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ビジネス書レビュー|アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る

日本企業のデジタル化戦略は間違っている?

もしあなたが、オンライン事業を「既存事業の販売チャネルを増やす手段」として考えているとしたら、あなたは淘汰される側かもしれません。

「アフターデジタル」の書籍基本情報

著者情報

藤井 保文
株式会社ビービットの東アジア営業責任者。上海在住。

ビービット社は、UX(顧客体験)デザインのコンサルティングを行なっている会社です。

ビービット社では、「チャイナトリップ」と呼ばれる日本企業の中国デジタル化視察を企画・運営しており、デジタル先進国である中国の知見が深い会社。

本作について

「アフターデジタル」という言葉は、著者が勤めるビービット社の造語。「オフラインが存在しなくなる社会」をそう呼んでいる。

著者の藤井氏は上海在住。実際に体感した成長目覚ましい中国インターネットビジネスを例に、デジタル社会へのシフトをわかりやく説いた本となっています。

中国のデジタル化が日本と比べ物にならないほど発展していることは、すでに多くの人にとって既知のことと思います。

では、日本が中国で成功しているビジネスを日本国内で模倣すれば、同じように成功できるのでしょうか?

本著によれば、その成否は、著者が「アフターデジタル」と呼ぶ概念を日本企業が腹落ちできているかが鍵になっています。

本著「アフターデジタル」の内容をちょっとだけ

「アフターデジタル」ってどういう世界なの?

著者が「アフターデジタル」と呼ぶ世界観は、「デジタルトランスフォーメーション」に近いイメージです。

「全ての体験が、インターネットにつながっていて切れ目がない。オフラインが存在しなくなった世界」が「アフターデジタル」の状態です。

ただ、これでは漠然としてピンと来ませんね。順を追って説明するならば、

まず、モバイルインターネット(≒スマートフォン)の普及で、人間がインターネットに接続されている、すなわちオンラインの時間が格段に伸びました。

スマートフォンを母艦にして、様々なアプリケーションが登場し、人とインターネットと接点もまた爆発的に増えました。

さらにIoTにより、スマートフォンだけではなく、あらゆるものに物理的な製品にセンサーがつき、その接点はさらに増えつつあります。

このようにして、人とインターネットの接点から膨大な量のデータを取れるようになりました。

この接点の一つ一つはただの「点」にすぎませんが、膨大な量の接点は、「点」同士の間隔を限りなく狭め、やがて「線」になります。

インターネットを介した得られた接点のデータを繋いで「線」にすることは、人の行動を全てデータで把握できるようになることを意味します。

これを生かして、製品やサービスを改善し続けていく世界観を「アフターデジタル」と読んでいます。

中国から学ぶ「OMO」思想

日本ではあまり耳馴染みがない「OMO」とは、Google Chinaの元CEOである李開復(リ•カイフ)氏が提唱している概念で、「Online Merges with Offline」を意味しています。

「OMO」とは以下のような概念で、著者が「アフターデジタル」と呼んでいる世界観と一致しています。

オンラインとオフラインは融合し、その境目がなくなる。企業は、全方位的に顧客接点を持つように、オンライン・オフラインを取り込んだビジネスの設計をする。顧客は、オンラインやオフラインを区別することなく、その時一番都合の良いチャネルを選ぶだけ。全方位的なタッチポイントから得られた顧客データを活用し、サービスの改善を繰り返す。

このような一連の流れを「OMO」と呼ぶ。

本著では、数多くの中国インターネット企業の「OMO」戦略事例が登場します。主にアリババと平安保険の事例が多いです。

アリババは、言わずと知れた世界流通額を誇るECサイトを中心とした、インターネットコングロマリット(中国国内で時価総額第1位)。

平安保険は、その名の通り保険をコア事業とする会社です。インターネットサービスによる多角化で「OMO」に成功した好事例として紹介されています(中国国内で時価総額第3位)。

平安保険の事例

平安保険は、1988年創業の保険会社で元は日本に近い保険会社でした。

保険業はビジネスの性質上、顧客接点が生涯で数回程度しか取れずデータを貯めづらいため、「OMO」へのハードルが高い業界です。

そこで平安保険は、2013年にコアビジネスの枠を超え、「医療」「移動」「住居」「娯楽」といった生活圏にサービス拡大をすることで、顧客接点を得ようと考えました。

特に成功しているのは、オンライン医療アプリで、オンラインで医療サービスを受けたり、オフラインの病院に予約を取ることができます。

また、歩数計にポイント機能を持たせたサービスがあり、毎日アプリを開かないと歩数がリセットされる仕組みになっていて、顧客の接点頻度を高めることに成功しています。

このデータがあると、例えばこんなことが可能になります。

顧客がインターネットで医療の相談をしました。その結果、オフラインの病院を予約したというデータを取得しました。

それを受けて、平安保険の営業は、顧客に「最近、体調はどうですか。病院とかいっていませんか?」と電話をかけてみます。もちろん、すでにその情報は知った上でです。

そこで、「そういえば、お子さんいらっしゃいましたよね?病院子供を連れて行くの大変だからその日は私が預かりましょうか?」と提案します。

結果として、顧客の信頼を得ることに成功し、顧客に保険商品が必要になったときに平安保険から買ってもらえる。

日本人感覚だと、やりすぎ感があってちょっと気持ち悪いかもしれませんが、これがホスピタリティを感じさせ、「じゃあ保険を買うならおたくで」という風にビジネスに繋がっているのです。

もちろん、この電話をかけるタイミングも、データがなければ知り得ないというのもポイントです。

日本人の考え方は「ビフォアデジタル」から抜け出せていない

本書の中で、日本人の発想は「ビフォアデジタル」だ、と繰り返し著者は発言しています。

日本であり勝ちな考え方は、「まずオフラインの事業ありきで、それを補完するためにオンライン事業を扱う」ということです。

例えば、チェーンの店舗ビジネスをしている会社が、販売チャネルを増やすためにECサイトを始めた、という発想です。

ここで問題になるのは、オンラインの事業とオフラインの事業を区別し、別物として扱っていることです。

一人の顧客は、オフラインで購入するときもあれば、オンラインで購入するときもあります。同じ人物が、オフラインでいつ、どういう商品を購入していて、オンラインではどうだったのか。このデータを紐付けなければ、顧客の行動データが「線」になりません。

まずは、顧客データをとる仕組みを作ることから始め、その上でオフラインでもオンラインでも、どの接点でも、同一顧客としてデータを取れるようにしなければならないのです。

そうしなければ、顧客データを活用したサービス改善はできず、ただ販売チャネルにオンラインが加わるだけで終わってしまいます。

「アフターデジタル」時代の競争原理

アフターデジタル時代における、ビジネスの競争原理は2つに集約されると著者は説きます。

1つ目は、繰り返しになりますが、大量の顧客接点を持ち、そこから顧客の行動データを取得、分析することで、サービス改善をし続けることです。

当然、儲かりそうな事業には新規参入が起き、複数社が市場で争うことになります。そのときに勝敗を決するものは、どれだけデータを持ち、サービスを磨けられるかにかかっているのです。

2つ目は、最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーションで提供することです。

行動データがあれば、1人の顧客が、「どの瞬間」に「どんな物や情報」が欲しいか予測することができます。それを最適な手法で顧客にアプローチするのです。

スマホアプリ上の通知かもしれませんし、ECのオススメ商品欄かもしれません。オフラインの店舗に来た時に店員から商品を提案されるかもしれません。顧客接点を全方位で持っていれば、このようなアプローチができるはずです。

一言で言えば、「サービスのパーソナライズによる最適化」と言えるでしょう。

本作を読んだ感想

中国は、「人口が多い」「人件費が安い」「規制が緩い」「政府方針でGAFAの侵攻が及ばず、国内企業がその代わりを果たしている」。だから成功しているんじゃないか?と思っていました。

確かにそれは、中国のデジタル先進国化を後押しした要因ではありますが、大切なのは、デジタルを主とするマインドの変化であるということを本書から学びました。

多少なりともITに興味がある人は、中国のようなデジタル社会を例に、日本のデジタル化をどう進めればいいかぼんやりとしたイメージは持てると思いますが、本著はそのイメージを整理し、明確化することを助けてくれます。

さらっと1回読むだけだと、ただの中国国内のビジネス事例集に見えてしまうかもしれないので、2回ほど読んでみたほうがいいかと。

また、アフターデジタルの概念をどう生かすかは、その人の立場によって異なります。

もし、あなたが大企業に勤めているのであれば、データを集めて使う強者としてプラットフォーマーを目指すのが正道でしょう。

もし、あなたが小さな企業や、自営業、個人事業主であれば、データを有効に使えるプラットフォーマーを上手に使ってビジネスを展開するように考えたほうがいいでしょう。

この本を読んだ後、日本ビジネスの現状についてどう思ったか

私自身、数年間IT系企業で、法人営業をした経験があり、ざっと数百社と会話していますが、どの会社も「うちの業界は遅れているから」と言います。

体感では、テック系企業でもない限り、ほとんどの企業はデジタルビジネスの戦略に乏しいと思っています。

当然データを用いたUI/UX改善は、言葉としては知っていても実践できている企業はほとんどないと思います。

これでは、日本は中国のみならず、諸外国にも遅れを取ってしまうと思いますが、日本国内に限れば逆にチャンスでもあると思います。

既に中国では、「アフターデジタル」を実践できていなければ生き残れないわけですが、日本が遅れているなら、日本国内でこれを実践できれば勝てるでしょう。

個人レベルで見れば、実践できる人は、貴重な人材となってキャリアアップもしやすいでしょう。

こんな人に読んでほしい

次のような人に読んでもらえるといいかなと思います。

こんな人にオススメ

  • 経営者
  • 新規事業企画に従事している人
  • 伝統的な大企業に勤めている人

特に経営者は、この流れを理解せずに安穏としていると、いずれ淘汰される運命にあります。

また、伝統的な会社ほど、オフラインで成功したビジネスが今もコア事業になっていて、オンラインでデータを取ることが難しい場合が多いと思います。

この場合、データを取るようなIT環境を構築することと、そのデータを軸にビジネスモデルを刷新するには、大きな投資と社員のマインド変化が必要なはずです。

経営層でもなければ、そこまで大きな舵取りは難しいので、ぜひ本著を読んでみていただけたらと思います。