検証できて良かったと思うべきでしょう。
KGIの因数分解を再度行い、KPIを変更しましょう。
パターン③:KPIが改善しなかった / KGIは改善した
こちらもKPIが誤っている可能性あります。何故かよくわからないけど、結果だけは良かった、と。
この場合は2パターンのアクションが考えられます。
- 「KPIが改善されれば、KGIも改善する」という仮説が検証できていないので、引き続き同じKPIを追う
- もっとKGIの改善に寄与する要素があると見て、KGIの因数分解を再度行い、正しい(と思われる)KPIに変更する
外部要因のラッキーでKGIが上がったときは、「①KPI据え置き」で良いと思います。そうでなく、想像とは違う力学でKGIが動いていそうなら「②KPI再検討」が良いでしょう。
パターン④:KPIが改善しなかった / KGIも改善しなかった
KPIを改善させるための施策に問題があります。
KPIは変えず、施策を練り直しましょう。もしKPIが現場の人には動かしづらいと発覚した場合は、KPIを変更しましょう。
まとめ
今回は、KPI設定に必要な、「KGI・KSF・KPI」を解説しました。
KGI・KSF・KPIとは…
- KGI :「売上」や「利益」のような事業の最終目標
- KSF :「KGI」を改善するのに、最も効果的な要素
- KPI :「KSF」を数値目標化したもの
KPI設定の4ステップ
- KGIを決める
- KGIを因数分解する
- 因数分解した要素からKSFを決定する
- KSFに数値目標(KPI)をつける
KPI運用の前に事前に決めておくこと
- いつまでに(運用期間)
- どうなっていたら成功か(達成条件)
- 経過を誰にどの程度の頻度で報告するか(共有方法)
- 成功しなかったとき、運用を中止するのか、継続するのか(失敗したときの身の振り方)
ビジネスマンとしては、必須で知っておくべき内容です。ただ、知らない人も結構いるので、知っているだけ少し差をつけられるかもしれませんよ?
参考書籍
参考書籍は『最高の結果を出すKPIマネジメント』。筆者は、リクルート社でKPI設定&運用の講師をされていたプロフェッショナル。
リクルートは新規事業をバシバシ当ててきた会社なので、KPIを語らせたら、これ以上誂え向きの方はいないでしょう。
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ガンガン読んで、ガンガン知識をつけて周りに差をつけましょう!
とりあえず両方試してみて、それぞれのラインナップをチェックするのがオススメです!